健診で肝血管腫と言われたら?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
「肝血管腫」という病名を聞いたことがあるでしょうか?健康診断で指摘されて、不安を感じている方もいるかもしれません。肝血管腫は、肝臓にできる良性の腫瘍で、多くは経過観察で問題ありません。しかし、中には大きくなって症状が出る場合もあり、治療が必要になることもあります。今回は、肝血管腫の基本的な知識から、診断方法、治療法まで詳しく解説します。
肝血管腫とはどのような病気か
「肝血管腫」って、ちょっと珍しい病名に聞こえるかもしれませんね。初めて聞くと、どんな病気なのか、心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか?肝血管腫は、肝臓にできる良性の腫瘍です。肝臓は、お腹の右上、肋骨の下にある、体内最大の臓器です。この肝臓の中に、血管が集まってできた腫瘍が肝血管腫です。
多くの場合、成長は非常にゆっくりで、大きくなりにくいという特徴があります。そのため、健康診断や人間ドックで偶然発見されることがほとんどです。
肝血管腫の発生メカニズム
肝血管腫の発生メカニズムは、まだ完全には解明されていません。しかし、生まれつき肝臓の血管の一部に異常があり、それが成長していく過程で血管腫が形成されると考えられています。
最近の研究では、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるとき、つまり胎児期に肝臓の血管が作られる際に、何らかの原因で異常が起こり、血管腫が形成されると考えられています。
主な症状と特徴の見分け方
肝血管腫は、多くの場合、自覚症状がほとんどありません。そのため、健康診断や人間ドックなどで、偶然発見されるケースが多いです。
肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、症状が現れにくい臓器として知られています。これは、肝臓の細胞自身が痛みを感じにくく、また、多少のダメージを受けても再生能力が高いため、初期の段階では異常に気づきにくいからです。
しかし稀に、腫瘍が大きくなった場合、以下のような症状が現れることがあります。
- お腹の張りや圧迫感
- 右上腹部痛
- 吐き気
これらの症状は、肝血管腫が大きくなることで、周囲の臓器を圧迫したり、肝臓の働きを阻害することで起こると考えられています。
例えば、お腹の張りや圧迫感は、腫瘍が大きくなることで、胃や腸などの消化器官を圧迫するために起こります。また、右上腹部痛は、腫瘍が肝臓の表面近くにできた場合に、肝臓を包む膜(肝被膜)が引っ張られるために起こります。吐き気は、肝臓の機能が低下することで、消化不良を起こしたり、体内の老廃物がうまく処理できなくなるために起こります。
しかし注意が必要なのは、これらの症状は、他の病気でもみられるため、肝血管腫が原因であると断定することはできません。例えば、お腹の張りや圧迫感は、便秘や過敏性腸症候群などでもみられますし、右上腹部痛は、胆石症などでもみられます。吐き気は、食中毒や風邪など、様々な原因で起こりえます。
肝臓は沈黙の臓器とも言われ、症状が現れにくい臓器です。そのため、定期的な検査を受けることが大切です。特に、健康診断などで肝臓の検査値に異常が見つかった場合は、放置せずに、医療機関を受診するようにしましょう。
肝血管腫の診断方法と評価基準4つ
「肝臓に影がある」と言われてしまうと、誰でも不安になりますよね。一体何が潜んでいるのか、悪い病気なのではないかと、心配になるのも無理はありません。
特に「肝血管腫」は、その名前からして深刻な病気を想像してしまうかもしれませんが、実は多くは良性で、経過観察のみで済む場合がほとんどです。
しかし、安心するためにも、肝血管腫が疑われた際にどのように診断していくのか、その評価基準や具体的な検査方法について、しっかりと理解しておくことが大切です。
超音波(エコー)検査の役割
肝血管腫の診断で最初に用いられるのが、超音波検査、いわゆるエコー検査です。お腹にプローブと呼ばれる機械をあてて、肝臓の状態を調べます。
妊婦さんの検査にもよく使われることからわかるように、エコー検査は体に負担が少なく、痛みもない検査なので、安心して受けることができます。
肝血管腫は、エコー検査で、肝臓の中に「丸くて境界がはっきりとした黒っぽい影」として映るのが特徴です。これは、腫瘍の中に血液がたくさん詰まっているためで、ちょうど水風船のように見えます。
超音波検査で見られる肝血管腫の特徴
- 境界がはっきりとした丸い影:周りの組織としっかり区別できる
- 内部が均一に白く塗りつぶされている:密度が均一であることを示す
これらの特徴は、経験豊富な医師であれば、エコー画像を見ただけで「あっ、これは血管腫の可能性が高いな」と判断できるほどの典型的なものです。
しかし、エコー検査だけで、肝血管腫と確定診断することは難しい場合があります。他の病気の可能性も考慮し、より詳細な検査を組み合わせて診断を進めていきます。
CTやMRIの検査法
エコー検査で肝血管腫が疑われた場合は、CT検査やMRI検査といった、より詳細な画像検査を行います。CT検査やMRI検査は、体の内部を輪切りにしたような画像を見ることができるため、腫瘍の大きさや形、周囲の臓器との位置関係などをより正確に把握することができます。
1. CT検査
CT検査は、X線を使って体の断面画像を作る検査です。造影剤と呼ばれる薬を注射してから撮影することで、血管や臓器をより鮮明に映し出すことができます。
肝血管腫の場合、造影剤がゆっくりと染み込んでいくという特徴的なパターンを示します。これは、血管腫が血管のかたまりであり、通常の血管よりも血流がゆっくりとしているためです。
2. MRI検査MRI検査は、強力な磁石と電波を使って、体の断面画像を作る検査です。CT検査と同様に造影剤を使うことで、より詳しい情報を得ることができます。
MRI検査では、肝血管腫は「T2強調画像」と呼ばれる特殊な撮影方法で、非常に明るく描出されます。これは、血管腫内に水分が多く含まれているためです。
これらの画像検査によって、エコー検査だけでは分からなかった小さな血管腫も見つけることができます。また、他の肝臓の病気との鑑別を行う際にも非常に役立ちます。
肝血管腫の診断に用いる血液検査
肝血管腫の診断には、血液検査はあまり役立ちません。なぜなら、肝血管腫は肝臓の機能に影響を与えないことが多いため、血液検査の値に異常が出ないことが多いからです。
ただし、血液検査は、他の肝臓の病気を除外するために行います。例えば、肝炎ウイルス検査や肝機能検査などを行い、肝臓の状態を総合的に判断します。これらの検査で異常値がでた場合には、さらに詳しい検査が必要となります。
例えば、肝臓は脂肪分の代謝にも関与しているため、肥満や糖尿病などの生活習慣病があると、肝臓に負担がかかり、肝機能検査の値が悪くなることがあります。
また、ウイルス性肝炎やアルコール性肝障害なども、肝機能検査の値に異常をきたす可能性があります。
これらの病気の中には、放置すると肝硬変や肝臓がんに進行するものもあるため注意が必要です。
肝血管腫の治療法とその必要性3つ
「肝血管腫」と診断された多くの方が、 "治療が必要なの?" "手術になるの?" と不安に思われるでしょう。この記事では、肝血管腫の治療法について、できるだけわかりやすく解説していきます。
経過観察の重要性
肝血管腫は、基本的には良性で、ゆっくりと成長するか、あるいはほとんど大きさが変わらないことが多いです。そのため、多くの場合、治療はすぐに必要なく、定期的な検査で経過を観察していくことになります。
では、具体的にどのようなペースで検査を行うのでしょうか?
これは、肝血管腫の大きさや状態、そして患者さんの年齢や健康状態によって異なります。例えば、小さな肝血管腫で、症状もなく、健康状態にも問題がない場合は、年に1回の超音波検査(エコー)で十分なこともあります。
一方、肝血管腫が大きくなってきていたり、何らかの症状が出ている場合は、より頻回の検査や、CTやMRIなどの詳しい画像検査が必要になることもあります。
治療の選択肢とそのメリット
ほとんどの肝血管腫は経過観察だけで問題ありませんが、症状が出ていたり、大きくなって周囲の臓器を圧迫するような場合は、治療が必要となる場合があります。治療法としては、主に以下の2つの方法があります。
- 塞栓療法: 肝血管腫に栄養を送っている血管を、カテーテルという細い管を使って塞いでしまう治療法です。
- 手術: 肝血管腫を切除する手術です。
それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあります。例えば、塞栓療法は身体への負担が比較的少ない治療法ですが、肝血管腫が大きい場合には適さないことがあります。
手術は、肝血管腫を完全に取り除くことができる治療法ですが、身体への負担が大きいため、患者さんの状態などを考慮して慎重に判断する必要があります。
どの治療法が最適かは、肝血管腫の大きさや位置、患者さんの年齢や健康状態などを考慮して、医師とよく相談した上で決定されます。
大切なのは、定期的な検査を受けて、医師とよく相談しながら、ご自身の状態に合った治療法を選択していくことです。
まとめ
肝血管腫は肝臓にできる良性の腫瘍で、多くは自覚症状がなく、健康診断などで偶然発見されます。
発生原因は完全には解明されていませんが、胎児期に肝臓の血管形成の異常が原因と考えられています。
診断には超音波検査が用いられ、特徴的な画像所見から判断されます。必要に応じてCTやMRI検査を行い、他の病気との鑑別を行います。
肝血管腫の多くは経過観察で問題ありませんが、大きくなって症状が出た場合は、塞栓療法、手術などの治療法が選択されます。
定期的な検査を受け、医師と相談しながら、適切な対応をしましょう。
当院でも、毎日腹部超音波検査を院内で行っていますのでお気軽にお声掛けください。
参考文献
- Li DK, Khan MR, Wang Z, Chongsrisawat V, Swangsak P, Teufel-Schäfer U, Engelmann G, Goldschmidt I, Baumann U, Tokuhara D, Cho Y, Rowland M, Mjelle AB, Ramm GA, Lewindon PJ, Witters P, Cassiman D, Ciuca IM, Prokop LD, Haffar S, Corey KE, Murad MH, Furuya KN and Bazerbachi F. Normal liver stiffness and influencing factors in healthy children: An individual participant data meta-analysis. Liver international : official journal of the International Association for the Study of the Liver 40, no. 11 (2020): 2602-2611.