お腹に水がたまる?腹水とは?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

お腹が張って苦しい、何となくお腹が膨らんでいる気がする…そんな経験はありませんか? 実は、お腹に水が溜まっている状態、つまり「腹水」は、様々な病気のサインかもしれません。 腹水は、肝臓病や心臓病、腎臓病など、様々な原因によって起こり、放置すると呼吸困難や日常生活の制限など、深刻な影響を及ぼす可能性も。 今回は、腹水の原因や症状、そして治療法について詳しく解説していきます。 「お腹に水が溜まっているかも?」と感じたら、この記事を参考にして、早めに医療機関を受診しましょう。

腹水の主な原因とそのメカニズム

お腹に水が溜まるなんて、なんだか不思議な感じがしませんか? 実は、お腹の中には臓器を守るように少量の水があるのが普通です。 しかし、病気などでその水の量が異常に増えてしまうことがあります。 これが「腹水」と呼ばれる状態で、様々な病気が原因となって起こります。

今回は、腹水の主な原因とそのメカニズムについて、小学生でもわかるように解説していきます。

腹水を引き起こす肝硬変とは

肝臓は、私たちの体の中で、毎日休むことなく働く「化学工場」のような臓器です。 毒素を分解したり、エネルギーを蓄えたりと、たくさんの役割を担っています。

しかし、この働き者の肝臓も、過労や病気によってダメージを受け続けると、硬くなってしまうことがあります。 これは、まるで元気だったゴムボールが、使い古されて硬くなってしまうようなイメージです。 これが「肝硬変」と呼ばれる病気です。

肝硬変になると、肝臓の中を流れる血液の通り道が狭くなってしまいます。  すると、血液がスムーズに流れなくなり、血管内の水分が外に漏れ出てしまい、お腹に溜まってしまうのです。

さらに、肝硬変になると、アルブミンという、血液中の大切なタンパク質が十分に作られなくなります。 アルブミンは、血液中の水分を保つ役割を担っているので、不足すると、ますます水分が血管から漏れ出てしまい、腹水が溜まりやすくなってしまうのです。

その他の病状が引き起こす腹水の原因

腹水を引き起こす病気は、肝硬変以外にもたくさんあります。 心臓、腎臓、膵臓など、他の臓器の病気でも腹水が起こることがあります。

例えば、心臓は体中に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、心臓が弱ってポンプの力が弱まると、血液をうまく送り出せなくなります。 すると、血液が血管内に滞ってしまい、血管から水分が漏れ出して、腹水や胸水を引き起こすことがあります。

また、腎臓は、体内の水分や塩分のバランスを調整する役割を担っていますが、腎臓の働きが悪くなると、このバランスが崩れ、体内に水分が過剰に溜まってしまい、腹水になることがあります。

さらに、がんが腹部に転移した場合や、結核性腹膜炎などの感染症でも腹水が起こることがあります。

腹水が発生するメカニズム

体の中の水分は、通常、血管やリンパ管の中を、まるで川のように流れています。 しかし、肝硬変などの病気によって、この流れが滞ってしまうことがあります。

例えば、肝臓で血液の通り道が狭くなると、血液が血管から押し出される力が強くなります。 すると、血管の壁から水分が押し出されやすくなり、腹水が溜まりやすくなります。

また、お腹の中にある臓器は、薄い膜で包まれています。 この膜は、臓器同士がこすれ合って傷つくのを防ぐ役割をしており、通常は、この膜を通して、水分は一定量だけ行き来しています。 しかし、炎症が起こったり、がんができてしまったりすると、この膜の働きが乱れてしまい、水分が過剰に漏れ出すことで、腹水が溜まりやすくなってしまうのです。

腹水の具体的な症状と影響

お腹に水が溜まっていくと、まるで風船のようにお腹が膨らんでいきます。 最初は「あれ?ちょっと食べ過ぎたかな?」と思う程度かもしれません。 しかし、腹水は少しずつ、そして確実にあなたのお体に様々な影響を及ぼしていくのです。

お腹の膨満感や痛み

腹水が溜まると、お腹が張って苦しく感じるようになります。 これは、お腹の中に水が溜まることで、周りの臓器が圧迫されるためです。

患者さんの中には、「先生、お腹がパンパンで苦しくて、夜も眠れないんです…」と訴える方も少なくありません。 特に、食後や夕方になると、お腹の張りや苦しさが増すことが多いようです。

さらに、腹水によってお腹に痛みを感じることもあります。 「鈍い痛み」や「キリキリとした痛み」など、痛みの種類は様々で、患者さんによって異なります。

例えば、以前に診察した患者さんのケースでは、肝硬変による腹水で、お腹全体に重い痛みを感じていました。 その方は、「まるで石が詰まっているような感覚です…」と表現されていました。

呼吸困難とその対策

腹水は、呼吸にも影響を及ぼします。 お腹に水が溜まることで、横隔膜という呼吸を助ける筋肉が圧迫され、息苦しさを感じやすくなるのです。 特に、仰向けに寝ると腹水が横隔膜を強く圧迫するため、呼吸が苦しくなりがちです。

「先生、息苦しくて、夜も何度も目が覚めてしまうんです…」

外来では、呼吸困難を訴える患者さんを多く見てきました。 このような場合は、横向きに寝たり、枕を高くして上半身を起こした状態で寝たりすることで、呼吸が楽になることがあります。

日常生活に与える影響

腹水は、お腹の膨満感や痛み、呼吸困難といった症状だけでなく、日常生活にも大きな影響を及ぼします。

お腹が膨らむことで、今まで着ていた服がきつくなったり、動きにくくなったりします。 「好きな服が着られなくなった…」と、患者さんが肩を落とす姿を目にするのも、医師として辛い瞬間です。

また、腹水が消化器官を圧迫することで、食欲不振や消化不良、便秘などの症状が現れることもあります。 さらに、症状が進むと、歩くことや入浴、トイレに行くことさえも困難になる場合があり、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。

腹水は決して軽視すべき症状ではありません。 「たかがお腹の水」と安易に考えず、「もしかしたら…」と感じたら、早めに医療機関を受診することを強くお勧めします。 早期発見、早期治療が、あなたの未来を守る鍵となるのです。

腹水の診断と治療法

「もしかしたら、お腹に水が溜まっているかも…」と不安な気持ちを抱えている方もいるかもしれません。 早期発見・早期治療が大切なので、ここでは、腹水の診断と治療法について、小学生でもわかるように解説していきます。 どんな検査が必要なのか、治療にはどんな方法があるのか、一緒に見ていきましょう。

腹水の診断に必要な検査とその流れ

腹水の診断では、まず、医師である私は、患者さんのお腹を触診したり、聴診器をあてて音を聞いたりします。 まるで、お腹の中を「覗き見」しているような感覚です。

その後、さらに詳しく調べるために、いくつかの検査を行います。

  1. 血液検査: 血液検査では、肝臓や腎臓がどれくらい元気に働いているのか、体の中で炎症が起きていないかなどを調べます。 肝臓が疲れてしまって腹水が起きているのか、それとも、他の臓器がSOSを出しているために腹水が起きているのかを判断する手がかりになります。
  2. 尿検査: 尿検査でも、腎臓がきちんと働いているか、腹水を引き起こす病気のサインが出ていないかなどを調べます。 体の中の水分バランスが崩れているかどうかを知る手がかりになります。
  3. 画像検査: お腹の中を画像で見る検査です。 超音波検査(エコー検査)は、お腹にゼリーを塗って、超音波を出す機械をあてて検査します。 まるで、お腹の中を「カメラ」で撮影するようなイメージです。 この検査で、腹水の量や、肝臓の状態などを確認します。 さらに詳しく調べる必要がある場合は、CT検査を行うこともあります。 CT検査は、体の断面を詳しく見ることができる検査で、より詳細な情報を得ることができます。
  4. 腹水穿刺: お腹に細い針を刺して、腹水を少しだけ採取する検査です。 採取した腹水を調べることで、腹水がなぜ溜まっているのか、原因を特定することができます。 これは、お腹の水を「分析」して、原因を探るための検査です。

これらの検査結果を総合的に判断し、腹水の原因や重症度を診断します。

腹水治療の主な方法とその効果

腹水の治療法は、その原因や症状の程度によって異なり、患者さん一人ひとりに最適な治療法を選択します。

  1. 安静と食事療法: 肝臓の病気で腹水が起きている場合は、安静にして肝臓の負担を減らすことが大切です。 まるで、疲れている人に「ゆっくり休んでね」と声をかけるように、肝臓にも休息が必要です。 塩分を控えた食事療法も、腹水改善に効果があります。 塩分を控えることで、体の中に水分を溜め込みにくくすることができます。
  2. 薬物療法: 利尿剤という、尿の量を増やして腹水を体外に排出する薬がよく使われます。 利尿剤は、体内の余分な水分を尿として排出するのを助ける薬です。 肝臓の働きを助ける薬や、炎症を抑える薬が使われることもあります。
  3. 腹水穿刺: 検査で行う場合もありますが、治療として腹水を体外に排出することもあります。 腹水が大量に溜まって、お腹が張って苦しい場合や、呼吸が苦しい場合に行います。
  4. TIPS(総頸静脈肝内門脈大循環シャント): 肝臓の血管と門脈という血管をつなぐ手術です。 肝硬変などによって門脈の圧力が高くなり、腹水が溜まっている場合に有効な治療法です。 門脈は大腸や小腸、胃、膵臓、脾臓からの血液を集めて肝臓に送る血管ですが、この血管の流れが滞ってしまうと腹水が溜まりやすくなってしまいます。 TIPSは、門脈の流れを改善することで腹水の改善を図る治療法です。

これらの治療法を組み合わせることで、腹水の症状を改善し、生活の質を高めることを目指します。

再発のリスクと予防策

腹水は、原因となる病気が改善しないと再発する可能性があります。 特に、肝硬変などの進行した肝臓病が原因の場合は、再発しやすい傾向があります。

腹水の再発を防ぐためには、

  • 医師の指示を守り、治療を継続すること: これは、治療のゴールに向かって一緒に進む「協力体制」を築くためにとても大切です。
  • 塩分を控えた食事を心がけること: 塩分の摂り過ぎは、体の中に水分を溜め込みやすくしてしまうため、腹水の再発リスクを高める可能性があります。
  • アルコールを控えること: アルコールは肝臓に負担をかけるため、腹水の再発リスクを高める可能性があります。
  • 適度な運動を心がけること: 適度な運動は、肝臓の働きを助けるだけでなく、健康的な体重管理にも役立ちます。
  • 定期的に検査を受け、早期発見・早期治療に努めること: 定期的な検査は、病気の早期発見・早期治療につながるだけでなく、健康状態を把握するためにも重要です。

が重要です。

腹水は、命に関わる病気の原因となることもあります。 「たかが腹水」と安易に考えず、「もしかしたら…」と感じたら、あるいは、健康診断で指摘されたら、早めに医療機関を受診しましょう。

まとめ

腹水は、お腹に水が溜まる状態であり、様々な病気によって引き起こされます。最も多い原因は肝硬変で、肝臓の機能低下により血液中の水分が漏れ出し、お腹に溜まります。その他の原因としては、心臓病、腎臓病、膵臓病、がんの転移などが挙げられます。腹水は、お腹の膨満感や痛み、呼吸困難を引き起こし、日常生活に支障をきたす可能性があります。診断には、血液検査、尿検査、画像検査、腹水穿刺などの検査が行われます。治療法は、原因や症状の程度によって異なり、安静、食事療法、薬物療法、腹水穿刺、TIPSなどがあります。腹水の再発を防ぐためには、医師の指示を守り、治療を継続することが重要です。また、塩分を控え、アルコールを控えるなど、生活習慣を見直すことも大切です。腹水は放置すると命に関わることもありますので、気になる症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。

当院では院内で腹部エコー(腹部超音波検査)を行うことが可能です。

気になる方はお気軽にお声掛けください。

参考文献

  1. Harrison SA, Bedossa P, Guy CD, Schattenberg JM, Loomba R, Taub R, Labriola D, Moussa SE, Neff GW, Rinella ME, Anstee QM, Abdelmalek MF, Younossi Z, Baum SJ, Francque S, Charlton MR, Newsome PN, Lanthier N, Schiefke I, Mangia A, Pericàs JM, Patil R, Sanyal AJ, Noureddin M, Bansal MB, Alkhouri N, Castera L, Rudraraju M, Ratziu V and MAESTRO-NASH Investigators. A Phase 3, Randomized, Controlled Trial of Resmetirom in NASH with Liver Fibrosis. The New England journal of medicine 390, no. 6 (2024): 497-509.