おもちに注意!腸閉塞になることも?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。お正月やお祝いの席で欠かせないお餅。その美味しさの裏に、実は「腸閉塞(イレウス)」という思わぬ健康リスクが潜んでいることをご存知でしょうか?

特に、お餅による腸閉塞は、1月に発症が集中するという季節的な特徴があり、消化器内科医として皆さんに注意を促したい重篤な状態です。高齢者だけでなく、早食いの癖や腹部手術歴のある方など、誰もが発症する可能性があります。

この記事では、なぜお餅が腸閉塞を引き起こすのか、どんな人がなりやすいのか、そして安全に楽しむための予防策と、もしもの時の対処法まで詳しく解説します。ご自身や大切なご家族の健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。

腸閉塞(イレウス)とは?おもちで起こるメカニズムと危険なサイン

腸閉塞(イレウス)の基本的な定義と種類

腸閉塞は、医学用語では「イレウス」と呼ばれています。小腸や大腸といった消化管のどこかで、食べ物や消化液、ガスなどの内容物が通過できなくなる状態を指します。いわば、腸の通り道が塞がれてしまう状態と考えてください。

これは、体の中でスムーズな消化が行われなくなることを意味します。患者さんのお腹の不調の原因を探ることは、私たち医師の重要な役割です。

腸閉塞は、その原因によって大きく二つの種類に分けられます。

  1. 機械的イレウス
    • 腸が物理的に塞がれてしまうタイプです。
    • さらに、その原因によって二つに分類されます。
      • 単純性イレウス
        • 腸がねじれたり、何かが詰まったりして内容物が流れなくなります。
        • しかし、腸への血液の流れは保たれている状態です。
        • おもちが原因で起こる腸閉塞の多くはこのタイプに当たります。
        • 腸管が生きているため、比較的早期の対応で改善が見込めます。
      • 複雑性イレウス(絞扼性イレウス)
        • 腸がねじれたり、圧迫されたりすることで腸管への血液供給が途絶える状態です。
        • 腸が壊死したり、穴が開いたりするリスクが非常に高いです。
        • 生命に関わるため、緊急の手術が必要になることもあります。
  2. 機能的イレウス
    • 腸そのものに物理的な閉塞はありません。
    • しかし、腸の動きが悪くなることで内容物が停滞してしまうタイプの腸閉塞です。
    • 手術後の麻酔の影響や、特定の病気、薬剤の副作用などが原因で起こることがあります。
    • 腸の動きが一時的に麻痺することで起こる状態です。

このように、腸閉塞には様々な種類があることを知っておきましょう。ご自身のお腹の不調がどのタイプに当てはまるのか、専門的な医療機関で詳しく診断を受けることが大切です。消化器内科医として、原因を正確に突き止めることが適切な治療への第一歩だと考えています。

なぜ餅が腸閉塞を引き起こすのか?メカニズムと特徴

おもちは日本人にとって非常に身近な食べ物ですが、その独特な性質が腸閉塞のリスクを高めることがあります。おもちが腸閉塞を引き起こすメカニズムには、主に以下の特徴があります。

  1. 消化されにくい成分
    • おもちは「アミロペクチン」という難消化性のデンプンを主成分としています。
    • このアミロペクチンは、消化酵素による分解を受けにくい特徴があります。
    • そのため、胃や小腸を通過しても形が残りやすく、塊として存在し続けることがあります。
    • 消化管内でなかなか小さくならないことが問題となるのです。
  2. 粘着性と硬化
    • おもちは非常に粘り気が強く、特に温度が下がるとさらに硬くなりやすい性質があります。
    • この粘着性と硬さが、腸の壁にへばりつきやすくなります。
    • さらに、消化管内で他の食べ物と絡み合い、大きな塊となって腸の中を塞いでしまうことがあります。
    • 腸の中をスムーズに移動できなくなる要因です。
  3. 閉塞しやすい場所
    • 餅による腸閉塞では、消化管の中でも特に「下部小腸」、中でも「回腸(かいちょう)」と呼ばれる部分で詰まりやすいことが分かっています。

餅による腸閉塞になりやすい人の特徴と予防する安全な食べ方

お正月やお祝いの席で、お餅を食べる機会はたくさんありますよね。私たち日本人にとって、お餅は特別な意味を持つ食べ物です。しかし、美味しいお餅も、食べ方によっては思わぬ健康リスク、特に腸閉塞(イレウス)を引き起こす可能性があります。当院のような消化器内科で働く医師として、皆さんがこのリスクを正しく理解し、安全にお餅を楽しんでいただくことは非常に重要だと考えています。

腸閉塞は、腸の通路が塞がれてしまう重篤な状態です。お餅が原因で起こる腸閉塞は、比較的稀なケースではありますが、特に1月に発症が集中するという季節的な特徴が報告されています。これは、お正月などお餅を食べる機会が増える時期と重なりますね。誰もが安全にお餅を美味しく味わえるよう、どのような方がリスクが高いのか、そしてどのようにすれば安心して餅を楽しめるのかについて、具体的な注意点と予防策を詳しくご説明いたします。

高齢者だけではない!餅による腸閉塞のリスク要因

お餅による腸閉塞は、「高齢者の問題」と思われがちですが、実は年齢に関わらず発症する可能性があります。若い方でも、いくつかのリスク要因が重なることで、腸閉塞になる危険性は高まるのです。私たち医師は、患者さんの普段の食事習慣や体の状態を総合的に評価し、潜在的なリスクを見極めるよう努めています。特に注意が必要な方の特徴を具体的にご紹介しましょう。

  • 咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)機能が低下している方
    • 義歯(入れ歯)を使用している方や、歯が欠けている、あるいは抜けている方は、食べ物を十分に噛み砕く力が弱くなりがちです。
    • 加齢により唾液の分泌が減り、食べ物をうまく飲み込めない方も、大きな塊のままお餅を飲み込んでしまうリスクがあります。
    • 特に粘り気の強いお餅は、細かくすることが難しく、大きな塊として消化管に到達しやすいのです。
  • 早食いや丸呑みの癖がある方
    • 食べ物をよく噛まずに急いで飲み込む習慣がある方は、年齢に関わらず注意が必要です。
    • お餅を十分に細かくせずに腸へ送ってしまうと、腸の中で詰まる原因となります。
    • ある研究では、早食いや丸呑み癖のある患者さんで、特に30mm大以上の餅を丸呑みしたことが発症に強く関連していることが示されています。
  • 腹部の手術を受けたことがある方
    • 過去にお腹の手術、例えば胃腸の手術や婦人科系の手術などを経験された方は、腸の癒着(ゆちゃく)が起こっている可能性があります。
    • 癒着は腸の一部が絡まったり、狭くなったりする原因となり、消化しにくいお餅がその部分で詰まりやすくなる傾向があります。
    • 癒着がある場合、通常では問題にならない大きさの食べ物でも、通過障害を起こすことがあるため注意が必要です。
  • 消化器系の病気がある方
    • 慢性的な便秘、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)、憩室炎(けいしつえん)といった消化器系の持病がある方もリスクが高いです。
    • これらの病気によって、腸の動きが悪くなっていたり、腸管が狭くなっている部分があったりするため、お餅が通過しにくくなることがあります。
    • 日頃からお腹の調子が不安定な方は、特に食事内容に気を配る必要があります。

これらのリスク要因に一つでも心当たりがある場合は、お餅を食べる際に、より一層の注意と工夫が求められます。私たち医師は、これらのリスクを考慮し、患者さん一人ひとりに合わせた食事指導を行うことが大切だと考えています。

義歯や歯牙欠損がある方に特に注意が必要な理由

義歯(入れ歯)を使っている方や、歯が欠けている、あるいは抜けている方にとって、お餅は特に注意が必要な食べ物です。これらの口腔内の状態が、なぜ腸閉塞のリスクを著しく高めるのかを具体的に説明します。

  • 餅を十分に噛み砕けないため
    • 健康な歯が揃っている方と比べて、義歯や歯牙欠損がある場合、食べ物を細かくすり潰す力が格段に弱くなります。
    • お餅は非常に粘り気が強く、弾力がある特性を持っています。そのため、義歯や欠損歯では、お餅をしっかりと噛み切ったり、細かくしたりすることが非常に難しいのです。
    • これにより、お餅が大きな塊のまま口腔内を通過し、そのまま飲み込まれてしまう可能性が高まります。
  • 大きい塊のまま飲み込みやすい傾向
    • 十分に噛み砕けないと、私たちは無意識のうちに、食べ物を大きな塊のまま飲み込もうとしてしまいます。
    • 前述の研究でも示されたように、義歯や歯牙欠損がある患者さんで、30mm大以上の餅を丸呑みしたことが腸閉塞の発症に強く関連しています。
    • この大きな塊は、小腸の特に狭い部分で詰まりやすく、腸閉塞の直接的な原因となります。正常な腸であれば通過できる大きさでも、一部が狭くなっていたり、動きが悪かったりする腸では重大な問題となるのです。
  • 唾液の分泌量と嚥下能力の低下
    • 加齢とともに、唾液の分泌量が自然と減少する傾向があります。唾液は食べ物を湿らせ、滑らかにして飲み込みやすくする役割があります。
    • 唾液が少ないと、粘り気の強いお餅はさらに飲み込みにくくなります。
    • また、食べ物をスムーズに飲み込む「嚥下(えんげ)能力」も加齢によって低下することがあります。これにより、お餅が喉に詰まりやすくなるだけでなく、食道や胃、さらに腸へと適切に運ばれる過程で問題が生じやすくなります。

これらの口腔内の状態は、お餅を安全に食べる上で非常に重要な要素です。当院では、患者さんの口腔内の状態も考慮に入れた上で、安全な食事方法についてアドバイスを行うよう心がけています。

餅を安全に食べるための具体的な工夫と食べ方のコツ

美味しいお餅を、危険なく安心して楽しむためには、いくつかの具体的な工夫と食べ方のコツを知っておくことが非常に大切です。特に、高齢の方やお子さん、そしてこれまでにご説明したリスク要因のある方は、次の点に十分注意して食べてみてください。これらの工夫は、単に詰まりを防ぐだけでなく、お餅の美味しさをより安全に味わうための知恵でもあります。

  • 小さく切る
    • お餅は、あらかじめ小さく、細かく切ってから食べるようにしましょう。
    • 一口で食べられる大きさ、具体的には2~3cm角以下に切るのがおすすめです。
    • さらに、薄くスライスすることも効果的です。小さくすることで、噛み砕きやすくなり、万が一飲み込みが不十分でも腸で詰まるリスクを減らせます。
  • ゆっくり、よく噛む
    • 一口ずつ口に入れ、時間をかけて、奥歯でしっかりと噛み砕いてから飲み込むように心がけてください。
    • 「噛む回数を増やす」ことを意識することが重要です。急いで食べたり、丸呑みしたりすることは絶対に避けてください。
    • 咀嚼によって唾液が十分に分泌され、お餅が柔らかく、飲み込みやすくなります。
  • 水分と一緒に摂る
    • お茶や汁物(お雑煮など)、スープなど、水分を一緒に摂りながら食べることで、お餅が喉や食道をスムーズに通りやすくなります。
    • ただし、一気に大量の水分で流し込むのではなく、一口食べるごとに少量ずつ口に含んでください。
    • 食道や気管への誤嚥(ごえん)のリスクを避けるためにも、落ち着いてゆっくりと水分を摂ることが大切です。
  • 周りに人がいる状況で食べる
    • 万が一、お餅が喉に詰まってしまった場合に備えて、一人で食べるのは避けて、必ず周りに誰かいる状況で食べるようにしてください。
    • 緊急時にすぐに助けを呼べる環境は、命を守る上で極めて重要です。
    • 特に高齢の方やお子さんがお餅を食べる際は、必ず近くで見守るようにしましょう。
  • 食事に集中する
    • 会話に夢中になったり、テレビやスマートフォンを見ながら食べたりすると、無意識のうちに早食いになったり、噛む回数が減ったりすることがあります。
    • 食事中は食べることに集中し、落ち着いて味わうことが、安全に食べるための基本です。
  • 温かい状態で食べる
    • お餅は、難消化性澱粉(アミロペクチン)を主成分としています。
    • このアミロペクチンは、温度が下がると硬くなり、粘着性が増すという特性を持っています。
    • 冷めたお餅は、より一層噛み砕きにくく、喉や腸にへばりつきやすくなるため、必ず温かい状態で食べるようにしましょう。

これらの具体的な工夫を実践することで、お餅による腸閉塞のリスクを大幅に減らし、季節の味を安全に美味しく楽しむことができるでしょう。ご自身の健康を守るため、そして大切なご家族の安全のために、ぜひこれらの食べ方を習慣にしてください。

餅以外にも注意したい腸閉塞の原因になりやすい食べ物

お餅以外にも、食べ方によっては腸閉塞を引き起こす可能性のある食べ物がいくつか存在します。私たち消化器内科医の経験から、特に注意を促したい食品群があります。これらの食品は、主に消化されにくい性質を持つものや、水分を吸収して膨らむ性質を持つものが多いため、日頃から意識して食べるようにしましょう。

  • きのこ類
    • エノキ、シイタケ、エリンギなど、きのこ類は食物繊維が非常に豊富です。
    • 健康に良い食材ですが、同時に消化されにくい性質も持っています。
    • たくさん食べすぎると、消化管に負担をかけ、特に腸の動きが悪い方では詰まる原因となることがあります。細かく刻んで調理するなど工夫が必要です。
  • こんにゃく・しらたき
    • これらも不溶性食物繊維が豊富で、腸でほとんど消化されません。
    • 食べ応えがありますが、一度に大量に摂取すると、消化管内で大きな塊となり、腸閉塞の原因になることがあります。
    • 特に、腸の狭窄(きょうさく)がある方や、過去に腹部手術の既往がある方は注意が必要です。
  • さつまいも・たけのこ・ごぼう
    • これらの食物繊維が多い根菜類や野菜は、腸のぜん動運動を活発にする一方で、一度に大量に摂ると未消化のまま腸に送られ、塊となって詰まりやすくなることがあります。
    • 調理の際は、柔らかく煮る、細かく刻むなどの工夫をしてください。
  • 海藻類
    • ワカメ、昆布、ひじきなどの海藻も、食物繊維が豊富です。
    • 特に乾燥した海藻をそのまま食べたり、十分に水で戻さなかったりすると、腸内で水分を吸収して膨らみ、詰まる原因となることがあります。
    • 調理の際は、しっかりと水で戻し、必要に応じて細かく刻んでから食べるようにしましょう。
  • するめ・干し柿・ドライフルーツ
    • これらの食品は水分が少なく、硬く、また粘着性があるものも多いため、消化しにくいという特徴があります。
    • よく噛まずに食べると、大きな塊として消化管に負担をかけ、腸閉塞のリスクを高めます。
    • 食べる際には、少量に留め、十分な水分と一緒に、時間をかけてよく噛むことを心がけてください。

これらの食べ物についても、お餅と同様に、小さく切る、よく噛む、水分と一緒に摂るなどの工夫を心がけることが大切です。普段から意識して、ご自身の腸の状態に合わせた食事を選択することが重要です。

腸の健康を守る!日頃からできる予防習慣

腸閉塞は、特定の食べ物だけでなく、日頃の生活習慣とも深く関わっています。私たちが日々診療に当たる中で、患者さんの生活習慣の改善が、腸の健康維持にどれほど重要であるかを痛感しています。腸の健康を良好に保つことは、腸閉塞のリスクを減らすだけでなく、全身の健康維持、ひいては快適な毎日を送るためにも不可欠です。今日からでも実践できる、腸を守るための予防習慣をいくつかご紹介しましょう。

  • バランスの取れた食事
    • 偏った食事ではなく、野菜、肉、魚、炭水化物などをバランス良く摂ることが大切です。
    • 食物繊維は、過剰摂取は避けるべきですが、適度に摂ることで腸の動きを助け、便通を良好に保ちます。
    • 特に、水溶性食物繊維(海藻、果物など)と不溶性食物繊維(野菜、穀類など)をバランス良く摂取することを意識してください。
  • 十分な水分摂取
    • 水分をしっかり摂ることは、腸の健康にとって非常に重要です。
    • 体内の水分が不足すると、便が硬くなり、便秘を引き起こしやすくなります。
    • 便秘は腸の動きを妨げ、腸閉塞のリスクを高める要因の一つです。
    • 一日を通して、こまめに水分補給をしてください。特に起床時の一杯の水は、腸の目覚めを促す効果が期待できます。
  • 適度な運動
    • 軽いウォーキングやストレッチ、ヨガなど、適度な運動は腸のぜん動運動(内容物を先に送る動き)を促し、便秘の予防にもつながります。
    • 運動は、血行を良くし、全身の代謝を高める効果もあります。
    • 無理のない範囲で、毎日少しずつでも体を動かす習慣をつけましょう。
  • 規則正しい生活リズム
    • 決まった時間に食事を摂り、十分な睡眠時間を確保するなど、規則正しい生活は自律神経のバランスを整えます。
    • 自律神経は腸の働きにも深く関わっており、そのバランスが乱れると腸の動きが悪くなることがあります。
    • 規則正しい生活は、腸の働きを安定させ、消化吸収をスムーズに保つ上で非常に重要です。
  • ストレス管理
    • 現代社会では避けられないストレスですが、過度なストレスは腸の動きに悪影響を及ぼすことが知られています。
    • ストレスによって、便秘や下痢、腹痛などの症状が現れることも少なくありません。
    • 趣味の時間を作ったり、リラックスできる方法(深呼吸、瞑想、入浴など)を見つけたりして、上手にストレスを解消しましょう。
  • 定期的な健康診断と消化器専門医への相談
    • 消化器系の異常を早期に発見するためにも、定期的に健康診断を受けることは非常に大切です。
    • 特に、過去に腹部の手術歴がある方や、慢性的にお腹の不調(便秘、腹痛、膨満感など)を感じやすい方は、かかりつけのクリニックで相談してください。
    • 当院のような消化器内科では、胃カメラや大腸カメラといった内視鏡検査を通じて、腸管の状態を直接確認し、病気の早期発見・早期治療に努めています。
    • 「少しおかしいな」と感じたら、一人で悩まずに、ぜひ一度ご相談ください。早期の対応が、重症化を防ぐ第一歩となります。

これらの習慣を日々の生活に取り入れることで、腸の健康を守り、お餅による腸閉塞だけでなく、様々な消化器系のトラブルの予防に役立てることができます。皆さんの健康で充実した毎日をサポートできるよう、私たち医師も全力を尽くします。

腸閉塞が疑われる症状が出たら?検査と治療、受診の目安

おもちを食べてからお腹の調子が悪くなり、「もしや腸閉塞かもしれない」と不安に感じていらっしゃるかもしれませんね。ご自身や大切なご家族の身体に異変がある時、どうすれば良いのか、どこへ相談すれば良いのか分からず、心細く感じるのは当然のことです。腸閉塞は早期の発見と適切な処置が非常に重要になります。ここで、万が一の時に落ち着いて行動できるよう、腸閉塞が疑われる場合の対処法や、どのような検査・治療があるのか、そしていつ医療機関を受診すべきかについて詳しく解説していきます。安心して日々の生活を送るためにも、ぜひ参考にしてください。

腸閉塞が疑われる緊急時の応急処置と避けるべきこと

おもちを食べた後に強いお腹の痛みや吐き気、お腹の張りなどの症状が出た場合、腸閉塞の可能性を考えて慎重に行動することが大切です。特に、**おもちを食べてから1日以内に急激な強い間欠痛(かんけつづう、痛みが波のように強くなったり弱くなったりすること)**がある場合は、腸閉塞を疑う重要なサインです。このような緊急時の応急処置として、まず落ち着いて以下の点に注意してください。

  • 何も食べず、飲まずにいること(絶飲食)
    • 腸閉塞が起きている可能性がある場合、食べ物や飲み物を摂取すると、
    • 閉塞している腸管にさらに負担をかけ、症状を悪化させる恐れがあります。
    • 脱水を防ぐために水分を摂りたくなるかもしれませんが、自己判断での摂取は避け、
    • 必ず医療機関での指示を待つようにしてください。
    • 腸管をこれ以上刺激しないことが非常に重要です。
  • 市販の痛み止めや下剤を服用しないこと
    • 市販の痛み止めの中には、腸の動きを抑える成分が含まれているものがあり、
    • かえって腸閉塞の症状を悪化させることがあります。
    • また、下剤を服用すると、閉塞している腸管に無理な動きを強いることになり、
    • 腸の損傷や穿孔(穴が開くこと)のリスクを高める可能性があります。
    • 自己判断での服薬は絶対に避けてください。
  • 自己判断でお腹を温めたり、マッサージをしたりしないこと
    • お腹を温めると痛みが一時的に和らぐこともありますが、
    • 腸閉塞の原因や状態によっては、温めることが症状を悪化させる可能性もあります。
    • 例えば、炎症を起こしている部位を温めると、炎症が広がることも考えられます。
    • また、お腹を強くマッサージすると、閉塞している部分に圧力をかけ、
    • 腸管が破れてしまうなど、危険を伴うことがあります。
  • すぐに医療機関を受診すること
    • お腹の強い痛み、繰り返し起こる嘔吐、お腹の張り、
    • おならや便が何時間も出ないといった症状がある場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。
    • 特に、これらの症状が急激に現れた場合は、緊急性が高いと考えられます。
    • 症状が悪化する前に、早めに消化器専門医の診察を受けることが何よりも大切です。

腸閉塞の診断に必要な検査と専門医の重要性

腸閉塞の診断には、患者さんの症状を詳しくお聞きする問診と、いくつかの検査が組み合わせて行われます。正確な診断のためには、消化器内科を専門とする医師の診察が非常に重要です。私たち消化器内科医は、患者さんの訴えやお腹の状態から、病態を推測し、適切な検査を選択します。

  • 問診と身体診察
    • いつからどのような症状があるのか、おもちを食べたかどうか、
    • 過去の手術歴や他の病気の有無など、詳しくお聞きします。
    • お腹を触って圧痛の有無やお腹の張り具合、腸の動きなどを確認します。
    • この段階で、腹膜刺激徴候(お腹に触れた時に強い痛みを感じるサイン)や、腹水(お腹に水が溜まること)の有無なども確認し、重症度を判断します。
  • 血液検査
    • 体内で炎症が起きているかを示す炎症反応の有無や、
    • 脱水の程度、電解質(ナトリウムやカリウムなど)のバランスなどを確認します。
    • これらの数値は、腸閉塞の重症度や全身の状態を把握する上で非常に重要な情報となります。
  • X線検査(レントゲン)
    • お腹全体のレントゲン写真を撮ることで、拡張した腸管や、
    • ガスと液体の境界を示す「ニボー(niveau)」という所見を確認することができます。
    • ニボーは、腸が詰まって内容物が停滞していることを示唆する典型的な所見です。
    • これにより、腸閉塞の有無や、閉塞部位の目安をつけます。
  • CT検査
    • CT検査は、腸閉塞の診断において非常に重要な検査です。
    • X線検査よりも詳細に腸の状態を画像で確認でき、
    • 閉塞部位や原因、腸管の血流状態などを詳しく把握することができます。
    • 特に、餅による食餌性イレウス(餅が原因の腸閉塞)の場合、
    • CT検査では下部小腸に概ね130HU(ハウンスフィールド値)程度の高吸収構造物として餅が描出されることが特徴的であると報告されています。
    • この「130HU程度の高吸収構造物」とは、CT画像上で水よりも少し硬く、
    • 均一な白い塊として見えることを意味します。
    • この特徴的な所見が、餅による腸閉塞の診断の決め手となることも少なくありません。
  • 超音波検査(エコー)
    • 腹部に超音波を当てることで、腸管の拡張や腸管内の液体貯留、
    • 腹水の有無などをリアルタイムで確認することができます。
    • 患者さんの負担が少なく、ベッドサイドで繰り返し行えるため、
    • 病状の変化を把握する際にも有効な検査です。

これらの検査結果を総合的に判断し、消化器の専門知識を持つ医師が診断を行います。専門医は、腸閉塞の種類や重症度、合併症のリスクなどを正確に見極め、最適な治療方針を立てることが可能です。

餅による腸閉塞の主な治療法と治療期間

餅による腸閉塞は、その原因が餅という特殊なものであるため、比較的保存的な治療で改善することが多いとされています。しかし、腸管壊死(えし)や穿孔(せんこう)といった重篤な合併症のリスクも考慮し、慎重な経過観察と治療が必要です。私たち医師は、患者さんの状態を注意深く観察し、最も安全で効果的な治療法を選択します。

主な治療法は以下の通りです。

  1. 保存的治療(内科的治療)
    • 絶飲食と点滴治療
      • 腸管を完全に休ませ、これ以上食べ物やガスが溜まらないようにするために、
      • 食事や水分は一切摂らず、点滴で栄養や水分を補給します。
      • 脱水状態を改善し、電解質のバランスを整えることも目的です。
    • 経鼻胃管による減圧
      • 鼻から胃、または十二指腸まで細い管を挿入し、
      • 閉塞によって溜まった消化液やガスを吸引して、腸管の圧力を下げる治療です。
      • これにより、お腹の張りや吐き気を軽減し、腸管のむくみを改善させます。
      • 報告によると、餅による食餌性イレウスの症例では、
      • 絶食・補液や経鼻胃管による減圧といった保存的治療のみで軽快し、
      • 外科的処置を要さなかったケースが多いとされています。
      • このことからも、保存的治療が餅による腸閉塞の治療において非常に有効であることがわかります。
  2. 外科的治療
    • 保存的治療で改善が見られない場合や、腸管の血流が悪くなり壊死の危険がある場合、
    • 腸に穴が開いてしまった場合(穿孔)など、緊急性が高いと判断された場合は、手術が必要となることがあります。
    • 手術では、閉塞の原因となっている餅を取り除いたり、壊死した腸管を切除したりします。
    • 餅による腸閉塞は保存的治療で軽快することが多いものの、
    • 腸管壊死や穿孔といった生命に関わるリスクがあるため、
    • 常に慎重な経過観察が必要です。

治療期間について

  • 保存的治療で改善が見られる場合、数日から1週間程度で症状が落ち着き、
  • 徐々に食事を開始できるようになることが多いです。
  • しかし、患者さんの状態や閉塞の程度によっては、さらに治療期間が長引くこともあります。
  • 外科的治療が必要となった場合は、手術後の回復期間を含め、
  • 入院期間が数週間から1ヶ月以上になることも考えられます。
  • 治療期間中は、医師や看護師と密に連携を取り、指示に従って治療を進めることが非常に大切です。

腸閉塞の合併症と繰り返さないためのアフターケア

腸閉塞は、適切な治療を受ければ回復に向かうことが多い病気ですが、放置したり治療が遅れたりすると、いくつかの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。また、一度腸閉塞を経験すると、再発のリスクもあるため、退院後のアフターケアが非常に重要になります。当院では、患者さんが安全で健康な生活を継続できるよう、きめ細やかなサポートを心がけています。

腸閉塞の主な合併症

  • 腸管壊死(ちょうかんえし)
    • 腸閉塞によって腸管への血流が途絶えると、腸の組織が死んでしまうことがあります。
    • これは非常に危険な状態で、緊急手術が必要です。
    • 壊死した腸管は、機能を失うだけでなく、全身に重篤な影響を及ぼします。
  • 腸管穿孔(ちょうかんせんこう)
    • 腸管壊死が進行したり、閉塞により腸管内圧が極度に高まったりすると、
    • 腸に穴が開いてしまうことがあります。
    • 腸の内容物が腹腔内(お腹の中の空間)に漏れ出し、
    • 腹膜炎を引き起こすため、命に関わる緊急事態となります。
  • 腹膜炎(ふくまくえん)
    • 腸管穿孔などによって、お腹の中全体に炎症が広がる状態です。
    • 強い腹痛や発熱、ショック症状などを伴い、重篤な状態に陥ることがあります。
    • 迅速な処置がなければ、全身状態がさらに悪化する可能性があります。
  • 敗血症(はいけつしょう)
    • 腸管から細菌が血液中に入り込み、全身に感染が広がる状態です。
    • 多臓器不全を引き起こし、生命の危険がある非常に重篤な状態です。
    • 早期の診断と治療が、これらの合併症を防ぐ上で何よりも重要です。

繰り返さないためのアフターケア

腸閉塞の再発を防ぐためには、退院後も以下の点に注意し、継続的なケアを行うことが大切です。特に、過去に腸閉塞を経験された方は、より一層の注意が必要です。

  • 食事内容の工夫
    • 消化しにくい食べ物、特に繊維質の多い野菜やきのこ類、こんにゃく、海藻類、
    • そして餅などは、少量ずつよく噛んで食べるようにしましょう。
    • 食材を細かく刻んだり、柔らかく煮込んだりする工夫も再発予防に有効です。
    • 冷めた餅は粘着性が増し硬くなるため、必ず温かい状態で食べてください。
  • よく噛んでゆっくり食べる
    • 早食いは避け、一口30回を目標によく噛んで、ゆっくりと食事を摂る習慣をつけましょう。
    • 食べ物を十分に細かくすることで、腸への負担を減らすことができます。
  • 規則正しい排便習慣
    • 便秘は腸閉塞の引き金となることがあります。
    • 水分を十分に摂り、適度な運動を心がけ、必要に応じて医師の指導のもとで
    • 緩下剤などを利用し、便秘を解消しましょう。
    • 排便を我慢しないことも大切です。
  • 適度な運動
    • 軽い運動は腸の動きを活発にし、消化を助けます。
    • 散歩など、無理のない範囲で日常的に体を動かしましょう。
    • 体を動かすことで血行が促進され、腸の健康維持につながります。
  • 定期的な健康チェック
    • 腸の不調を感じたら、自己判断せずに早めに医療機関を受診し、
    • 定期的に検診を受けることで、早期発見・早期治療につなげることができます。
    • 特に腹部手術歴のある方は、腸の癒着(ゆちゃく)が再発の原因となることもあるため、
    • 定期的な診察で腸の状態を確認することが大切です。
  • かかりつけ医との連携
    • 腸閉塞の既往がある場合は、かかりつけ医にその旨を伝え、
    • 日頃から腸の健康について相談できる関係を築いておくことが安心につながります。
    • 私たち医師は、患者さんの再発予防を全力でサポートいたします。

まとめ

おもちによる腸閉塞は、消化されにくいおもちが原因で起こります。特に年末年始は要注意。高齢者、歯が弱い、早食い、腹部手術歴のある方はリスクが高いです。

おもちを安全に楽しむには、小さく切ってよく噛み、温かいうちに水分と一緒に摂るなどの工夫が大切です。もし強い腹痛や吐き気、お腹の張りを感じたら、自己判断せずにすぐに専門医を受診してくださいね。

早期診断と治療が重症化を防ぐ鍵。日頃から腸の健康を守り、健やかに過ごしましょう。

参考文献

野村栄樹, 松本諒太郎, 平塚敬士, 大山秀晃, 尾形洋平, 矢野恒太, 鈴木範明, 長太, 川村昌司, 境吉孝, 菊地達也. 餅による食餌性イレウス 6 例の臨床的検討.