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人生の両端の灯を消すウイルス!RSウイルスとは?

[2024.07.08]

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

先日、福岡で行われたRS ウイルスの講演会に参加してきました。

RSウイルスって子どもの病気じゃないの?と思われる方もいらっしゃると思いますが、生涯にわたって何度も感染、発症を繰り返す病気で、基礎疾患のある高齢者が感染すると重症化し、直接の治療薬もないため、その予防が大切と言われています。

今回は2024年1月に発売されたばかりである、RSウイルスのワクチンであるアレックスビーについての講演会でした。

まずはワクチンの内容をお話しする前にRSウイルスについての基本的な事項をお話ししたいと思います。*アレックスビーについては次回説明します。

RSウイルスの概要

ここからは、RSウイルスについてわかりやすく解説していきます。RSウイルスは、赤ちゃんや小さなお子さんを中心に、幅広い年齢層で感染するウイルスです。2歳になるまでには、ほぼすべてのお子さんが一度はRSウイルスにかかると言われています。多くは通常の風邪と同じような症状で治まりますが、赤ちゃんやご高齢の方、持病のある方などは、重症化する可能性もあるため注意が必要です。

RSウイルスとは

RSウイルスは、「Respiratory Syncytial Virus」の略称で、日本語では「呼吸器合胞体ウイルス」と言います。少し難しい名前ですが、簡単に言うと、主に鼻や喉などに炎症を起こすウイルスです。細胞の中で増殖し、鼻水や咳、発熱などの風邪と似た症状を引き起こします。RSウイルスは、空気中に漂っているウイルスを吸い込んだり、ウイルスが付着したおもちゃなどを触った手で口や鼻を触ったりすることで感染します。

RSウイルスの感染経路と感染しやすい時期

RSウイルスは、主に咳やくしゃみの飛沫を介して感染します。例えば、感染している人が咳やくしゃみをすると、ウイルスを含んだ小さな飛沫が空気中に飛び散ります。周りの人がその空気を吸い込むことで感染してしまうのです。また、ウイルスが付着したおもちゃやドアノブなどを触った後、自分の口や鼻、目を触ることで、ウイルスが体内に入り感染することもあります。RSウイルスは以前は秋から冬にかけて流行しやすいことが知られていましたが、コロナ渦を経て(理屈は不明ですが)、現在は1年中感染者が出ています。

RSウイルスの症状と重症化リスク

RSウイルスに感染すると、多くの場合、4,5日間の潜伏期間を経て、風邪によく似た症状が現れます。具体的には、鼻水、咳、発熱などです。約70%の方が数日間で回復しますが、残りの30%の方は数日〜1週間ほどかかって回復することや、一部の方は気管支炎や肺炎などの重い呼吸器疾患を引き起こす可能性があります。特に赤ちゃんやご高齢の方、持病のある方などは重症化のリスクがあルため注意が必要で、”人生の両端の灯を消すウイルス”などとも呼ばれています。

RSウイルスと他のウイルス感染症の違い

RSウイルス感染症は、風邪やインフルエンザなど、他のウイルス感染症と症状が非常に似ているため、見分けるのが難しい場合があります。しかし、RSウイルス感染症は、特に赤ちゃんやご高齢の方、持病のある方において、重症化するリスクが高いという点で、他のウイルス感染症とは異なります。

ウイルス 主な症状 重症化リスク
RSウイルス 鼻水、咳、発熱、呼吸困難 乳幼児や高齢者で高い
インフルエンザウイルス 38度以上の高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛 乳幼児や高齢者で高い
風邪 鼻水、咳、喉の痛み、発熱 比較的低い

RSウイルス感染症の検査方法と診断

RSウイルス感染症の診断は、小児においては鼻や喉の奥の分泌物を採取する迅速抗原検査が行われています。しかし成人や高齢者においては感度が低く、PCR法による検査が望ましいとされていますが、費用や設備の問題でクリニックなどでは通常行っていません。

RSウイルス感染症の治療と予防

RSウイルス感染症には、残念ながら、このウイルスをやっつける特効薬はまだありません。つらい症状を和らげながら、自然に治るのを待つことが治療の基本となります。

例えば、高熱で体が燃えるように熱い時には、解熱剤で熱を下げるようにします。咳がひどく、呼吸をするのも苦しい時には、咳を鎮める薬を使って呼吸を楽にします。

症状 治療法の例
発熱 熱を下げる薬(解熱剤)、体を冷やす
鼻水・鼻づまり 鼻水を吸い取る、加湿をする
咳を鎮める薬、水分補給
呼吸困難 酸素吸入、人工呼吸器による補助(重症の場合)

治療期間は、症状の程度や個人差がありますが、一般的には1~2週間程度です。

RSウイルス感染症の予防方法と対策

RSウイルス感染症に関しては、予防が何よりも重要です。

  1. こまめな手洗い・うがいの徹底: RSウイルスは、感染者の咳やくしゃみ、鼻水などに含まれるウイルスが、周りの人の手に付着し、その手で口や鼻を触ることで感染します(接触感染)。また、ウイルスを含む咳やくしゃみの飛沫を吸い込むことでも感染します(飛沫感染)。これらの感染経路を遮断するために、こまめな手洗い・うがいが非常に有効です。手洗いは、流水と石鹸を使って、手のひらだけでなく、手の甲、指の間、爪の間、親指、手首も丁寧に洗いましょう。石鹸を使うことで、ウイルスを物理的に洗い流す効果が高まります。うがいは、水だけでも効果がありますが、うがい薬を使用すると、より殺菌効果が期待できます。外出後や食事前はもちろんのこと、おもちゃやドアノブなど、たくさんの人が触れるものを触った後にも、忘れずに行いましょう。

  2. 適切な湿度管理: 私たちの鼻や喉の粘膜は、体内へのウイルス侵入を防ぐための最初のバリアです。しかし、空気が乾燥すると、この粘膜の防御機能が低下してしまい、ウイルスが侵入しやすくなってしまいます。室内の湿度を50~60%に保つことで、ウイルスが空気中を漂うのを抑え、感染リスクを低減できます。加湿器を使用したり、濡れタオルを干したり、洗濯物を室内に干したりするなど、できる範囲で構いませんので、適切な湿度管理を心がけましょう。

  3. 十分な休息と栄養: 免疫力は、私たちの体を病気から守るための防御システムです。しかし、睡眠不足や栄養バランスの偏りなどによって免疫力が低下すると、RSウイルスに対する抵抗力が弱まり、感染しやすくなるだけでなく、重症化のリスクも高まります。十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事を心がけ、免疫力を高めましょう。

  4. ハイリスク群との接触を避ける: 乳幼児や高齢者、基礎疾患を持つ方などは、RSウイルス感染症が重症化するリスクが高いです。これらのハイリスク群との接触はできるだけ避け、家庭内で感染者が発生した場合は、特に注意が必要です。具体的には、マスクの着用、別室での生活、食器やタオルの共用を避ける、などがあります。

これらの予防策は、RSウイルス感染症だけでなく、他の感染症の予防にも効果的です。毎日の習慣として、しっかりと実践していきましょう。

RSウイルス感染症は、正しい知識をもち、適切な予防と対応を行うことで、重症化のリスクを減らし、安心して日常生活を送ることができます。少しでも不安なことがあれば、一人で抱え込まず、医師や周りの人に相談するようにしましょう。

また今回の冒頭でもお話しした様に2024年1月からRSウイルスに対するワクチンである、アレックスビーが発売になりました。次回はアレックスビーについて詳しくお話ししたいと思います。

参考文献

  • Sharifi E, Yousefiasl S, Trovato M, Sartorius R, Esmaeili Y, Goodarzi H, Ghomi M, Bigham A, Moghaddam FD, Heidarifard M, Pourmotabed S, Nazarzadeh Zare E, Paiva-Santos AC, Rabiee N, Wang X and Tay FR. "Nanostructures for prevention, diagnosis, and treatment of viral respiratory infections: from influenza virus to SARS-CoV-2 variants." Journal of nanobiotechnology 21, no. 1 (2023): 199.
 

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