腎臓が貧血の原因?腎性貧血とは?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

「貧血」と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?多くの人は鉄分不足を連想するかもしれません。しかし、貧血の原因はそれだけではありません。実は、腎臓の機能低下が原因で起こる「腎性貧血」という病気があリマス。健康診断で貧血を指摘されたけれど、鉄剤を飲んでも改善しない、そんな経験はありませんか?もしかしたら、あなたは腎性貧血かもしれません。今回は、腎性貧血の原因や症状、治療法について詳しく解説します。腎臓の働きと貧血の関係、そして改善策について、ぜひ知っておきましょう。

腎性貧血の原因とメカニズム

「貧血」と聞くと、鉄分が不足しているイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?確かに、鉄分不足は貧血の代表的な原因の一つです。しかし、貧血には様々な原因があり、その一つに「腎性貧血」があります。これは、腎臓の機能低下が原因で起こる貧血です。

例えば、健康診断で貧血を指摘され、鉄剤を処方されたものの、なかなか改善しないケースがあります。こうした場合、腎臓の機能が低下しているために、鉄剤の効果が十分に得られない腎性貧血の可能性も考えられます。

腎臓機能が貧血に及ぼす影響

腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として体の外に出す働きをする、いわば「体の中の浄水場」のような役割を担っています。しかし、腎臓の役割はそれだけではありません。実は、体内で作られる赤血球の数を調整するホルモン「エリスロポエチン」を作り出す、重要な役割も担っているのです。

エリスロポエチンは、骨髄に対して「赤血球をもっと作れ!」と指令を出す、「赤血球生産工場の社長」のような存在です。腎臓の機能が低下すると、この「社長」であるエリスロポエチンの生産が減ってしまい、赤血球が十分に作られなくなってしまいます。その結果、体中に酸素を運ぶ赤血球が不足し、腎性貧血が起こります。

腎性貧血の主な原因

腎性貧血の主な原因は、慢性腎臓病(CKD)です。慢性腎臓病とは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病や、腎炎などの腎臓自身の病気が原因で、腎臓の働きが徐々に低下していく病気です。慢性腎臓病が進行すると、腎臓はエリスロポエチンを十分に作ることができなくなり、腎性貧血のリスクが高まります。

慢性腎臓病は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、気づかないうちに病気が進行し、腎性貧血を発症しているケースも少なくありません。また、腎臓は一度機能が低下すると、自然に回復することは難しい臓器です。ですから、早期発見・早期治療が非常に重要になります。

鉄分不足と腎性貧血の関係

鉄分は、赤血球を作るのに欠かせない栄養素です。「赤血球生産工場の材料」とも言えるでしょう。鉄分が不足すると、たとえエリスロポエチンという「社長」がいても、赤血球を十分に作ることができません。腎性貧血の患者さんは、腎臓の機能低下によってエリスロポエチンの生産が減っていることに加えて、鉄分不足も併発している場合が多いです。

鉄分不足が起こる原因としては、食事からの鉄分の摂取量が少ないことや、鉄分が失われることなどが考えられます。腎性貧血の治療では、エリスロポエチン製剤の投与に加えて、鉄剤の投与や鉄分の多い食事を心がけることが重要です。

腎性貧血の症状と診断方法

代表的な症状とは

腎性貧血は、初期の段階では自覚症状が現れにくいという特徴があります。これは、貧血が徐々に進行していくため、体が少しずつ変化に慣れてしまうためです。

例えば、階段を上る際に、以前は息切れを感じなかったのに、最近では息切れを感じるようになったとします。しかし、日常生活で階段を使う機会が少ない場合、その変化に気づかず、そのまま放置してしまうことがあります。

腎性貧血が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。

  • 疲れやすい、だるい: これは貧血の代表的な症状です。体中に酸素を運ぶ赤血球が減ることで、酸素不足になり、疲れやだるさを感じやすくなります。
  • 動悸、息切れ: 少し動いただけで心臓がドキドキしたり、息苦しさを感じたりすることがあります。これも、体が酸素不足を補おうとして、心臓や呼吸数を増やすために起こります。
  • 顔色が悪い: 健康な人の肌はピンク色をしていますが、貧血になると、赤みが減って青白く見えるようになります。
  • めまい、立ちくらみ: 脳に十分な酸素が行き渡らなくなることで、めまいや立ちくらみが起こりやすくなります。
  • 食欲不振、吐き気: 消化器官の働きも悪くなるため、食欲不振や吐き気を引き起こすことがあります。
  • むくみ: 腎臓の機能低下により、体内の水分調整がうまくいかず、むくみが生じることがあります。
  • 冷えやすい: 血液の循環が悪くなることで、手足などの末端が冷えやすくなります。
  • 集中力の低下: 脳への酸素供給が不足することで、集中力の低下や思考力の低下が現れることがあります。

これらの症状は、貧血以外にも様々な病気が原因で起こることがあります。気になる症状がある場合は、自己判断せず、医療機関を受診して、医師に相談しましょう。

診断に必要な検査項目

腎性貧血の診断には、血液検査、尿検査、画像検査など、いくつかの検査を組み合わせて行います。

  1. 血液検査血液検査では、貧血の程度や種類、原因などを調べます。具体的には、以下の項目を測定します。
    • ヘモグロビン値、ヘマトクリット値: 赤血球の量を調べることで、貧血の程度を判断します。
    • 赤血球の大きさ(MCV): 赤血球の大きさを調べることで、貧血の種類をある程度推測することができます。腎性貧血では、赤血球が小さくなる傾向があります。これは、腎臓の機能低下により、エリスロポエチンというホルモンの分泌が減少し、赤血球を作るための指令が骨髄に十分に伝わらなくなるためです。
    • 網赤血球数: 新しい赤血球がどれだけ作られているかを調べることで、骨髄での造血機能を評価します。
    • 鉄分: 体内の鉄分の貯蔵量を調べることで、鉄欠乏性貧血との鑑別を行います。
    • フェリチン: 鉄を貯蔵するタンパク質で、体内の鉄分の貯蔵量をより正確に反映します。
    • クレアチニン、eGFR: 腎臓の機能を評価する重要な指標です。これらの数値が高い場合は、腎臓の機能が低下している可能性があります。
  2. 尿検査尿検査では、腎臓からタンパク質や血液が漏れ出ていないかなどを調べます。具体的には、以下の項目を調べます。
    • タンパク尿: 腎臓の機能が低下すると、通常は尿中に排泄されないタンパク質が漏れ出てきます。
    • 潜血反応: 尿中に血液が混じっていないかを調べます。
  3. 画像検査画像検査では、腎臓の形や大きさ、内部の状態を調べます。腎臓が萎縮していたり、腫瘍があったりする場合に腎機能低下の原因となることがあります。
    • 腹部エコー: 超音波を使って、腎臓の形や大きさ、内部の状態を調べます。
    • CT検査、MRI検査: より詳細に腎臓の状態を調べる必要がある場合に行います。

これらの検査結果を総合的に判断し、腎性貧血の診断を行います。

腎性貧血の治療と生活の工夫

腎性貧血の治療は、貧血の程度や原因、患者さんの状態などを考慮して行われます。治療の基本は、不足しているエリスロポエチンを補う薬物療法と、赤血球の材料となる鉄を補給する鉄剤の投与です。

治療薬の種類とその効果

腎性貧血の治療には、大きく分けて「鉄剤」と「エリスロポエチン製剤」の2種類の薬が使われます。

  1. 鉄剤鉄剤は、文字通り体内の鉄分を補給する薬です。鉄は赤血球のヘモグロビンという赤い色素の材料となり、酸素と結びつくために必要不可欠です。鉄が不足すると、ヘモグロビンがうまく作られず、赤血球は酸素を十分に運ぶことができなくなります。鉄剤には、錠剤、カプセル、シロップなどの内服薬と、血管に直接注射する注射薬があります。貧血の程度や消化管の状態などを考慮して、医師が適切な方法を選択します。例えば、胃腸が弱い方や鉄剤の内服で消化器症状が出やすい方は、注射の方が適しているかもしれません。
  2. エリスロポエチン製剤

  エリスロポエチン製剤は、腎臓で作られるエリスロポエチンと同じような働きをする薬です。体内で不足しているエリスロポエチンを補うことで、骨髄での赤血球の産生を促進します。

エリスロポエチン製剤には、皮下注射や静脈注射で投与するものがあります。投与頻度や量などは、患者さんの状態に合わせて調整されます。

例えば、週に1回の注射で済むものや、2週間に1回、あるいは4週間に1回の注射で済むものなど、様々な種類があります。

また最近ではエリスロポエチンを産生する能力を促進する内服薬も発売されております。

これらの薬物療法を行うことで、多くの場合、貧血の症状は改善されます。

食事療法で気を付けるべきこと

薬物療法に加えて、食事療法も腎性貧血の改善に役立ちます。鉄分を多く含む食品を積極的に摂取することで、鉄剤の効果を高めることができます。

鉄分を多く含む食品としては、次のようなものがあります。

  • レバー: 豚レバー、鶏レバーなど
  • 赤身の肉: 牛肉、豚肉など
  • 魚: マグロ、カツオ、イワシなど
  • 緑黄色野菜: ほうれん草、小松菜など
  • 豆類: 大豆、納豆、豆腐など

これらの食品をバランスよく食事に取り入れるようにしましょう。

ただし、腎臓病の方は、食事制限が必要な場合もあります。例えば、リンやカリウムの摂取を制限しなければならないことがあります。

当院にはクリニックには珍しく管理栄養士が常駐しており、対象の患者さんに栄養相談を行っています。

食事療法についても最近はネットで検索すれば色々な情報を手に入れることができますが、食事量や献立が実際はどれくらいの量なのか、自分にとって本当にいい方法なのか、と悩まれる方もいらっしゃるかもしれません。

皆様の日ごろの食事内容をお聞きして、食生活の問題点を見つけ、食事内容や量の改善点など、皆様お一人お一人にあったアドバイスをさせていただいておりますので、お気軽にお声掛けください。

栄養指導について詳しく知りたい方はこちらをご参照ください

日常生活の改善ポイント

腎性貧血の症状を和らげ、日常生活を快適に過ごすためには、次のような点に注意することが大切です。

  • 疲労を感じたら無理せず休む: 貧血があると、体が酸素不足になりやすく、疲れを感じやすくなります。十分な睡眠をとり、疲れているときは無理せず体を休ませるようにしましょう。
  • 軽い運動を習慣的に行う: 軽い運動は、血液の循環を良くし、疲労回復効果も期待できます。無理のない範囲で、ウォーキングなどの有酸素運動を生活に取り入れてみましょう。
  • 禁煙する: タバコは、体内の酸素を消費し、血液の循環を悪くするため、貧血を悪化させる可能性があります。禁煙は、腎性貧血の改善だけでなく、腎臓病の進行抑制にもつながるため、積極的に取り組むようにしましょう。

腎性貧血は、適切な治療と生活習慣の改善によって、症状をコントロールすることができます。医師や医療スタッフと連携しながら、治療に取り組んでいきましょう。

まとめ

腎性貧血は、腎臓の機能低下によって起こる貧血です。健康診断で貧血を指摘されても、鉄剤を服用しても改善しない場合は、腎性貧血の可能性があります。腎臓は、赤血球の数を調整するホルモン「エリスロポエチン」を分泌していますが、腎臓の機能が低下すると、この分泌量が減少し、赤血球が不足して貧血が起こります。腎性貧血は、慢性腎臓病の進行に伴い発症することが多く、早期発見・早期治療が重要です。治療には、エリスロポエチン製剤や鉄剤の投与、食事療法などが行われます。また、生活習慣の改善も重要です。疲れを感じたら無理せず休息し、軽い運動を習慣化しましょう。禁煙も腎性貧血の改善に役立ちます。医師や医療スタッフと連携して、適切な治療を受けていきましょう。

参考文献

  • Chen X, Wang J, Lin Y, Yao K, Xie Y and Zhou T. “Cardiovascular outcomes and safety of SGLT2 inhibitors in chronic kidney disease patients.” Frontiers in endocrinology 14, no. (2023): 1236404.