内視鏡専門医が解説!胃がんの症状とは?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

「胃の調子が悪い」と感じた時、あなたはどのように対処しますか?もしかしたら、それは単なる胃もたれかもしれませんし、深刻な胃がんのサインかもしれません。胃がんは初期症状が乏しく、気づかないうちに進行してしまうケースも少なくありません。しかし、早期発見・早期治療できれば、完治の可能性も高まります。今回は内視鏡専門医であり院長が、胃がんの初期症状から、見過ごされがちな症状、そして早期発見のための検査方法まで、詳しく解説していきます。

あなたの大切な胃を守るため、ぜひ最後まで読んでみてください。

胃がんの初期症状とその特徴5つ

胃がんは初期の段階では、自覚症状が出にくい病気として知られています。早期発見・早期治療ができれば、それだけ治療の成功率も高まります。ご自身の体からのサインを見逃さないように、胃がんの初期症状の特徴を理解しておきましょう。

食欲不振と体重減少の関係

胃がんが進行すると、胃の働きが悪くなって、食べ物の消化吸収に影響が出ることがあります。消化吸収とは、食べ物を体内に吸収できる形に分解することです。胃は食べ物を一時的に貯蔵するだけでなく、胃酸という強い酸で食べ物を溶かし、消化酵素という物質で栄養素を分解する、重要な役割を担っています。

しかし、胃がんによって胃の粘膜にダメージが及ぶと、これらの機能が低下してしまいます。その結果、食事の量が減ったり、体重が減ってしまうことがあります。

例えば、「以前は美味しく食べられていたものが、最近ではあまり美味しく感じられず、食事を残してしまうことが多くなった」「特定の食べ物(肉など)が受け付けにくくなった」「以前と同じ量を食べているのに、体重が減ってきた」このような変化を感じたら、胃がんのサインかもしれません。

特に、胃がんが進行すると、胃の出口付近が狭くなって食べ物が通過しにくくなることがあります。これは、ちょうど道路に大きな障害物ができて、車が渋滞してしまう状況に似ています。食べ物がスムーズに腸に送られなくなると、胃に長くとどまることになり、吐き気や嘔吐を引き起こす原因になります。また、このような状態では、十分な栄養を摂取することが難しくなり、体重減少につながりやすくなります。

これらの変化は、最初は些細なものに思えるかもしれません。しかし、あなたの体は、胃がんが進行しているサインを一生懸命に伝えようとしているのかもしれません。

上腹部の不快感や痛み

胃がんによって胃の粘膜に炎症や潰瘍ができると、上腹部に不快感や痛みを感じることがあります。

胃の粘膜は、胃酸の攻撃から胃自身を守るための、大切なバリアの役割を果たしています。しかし、胃がんによってこのバリアが壊されると、胃酸が直接胃の壁を刺激するようになり、様々な不快な症状が現れます。

例えば、「食後によくみぞおちのあたりが重苦しく感じる、または鈍い痛みが続く」「空腹時に胃がキリキリと痛むことがある」「胃のあたりをぎゅっと締め付けられるような感じがする」というような症状です。これらの症状は、胃炎や胃潰瘍など、他の胃の病気でも起こる可能性があります。しかし、症状が長引いたり、頻繁に繰り返す場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。

胃の膨満感や消化不良の症状

胃がんが進行すると、胃の出口付近が狭くなって食べ物が通りにくくなることがあります。その結果、胃の膨満感や消化不良の症状が現れることがあります。

胃は、食道から送られてきた食べ物を一時的に貯留し、その後、少しずつ十二指腸へと送り出す働きをしています。しかし、胃がんが進行すると、胃の出口付近に腫瘍ができて、食べ物の通り道が狭くなってしまうことがあります。

このような状態になると、「少し食べただけでもお腹がいっぱいになってしまう」「食後にいつもよりもお腹が張った感じがする」「食べ物が胃に残っているような感じがする」「吐き気や嘔吐を繰り返す」といった症状が現れることがあります。これらの症状は、胃がんだけでなく、他の消化器系の病気でも起こる可能性があります。しかし、症状が続く場合は、医療機関を受診して適切な検査を受けるようにしましょう。

胃がんを疑うべき症状と他の病気との違い

「胃のあたりが何となくおかしい…」。そう感じてはいても、具体的な症状として言葉にするのは難しいものです。実は、胃がんは初期の段階では自覚症状が現れにくい病気として知られています。

しかし、早期発見・早期治療ができれば、それだけ治療の成功率も高まります。ご自身の体からのサインを見逃さないように、胃がんの疑いがある場合、どのような症状に注意すれば良いのか、他の病気と比べて何が違うのかを知ることが大切です。ここでは、胃がんを疑うべき症状と、似たような症状が出る他の病気との違いについて、詳しく解説していきます。

腹痛と消化器系の他の病気との鑑別

「お腹が痛い」というのは、非常にありふれた症状です。そのため、胃の痛みを感じても、「食べ過ぎかな?」「ストレスのせいかな?」と軽く考えてしまいがちです。

胃がんの症状として腹痛がみられることがありますが、腹痛は消化器系の様々な病気で共通の症状です。胃がんと他の病気を見分けるポイントの一つに、痛む場所があります。例えば、みぞおちの鈍い痛みは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍でもみられます。

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜に傷ができ、炎症を起こしている状態です。これらの病気では、胃酸が傷口にしみるような痛みを感じることが多く、特に空腹時や食後に痛みが強くなる傾向があります。

一方、胃がんの場合は、腫瘍が大きくなるにつれて、胃の粘膜が硬くなり、胃の動きが悪くなって、胃もたれや吐き気などの症状が現れることがあります。さらに、がんが進行すると、胃の壁を突き破って周囲の臓器にまで広がることがあります。この状態になると、激しい腹痛や背中の痛み、体重減少などの症状が現れることがあります。

また、胃がんに伴う腹痛は、食事との関係が薄い、あるいは持続的な痛みであることが多いのに対し、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の痛みは、食事の前後や特定の姿勢によって変化することが多いという違いがあります。

このように、痛む場所だけでなく、痛みの種類や程度、持続時間、食事との関係、その他の症状などを総合的に判断することが重要です。

部位症状考えられる病気胃がんの可能性
みぞおち鈍い痛み、食事後に悪化する胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎食欲不振、体重減少、吐血、貧血などが伴う場合
右上腹部激しい痛み、発熱胆石症、急性胆嚢炎黄疸、発熱を伴う場合
左上腹部鈍い痛み、便秘、下痢を繰り返す過敏性腸症候群(IBS)症状が長期間続く、血便を伴う場合

例えば、右上腹部の激しい痛みは、胆石症や急性胆嚢炎の可能性が高いですが、黄疸や発熱を伴う場合は、胃がんが胆管に浸潤している可能性も考えられます。胆管とは、肝臓で作られた胆汁を十二指腸に送るための管です。胆管が閉塞されると、胆汁が逆流して、黄疸と呼ばれる症状が現れます。

このように、腹痛の部位や症状、他の症状との組み合わせによって、胃がんの可能性をある程度絞り込むことができます。

吐血や黒色便が示す意味

胃がんが進行すると、胃の粘膜が傷つき、出血することがあります。胃や十二指腸からの出血は、命に関わる危険な状態です。吐血や黒色便は、胃や十二指腸からの出血を示すサインです。

吐血は、文字通り、口から血を吐くことです。コーヒーかすのように黒っぽい吐瀉物が出ることもあります。これは、出血した血液が胃酸と混ざり合って変色したものです。

一方、黒色便(タール便)は、出血した血液が消化管内で消化され、黒色の便として排出されることをいいます。便が黒っぽくなる原因は様々ですが、真っ黒で、コールタールのような粘り気のある便の場合は、消化管出血の可能性が高いです。

吐血や黒色便は、胃がんだけでなく、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、食道静脈瘤破裂など、消化管出血をきたす様々な病気が原因で起こる可能性があります。

もし、吐血や黒色便がみられた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

胸焼けや逆流性症状の判断基準

胃がんの初期症状として、胸焼けや逆流性症状(胃酸が食道に逆流してくる症状)が現れることがあります。

胸焼けは、胸のあたりがチリチリと焼けるような痛みや不快感を感じる症状です。脂っこいものを食べた後や、食後すぐに横になった際に起こりやすい傾向があります。

逆流性症状は、胃酸や食べ物が食道に逆流してくることで、胸や喉に違和感や痛み、酸っぱい液体が上がってくるなどの症状が出ます。

これらの症状は、胃がんだけでなく、逆流性食道炎や機能性ディスペプシア(FD)などでもみられます。

胃がんと他の病気を見分けるポイントとしては、症状の頻度や程度、持続時間、食事との関係などが挙げられます。

 胃がん逆流性食道炎機能性ディスペプシア(FD)
症状の頻度比較的少ない多い多い
症状の程度軽い場合もあるが、進行すると強くなる軽い場合が多い軽い場合が多い
持続時間長期間続くことが多い一時的なことが多い一時的なことが多い
食事との関係食後に悪化するとは限らない食後や横になったときに悪化しやすい食後や空腹時に悪化しやすい

胃がんの場合、腫瘍が大きくなるにつれて症状が強くなり、持続時間も長くなる傾向があります。また、食事との関係も薄く、空腹時にも症状が現れることがあります。

一方、逆流性食道炎は、食道と胃のつなぎ目にある筋肉(下部食道括約筋)が緩むことで、胃酸が逆流しやすくなる病気です。食後や横になったときに症状が悪化しやすく、食事の内容や生活習慣の影響を受けやすいという特徴があります。

機能性ディスペプシア(FD)は、胃の動きが悪くなることで、様々な症状が現れる病気です。食後や空腹時に症状が悪化しやすく、ストレスや疲労などの影響を受けやすいという特徴があります。

ただし、これらの症状だけで自己判断することは危険です。心配な症状がある場合は、医療機関を受診し、適切な検査を受けるようにしましょう。

胃がんの検査と診断方法

「胃のあたりが何となくおかしい…」。そう感じてはいても、具体的な症状として言葉にするのは難しいものです。実は、胃がんは初期の段階では自覚症状が現れにくい病気として知られています。

しかし、早期発見・早期治療ができれば、それだけ治療の成功率も高まります。ご自身の体からのサインを見逃さないように、胃がんの疑いがある場合、どのような症状に注意すれば良いのか、他の病気と比べて何が違うのかを知ることが大切です。ここでは、胃がんの検査と診断方法について詳しく解説していきます。

内視鏡検査の流れとその重要性

胃がんの検査で最も重要な検査は、内視鏡検査です。内視鏡検査というと、「つらい」「苦しい」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。

実際、以前は内視鏡検査といえば、口から太い管を入れる苦しい検査というイメージが強かったかもしれません。しかし、医療は日々進歩しています。最近の内視鏡は、以前のものに比べて格段に細くなっており、患者さんの負担も軽減されています。

口から入れるのが不安な方には、鼻から挿入する経鼻内視鏡も普及してきています。鼻からの内視鏡は、嘔吐反射が少なく、検査中の会話も可能なため、患者さんの負担が大幅に軽減されます。当院ではこの鼻からの内視鏡を採用しています。

さらに、鎮静剤を使用することで、ウトウトしている間に検査が終わることも可能です。このように、患者さんの体質や希望に合わせて、様々な検査方法を選択できるようになりました。。

検査時間は5分程度で終わることがほとんどです。検査中は、医師や看護師が優しく声をかけながら、患者さんの様子を確認していきますので、ご安心ください。

内視鏡検査では、胃の粘膜の状態を直接観察できるため、がんやポリープなどの病変を早期に発見することができます。これは、レントゲン検査など他の検査方法では得られない大きなメリットです。

例えば、レントゲン検査では、バリウムという造影剤を飲んでから撮影を行うため、病変の場所や大きさがある程度大きくないと発見することができません。また、バリウムを飲むのが苦手な人や、体質的に合わない人もいます。

一方、内視鏡検査では、直接粘膜を観察するため、ごく初期の小さな病変でも発見することができます。また、組織の一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べる生検を行うこともできます。生検を行うことで、がんの確定診断や、がんのタイプ、進行度などを正確に把握することができます。

胃カメラによる早期発見のメリット

胃カメラ検査による早期発見のメリットは、何といっても早期の治療開始が可能になることです。

胃がんは進行するにつれて、手術の範囲が広がったり、抗がん剤治療などのつらい治療が必要となる場合があります。

進行した胃がんの手術では、胃の全てまたは大部分を切除する必要があります。胃を切除すると、食べ物を貯めておくことができなくなるため、一度に食べられる量が減ってしまいます。また、消化吸収の機能も低下するため、体重減少や栄養不足に陥りやすくなります。

さらに、抗がん剤治療は、がん細胞だけでなく、正常な細胞にもダメージを与えてしまうため、様々な副作用を引き起こす可能性があります。主な副作用として、吐き気、嘔吐、脱毛、食欲不振、倦怠感などが挙げられます。

しかし、早期に発見できれば、内視鏡でがんを切除する治療だけで済む場合もあります。内視鏡治療は、開腹手術に比べて、患者さんの身体への負担が少なく、入院期間も短いというメリットがあります。また、早期がんであれば、胃の切除範囲も少なく済むため、術後の生活の質(QOL)を高く維持することができます。

これは、患者さんにとって身体的にも精神的にも大きなメリットです。

また、早期発見によって胃がんが進行することで起こる合併症のリスクを減らすことができます。胃がんが進行すると、胃の出口が狭くなって食べ物が通らなくなったり、出血したりすることがあります。

胃の出口が狭くなる状態を「胃出口部狭窄」といい、食後すぐに満腹感を感じたり、吐き気や嘔吐を繰り返したりするようになります。また、胃から出血すると、吐血や下血などの症状が現れます。

これらの合併症は、患者さんの体力を著しく低下させ、治療を複雑にする要因となります。しかし、早期に発見して治療することで、これらの合併症を予防できる可能性が高まります。

生検(組織検査)の役割と必要性

内視鏡検査で「胃がんが疑われる」と判断された場合は、生検(組織検査)を行います。

内視鏡検査では、医師は経験と知識に基づいて、粘膜のわずかな変化を見逃さないように注意深く観察しています。しかし、内視鏡画像だけで、それが本当にがんであるのか、良性の病変なのかを100%断定することはできません。

そこで、確定診断のために生検が必要となります。生検とは、内視鏡を使って疑わしい部分の組織を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。

生検を行うことで、本当にがん細胞が存在するのか、あるとすればがんのタイプや進行度などを正確に診断することができます。生検の結果に基づいて、最適な治療方針を決定することが重要です。

例えば、胃がんと診断された場合でも、がんのタイプや進行度によって、治療法が異なります。早期がんの場合、内視鏡治療だけで完治できる可能性が高いですが、進行がんの場合は、手術や抗がん剤治療などの集中的な治療が必要となる場合があります。

生検の結果は、通常1~2週間で判明します。生検の結果が出たら、医師から、検査結果の説明と、今後の治療方針について詳しく説明があります。

胃がんは早期発見・早期治療が大切な病気です。早期発見できれば、手術などの治療の負担を軽くできる可能性が高まります。そのためにも、定期的な検査で体の状態を把握しておくことが重要です。

まとめ

胃がんは初期症状がほとんどないため、早期発見が難しい病気です。しかし、早期発見・早期治療が可能なため、定期的な検査が重要となります。

胃がんを疑う症状として、食欲不振、体重減少、上腹部の不快感、胃の膨満感などが挙げられます。

これらの症状は、胃潰瘍や胃炎など、他の消化器系の病気でもみられるため、自己判断せず、医療機関を受診して適切な検査を受けることが重要です。

胃がんの検査には、内視鏡検査が用いられます。内視鏡検査は、胃の粘膜を直接観察できるため、早期のがんを発見することができます。また、生検を行うことで、がんの確定診断や進行度を正確に把握できます。

参考文献

  1. Kopecky K, Monton O, Rosman L, Johnston F. Palliative interventions for patients with advanced gastric cancer: a systematic review. Chinese clinical oncology 11, no. 6 (2022): 47.