今が流行期!ウイルス性胃腸炎の症状とは?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。大人も子供も集団生活での感染症リスクが高まる時期。気がかりなのは、突然襲ってくる激しい吐き気や嘔吐、下痢…そう、ウイルス性胃腸炎です。2024年も多くの患者数を記録したウイルス性胃腸炎は、ノロウイルスやロタウイルスが主な原因で、感染力は非常に強く、わずか100個のウイルスで感染するケースもあると言われています。まるで忍び寄る敵のように、気づかないうちに私たちの胃腸を攻撃してきます。今回は、ウイルス性胃腸炎の主な症状から重症化のリスク、そして効果的な治療法や予防策までを分かりやすく解説します。年度末の楽しい予定を守るためにも、この機会にウイルス性胃腸炎への備えをしっかりしておきましょう。

ウイルス性胃腸炎の主な症状と重症化のリスク

ウイルス性胃腸炎は、ウイルスが原因で起こる胃や腸の炎症です。突然の吐き気や嘔吐、水のような下痢、腹痛など、辛い症状に襲われます。特に小さなお子さんや高齢の方は重症化しやすいため、注意が必要です。

吐き気、嘔吐、下痢の詳細な症状

ウイルス性胃腸炎の代表的な症状は、吐き気、嘔吐、そして水のような下痢です。

吐き気は、胃の内容物を吐き出したいという不快な感覚で、嘔吐は実際に胃の内容物を吐き出すことです。胃腸炎になると、ウイルスが胃の粘膜を刺激し、この吐き気や嘔吐を引き起こします。まるで胃がぎゅっと締め付けられるような感覚、吐き出すことで少し楽になるものの、すぐにまた吐き気がこみ上げてくる、といった状況を経験する方も少なくありません。

下痢は、通常の状態よりも水分含有量が多い、水のような便の状態です。ウイルスが腸に炎症を起こすことで、腸は水分をうまく吸収できなくなり、水のような便が排出されるのです。下痢が続くと、体内の水分や電解質(ナトリウム、カリウムなど)が失われ、脱水症状に陥る危険性があります。

これらの症状は数時間から数日間続くことがあり、1日に何度も繰り返す場合もあります。特に吐き気と嘔吐が同時に起こると、体力の消耗も激しく、日常生活に大きな支障をきたします。

腹痛や発熱などの付随症状

吐き気、嘔吐、下痢に加えて、腹痛や発熱を伴うこともあります。

腹痛は、炎症を起こした胃や腸がけいれんすることで起こります。みぞおちや下腹部あたりにズキズキとした痛みや、キリキリと差し込むような痛みを感じる方が多いです。痛みの程度は個人差があり、軽い痛みで済む場合もあれば、強い痛みで動くのも辛い場合もあります。

発熱は、体内に侵入したウイルスと体が戦っているサインです。ウイルス性胃腸炎の場合、37度から38度くらいの微熱の方が多いですが、まれに39度以上の高熱が出ることもあります。高熱が出ると、体のだるさや頭痛も伴うことが多く、さらに辛い思いをすることになります。

また、吐き気や嘔吐が激しいと、めまいやふらつきが生じることもあります。これは、体内の水分や電解質が失われることで、血圧が低下したり、脳への血流が不足したりすることが原因です。

重症化のリスク要因と注意点

ウイルス性胃腸炎は、健康な成人の場合は通常数日で回復しますが、乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方は重症化しやすい傾向があります。重症化のサインとして、吐き気や嘔吐、下痢が止まらない、尿の量が減る、意識がもうろうとする、などが挙げられます。このような症状が現れたら、すぐに医療機関を受診することが重要です。

特にロタウイルスによる胃腸炎は、乳幼児に多く、重症化しやすいことが知られています。ロタウイルス胃腸炎では、激しい嘔吐や下痢が続き、脱水症状が急速に進行することがあります。また、成人の吐き気と嘔吐の評価と治療に関する研究でも、急性症状は7日間続く可能性があり、慢性化すると治療が困難になることが示唆されています。

重症化を防ぐためには、こまめな水分補給が不可欠です。経口補水液やスポーツドリンク、または水に少量の塩と砂糖を混ぜたものを、少量ずつこまめに飲むようにしましょう。一度に大量に飲むと、胃を刺激して嘔吐を誘発する可能性があるので、少量ずつがポイントです。また、嘔吐や下痢がひどいときは、無理に食事を摂る必要はありません。症状が落ち着いてきたら、消化の良いものを少量ずつ食べるようにしましょう。おかゆ、うどん、すりおろしたリンゴなどがおすすめです。

症状が改善しない、または高熱やひどい腹痛が続く場合は、自己判断せず、速やかに医療機関を受診してください。当院では、患者さんの症状に合わせた適切な治療を提供しています。

ウイルス性胃腸炎の原因ウイルスと感染経路

ウイルス性胃腸炎は、ウイルスが原因で起こる胃や腸の炎症です。様々なウイルスが原因となりえますが、特にノロウイルスとロタウイルスは代表的な原因ウイルスです。これらのウイルスは感染力が非常に強く、少量のウイルスでも感染する可能性があります。特にノロウイルスは、100個程度のウイルスで感染すると言われています。これは、顕微鏡でしか見えないほどの小さなウイルスが、たったこれだけの数で私たちの体に侵入し、激しい症状を引き起こすことを意味します。まるで小さな忍者のように、気づかぬうちに私たちの体に入り込み、攻撃を仕掛けてくるのです。

主な原因ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)

ウイルス性胃腸炎の原因となる主なウイルスを以下にまとめます。それぞれのウイルスで感染経路や症状、流行時期が異なるため、理解しておくことが重要です。ウイルスによって異なる特徴を把握することで、より適切な予防策を講じることができます。

  • ノロウイルス: 冬場に流行し、感染力が非常に強いのが特徴です。主な感染経路は経口感染で、汚染された食品や水を摂取したり、感染者の便や嘔吐物に触れた後、適切な手洗いをせずに食事をすることで感染します。ノロウイルスはアルコール消毒の効果が薄いため、石鹸と流水による丁寧な手洗いが非常に重要です。
  • ロタウイルス: 主に乳幼児に感染し、冬場に流行します。感染経路はノロウイルスと同様、経口感染です。おもちゃや手指を介して感染することが多いため、乳幼児がいる家庭では特に注意が必要です。ロタウイルスにはワクチンがあるため、接種を検討することも有効な予防策の一つです。
  • アストロウイルス: 年中を通して感染が見られますが、比較的症状は軽いことが多いです。経口感染が主な感染経路で、汚染された食品や水を摂取することで感染します。
  • サポウイルス: 夏から秋にかけて流行し、主に小児に感染します。感染経路はノロウイルスと同様、経口感染です。
  • アデノウイルス: 年中を通して感染が見られ、接触感染や飛沫感染によって感染します。発熱、咽頭炎、結膜炎などを引き起こし、プール熱の原因となる場合もあります。胃腸炎の症状が出ることもあります。

感染源と感染経路の具体例

ウイルス性胃腸炎の感染源は、主に感染者の便や嘔吐物です。便や嘔吐物には、非常に多くのウイルスが含まれています。これらの排泄物に含まれるウイルスが、様々な経路を介して他の人に感染します。ウイルスは、私たちの目には見えないところで静かに移動し、感染を広げていくのです。具体的な感染経路の例を挙げ、日常生活でどのように感染が起こるのかをイメージしてみましょう。

  • 飲食: 汚染された食品や水を摂取することで感染します。例えば、ノロウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を生で食べたり、ウイルスが混入した井戸水などを飲むことで感染するケースがあります。普段何気なく口にしているものが、感染源となる可能性があることを意識することが重要です。
  • 接触感染: 感染者の便や嘔吐物に触れた後、適切な手洗いをせずに食事をしたり、口や鼻を触ることで感染します。感染者は、トイレを使用した後、便や嘔吐物を処理した後など、必ず石鹸と流水で丁寧に手を洗う必要があります。また、周囲の人も、感染者と接触した可能性がある場合は、こまめな手洗いを心掛けるべきです。
  • 間接的な接触感染: 感染者が触れたドアノブや手すり、おもちゃなどを介して感染します。ウイルスは、物体の表面にも付着し、一定時間生存することが可能です。そのため、感染者が触れた可能性のある場所を触った後は、必ず手洗いをしましょう。特に、不特定多数の人が触れる場所にはウイルスが付着している可能性が高いため、注意が必要です。
  • 飛沫感染: 感染者の嘔吐物が飛び散り、それを吸い込んで感染するケースもあります。嘔吐物を処理する際は、マスクや手袋を着用し、周囲に飛び散らないよう注意深く行うことが大切です。

家庭内や職場での感染拡大防止策

ウイルス性胃腸炎は感染力が非常に強いため、家庭内や職場などで感染が拡大しやすいため、一人ひとりが予防策を意識して行動することが大切です。普段の生活の中で、少しの心がけで感染リスクを大きく減らすことができます。感染拡大防止策を具体的に理解し、実践することで、自分自身だけでなく、周囲の人々も守ることができるのです。

  • こまめな手洗い: 石鹸と流水で丁寧に手を洗いましょう。ノロウイルスはアルコール消毒の効果が薄いので、石鹸での手洗いが重要です。手洗いは、感染予防の基本中の基本です。
  • トイレの消毒: 特に便座やドアノブなどは、こまめに消毒しましょう。トイレは、ウイルスが存在しやすい場所です。こまめな消毒で、ウイルスの数を減らし、感染リスクを下げることができます。
  • 嘔吐物の適切な処理: 使い捨ての手袋やマスクを着用し、ペーパータオルなどで嘔吐物を丁寧に拭き取り、ビニール袋に入れて密閉してから廃棄しましょう。その後、消毒液で周辺を消毒します。
  • 汚れた衣類やリネンの適切な洗濯: 熱湯で洗濯するか、塩素系漂白剤を使用しましょう。ウイルスは熱に弱いため、熱湯での洗濯は効果的です。
  • 適切な水分補給: 下痢や嘔吐による脱水を防ぐために、水分をこまめに摂取しましょう。
  • 十分な休養: 身体を休めることで免疫力を高め、回復を早めることができます。
  • 食中毒への注意: 食品は十分に加熱し、生ものや加熱不十分な食品は避けましょう。

これらの対策を徹底することで、ウイルス性胃腸炎の感染リスクを大幅に減らすことができます。自分自身と周囲の人の健康を守るために、感染予防策を積極的に実践しましょう。

ウイルス性胃腸炎の治療方法と療養のポイント

ウイルス性胃腸炎は、激しい症状に悩まされる一方で、ほとんどの場合は適切なケアを行うことで自然に治癒します。ウイルスが体から自然に排出されるのを待つことが基本となります。この間、辛い症状を和らげ、脱水症状を防ぐための対症療法が重要になります。家庭でできる治療方法と、少しでも早く回復するための療養のポイントを、わかりやすく解説します。

対症療法と水分補給の重要性

ウイルス性胃腸炎に特効薬はありません。治療の中心は、水分補給、食事療法、そして安静です。ウイルスと闘っている身体を支えることが大切です。

最も重要なのは、脱水を防ぐためのこまめな水分補給です。ウイルス性胃腸炎になると、下痢や嘔吐によって体内の水分と電解質が失われます。電解質とは、ナトリウムやカリウムなどのミネラルのことで、体液のバランスや神経・筋肉の機能を維持するために不可欠な成分です。水分だけでなく、これらの電解質も同時に失われるため、単に水を飲むだけでは不十分な場合があります。

そこで、水分と電解質を効率的に補給できる経口補水液が推奨されます。経口補水液は、水に適切な量の塩分と糖分が配合されており、体への吸収が速やかに行われます。市販の経口補水液がない場合は、家庭でも簡単に作ることができます。水1リットルに砂糖大さじ4杯(40g)と塩小さじ半分(2.5g)を混ぜるだけで、代用として使用できます。

吐き気や嘔吐がひどい場合は、一度に大量の水分を摂取しようとせず、少量ずつ、ゆっくりと飲むようにしましょう。一度に大量の水分を摂取すると、胃を刺激して嘔吐を誘発する可能性があります。例えば、大さじ1杯程度の水分を5分おきに飲むなど、こまめな水分補給を心掛けてください。

下痢がひどい場合は、下痢止めを使用することもありますが、ウイルスを体外に排出する作用を妨げてしまう可能性も懸念されます。急性症状は最長7日間続く場合があり、慢性的な吐き気と嘔吐は4週間以上続く場合もあります。下痢止めが必要かどうかは、症状の程度や持続時間、年齢などを考慮して医師が判断します。自己判断で市販の下痢止めを服用することは避け、必ず医師の指示に従ってください。吐き気止めも同様に、医師が必要と判断した場合に処方されます。

食事制限と食事例

ウイルス性胃腸炎にかかっている間は、胃腸に負担をかけないように、消化の良いものを食べるようにしましょう。胃腸は、普段は私たちが食べたものを一生懸命消化吸収してくれますが、ウイルス性胃腸炎になると、その働きが弱ってしまいます。消化に悪いものを食べると、さらに負担がかかり、症状が悪化する可能性があります。

消化の良い食品としては、おかゆ、うどん、白米、食パン、柔らかく煮た野菜、豆腐、白身魚、バナナなどが挙げられます。これらは、胃腸に優しく、消化吸収されやすい食品です。逆に、脂っこいもの、刺激物、乳製品、冷たいもの、繊維の多いものは、胃腸への負担が大きいため、避けるべきです。例えば、揚げ物やカレーライス、唐辛子などの香辛料を使った料理、牛乳やヨーグルト、アイスクリーム、生の野菜などは控えましょう。

食欲がない場合は、無理に食べる必要はありません。しかし、水分補給は非常に重要です。脱水を防ぐために、こまめに水分を摂るように心がけましょう。回復期には、徐々に通常の食事に戻していきましょう。いきなり通常の食事に戻すと、胃腸に負担がかかり、症状が再発する可能性があります。最初は消化の良いものを少量ずつ食べ、徐々に量を増やしていくようにしましょう。

いつ医療機関を受診すべきかの判断基準

ウイルス性胃腸炎は通常、数日で自然に治癒します。しかし、中には重症化する場合もあります。特に、乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方は重症化しやすい傾向があります。また、健康な成人でも、症状が改善しない場合や、特定の症状が現れた場合は、医療機関を受診する必要があります。

医療機関を受診すべき目安としては、以下の症状が挙げられます。

  • 高熱が続く(38度以上)
  • 嘔吐や下痢がひどく、水分が摂れない
  • 便に血が混じる
  • 強い腹痛がある
  • 意識がもうろうとしている
  • 唇や舌が乾燥している
  • 尿の量が減っている
  • 乳幼児や高齢者である

これらの症状は、重症化のサインである可能性があります。自己判断せずに、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしてください。

まとめ

ウイルス性胃腸炎は、吐き気や嘔吐、下痢といった辛い症状を引き起こしますが、適切なケアで数日で回復するケースがほとんどです。

しかし、乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方は重症化しやすいので注意が必要です。 脱水症状を防ぐため、こまめな水分補給が非常に大切です。経口補水液が効果的ですが、市販品がない場合は、水に砂糖と塩を混ぜたもので代用できます。

食事は消化の良いものを少量ずつ摂り、無理せず安静に過ごすことが回復への近道です。 高熱が続く、嘔吐や下痢がひどい、血便があるなど、重症化のサインが見られたら、すぐに医療機関を受診しましょう。 ご自身の症状に不安を感じたら、決して我慢せず、医療機関に相談することをおすすめします。早期の対処が、スムーズな回復に繋がります。

参考文献

  1. Johns T, Lawrence E. Evaluation and Treatment of Nausea and Vomiting in Adults. American family physician 109, no. 5 (2024): 417-425.