放置してもよいの?健診で指摘される肝のう胞とは?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

健康診断で腹部エコー検査(超音波検査)を行うと、肝のう胞と記載された結果を受けとったことがある方もいらっしゃると思います。

コメントの欄には特に精密検査などは書かれておらず、本当にいいの?と不安になった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回はこの肝のう胞について説明したいと思います。

肝のう胞の定義

肝臓は、私たちのお腹の右上にある、体の中で一番大きな臓器です。たくさんの働き者で、食べ物の消化を助ける胆汁を作ったり、体に有害な物質を分解したり、毎日休むことなく働いています。

この働き者の肝臓の中に、たまに水風船のようなものができることがあります。これが「肝のう胞」です。肝臓を働き者のアリの巣に例えるなら、肝のう胞は巣の中にある小さな水たまりみたいなものです。水たまりがあっても、アリたちは普段通りに働くことができますよね?

肝のう胞も、ほとんどの場合、肝臓の働きを邪魔することはありません。そのため、自覚症状がないまま過ごしている方がほとんどで、健康診断のエコー検査で偶然見つかることが多いのです。

肝のう胞の原因とリスクファクター

では、なぜ肝臓に水風船のようなものができてしまうのでしょうか? 実は、その原因はまだはっきりとは解明されていません。

生まれたときから肝臓に小さな水ぶくれのようなものを持っている場合もあれば、年齢を重ねるにつれて肝臓の組織が変化し、後天的にできる場合もあると考えられています。

例えば、年齢を重ねると、血管が硬くなったり、皮膚にシミができたりすることがありますよね? これは、長年使い続けてきた体が、少しずつ変化していくからです。肝臓も、他の臓器と同じように、年齢を重ねるにつれて変化していきます。その過程で、肝臓の組織にわずかな変化が生じ、水風船のようなものができてしまうことがあると考えられています。

肝のう胞は、40代以降の方に多く見られ、特に女性に多い傾向があります。また、家族に肝のう胞の方がいる場合も、肝のう胞ができやすいと言われています。

肝のう胞のメカニズムと発症に関する研究最新動向

肝のう胞がどのようにしてできるのか、そのメカニズムは、現在も研究が進められています。

最近の研究では、肝臓の中の細胞に注目が集まっています。私たちの体は、たくさんの細胞が集まってできています。肝臓も、肝細胞と呼ばれる細胞が集まってできています。

何らかの原因で、この肝細胞の一部が増殖し始め、周りの組織を巻き込みながら水風船のように膨らんでいくことで、肝のう胞が形成されるのではないかと考えられています。

また、遺伝的な要因や、食生活などの生活習慣との関連性についても研究が進められています。

症状の有無や重症度による分類

肝のう胞は、その大きさや症状によって、大きく3つに分類されます。

  1. 無症状の肝のう胞: これは最も一般的なタイプで、健康診断で「肝臓に影がある」と指摘されて初めて発見されることが多いです。小さな水風船のようなもので、周りの臓器を圧迫するほどの大きさではないため、自覚症状はほぼありません。
  2. 症状のある肝のう胞: 肝のう胞が大きくなってくると、周囲の臓器を圧迫し始めます。大きくなりすぎた肝のう胞は胃や腸などを圧迫し、お腹の張りや痛み、吐き気などの症状を引き起こします。
  3. 多発性肝のう胞: これは、肝臓に多数ののう胞ができる病気で、遺伝が関係している場合があります。小さな水風船がたくさんできるイメージです。無症状のこともありますが、肝臓全体を圧迫し、機能低下を引き起こす可能性があります。
分類大きさ症状の有無治療の必要性
無症状の肝のう胞小さい少ない無し経過観察
症状のある肝のう胞大きい少ないあり治療が必要な場合あり
多発性肝のう胞小さい~大きい多い無し~あり治療が必要な場合あり

肝のう胞の一般的な症状と身体症状

ほとんどの肝のう胞は、ゆっくりと大きくなるか、あるいは全く大きさが変わらないままです。

しかし、まれに急激に大きくなることがあり、その場合には注意が必要です。

肝のう胞が大きくなると、周囲の臓器を圧迫し、以下のような症状が現れることがあります。

  • 右側の上腹部痛:ちょうど肝臓があるあたりに、鈍い痛みや違和感を感じることがあります。これは、肝のう胞が大きくなって、肝臓の表面を引っ張るために起こると考えられます。
  • 腹部膨満感:お腹が張って苦しいと感じるようになります。これは、肝のう胞が大きくなって、胃や腸などの消化器官を圧迫するために起こると考えられます。
  • 吐き気:吐き気がする、または実際に吐いてしまうことがあります。これは、肝のう胞が大きくなって、胃を圧迫したり、消化機能を低下させたりするために起こると考えられます。
  • 食欲不振:食欲がなくなり、食事量が減ってしまうことがあります。これは、肝のう胞が大きくなって、胃を圧迫したり、消化吸収を悪くしたりするために起こると考えられます。

注意すべき合併症

肝のう胞は基本的に良性の病気ですが、まれに以下のような合併症を起こすことがあります。

  • 肝のう胞内出血:肝のう胞の中に血液が溜まってしまうことがあります。これは、肝のう胞が大きくなって、血管を圧迫したり、損傷したりするために起こると考えられています。肝のう胞内出血が起こると、突然の腹痛や発熱などの症状が現れることがあります。
  • 肝のう胞感染症:肝のう胞の中に細菌が入り込んで、炎症を起こすことがあります。これは、胆管と肝のう胞がつながっている場合に、胆管内の細菌が入り込んでしまうことで起こると考えられています。肝のう胞感染症が起こると、高熱や腹痛、吐き気などの症状が現れることがあります。
  • 肝のう胞破裂:肝のう胞が破裂してしまうことがあります。これは、肝のう胞が大きくなって、周囲の臓器との摩擦が増加したり、外部からの衝撃を受けたりすることで起こると考えられています。肝のう胞破裂が起こると、激しい腹痛や出血、ショック状態に陥ることがあります。

これらの合併症は、適切な治療を行えば、多くの場合、改善します。

肝のう胞の検査として行われるエコー検査の詳細

肝のう胞の検査で最初に登場するのが、エコー検査です。エコー検査は、妊婦さんの検査にも使われるように、身体に負担の少ない検査なのでご安心ください。お腹にゼリーを塗って、プローブと呼ばれる機械を当てていきます。

肝のう胞のエコー検査では、次のようなことがわかります。

  • 肝臓内に液体が溜まっているかどうか
  • 肝のう胞の大きさ、数、形、そして位置
  • 肝のう胞が他の臓器に影響を与えているかどうか

肝のう胞の診断における血液検査の役割

血液検査は、肝臓からのSOSをキャッチする役割を担います。肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、多少のダメージでは自覚症状が出にくい特徴があります。そこで、血液検査によって肝臓の働きをチェックし、肝のう胞が原因で肝臓に炎症や損傷が起きていないかを確認します。

例えば、肝臓が疲れているときに出すサインとなる「AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)」や「ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)」といった酵素の数値を測定します。これらの数値が高い場合は、肝臓に炎症が起きている可能性があります。

ただし、血液検査はあくまでも肝臓からのメッセージを受け取る手段の一つに過ぎません。血液検査だけで肝のう胞と確定診断することはできません。他の検査結果と組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。

肝のう胞の治療法と選択肢

健診で「肝のう胞がありますね」と指摘されても、多くの場合は心配ありません。肝のう胞は、肝臓の中にできる水風船のようなもので、ほとんどが良性で、治療の必要がないからです。

しかし、中には、水風船が大きくなってしまい、周りの臓器を圧迫したり、痛みなどの症状が出たりする場合があります。このような場合は、治療が必要になります。

肝のう胞の治療が必要かどうかは、患者さんの年齢や健康状態、嚢胞の大きさや数、症状の有無などを総合的に判断します。

例えば、症状がない小さな肝のう胞であれば、経過観察を選択します。これは、定期的に検査を行いながら、嚢胞が大きくなっていないか、症状が出ていないかを確認する方法です。

一方、症状が出ている場合や、嚢胞が大きくて周りの臓器を圧迫している場合は、治療が必要になります。治療法には、主に以下の3つの方法があります。

  1. 薬物療法: 痛みや炎症を抑える薬を使用します。
  2. 穿刺吸引硬化療法: 嚢胞に針を刺して中の液体を抜いた後、再び膨らまないように、硬化剤という薬を注入します。
  3. 外科的治療: 手術で嚢胞を切除します。

それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあります。例えば、薬物療法は身体への負担が軽い一方、嚢胞自体をなくすことはできません。外科的治療は嚢胞を確実に取り除けますが、身体への負担が大きくなります。

治療法の目的と手法の比較

治療法目的手法メリットデメリット
経過観察嚢胞の変化を観察する定期的な画像検査(エコー、CT、MRIなど)身体への負担が少ない嚢胞が大きくなる可能性がある
薬物療法痛みや炎症を抑える痛み止め、炎症を抑える薬身体への負担が少ない嚢胞自体をなくすことはできない
穿刺吸引硬化療法嚢胞を小さくする針を刺して液体を抜き、硬化剤を注入比較的身体への負担が少ない再発の可能性がある
外科的治療嚢胞を切除する開腹手術または腹腔鏡手術嚢胞を確実に取り除ける身体への負担が大きい

抗生物質や炎症抑制薬の使用方法と効果

肝のう胞は細菌感染によって起こるわけではないので、抗生物質は効果がありません。しかし、嚢胞が炎症を起こして痛みがある場合は、炎症を抑える薬を使用することがあります。

外科的治療や穿刺吸引硬化療法の適用条件と成功率

外科的治療や穿刺吸引硬化療法は、嚢胞が大きく症状が出ている場合や、周りの臓器を圧迫している場合に検討されます。

穿刺吸引硬化療法は、比較的低侵襲な治療法で、成功率は70~90%と報告されています。これは、100人中70~90人は、この治療法によって症状が改善することを意味します。しかし、嚢胞が大きい場合や複数ある場合は、複数回の治療が必要になることがあります。

外科的治療は、穿刺吸引硬化療法が成功しない場合や、嚢胞が非常に大きい場合に検討されます。外科的治療の成功率は高く、ほとんどの場合、嚢胞は再発しません。

肝のう胞の治療法は、患者さんの状態や希望に合わせて選択されます。治療法について不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。

肝のう胞の予防法と経過観察

肝のう胞と診断された場合、多くは経過観察となります。これは、肝のう胞自体が体に悪い影響を与えることはほとんどないからです。

しかし、「経過観察」と一言で言っても、具体的に何をすればいいのか、不安に思う方もいるかもしれません。

そこで、ここでは肝のう胞の予防法や経過観察について、詳しく解説していきます。

肝のう胞の予防法は

残念ながら、肝のう胞を予防するための効果的な方法は、現在のところ確立されていません。

肝のう胞は、遺伝的な要因や、加齢に伴う変化などが原因で発生すると考えられており、生活習慣を改善することで予防できるわけではありません。

肝のう胞の経過観察の頻度と評価方法

肝のう胞の経過観察では、主にエコー検査を用いて、その大きさを定期的にチェックします。

肝のう胞は小さいうちは特に問題ありませんが、大きくなってくると、周囲の臓器を圧迫し、様々な症状を引き起こす可能性があります。

そのため、定期的にエコー検査を行うことで、肝のう胞が大きくなっていないか、変化がないかを確認する必要があるのです。

経過観察の頻度は、肝のう胞の大きさや症状、患者さんの年齢や健康状態によって異なります。

例えば、20代の若年者で、小さな肝のう胞(3cm以下)があり、自覚症状が全くない場合は、1年に1回の検査で十分な場合が多いです。

一方、70代の高齢者で、やや大きな肝のう胞(5cm程度)があり、軽度の腹部の張りを感じる場合、6ヶ月に1回の検査を行うことが多いです。

さらに、肝のう胞が10cmを超えるような大きなものであれば、3ヶ月に1回、あるいはそれ以上の頻度で検査を行うこともあります。

大きさ症状の有無検査頻度
小さい無し6ヶ月~1年に1回
やや大きい無し3ヶ月~6ヶ月に1回
大きいあり1ヶ月~3ヶ月に1回

このように、肝のう胞の経過観察の頻度は、患者さん一人ひとりの状況に合わせて、医師が適切に判断します。

当院でも、毎日腹部超音波検査を院内で行っていますのでお気軽にお声掛けください。

参考文献