ピロリ菌は人にうつりますか?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
ピロリ菌という名前を聞いたことはありますか?実は、多くの日本人のが感染している、とても身近な存在です。しかし、多くの人はピロリ菌に感染していても自覚症状がないため、その存在に気づかないまま過ごしています。
ピロリ菌は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、さらには胃がんのリスクを高めることが知られています。特に、幼い子供は大人よりも感染しやすく、家族間での感染も多いとされています。
今回は、ピロリ菌がどのように感染するのか、感染による症状や影響、そして検査方法や治療法について詳しく解説していきます。ピロリ菌に関する正しい知識を身につけ、健康的な生活を送るためのヒントを見つけましょう。
ピロリ菌の感染経路と感染のリスク
「ピロリ菌」って、なんだか悪者のような名前の菌ですよね。実はこれ、正式名称を「ヘリコバクター・ピロリ」といい、私たちの胃の中に住み着くことがある細菌なんです。顕微鏡で見ると、まるでプロペラのように回転しながら胃の粘膜に潜り込んでいく姿から、この名前がつきました。
このピロリ菌、日本では衛生環境の改善などにより昔に比べて感染率は低下しているものの、それでも多くの成人が感染していると言われています。そして実は、ピロリ菌を持っている人の多くは、自覚症状がないまま過ごしていることが多いのです。
一体どのようにして、このピロリ菌は私たちの体の中に入ってくるのでしょうか?
家族内感染の重要性
ピロリ菌の感染経路で最も多いと考えられているのが、家族間、特に親から子への感染です。幼少期、特に5歳までに感染することが多く、これは、衛生状態や生活習慣が家族間で似ていることが関係していると考えられています。
例えば、同じ箸やコップを使ったり、食べ物を口移ししたりすることで、菌が容易に口から口へ、と移ってしまうのです。
私自身も、幼い頃に両親と同じ箸を使っていたことを記憶しています。当時はそれが当たり前でしたが、今考えると、それがピロリ菌感染のリスクを高めていた可能性があります。
特に、幼い子供は免疫力が未発達なため、大人よりも感染しやすく、注意が必要です。大人になってからではピロリ菌に対する免疫ができてしまい、感染しにくくなるというデータもあります。
食品や水を介した感染の可能性
ピロリ菌は、食べ物や水を介して、口から感染することもあります。十分に洗浄・消毒されていない食器や調理器具を使用したり、衛生管理が不十分な環境で調理された食品を摂取したりすることで、感染するリスクが高まります。
特に、生水や加熱が不十分な肉や魚介類には注意が必要です。また、井戸水や湧き水など、消毒されていない水を飲む習慣がある場合も、感染源となる可能性があります。ピロリ菌は、乾燥にも比較的強く、乾燥した状態でも、しばらくの間は生存することができるため、食品の取り扱いには注意が必要です。
海外旅行先などで、衛生状態が心配な場合には、生水や生野菜を避ける、火が通っていない料理は食べないなど、注意が必要です。
ピロリ菌感染による主な症状と影響
ピロリ菌は、とても身近な菌です。感染しても自覚症状がない場合が多く、知らないうちに胃にダメージを与え続けていることも少なくありません。
症状がないからといって安心はできません。ピロリ菌は、長い年月をかけて、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、さらには胃がんといった深刻な病気を引き起こすリスクを高める可能性があります。
早期発見・早期治療のためにも、ピロリ菌感染による代表的な症状について、具体的に見ていきましょう。
胃痛や不快感の詳細
「胃が痛い」と感じるとき、あなたは具体的にどんな痛みを感じますか?
ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に炎症が起こり、様々なタイプの胃痛や不快感が現れます。
例えば、
- 食後数時間すると、みぞおちのあたりが、キリキリと締め付けられるような痛みを感じる
- 空腹時に、胃がキュッと痛む、あるいは、胸のあたりが焼けるような感覚がある
- 胃がムカムカして、吐き気がする
といった症状がみられます。
これらの症状は、胃酸の分泌や胃の運動にも影響を与えるため、症状の出方や時間帯は人によって様々です。
毎日決まったように症状が出る方もいれば、数週間おきに症状が繰り返し現れる方もいらっしゃいます。
消化不良や吐き気の症状
ピロリ菌は、胃の粘膜を傷つけるだけでなく、胃の働きそのものを弱らせてしまうことがあります。
そのため、
- 食後に胃がもたれる
- 胃が張って苦しい
- 吐き気がする
- げっぷがよく出る
といった消化不良の症状に悩まされることがあります。
これらの症状は、日常生活で頻繁に経験するようなありふれたものと似ているため、見過ごしてしまう方も少なくありません。
しかし、「いつもとは何かが違う」「最近、胃の調子がおかしい」と感じたら、自己判断せずに、医療機関を受診することをお勧めします。
長期的な健康への影響
ピロリ菌感染は、自覚症状がないまま放置してしまうことで、胃がんのリスクを高める可能性があります。
ピロリ菌に感染している人は、そうでない人に比べて、胃がんのリスクが数倍高くなるという研究結果も報告されています。
ピロリ菌は、胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、その炎症が長期間続くことで、胃の細胞ががん化しやすくなると考えられています。
ピロリ菌感染による胃がんの発症リスクは、感染期間や生活習慣、遺伝的要因など、様々な要素が複雑に関係しているため、一概には言えません。
しかし、ピロリ菌を除菌することで、胃がんのリスクを減らせる可能性があることは、多くの研究で示唆されています。
ピロリ菌は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性胃炎といった病気のリスクを高めることも知られています。
これらの病気は、胃や十二指腸の粘膜に傷ができ、強い痛みや吐血、貧血などを引き起こすことがあります。
ピロリ菌感染は、早期発見・早期治療によって、重症化を防ぐことが期待できます。
ピロリ菌の検査と治療方法
ピロリ菌の検査や治療ってどんなものだろう?と不安に思っていませんか?ここでは、ピロリ菌の検査方法と治療法について、詳しく解説していきます。検査と治療法について理解を深め、少しでも不安を解消していきましょう。
治療法の選択肢と期間
ピロリ菌の治療は、除菌を目的とした薬物療法が一般的です。ピロリ菌の除菌治療は、1週間、決められた薬を服用します。
ピロリ菌の治療には、主に「プロトンポンプ阻害薬」と呼ばれる胃酸を抑える薬と、2種類の抗生物質を組み合わせて服用します。
薬の種類 | 効果 |
---|---|
プロトンポンプ阻害薬 | 胃酸の分泌を抑え、胃粘膜を保護する |
アモキシシリンなどの抗生物質 | ピロリ菌を殺菌する効果 |
クラリスロマイシンなどの抗生物質 | アモキシシリンと一緒に使うことで、より効果的にピロリ菌を殺菌する効果 |
この薬物療法により、多くの場合、ピロリ菌の除菌に成功します。除菌治療が成功したかどうかを確認するために、治療終了後、約2か月後以降に、尿素呼気試験などを行います。
副作用と治療後の注意点
ピロリ菌の治療薬には、下痢や軟便、吐き気、味覚異常などの副作用が現れる可能性があります。副作用の程度には個人差があり、全く副作用が出ない人もいれば、強い副作用が出てしまう人もいます。副作用が強く出てしまう場合は、自己判断せずに必ず医師に相談するようにしましょう。また、ごく稀ではありますが、薬によるアレルギー反応が出る可能性もあります。薬を服用した後、皮膚に発疹が出たり、かゆみを感じたり、息苦しさを感じたりするなどの症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。
また、治療後も再感染のリスクを減らすために、バランスの取れた食事や十分な睡眠、適度な運動を心がけ、規則正しい生活を送りましょう。また、ピロリ菌は、唾液などを介して、口から感染する可能性があるため、家族間で同じ箸やコップを使うことは避け、食器はしっかり洗浄・消毒するようにしましょう。
まとめ
ピロリ菌は、日本人に身近な細菌です。主に家族間、特に親から子への感染が最も多いと考えられています。感染経路としては、同じ箸やコップの使用、食べ物の口移しなどが挙げられます。その他、食品や水を介した感染、口腔内からの感染の可能性もあります。ピロリ菌は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんといった深刻な病気を引き起こすリスクを高める可能性があります。症状としては、胃痛、不快感、消化不良、吐き気などがあります。早期発見・早期治療のためにも、ピロリ菌の検査を受け、必要であれば除菌治療を行うことが重要です。
参考文献
- Epidemiology of Helicobacter pylori infection.