脂質異常症の基本を解説!悪玉・善玉コレステロールの違いや効果的な食事など
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
健康診断の結果を見て、「コレステロールが高い」と言われたことはありませんか? コレステロールには、体に悪い働きをする「悪玉コレステロール」と、体に良い働きをする「善玉コレステロール」の2種類があります。
例えば、血管の中を車が通る道路だと考えてみましょう。悪玉コレステロールは、道路にゴミをまき散らすトラックのようなもので、血管の壁に溜まって血液の流れを悪くします。一方、善玉コレステロールは、道路を掃除する清掃車のようなもので、血管に溜まった悪玉コレステロールを回収して、肝臓というゴミ処理場に運んでくれます。
つまり、悪玉コレステロールを減らして、善玉コレステロールを増やすことが、健康な血管を保ち、心臓病や脳卒中などの病気を予防するために大切なのです。
LDLコレステロールとHDLコレステロールの役割と重要性
コレステロールは、細胞膜やホルモンの材料となるなど、体にとって必要な成分です。しかし、コレステロールは油のように水に溶けにくいため、血液中ではタンパク質でできたカプセルのようなものに包まれて運ばれます。このカプセルとコレステロールがくっついたものを「リポタンパク質」といい、悪玉コレステロールはLDLコレステロール、善玉コレステロールはHDLコレステロールと呼ばれています。
LDLコレステロールは、血管の内側にコレステロールを溜め込み、血管を狭くしたり、硬くしたりします。これは、水道管に油汚れが溜まっていく様子に似ています。最初は少量でも、長い間には水道管が詰まってしまうように、LDLコレステロールが溜まると動脈硬化が進み、心臓病や脳卒中などのリスクが高まります。
一方、HDLコレステロールは、血管から余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す役割を担っています。HDLコレステロールは、血管を掃除する清掃車のようなもので、動脈硬化の予防に役立ちます。
脂質異常症の診断に使われる血液検査とその意味
脂質異常症の診断には、血液検査が行われます。採血した血液を分析することで、様々な種類の脂質の量を測定することができるのです。 例えば、皆さんが大好きなラーメンを想像してみてください。ラーメンのスープには、油が浮いていますよね? あれが脂質です。 脂質異常症は、血液中にこの脂質が多すぎる状態を指します。
主な検査項目は以下の通りです。
検査項目 | 説明 | 基準値 |
---|---|---|
総コレステロール | 善玉コレステロールと悪玉コレステロールを合わせた総量 | 140~219mg/dL |
LDLコレステロール(悪玉コレステロール) | 動脈硬化を引き起こす原因となるコレステロール | 139mg/dL未満 |
HDLコレステロール(善玉コレステロール) | 動脈硬化を予防する働きがあるコレステロール | 40mg/dL以上 |
中性脂肪 | エネルギー源として蓄えられますが、過剰になると動脈硬化のリスクを高めます | 149mg/dL未満 |
これらの数値が高い場合は、脂質異常症の可能性があります。これらの検査値と基準値を比較することで、脂質異常症かどうかを判断します。
脂質異常症の原因とリスクファクターは?
遺伝要因と環境要因による脂質異常症の発症リスク
脂質異常症は、遺伝的な要因が影響する場合もあります。
例えば、「家族性高コレステロール血症」という病気は、両親からコレステロール値が高くなる遺伝子を受け継ぐことで発症します。この病気の方は、若い頃からコレステロール値が高く、放っておくと血管の病気のリスクが高まるため、注意が必要です。
しかし、遺伝だけが原因ではありません。
食生活や運動習慣などの生活習慣も、脂質異常症のリスクに大きく関わっています。
例えば、毎日ラーメンや揚げ物ばかり食べている人は、血液中のコレステロールが増えやすく、脂質異常症になりやすいと言えます。これは、まるで毎日掃除をせずにいれば部屋にゴミが溜まっていくように、体に悪いものを摂り続けることで、血液にも余分なものが溜まってしまうイメージです。
反対に、野菜中心の食生活を心がけ、ウォーキングなどの運動習慣がある人は、脂質異常症のリスクを減らすことができます。
要因 | 具体的な例 |
---|---|
遺伝要因 | 家族性高コレステロール血症など |
環境要因 | 食生活の欧米化、運動不足、肥満、喫煙、過度の飲酒、ストレスなど |
脂質異常症が引き起こす合併症と健康への影響
脂質異常症は、初期にはほとんど自覚症状がありません。しかし、静かに進行し、血管にダメージを与える恐ろしい病気です。
血液中の悪玉コレステロールは、血管の内側に徐々に溜まっていき、血管を硬く狭くします。この状態を「動脈硬化」といい、心筋梗塞や脳梗塞など、命に関わる病気を引き起こすリスクを高めます。動脈硬化は、心臓の血管で起こると「狭心症」や「心筋梗塞」、脳の血管で起こると「脳梗塞」、足の血管で起こると「閉塞性動脈硬化症」などを引き起こします。
病気 | 症状 |
---|---|
狭心症 | 胸の痛みや圧迫感:心臓に十分な血液が送られないため、胸が締め付けられるような痛みを感じます。 |
心筋梗塞 | 胸の激しい痛み、吐き気、冷や汗:心臓の血管が完全に詰まり、心臓の筋肉が壊死してしまう状態です。 |
脳梗塞 | 顔面麻痺、言語障害、手足の麻痺:脳の血管が詰まることで、脳の機能が損われます。 |
閉塞性動脈硬化症 | 足のしびれ、冷感、歩行時の痛み:足の血管が狭くなったり詰まったりすることで、足に十分な血液が流れなくなります。 |
脂質異常症は、これらの病気を予防するためにも、早期発見と適切な治療が重要です。
脂質異常症の管理と治療方法は?
健康診断で「コレステロールが高い」と指摘されても、自覚症状がないため、放置してしまう方もいるかもしれません。しかし、脂質異常症は放っておくと、血管を傷つけ、動脈硬化を引き起こし、将来的に心臓病や脳卒中などの深刻な病気を招く可能性があります。
食事療法と運動療法による脂質異常症の管理
脂質異常症の管理には、まず、毎日の生活習慣の見直しから始めましょう。食事療法と運動療法は、脂質異常症の管理の基礎となる、まさに「土台作り」と言えるでしょう。
食事療法のポイント
- バランスの取れた食事: 私たちの体は、車で例えると、ガソリンで動く車と電気で動く車があります。食事で言うと、ガソリン車がご飯やパンなどの炭水化物、電気自動車が野菜を中心としたビタミンやミネラルです。どちらもバランスよく摂取することが大切です。脂質異常症の方では、このバランスが崩れている方が少なくありません。例えば、丼ものや麺類ばかり食べていると、炭水化物の割合が多くなり、脂質異常症のリスクが高まります。
- 良質な脂質の摂取: 脂質にも良い脂質と悪い脂質があります。例えば、お肉で言うと、霜降り肉ばかり食べていると、体にはあまり良くありません。赤身の肉や、魚に多く含まれるDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸を積極的に摂るようにしましょう。マグロやサーモン、サバ、イワシなどの青魚は、良質な脂質であるDHAやEPAが豊富です。これらの魚を週に2~3回、食事に取り入れると良いでしょう。
- 食物繊維を豊富に摂取: 食物繊維は、腸内環境を整え、コレステロールの吸収を抑える働きがあります。野菜や海藻、きのこなどを積極的に食事に取り入れましょう。食物繊維が豊富な食品として、ごぼう、こんにゃく、ブロッコリー、ひじきなどが挙げられます。これらの食品を意識して食べるようにしましょう。
- 塩分を控える: 塩分の摂り過ぎは、高血圧のリスクを高め、動脈硬化を促進する要因となります。1日の塩分摂取量は6g未満を目安に、減塩を心がけましょう。減塩のためには、醤油やソースなどの調味料を控えめにしたり、香辛料やハーブなどを活用したりするのも効果的です。
運動療法のポイント
- 有酸素運動: 毎日30分程度のウォーキングなどの有酸素運動は、脂肪燃焼を促進し、善玉コレステロールを増やす効果があります。エレベーターではなく階段を使う、一駅分歩くなど、日常生活に運動を取り入れてみましょう。軽い息切れがする程度の運動を、無理なく継続することが大切です。
- 筋トレ: 筋トレは、基礎代謝を上げ、太りにくい体作りに効果的です。週に2〜3回程度、無理のない範囲で筋トレを行いましょう。スクワットや腕立て伏せなど、特別な器具を使わなくてもできる筋トレはたくさんあります。
薬物療法による脂質異常症の治療
食事療法や運動療法を行ってもコレステロール値が十分に改善しない場合や、動脈硬化のリスクが高い場合は、薬物療法が検討されます。薬物療法は、医師の指示に従い、適切な薬剤を服用することが重要です。
薬物療法の種類
薬剤名 | 作用 |
---|---|
スタチン系薬 | 肝臓でのコレステロール合成を抑え、LDLコレステロールを低下させる |
エゼチミブ | 腸からのコレステロール吸収を抑え、LDLコレステロールを低下させる |
PCSK9阻害薬 | LDL受容体の分解を阻害し、LDLコレステロールを低下させる |
これらの薬剤は、単独または組み合わせて使用されます。薬剤の選択は、患者さんの状態やLDLコレステロール値などを考慮して、医師が決定します。
サプリメントについて 市販のサプリメントの中には、コレステロール値を下げる効果があると謳われているものもありますが、その効果は必ずしも科学的に証明されているわけではありません。サプリメントの使用については、自己判断せず、必ず医師に相談するようにしましょう。
コレステロール値を下げるための生活のポイントは?
コレステロール値を下げるためには、生活習慣を見直すことが大切です。食事、運動、喫煙、飲酒は、コレステロール値に大きな影響を与えます。毎日の生活の中で、少しの工夫を積み重ねていきましょう。
私たちはよく患者さんに、「血管は体中の細胞に栄養を運ぶための大切な道路のようなものです。コレステロール値が高い状態は、道路にゴミが溜まっていく状態に似ています。ゴミが溜まりすぎると、血液の流れが悪くなり、心臓や脳などの大切な臓器に栄養が行き届かなくなってしまいます。」と説明しています。
健康的な食事の選択と食品の摂取制限
食事は、体を作るもとになるだけでなく、コレステロール値にも大きく影響を与えます。健康的な食事を心がけることで、コレステロール値を下げ、血管の「道路」をきれいに保つことができます。
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- 脂肪分の摂り過ぎに注意!
- 脂肪には、大きく分けて「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」「トランス脂肪酸」の3種類があります。このうち、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やし、血管の「道路」を狭くしてしまう、いわば「道路工事」を頻繁に起こしてしまう働きがあるため注意が必要です。
- 例えば、牛肉や豚肉などの肉類、バターやラードなどの動物性脂肪、揚げ物や菓子パンなどに多く含まれています。これらの食品は、できるだけ控えめにしましょう。「牛肉や豚肉を食べる量を半分にして、その分、野菜をたっぷり食べる」といったように、日々の食事の中で工夫してみましょう。
- 食物繊維を積極的に摂ろう!
- 食物繊維は、コレステロールの吸収を抑えたり、排泄を促したりする働きがあります。血管の「道路」を掃除してくれる「清掃車」のような役割を果たします。
- 野菜、果物、海藻、きのこ、大豆製品などに多く含まれています。これらの食品を、毎日の食事に取り入れるように心がけましょう。
- 例えば、「野菜は毎食、両手に山盛り一杯分を食べる」「おやつに果物を食べる」「味噌汁にきのこをたっぷり入れる」など、具体的な目標を立てて実践すると良いでしょう。
- コレステロールを下げる効果が期待できる食品を選ぼう!
- 青魚に多く含まれるEPAやDHAなどのn-3系脂肪酸、緑黄色野菜に多く含まれるβ-カロテン、緑茶に含まれるカテキン、大豆製品に含まれる大豆たんぱく質、きのこに含まれるβ-グルカンなどには、コレステロールを下げる効果が期待できます。手軽に取り入れられるものから始めてみましょう。
- 脂肪分の摂り過ぎに注意!
適度な運動と身体活動の継続的な取り組み
運動は、体脂肪を燃焼させるだけでなく、善玉コレステロールを増やす効果も期待できます。毎日、無理のない範囲で体を動かすように心がけましょう。
- 有酸素運動を取り入れよう!
- 軽い運動を、ある程度の時間続けることで、脂肪が燃焼され、エネルギーとして使われます。
- ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリング、エアロビクスなどは、有酸素運動の代表的なものです。これらの運動を、「テレビを見ながら30分間、踏み台昇降をする」「通勤時に一駅分歩く」など、日常生活に無理なく取り入れてみましょう。
- 筋トレも効果的!
- 筋トレを行うことで、筋肉量が増加し、基礎代謝がアップします。その結果、体脂肪が燃焼しやすくなり、コレステロール値の改善にもつながります。
- 「腕立て伏せを10回×3セット」「スクワットを15回×3セット」など、自宅でも簡単にできる筋トレを習慣化してみましょう。
- 日常生活の中で体を動かすことを意識しよう!
- エレベーターではなく階段を使う、一駅前で降りて歩く、家事や庭掃除をこまめにするなど、日常生活の中で体を動かすことを意識することで、運動不足の解消につながります。
喫煙や過度の飲酒を避ける
喫煙は、悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らす働きがあります。また、血管を傷つけ、動脈硬化を引き起こす原因にもなります。禁煙することで、コレステロール値を改善し、動脈硬化のリスクを減らすことができます。
過度の飲酒も、悪玉コレステロールを増やす原因となります。飲酒は、適量を心がけ、飲み過ぎないように注意しましょう。
また当院にはクリニックには珍しく管理栄養士が常駐しており、対象の患者さんに栄養相談を行っています。
食事療法についても最近はネットで検索すれば色々な情報を手に入れることができますが、食事量や献立が実際はどれくらいの量なのか、自分にとって本当にいい方法なのか、と悩まれる方もいらっしゃるかもしれません。
皆様の日ごろの食事内容をお聞きして、食生活の問題点を見つけ、食事内容や量の改善点など、皆様お一人お一人にあったアドバイスをさせていただいておりますので、お気軽にお声掛けください。
参考文献
- Zhang L, Zhang S, Yu Y, Jiang H and Ge J. Efficacy and safety of rosuvastatin vs. atorvastatin in lowering LDL cholesterol : A meta-analysis of trials with East Asian populations. Herz 45, no. 6 (2020): 594-602.