食欲がない…それって夏バテ?実は“胃の働き”が落ちているかも〜機能性ディスペプシア〜

夏の暑さで食欲が減退し、「夏バテかな?」と軽く考えていませんか?実は、その不調、いわゆる「夏バテ」ではなく、機能性ディスペプシア(FD)という病気のサインかもしれません。FDとは、胃カメラなどの検査では異常が見つからないにもかかわらず、胃の不快な症状が続く病気です。2021年のガイドラインでは、ストレス、胃の動きの異常、食生活など、様々な要因が複雑に絡み合って発症するとされています。

なんとなく胃がスッキリしない、食欲がわかない、といった症状が続いている方は要注意。この記事では、FDの症状や原因、検査方法、そして具体的な治療法まで、専門用語を避けながらわかりやすく解説します。FDは命に関わる病気ではありませんが、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。この記事を読んで、つらい症状を改善し、快適な毎日を取り戻すためのヒントを見つけてみませんか?

食欲不振、もしかして機能性ディスペプシア(FD)かも?

夏の暑さで食欲が減退していませんか?

「夏バテかな?」と軽く考えていませんか?

もしかしたら、それはいわゆる「夏バテ」ではなく、機能性ディスペプシア(FD)という病気のサインかもしれません。

「なんとなく胃がスッキリしない」「食欲がわかない」といった症状が続いている方は、ぜひこの記事を最後まで読んでみてください。

FDについて正しく理解し、適切な対応をすることで、つらい症状を改善し、快適な毎日を取り戻せる可能性があります。

機能性ディスペプシア(FD)ってどんな病気?

機能性ディスペプシア(FD)とは、みぞおちの痛みや胃もたれ、食欲不振、吐き気など、さまざまな胃の不快な症状があるにもかかわらず、胃カメラなどの検査をしても異常が見つからない病気です。

以前は「神経性胃炎」などとも呼ばれていましたが、現在ではFDという病名で呼ばれています。

FDは命に関わる病気ではありませんが、日常生活に大きな影響を与えかねません。

仕事や家事に集中できなかったり、楽しいはずの食事が楽しめなくなったり、QOL(生活の質)が低下することもあります。

なぜ機能性ディスペプシア(FD)は起こるの?

FDの原因ははっきりと解明されていませんが、ストレスなどの精神的な要因、胃の動きの異常、胃の知覚過敏、食事内容、生活習慣、遺伝的要因など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

例えば、ストレスを感じると自律神経のバランスが乱れ、胃の動きが悪くなったり、胃酸の分泌が増えたり、少しの刺激にも過敏に反応したりするようになります。

また、暴飲暴食や脂っこい食事、刺激物の過剰摂取、睡眠不足、喫煙などもFDの症状を悪化させる要因となることがあります。

2021年に改訂された機能性消化管疾患診療ガイドラインでは、胃・十二指腸運動能異常、内臓知覚過敏、心理社会的因子、胃酸分泌、遺伝的要因、生育環境、感染性胃腸炎、ライフスタイル、微小炎症など、FDの病態に関与する多様な因子について解説されています。

これらの要因が単独ではなく、複数組み合わさってFDを発症すると考えられています。

機能性ディスペプシア(FD)の主な症状4つ

FDの主な症状はRomeⅣ診断基準に基づき、以下の4つに分類されます。これらの症状が過去3ヶ月間にわたり、少なくとも6ヶ月以上前から症状が出現している場合にFDと診断されます。

  1. みぞおちの痛み:キリキリとした痛みや、鈍い痛みなど、痛みの種類はさまざまです。医学的には「心窩部痛」と呼ばれます。
  2. 胸やけ:みぞおちのあたりがチリチリと焼けるような感じがします。医学的には「心窩部灼熱感」と呼ばれます。
  3. 胃もたれ:食後にお腹が張ったり、重苦しく感じたりします。医学的には「食後膨満感」と呼ばれます。
  4. 早期満腹感:少し食べただけでお腹がいっぱいになり、それ以上食べられなくなります。

これらの症状以外にも、吐き気や嘔吐、げっぷ、食欲不振などがみられることもあります。

他の病気との違いは?

FDは、胃カメラなどの検査で異常が見つからないという特徴があります。

では、どのように他の病気と区別するのでしょうか?

似たような症状が出る病気として、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がん、逆流性食道炎などがあります。これらの病気は、胃カメラなどの検査で炎症や潰瘍といった異常が見つかるため、FDとは区別されます。

FDと診断するためには、これらの病気を除外する必要があります。

また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染によってFDと似た症状が現れることがあり、除菌治療後に症状が改善する場合は、H.pylori関連ディスペプシアと診断されます。

機能性ディスペプシア(FD)の検査と治療

胃の不快感や食欲不振が続いていて、もしかしたら機能性ディスペプシア(FD)かも…と不安に思っている方もいるかもしれません。つらい症状が続くと、食事を楽しむことも難しくなり、日常生活にも影響が出てしまいます。

FDは、内視鏡検査などの精密検査を受けても、胃潰瘍や胃がんなどの明らかな異常が見つからないにもかかわらず、みぞおちの痛みや胃もたれ、食欲不振といった様々な症状が現れる病気です。

そのため、他の病気を除外していくための検査が重要になります。この章では、FDの検査方法と治療法について、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすくご説明します。検査を受けることで不安を解消し、治療への第一歩を踏み出しましょう。

機能性ディスペプシア(FD)の検査方法

FDの検査は、他の病気を除外することを主な目的として行います。具体的には、以下のような検査が行われます。

  • 腹部超音波検査(腹部エコー検査): お腹にゼリーを塗って、超音波を出す機械を当てることで、肝臓、胆のう、すい臓などの臓器の形や大きさを確認する検査です。痛みはなく、体への負担も少ない検査です。FDで異常が見つかることは稀ですが、他の病気が隠れていないかを確認するために重要な検査です。例えば、胆石や膵臓がんといった病気が、FDと似た症状を引き起こすことがあるため、これらの病気を除外するために腹部エコー検査を行います。
  • 胃内視鏡検査(胃カメラ検査): 口または鼻から細い管を入れて、食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察する検査です。炎症や潰瘍、腫瘍などがないかを確認できます。少し緊張する検査かもしれませんが、最近は鎮静剤を使用することもできるので、医師に相談してみましょう。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染の有無も確認できます。機能性ディスペプシア(FD)と似た症状を引き起こすヘリコバクター・ピロリ菌感染症を除外することは重要です。

最近の研究では、FDの患者さんでは、十二指腸に存在する特定の腸内細菌の働きが変化していることが報告されています。具体的には、グルテン(小麦などに含まれるタンパク質の一種)を分解する酵素を作る腸内細菌の働きが弱まっていることが示唆されています。このことから、FDの発症に腸内細菌叢の変化が関わっている可能性が考えられています。

  • 血液検査: 採血をして、炎症の有無や貧血、肝臓や腎臓の機能などを調べます。全身の状態を把握し、他の病気が隠れていないかを確認するために大切な検査です。例えば、貧血があると、だるさや食欲不振といった症状が現れることがあります。また、肝機能や腎機能に異常があると、FDと似た症状を引き起こすことがあるため、これらの可能性を除外するために血液検査を行います。

どのような治療をするの?

FDの治療は、患者さんの症状や状態に合わせて行われます。大きく分けて、次の3つの柱があります。

  1. ストレス軽減: ストレスはFDの症状を悪化させる大きな要因の一つです。日常生活の中でストレスを減らす工夫をしてみましょう。例えば、リラックスできる時間を作ったり、趣味に没頭したり、軽い運動をしたりするのも良いでしょう。ストレスを一人で抱え込まずに、家族や友人、医療従事者に相談することも大切です。必要に応じて、心療内科への受診も検討してみましょう。
  2. 生活習慣の改善: バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動は、FDの症状改善に役立ちます。暴飲暴食や、脂肪分の多い食事は避け、消化の良いものをゆっくりとよく噛んで食べましょう。寝る直前に食事を摂るのも避けましょう。また、カフェインやアルコール、たばこも症状を悪化させることがあるので、控えるようにしましょう。
  3. 薬物療法: 症状に合わせて、以下のような薬が処方されることがあります。薬物療法は、ストレス軽減や生活習慣の改善で十分な効果が得られない場合に検討されます。
    • 胃酸分泌抑制剤: 胃酸の分泌を抑えることで、胃の痛みや胸やけなどの症状を和らげます。
    • 消化管運動機能改善薬: 胃の運動を活発にして、胃もたれや吐き気を改善します。
    • 漢方薬: 胃腸の働きを整え、食欲不振や胃もたれなどを改善します。
    • 抗うつ薬・抗不安薬: 不安や抑うつなどの症状を和らげ、FDの症状改善をサポートします。

FDの治療は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、これらの方法を組み合わせて行われます。医師とよく相談し、自分に合った治療法を見つけていきましょう。

機能性ディスペプシア(FD)と上手につきあうために

「食欲がない」「胃がムカムカする」「お腹が張る」…これらの症状、もしかしたら機能性ディスペプシア(FD)のサインかもしれません。

FDは、胃カメラなどの検査で異常が見つからないにもかかわらず、胃の不快な症状が続く病気です。

命に関わる病気ではありませんが、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

FDと診断された方も、まだ診断されていない方も、この記事を通してFDとの上手な付き合い方を知り、快適な毎日を取り戻しましょう。

食生活の改善ポイント

FDの症状を和らげるためには、食生活の改善が重要です。

具体的には、以下の5つのポイントに注意しましょう。

  1. 消化の良いものを食べる:胃に負担をかけないよう、消化しやすい食材を選びましょう。例えば、おかゆ、うどん、豆腐、白身魚、鶏むね肉などがおすすめです。野菜は柔らかく煮たり、すりおろしたりすることで消化しやすくなります。消化の悪い食品、例えば、脂肪の多い肉や揚げ物、繊維の多い野菜などは、胃に負担がかかりやすく、FDの症状を悪化させる可能性があります。
  2. 脂肪の多い食事を避ける:脂肪の多い食事は胃の負担を増大させ、症状を悪化させる可能性があります。揚げ物や脂身の多い肉、バター、生クリームなどは控えめにしましょう。例えば、鶏肉を食べる際、皮を取り除いたり、調理方法を揚げ物から蒸し物や煮物に変えたりすることで、脂肪の摂取量を減らすことができます。
  3. 一度にたくさん食べない:一度に大量の食べ物を胃に入れると、胃の運動機能に負担がかかり、FDの症状が悪化しやすくなります。少量ずつ、ゆっくりと時間をかけて食べるように心がけましょう。よく噛むことも大切です。よく噛むことで食べ物が細かく砕かれ、消化しやすくなります。
  4. 刺激物を避ける:香辛料やカフェイン、炭酸飲料、アルコールなどは胃を刺激し、症状を悪化させる可能性があります。例えば、唐辛子や胡椒などの香辛料を多く使った料理や、コーヒー、紅茶、緑茶などのカフェインを含む飲み物、炭酸飲料、アルコール類は、胃酸の分泌を促進したり、胃の粘膜を刺激したりする可能性があります。これらの摂取は控えめにしましょう。
  5. 食事は規則正しく:食事の時間が不規則だと、胃の働きが乱れ、FDの症状が悪化しやすくなります。毎日同じ時間に食事をとることで、胃の働きが安定し、症状の改善につながります。

ストレス軽減のコツ

ストレスはFDの症状を悪化させる大きな要因の一つです。

日常生活の中でストレスを軽減するために、以下の5つのコツを実践してみましょう。

  1. 自分のストレスの原因を把握する: ストレスを軽減するためには、まず自分が何にストレスを感じているのかを理解することが重要です。ストレスの原因を日記に書き出してみるのも良いでしょう。
  2. リラックスできる時間を作る: 好きな音楽を聴いたり、アロマを焚いたり、ぬるめのお風呂にゆっくり浸かったり、自分に合ったリラックス方法を見つけて実践しましょう。
  3. 適度な運動: ウォーキングやヨガなど、軽い運動はストレス軽減に効果的です。無理なく続けられる運動を習慣にしましょう。
  4. 十分な睡眠: 睡眠不足はストレスを悪化させ、FDの症状にも悪影響を及ぼします。Mörklらの研究(2025)では、多種類のプロバイオティクスサプリメントが迷走神経機能を改善し、うつ病患者の睡眠の質を向上させることが示唆されています。毎日同じ時間に寝起きし、質の良い睡眠を心がけましょう。プロバイオティクスとは、腸内環境を整えるのに役立つ生きた微生物、またはそれらを含む食品やサプリメントのことです。ヨーグルトや納豆などに含まれています。迷走神経とは、脳から出ている神経の一つで、消化器系や呼吸器系など、多くの臓器の働きを調節する役割を担っています。
  5. 相談できる相手を見つける: 家族や友人、職場の同僚など、信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になることがあります。必要に応じて、専門家(医師やカウンセラーなど)に相談することも検討しましょう。

生活リズムを整えよう

自律神経のバランスを整えるためには、規則正しい生活リズムを送ることが重要です。

Pryorらの研究(2025)によると、グルテン関連疾患の患者では、グルテンを消化する十二指腸マイクロバイオームの能力が低下していることが報告されています。

グルテンとは、小麦などに含まれるタンパク質の一種です。

マイクロバイオームとは、特定の環境に生息する微生物の集団のことです。

十二指腸とは、胃と小腸をつなぐ消化管の一部です。

これらの知見は、FDの治療においても、腸内環境を整えることが重要である可能性を示唆しています。

規則正しい生活リズムを維持するために、次の4つの点に注意しましょう。

  1. 毎日同じ時間に起床・就寝: 体内時計をリセットするために、毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝るようにしましょう。
  2. バランスの良い食事: 1日3食、栄養バランスの良い食事を規則正しく摂りましょう。
  3. 適度な運動: 毎日30分程度の軽い運動を心がけましょう。
  4. 趣味やリラックスできる時間: 好きなことに時間を使うことで、ストレスを軽減し、心身のリフレッシュを図りましょう。

これらの方法を試しても症状が改善しない場合は、医療機関を受診し、医師に相談しましょう。

まとめ

夏の食欲不振、もしかしたら機能性ディスペプシア(FD)かもしれません。FDは胃カメラで異常が見つからないのに、胃の不快感や食欲不振などが続く病気です。つらい症状を改善するために、消化の良いものを食べ、脂肪の多い食事や刺激物を避け、規則正しい食生活を送りましょう。ストレス軽減も大切です。リラックスできる時間を作ったり、適度な運動をしたり、自分に合った方法を見つけましょう。規則正しい生活リズムを心がけ、自律神経のバランスを整えることも重要です。これらの工夫で症状が改善しない場合は、医療機関に相談してくださいね。

参考文献

  1. 日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン―機能性ディスペプシア(FD)作成・評価委員会. 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第 2 版).
  2. Mörkl S, Narrath M, Schlotmann D, et al. Multi-species probiotic supplement enhances vagal nerve function – results of a randomized controlled trial in patients with depression and healthy controls. Gut microbes 17, no. 1 (2025): 2492377.
  3. Pryor JC, Nieva C, Talley NJ, et al. Microbial-derived peptidases are altered in celiac disease, non-celiac gluten sensitivity, and functional dyspepsia: a systematic review and re-analysis of the duodenal microbiome. Gut microbes 17, no. 1 (2025): 2500063.