高血圧=サイレントキラー、塩分摂取の関係とは?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
皆さんは、「サイレントキラー」と呼ばれる病気があることをご存知ですか? 実は高血圧の事を指すのですが、なぜそう呼ばれているかというと、自覚症状がないまま進行し、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞といった命に関わる病気を引き起こすことがあるからです。
高血圧は、血管に常に高い圧力がかかり続けることで血管を傷つけ、様々な病気を引き起こす原因となります。高血圧は、加齢、遺伝、ストレス、運動不足など、様々な要因が複雑に絡み合って起こりますが、その中でも特に重要な要因の一つが「塩分の摂り過ぎ」です。
高血圧とは何か?
高血圧は、血液が血管壁に及ぼす圧力が高い状態のことを指します。皆さんが普段使っている「自転車のタイヤ」を想像してみてください。タイヤに空気を入れる際、入れすぎるとパンパンに張りますよね。この状態が、血管にとって高血圧の状態です。高血圧の状態が続くと、血管は常に圧力に耐えなければならず、やがて傷ついてしまいます。
塩分摂取と高血圧の関係性
塩分の主成分であるナトリウムは、体内の水分バランスを調整する役割を担っています。しかし、塩分を摂り過ぎると、血液中のナトリウム濃度が高くなり、水分を過剰に溜め込んでしまいます。すると、血液量が増加し、血管にかかる圧力が高まり、高血圧を引き起こしてしまうのです。
例えば、味噌汁を飲んだ後、顔がむくんでしまう経験はありませんか?これは、味噌汁に含まれる塩分の影響で、顔が一時的にむくんでしまった状態です。このように、塩分は体内の水分バランスを崩し、高血圧のリスクを高める可能性があるのです。
塩分摂取量の基準と推奨範囲は?
健康な人の場合、1日の塩分摂取量の目標値は、男性で7.5g未満、女性で6.5g未満、高血圧の予防・治療のためには6g未満とされています。これは、小さじ1杯(約6g)よりも少ない量です。しかし、日本人は、味噌汁、漬物、醤油などの伝統的な和食文化の影響もあり、塩分摂取量が多くなりがちです。
中国で行われた研究によると、家庭料理で使う塩の量を減らす指導を受けたグループは、指導を受けていないグループに比べて、塩分摂取量が減少し、血圧も低下したという結果が出ています。この研究からも分かるように、毎日の食事で塩分を控えることは、高血圧の予防に非常に効果的です。
対象 | 1日の塩分摂取量の目標値 | 目安となる食品例 |
---|---|---|
男性 | 7.5g未満 | 醤油ラーメン1杯(約6g) |
女性 | 6.5g未満 | 梅干し2個(約5g) |
高血圧は、自覚症状が現れにくい病気であるため、「自分は大丈夫」と思わずに、日頃から塩分摂取量を意識することが大切です。
塩分制限の効果と方法
高血圧と診断されると、食事療法として真っ先に思いつくのが塩分制限ですよね。
「減塩すれば良いのはわかるけど、実際どれくらい効果があるの?」 「具体的な方法が知りたい!」という方も多いのではないでしょうか?
そこで塩分制限の効果と、具体的な方法について解説していきます。
塩分制限のメリットと効果
塩分を控えることで、期待できる効果は大きく3つあります。
- 血圧を下げる効果
塩分を摂りすぎると、血液中の塩分濃度が高くなり、それを薄めようとして血液量が増えます。
すると、血管の内側にかかる圧力が高くなり、血圧が上がってしまうのです。
これは、水道ホースにたくさんの水を通すと、ホースがパンパンに膨らむ様子に似ています。
逆に、塩分を控えることで、血液量を抑え、血圧の上昇を防ぐ効果が期待できます。 - 高血圧に伴う合併症のリスクを減らす効果
高血圧は、放置すると心臓病や脳卒中、腎臓病など、さまざまな病気のリスクを高めます。高血圧は、まるで静かに体を蝕む「サイレントキラー」と呼ばれるほど、自覚症状が少ないまま進行し、ある日突然、命に関わる病気を引き起こす可能性もあるのです。
塩分制限は、血圧を下げることで、こうした合併症のリスクを減らす効果も期待できるのです。 - 減塩以外の健康効果
塩分を控えることは、高血圧対策だけでなく、胃がんのリスクを減らす効果も期待されています。
また、むくみの改善や、味覚の変化を感じやすくなるといったメリットもあります。多くの患者様が、減塩を続けるうちに、素材本来の味がわかるようになり、薄味でも美味しく食事を楽しめるようになったと仰っています。
塩分制限の方法とポイント
具体的な塩分制限の方法としては、以下の3つのポイントを押さえましょう。
- 目標摂取量を守る
高血圧学会のガイドラインでは、高血圧の予防には1日6g未満、治療中の方は1日6g未満の塩分摂取が推奨されています。この量は、小さじ1杯程度に相当します。 外食が多い方は、メニューを選ぶ際に、塩分量を確認するようにしましょう。多くの飲食店では、メニュー表に塩分量が記載されているか、店員さんに尋ねれば教えてもらえます。 - 調味料を減らす
醤油やソース、味噌などの調味料には、多くの塩分が含まれています。例えば、醤油大さじ一杯には約2.6g、味噌大さじ一杯には約2.2gの塩分が含まれています。
計量スプーンや計量カップを使って、調味料の量を決めると、塩分を意識することができます。最近では、減塩タイプの醤油や味噌なども販売されているので、そういったものを活用するのも良いでしょう。 - 加工食品を控える
ハムやソーセージなどの加工食品や、インスタント食品、レトルト食品には、多くの塩分が含まれています。
できるだけ、素材本来の味を生かした、薄味の料理を心がけましょう。例えば、新鮮な野菜をたっぷり使ったサラダや、鶏肉のハーブ焼きなどは、塩分控えめで、栄養価も高くおすすめです。
塩分制限の食事の工夫と代替品
「塩分制限を始めると、味が薄くて美味しくない…」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、少しの工夫で、減塩しながらも、美味しく食事を楽しむことができます。
代替品 | 効果 | 例 |
---|---|---|
カリウム豊富な食材 | 塩分を体外に排出する | 海藻、きのこ、いも類、果物など |
酸味や辛味、香味を活用する | 味にアクセントを加える | 柑橘類の果汁、酢、香辛料、ハーブ、薬味など |
ダシを活用する | うま味をプラスする | 昆布、かつお節、煮干しなど |
*腎機能が低下している方はカリウムが豊富な食材は控える必要があります。
減塩用の調味料も販売されているので、活用してみるのも良いでしょう。 また、近年では、家庭料理における減塩介入の有効性が示唆されています。中国で行われた研究では、減塩のための教育や、塩分摂取量のモニタリングなどを組み合わせることで、参加者の塩分摂取量と血圧の低下がみられました。このことから、減塩は、個人の努力だけでなく、周囲のサポートも重要であると言えるでしょう。
塩分制限以外の高血圧予防・改善方法
高血圧の予防や改善には、塩分制限と並んで、他の生活習慣の改善も非常に大切です。塩分を控えることも重要ですが、それ以外の面でも気を配ることで、より効果的に高血圧を管理し、健康的な生活を送ることができます。
生活習慣の改善と高血圧予防
高血圧は、毎日の生活習慣の積み重ねが大きく影響します。「自分はまだ若いから大丈夫」「少しぐらいなら問題ない」と考えてしまう方もいるかもしれませんが、高血圧は静かに進行し、気づかないうちに血管に負担をかけている可能性があります。
1. 適度な運動
運動不足は高血圧のリスクを高める大きな要因となります。運動というと、激しいトレーニングを想像する方もいるかもしれませんが、日常生活の中で体を動かすことを意識するだけでも十分効果があります。例えば、当院に来る患者さんの中には、これまで車での移動が多かった方が、思い切って自転車通勤に切り替えたところ、血圧が安定しただけでなく、体力向上や気分転換にも繋がったというケースもありました。
2. 禁煙
タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。さらに、血管を傷つけ、動脈硬化を促進する原因にもなります。禁煙は高血圧のリスクを減らすだけでなく、様々な病気の予防にも効果的です。禁煙は簡単なことではありませんが、医師や薬剤師などの専門家のサポートを受けることもできますので、諦めずにチャレンジしていくことが大切です。
3. 十分な睡眠
睡眠不足は、自律神経のバランスを崩し、血圧を上昇させる原因となります。質の高い睡眠を十分にとることは、高血圧の予防だけでなく、心身の健康維持にも非常に重要です。
項目 | 具体的な方法 |
---|---|
運動 | ・ウォーキングを毎日30分程度行う<br>・軽いジョギングを週に2~3回行う<br>・自宅でできるストレッチや筋トレを行う |
禁煙 | ・禁煙外来を受診する<br>・禁煙補助薬を使用する<br>・周りの人に禁煙の協力を求める |
睡眠 | ・寝る前にリラックスする時間を作る<br>・規則正しい睡眠時間帯を心がける<br>・睡眠の質を高めるために、寝室の環境を整える |
食事以外の予防・改善方法
高血圧の予防・改善には、食事はもちろんのこと、その他の生活習慣にも目を向けることが大切です。
1. ストレスをためない
現代社会において、ストレスは避けて通れないものです。しかし、過剰なストレスは血管を収縮させ、血圧を上昇させる原因となります。ストレスを感じやすい方は、自分なりのストレス解消法を見つけ、上手にストレスと付き合っていくことが重要です。軽い運動や趣味、十分な睡眠など、リラックスできる時間を取り入れるように心がけましょう。
2. 適正体重を維持する
肥満は高血圧のリスクを高めるだけでなく、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病にも繋がることがあります。適正体重を維持するために、バランスの取れた食事と適度な運動を心がけましょう。
3. 定期的な健康診断
高血圧は自覚症状がないまま進行することが多いため、「サイレントキラー」とも呼ばれています。定期的な健康診断で血圧を測定し、早期発見・治療に努めましょう。
周囲の協力とサポートの重要性
高血圧の予防や改善は、自分一人で行うものではありません。周囲の理解と協力が、治療の成功に大きく影響します。
1. 家族や職場の理解
高血圧の治療や予防に取り組むには、周囲の理解と協力が不可欠です。特に、食生活の改善や運動習慣の維持などは、家族や職場の協力が得られれば、より効果的に進めることができます。例えば、家族に高血圧の人がいたら、減塩レシピを一緒に考えたり、休日にウォーキングに誘ったりするのも良いでしょう。
2. 医師との連携
高血圧の治療は、自己判断ではなく、必ず医師の指導のもとで行いましょう。定期的な診察や薬物療法など、医師と連携しながら治療を進めることが大切です。気になることや不安なことがあれば、遠慮なく医師に相談するようにしましょう。
3. 地域のサポート体制の活用
近年、地域によっては、高血圧の予防教室や健康相談など、様々なサポート体制が充実しています。これらの情報を活用し、積極的にサポートを受けるようにしましょう。
高血圧の予防や改善には、日々の生活習慣の見直し、周囲のサポート、そして医師との連携が重要です。自分自身の健康のために、できることから始めてみましょう。
高血圧と塩分制限以外の関係性に注意
高血圧は、塩分摂取だけが原因ではありません。遺伝的な要因や、生活習慣の乱れ、ストレス、加齢なども大きく関わっています。
高血圧のリスクを高める生活習慣には、以下のようなものがあります。
- 肥満:体重が増加すると、心臓はより多くの血液を送り出す必要があり、血管への負担が大きくなります。
- 運動不足:運動不足は、肥満や高血圧のリスクを高めるだけでなく、ストレスを解消する効果も期待できないため注意が必要です。
- 喫煙:タバコの煙に含まれるニコチンは、血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。タバコを吸うことは、血管を締め付けるロープで、常に血管を縛り付けているようなものです。
- 過度な飲酒:アルコールには、血管を拡張させる作用がありますが、飲み過ぎると逆に血管を収縮させ、血圧を上昇させてしまいます。
- ストレス:ストレスを感じると、交感神経が優位になり、血管が収縮し、血圧が上昇しやすくなります。
これらの要因を改善することも、高血圧の予防・改善には非常に大切です。
高血圧は、様々な要因が複雑に絡み合って発症する病気です。塩分摂取量を控えるとともに、自身の生活習慣を見直し、改善していくことが重要です。
また当院にはクリニックには珍しく管理栄養士が常駐しており、対象の患者さんに栄養相談を行っています。
食事療法についても最近はネットで検索すれば色々な情報を手に入れることができますが、食事量や献立が実際はどれくらいの量なのか、自分にとって本当にいい方法なのか、と悩まれる方もいらっしゃるかもしれません。
皆様の日ごろの食事内容をお聞きして、食生活の問題点を見つけ、食事内容や量の改善点など、皆様お一人お一人にあったアドバイスをさせていただいておりますので、お気軽にお声掛けください。
参考文献
- Zhang X, Zhang P, Shen D, Li Y, He FJ, Ma J, Yan W, Gao Y, Jin D, Deng Y, Guo F, Yan S, Song J, MacGregor GA and Wu J. Effect of home cook interventions for salt reduction in China: cluster randomised controlled trial.. BMJ (Clinical research ed.) 382, no. (2023): e074258.