糖尿病の薬なのに腎臓を守る?SGLT2阻害薬の腎保護作用について

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

前回のブログではRSウイルスについてお伝えし、予防ワクチンであるアレックスビーについてお話ししようと思っていましたが予定を変更し別の話題をさせていただきます。

*後日アレックスビーについての記事も作成します。

今回は「糖尿病の薬なのに腎臓を守る?SGLT2阻害薬の腎保護作用について」というタイトルでお話しします。

SGLT2阻害薬とは

「糖尿病の薬なのに、腎臓を守ってくれる」という話を診察室で医師から説明を受けたり、耳にしたことはありませんか? その主役こそが「SGLT2阻害薬」です。

糖尿病の治療薬は、これまで血糖値を下げることを主な目的としてきました。しかし、SGLT2阻害薬は血糖値を下げるだけでなく、腎臓を守る働きがあることがわかってきたのです。 

SGLT2阻害薬の役割と効果

SGLT2阻害薬は、腎臓で血液中の糖分を再吸収するのを抑え、尿として体の外に出す働きを助けます。難しい言葉で言うと、「選択的ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬」と言います。

では、イメージしやすいように、SGLT2阻害薬を「遊園地のジェットコースター」に例えてみましょう。

  1. ジェットコースターに乗るためには、決められた人数だけ乗り場に入ることができます。この乗り場を「腎臓」、乗客を「血液中の糖分」とします。
  2. 通常、腎臓は血液中の糖分を再吸収して、エネルギー源として利用します。これは、ジェットコースターに何度も乗って楽しむのと同じです。
  3. しかし、糖尿病になると、血液中の糖分が多すぎて、腎臓だけでは処理しきれなくなります。ジェットコースターに乗り場がいっぱいになってしまい、長い行列ができてしまう状態です。
  4. そこで登場するのが「SGLT2阻害薬」です。「SGLT2阻害薬」は、ジェットコースターの乗車人数を制限する「係員」のような役割を果たします。
  5. 「係員」が乗車人数を適切に制限することで、行列が短くなり、スムーズに乗車できるようになります。つまり、「SGLT2阻害薬」が腎臓での糖分の再吸収を抑制することで、血液中の糖分が尿として排出されやすくなるのです。

このように、SGLT2阻害薬は、血糖値を下げる効果だけでなく、腎臓の負担を減らし、腎臓を守る効果も期待されています。

SGLT2阻害薬の主な種類

SGLT2阻害薬には、いくつかの種類があります。それぞれ効果や特徴が少しずつ異なり、患者さんの状態に合わせて使い分けられます。

ここでは日本で現在処方されている主なSGLT2阻害薬に一般名と商品名をまとめてみました。

SGLT2阻害薬の一般名商品名
ダパグリフロジンフォシーガ
カナグリフロジンカナグル
エンパグリフロジンジャディアンス
ルセオグリフロジンルセフィ
イプラグリフロジンスーグラ
トホグリフロジンデベルザ

この中では、フォシーガとジャディアンスが慢性腎臓病に対する効能または効果が承認されています。

SGLT2阻害薬の腎保護作用について

糖尿病の治療薬として用いられるSGLT2阻害薬ですが、近年、腎臓を守る作用があることが明らかになってきました。これは、糖尿病治療において画期的な発見と言えるでしょう。今回は、SGLT2阻害薬がどのように腎臓を守ってくれるのか、その仕組みや最新の研究結果について、わかりやすく解説していきます。

SGLT2阻害薬が腎臓に与える影響

私たちの体は、毎日、生活の中で様々な老廃物や毒素を産生します。腎臓は、これらの不要なものを体から 尿として排出してくれる、いわば「体の浄水場」のような役割を担っています。しかし、糖尿病になると、血液中の糖(ブドウ糖)が過剰になり、腎臓はこの過剰な糖を処理するために、常にフル稼働せざるを得ない状況に陥ります。これは、浄水場に毎日、大量のゴミが流れ込んでくるようなもので、腎臓に大きな負担がかかってしまいます。その結果、腎臓の機能が低下し、腎臓病のリスクが高まってしまうのです。

腎臓は、顕微鏡で見てみると、糸球体と呼ばれる毛細血管の塊と、それを包むボウマン嚢、そして尿細管と呼ばれる細い管など、複雑な構造をしています。糖尿病になると、まず、糸球体がダメージを受け、その結果、腎臓の働きが弱くなってしまいます。

腎臓において尿は尿細管という管を通って運ばれ、尿細管の近位尿細管という部位では尿中に含まれる糖を血液へと運ぶ再吸収が行われています。この再吸収を行う役目を果たしているのがSGLT2と呼ばれる物質です。SGLT2阻害薬は、このSGLT2という物質の働きを抑え、血液中の糖を尿として排出することで血糖値を下げる薬です。これは、浄水場に流れ込んでくるゴミの量を減らし、浄水場の負担を軽減してくれるようなものです。この作用によって、腎臓への糖の負担を減らし、腎機能の低下を防ぐ効果が期待できます。

SGLT2阻害薬の腎保護作用に関する最新の研究結果

最近の研究では、SGLT2阻害薬は、糖尿病の有無にかかわらず、慢性腎臓病の進行を抑制する効果があることが報告されています。

例えば、冠動脈疾患を持つ2型糖尿病患者を対象にした研究では、SGLT2阻害薬を服用することで、

  • 腎機能の指標となる血清クレアチニン値の低下
  • 造影剤による急性腎障害の発症リスクの低下

などが認められています。

この研究結果は、SGLT2阻害薬が、糖尿病患者さんの腎臓を守るだけでなく、造影剤を用いたCT検査や心臓カテーテル検査などの際に腎臓を守る効果も期待できることを示唆しています。

これらの結果から、SGLT2阻害薬は、腎臓病の予防や治療においても重要な役割を担うことが期待されています。

SGLT2阻害薬の使用と注意点

SGLT2阻害薬は、糖尿病の治療や腎臓の保護に効果が期待できるお薬ですが、服用する際にはいくつか注意すべき点があります。安全かつ効果的に使うために、服用方法や注意点などを正しく理解しておきましょう。

SGLT2阻害薬の主な副作用

主な副作用としては、尿路・性器の感染症、尿の量が増えることによる脱水症状、ケトアシドーシスなどがあります。これらの副作用は、薬の効果で体から糖分が尿として排出されるために起こることがあります。水分をこまめに摂るように心がけましょう。

SGLT2阻害薬の適正使用

SGLT2阻害薬は、すべての糖尿病患者さんに適しているわけではありません。重度の腎機能が低下している方や、重度の肝機能障害をお持ちの方などは、服用できない場合があります。また、他の薬を服用している場合や、妊娠中、授乳中なども、医師に相談する必要があります。

参考文献