朝や食後の吐き気は逆流性食道炎のサイン?特徴と対処法を解説

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。朝起きた時の不快な吐き気や、食事の後に込み上げるような胸焼けで、毎日が台無しになっていませんか?もしかしたら、それは「逆流性食道炎」という病気のサインかもしれません。

胃酸が食道に逆流して炎症を起こすこの病気は、胸の不快感だけでなく、喉の違和感や長引く咳、さらには睡眠の質に影響を与えることも。見過ごされがちな多様な症状の裏には、重症化や食道がんといった深刻なリスクが潜んでいます。

この記事では、逆流性食道炎の隠れた特徴から、適切な治療法、そして日常生活で実践できる効果的な対処法までを詳しくご紹介。つらい症状を改善し、快適な毎日を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。

吐き気や胸焼けはサイン?逆流性食道炎の主な特徴3つ

朝起きた時に感じる不快な吐き気や、食事の後に込み上げるような胸焼けは、一日の始まりや食後の時間を台無しにしてしまう、とてもつらい症状ですね。もしかしたら、それは「逆流性食道炎」という病気のサインかもしれません。当院を受診される患者さんの中には、こうした症状で長年お悩みの方も少なくありません。この病気は、胃酸が食道に逆流することで食道に炎症が起こり、吐き気や胸焼けだけでなく、日常生活に影響を及ぼすさまざまな不調を引き起こします。よくある症状の裏に隠されたメカニズムや、見過ごされがちな意外なサインについて、詳しく見ていきましょう。

朝や食後の吐き気が起こるメカニズム

朝や食後に感じる吐き気は、胃酸の逆流が原因で起こることが多く、逆流性食道炎の代表的な症状の一つです。私たちの体では、胃と食道の間に「下部食道括約筋」という筋肉がバリアのように機能しています。この筋肉は、食べ物が胃に入った後にしっかりと締め付けられ、胃酸が食道へ逆流するのを防いでいます。しかし、何らかの原因でこの筋肉の働きが弱くなったり、胃酸の分泌が過剰になったりすると、胃の内容物とともに強力な胃酸が食道へと逆流しやすくなります。

特に食後は、消化のために胃酸が多く分泌され、胃の内容量も増えるため、逆流が起こりやすい時間帯です。また、夜間に横になっている間は重力の影響が少なくなるため、胃酸が逆流しやすくなります。逆流した胃酸は、食道に長く留まりやすいため、朝目覚めた時に不快な吐き気や胸焼けを感じることがあるのです。食道は胃酸に対する防御機能が胃に比べて弱いため、逆流が続くと粘膜が炎症を起こし、吐き気や不快感といった症状につながります。

胸焼け・胃もたれ以外の典型的な症状

逆流性食道炎の症状は、単に胸焼けや胃もたれだけではありません。喉の違和感や咳など、一見すると消化器とは関係ないように思える多様な症状を引き起こすことがあります。当院を受診される患者さんの中にも、他の病気を疑って色々な医療機関を受診した後、逆流性食道炎だと診断されるケースも少なくありません。

逆流性食道炎で起こりやすい、胸焼けや胃もたれ以外の主な症状には、次のようなものがあります。

  • 喉の違和感や異物感
    • 逆流した胃酸が喉を刺激し、喉に物が詰まっているような感覚や、イガイガする不快感を感じることがあります。これは慢性的な咽喉頭炎として現れることがあります。
  • 慢性的な咳や喘息
    • 胃酸が気管支に刺激を与えたり、ごく少量ですが誤嚥してしまったりすることで、長引く咳や喘息のような症状が出ることがあります。特に夜間や食後に咳が悪化する場合は注意が必要です。
  • 非心原性胸痛(胸の痛み)
    • 心臓に異常がないにもかかわらず、胸の痛みを感じることがあります。食道の炎症やけいれんが原因であることが多く、心臓病と間違われることもあります。
  • 睡眠障害
    • 夜間に胃酸が逆流することで、咳き込んだり、胸焼けで目が覚めたりして、十分な睡眠がとれないことがあります。胃食道逆流症は睡眠の質に影響を与えることが知られており、両者の関連性については十分なエビデンスがあります。
  • 歯の酸蝕症
    • 胃酸が口腔内まで逆流してしまうと、歯のエナメル質が溶けてしまうことがあります。朝起きた時に口の中が酸っぱいと感じる場合は、この可能性も考えられます。

これらの症状がある場合は、逆流性食道炎の可能性を疑い、早めに消化器内科を受診することをおすすめします。他の病気と見分けがつきにくい症状も多いため、専門医による正確な診断が大切です。

逆流性食道炎の3つのタイプと食道裂孔ヘルニアの関係

逆流性食道炎(GERD)は、症状や食道の粘膜の状態によって大きく3つのタイプに分類されます。それぞれのタイプによって、病態や治療の目標が異なりますので、ご自身の状態を理解することが大切です。

  1. びらん性逆流性食道炎(軽症・重症)
    • 胃カメラ検査で食道の粘膜に炎症やただれ(びらん)がはっきりと確認できるタイプです。
    • 炎症の広がりや深さによって、軽症と重症に分けられます。
    • このタイプの治療の目標は、食道の炎症をしっかりと抑え、粘膜の傷を治すことにあります。
  2. 非びらん性逆流症(NERD:Non-Erosive Reflux Disease)
    • 胸焼けや吐き気といった逆流性食道炎特有の症状があるにもかかわらず、胃カメラ検査では食道粘膜に明らかな炎症やびらんが見られないタイプです。
    • 日本の逆流性食道炎患者さんの約6割を占めると言われており、とても身近な病気です。
    • NERDの病態は一つではなく、「異常な食道酸曝露」「逆流過敏性食道」「機能性胸やけ」といった多様な状態を含みます。
    • 特に食道の知覚過敏が症状に関係していると考えられており、わずかな胃酸の逆流でも症状を強く感じてしまうことがあります。
    • このタイプの治療の目標は、症状の改善と、患者さんの生活の質の向上です。

また、「食道裂孔ヘルニア」は、逆流性食道炎と密接に関係している病気の一つです。私たちの胃は、横隔膜という筋肉の膜にある「食道裂孔」という穴を通って、お腹の中に収まっています。食道裂孔ヘルニアとは、胃の一部がこの食道裂孔から胸の方へはみ出してしまう状態を指します。

この状態になると、胃の入り口にある下部食道括約筋が本来の位置からずれてしまい、締め付ける力が弱まってしまいます。その結果、胃酸が食道へ逆流しやすくなり、逆流性食道炎の症状が悪化したり、治療を受けても治りにくくなったりすることがあります。胃カメラ検査では、食道の粘膜の状態だけでなく、食道裂孔ヘルニアの有無も確認し、患者さん一人ひとりに合わせた治療方針を立てることが重要です。

逆流性食道炎の進行を防ぐ治療と生活習慣の5つの改善ポイント

朝や食後の吐き気、胸焼けといった症状は、一日の活動や食事の楽しみを大きく損ねてしまいますね。逆流性食道炎は、一度症状が現れると何度もぶり返しやすく、日常生活の質(QOL)を低下させてしまう病気です。しかし、ご自身の症状や体の状態を理解し、適切な治療と生活習慣の改善に取り組むことで、症状を効果的に和らげ、病気の進行を食い止めることができます。

私たち医療者は、患者さんのつらい症状を軽減し、快適な毎日を取り戻せるよう全力でサポートいたします。薬物療法と生活習慣の見直しは、逆流性食道炎の治療における両輪です。無理なく続けられる改善策を一緒に見つけていきましょう。

症状を和らげる薬物療法(PPI・P-CAB)

逆流性食道炎の治療では、食道への胃酸の刺激を減らすために、胃酸の分泌を抑えるお薬が中心となります。主な治療薬として、「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」と「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)」があります。これらの薬剤は、胃酸の分泌経路に作用することで、食道の炎症を鎮め、つらい症状を改善していきます。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)
    • 胃酸を分泌する細胞の「プロトンポンプ」という箇所に直接働きかけ、強力に胃酸の分泌を抑えるお薬です。
    • 長年にわたり、逆流性食道炎治療の標準的な薬剤として広く使用されてきました。
  • カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
    • PPIとは異なるメカニズムで、より速やかに、そして強力に胃酸分泌を抑制する新しいタイプのお薬です。
    • 特に食道の粘膜にただれや潰瘍がある重度の逆流性食道炎では、傷の治癒を目指し、P-CAB(ボノプラザンなど)が第一選択薬として推奨されることがあります。

どちらの薬剤も、患者さんの食道の状態や病気のタイプによって使い分けられます。例えば、胃カメラ検査で食道の粘膜に明らかな炎症やびらん(ただれ)が確認できる「びらん性逆流性食道炎」の場合は、粘膜の傷を治すことが治療の最も重要な目標となります。

一方、胸焼けや吐き気といった症状があるにもかかわらず、胃カメラ検査では食道に傷が見られない「非びらん性逆流症(NERD)」と呼ばれるタイプもあります。日本の逆流性食道炎患者さんの約6割がこのNERDであるとされており、その病態は一つではありません。胃酸が食道に過度に逆流する「異常な食道酸曝露」や、わずかな逆流でも強い症状を感じてしまう「逆流過敏性食道」、検査では異常が見られないのに胸焼けが起こる「機能性胸やけ」など、多様な状態を含んでいます。

特にNERDでは、食道の知覚過敏が深く関与していると考えられています。食道の細胞にある「TRPV1」という受容体の発現が増加することで、本来であれば気にならない程度の胃酸の刺激でも、つらい症状として感じてしまうことがあります。NERDや軽度のびらん性食道炎の場合、治療の目標は症状の軽減と、患者さんの生活の質の向上です。そのため、PPIを長期にわたって服用する際は、症状が安定していれば、必要最小限の量に調整することが推奨されています。

薬の効果が実感できるまでには、通常2週間程度の期間が必要です。自己判断で服薬を中断すると、症状が悪化したり再発したりする可能性があるため、必ず医師の指示に従い、根気強く服用を続けることが大切です。服用開始から1週間程度は、眠気や胃の不快感などの副作用を感じることがありますが、これらは徐々に軽減することがほとんどです。もし副作用が強く、つらいと感じる場合は、我慢せずに主治医へご相談ください。

食事や飲酒で気をつけたいこと

日々の食生活は、逆流性食道炎の症状に大きく影響を与えます。食事の内容や食べ方を少し工夫するだけで、胃酸の逆流を防ぎ、症状を和らげることが期待できます。ここでは、特に気をつけたいポイントをご紹介します。

避けるべき食べ物や飲み物

  • 脂肪分の多い食事
    • フライドポテト、揚げ物、ラーメン、肉の脂身などは、消化に時間がかかり、胃に長く留まります。
    • 胃もたれの原因となり、下部食道括約筋が緩みやすくなるため、胃酸の逆流を誘発しやすくなります。
  • 刺激の強い食品
    • 香辛料を多く使った辛い料理、酸味の強い柑橘類(レモン、オレンジなど)、酢の物などは、食道や胃の粘膜を直接刺激します。
    • すでに炎症がある場合は、さらに症状を悪化させる可能性があります。
  • チョコレートやミント
    • これらに含まれる成分は、食道と胃の境目にある下部食道括約筋を緩める作用があります。
    • バリア機能が低下し、胃酸が逆流しやすくなります。
  • カフェインを含む飲み物
    • コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどは、胃酸の分泌を促進したり、下部食道括約筋を緩めたりすることがあります。
    • 胃酸が増えたり、バリアが弱まったりすることで逆流のリスクが高まります。
  • アルコール
    • 特にビールやワインは、胃酸の分泌を促し、食道括約筋を緩める働きがあります。
    • 胃酸の量が増え、逆流が起こりやすくなるため、症状の悪化につながりやすいです。
  • 炭酸飲料
    • 胃の中でガスが発生し、胃が膨らむことで胃の内圧が高まります。
    • これにより、胃の内容物が食道へ押し上げられやすくなり、逆流を引き起こすことがあります。

食事の工夫と習慣

  • 食べ過ぎないこと
    • 一度に大量に食べると胃が大きく膨らみ、胃酸が逆流しやすくなります。
    • 腹八分目を心がけ、胃に負担をかけない量を意識しましょう。
  • ゆっくりよく噛んで食べる
    • 食事をゆっくりとよく噛むことで、唾液の分泌が促され、消化酵素の働きを助けます。
    • 胃への負担が軽減され、消化がスムーズに進むため、逆流のリスクを低減できます。
  • 食後すぐに横にならないこと
    • 食後すぐに横になると、重力の影響が少なくなるため、胃酸が食道へ逆流しやすくなります。
    • 可能であれば食後2~3時間は体を起こしておくようにしましょう。
  • 寝る直前の食事を避ける
    • 就寝前の食事は、胃の中に食べ物が残ったまま横になることになるため、逆流のリスクを高めます。
    • 就寝の3時間前までには食事を済ませるのが理想的です。

これらの食事のポイントを日々の生活に取り入れ、ご自身の症状と向き合うことが大切です。どんな食事が体に合うのか、合わないのかを観察しながら、無理なく継続できる方法を見つけていきましょう。

ストレスや姿勢が与える影響と改善策

逆流性食道炎の症状は、食事の内容だけでなく、日々のストレスや体の姿勢にも深く関係しています。心と体の状態は密接に結びついているため、これらの要因への配慮も、症状改善には欠かせません。

ストレスが与える影響

過度なストレスを感じると、私たちの体は自律神経のバランスを崩しやすくなります。自律神経は、胃酸の分泌や食道の動きなど、消化器系の働きをコントロールしています。ストレスによってこのバランスが乱れると、次のような影響が出ることがあります。

  • 胃酸の過剰な分泌
    • ストレスが胃酸の分泌を促進し、食道への刺激が増大します。
  • 食道の知覚過敏
    • 食道がわずかな胃酸の逆流にも敏感になり、通常では感じないような不快な症状として強く感じてしまうことがあります。
    • 特に非びらん性逆流症(NERD)では、この食道知覚過敏が深く関与しており、食道細胞の「TRPV1」という受容体の発現増加がその一因であることも示唆されています。
  • 下部食道括約筋の機能低下
    • 食道と胃の境目にある筋肉(下部食道括約筋)の締め付けが弱まり、胃酸が食道へ逆流しやすくなります。

ストレスへの具体的な改善策

  • リラックスする時間を意識的に作る
    • 趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、温かいお風呂に入る、瞑想や深呼吸を行うなど、自分に合った方法で心と体を休ませましょう。
  • 質の良い睡眠を確保する
    • 睡眠不足はストレスを増大させ、体全体の調子を崩す大きな原因となります。
    • 逆流性食道炎と睡眠障害の間には相互関連性があることが、十分なエビデンスによって示されています。
    • 夜間の症状による睡眠の質の低下は、日中のストレスをさらに高める悪循環にもなりかねません。
    • 規則正しい生活リズムを心がけ、質の良い睡眠を目指しましょう。
  • 適度な運動を取り入れる
    • ウォーキングや軽いストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすことは、ストレス解消に繋がり、全身の健康維持にも役立ちます。

姿勢が与える影響

前かがみの姿勢や猫背は、お腹を圧迫し、胃の内圧を高める原因となります。胃の内圧が上がると、胃の内容物や胃酸が食道へ逆流しやすくなります。特にデスクワークなどで長時間同じ姿勢を取る方は注意が必要です。

姿勢への具体的な改善策

  • 正しい姿勢を常に意識する
    • 座る時も立つ時も、背筋を伸ばし、お腹を締め付けない姿勢を心がけましょう。
    • 体の軸が真っ直ぐになることで、胃への圧迫が軽減されます。
  • 就寝時の工夫を取り入れる
    • 夜間に胃酸の逆流が起こりやすい場合は、上半身を少し高くして寝るのがおすすめです。
    • 枕を高くするだけでなく、マットレスの下にクッションなどを入れて、上半身全体をゆるやかな傾斜にすると、より効果的に逆流を防ぐことができます。
  • 締め付けの強い服装を避ける
    • コルセットやガードル、きついベルトなど、お腹を強く締め付ける服装は胃に圧力をかけます。
    • ゆったりとした服装を選び、胃への負担を減らすようにしましょう。

ストレスと姿勢の改善は、薬物療法と組み合わせることで、逆流性食道炎の症状をより効果的に管理し、再発を防ぐことに繋がります。

重症化で起こりうる合併症のリスク

逆流性食道炎の症状は、一時的な不快感で終わることもありますが、放置したり、適切な治療を受けずにいると、食道に様々な合併症を引き起こす可能性があります。これらの合併症の中には、より深刻な病気へと進行するものもあるため、早期に診断を受け、継続的に管理していくことが非常に重要です。

逆流性食道炎が重症化することで起こりうる合併症

  1. 食道潰瘍・出血
    • 胃酸によって食道の粘膜が深く傷つき、潰瘍(えぐれた状態)ができることがあります。
    • 潰瘍が進行すると強い痛みを伴うだけでなく、出血して吐血したり、黒い便(タール便)が出たりすることもあります。
  2. 食道狭窄
    • 長期間にわたる食道の炎症が繰り返されると、傷ついた粘膜が修復される過程で線維化が進みます。
    • これにより食道の内腔が次第に狭くなり、食べ物がつかえやすくなったり、飲み込みにくくなったりといった症状が現れます。
    • 重度の場合には、内視鏡を用いた拡張術が必要になることもあります。
  3. バレット食道
    • これは、食道の下部の粘膜が、胃酸による慢性的な刺激から身を守るために、本来の食道とは異なる胃や腸のような細胞に変化してしまう状態です。
    • バレット食道自体は症状がないことが多いですが、まれに食道がんへと進行する可能性があるため、「前がん病変」と位置付けられています。
    • バレット食道と診断された場合は、定期的な内視鏡検査(胃カメラ)による厳重な経過観察が不可欠です。
  4. 食道がん
    • バレット食道からさらに細胞の異形成が進むと、食道がんが発生するリスクが高まります。
    • 特に、長期間にわたり逆流性食道炎を患っている方や、バレット食道と診断された方は、がんの早期発見のためにも、定期的な内視鏡検査を継続することが非常に重要です。

これらの合併症は、逆流性食道炎の症状が改善した後でも、食道の粘膜の状態を定期的にチェックすることで、早期に発見し、適切な処置を行うことができます。また、逆流性食道炎は、機能性消化管疾患やメタボリック症候群との関連も示唆されており、全身の健康状態にも目を向けることが大切です。ご自身の健康を守るためにも、気になる症状があれば、放置せずに消化器内科を受診し、専門医にご相談ください。

市販薬の選び方と注意点

「吐き気や胸焼けがつらいけれど、すぐに病院に行けない」「一時的に症状を和らげたい」といった時に、市販薬の購入を考える方もいらっしゃるかもしれません。市販薬は手軽に利用できますが、その効果や限界、そして正しい選び方と注意点をしっかり理解しておくことが大切です。

市販薬の種類と主な効果

市販されている胃腸薬の中には、逆流性食道炎の症状を和らげる効果が期待できる成分が含まれているものがあります。

  • H2ブロッカー
    • 胃酸分泌を促すヒスタミンの働きをブロックし、胃酸の分泌量を抑えるお薬です。
    • 「ガスター10」(ファモチジン)などが代表的です。
    • プロトンポンプ阻害薬(PPI)ほど強力ではありませんが、胃酸分泌を抑制することで症状の改善を促します。
  • 胃粘膜保護剤
    • 胃や食道の粘膜の表面に膜を作り、胃酸による刺激から粘膜を物理的に保護する働きがあります。
    • スクラルファートなどが含まれており、胃酸の攻撃から粘膜を守ります。

市販薬を使用する際の重要な注意点

  1. あくまで一時的な症状の緩和を目的とする
    • 市販薬は、逆流性食道炎の根本的な治療を行うものではありません。
    • つらい症状を一時的に和らげるための補助的な役割と理解しましょう。
  2. 自己判断での長期使用は絶対に避ける
    • 市販薬を長期間使い続けると、病気の進行に気づかず、診断や適切な治療が遅れてしまう可能性があります。
    • 症状が改善しないまま市販薬を漫然と使用していると、食道がんなどの重篤な合併症の早期発見が遅れてしまうリスクがあります。
    • 特に2週間以上症状が続く場合や、市販薬を飲んでも症状が改善しない場合は、速やかに医療機関を受診してください。
  3. 服用方法・用量を厳守する
    • 商品の説明書をよく読み、定められた用法・用量を必ず守って使用しましょう。
    • 過剰な摂取は、思わぬ副作用を引き起こすことがあります。
  4. 他の薬との飲み合わせに注意する
    • 現在、他の病気で処方されている薬がある場合は、市販薬との飲み合わせによって相互作用が生じることがあります。
    • 薬局の薬剤師や医師に相談し、安全性を確認してから使用するようにしてください。
  5. 症状の変化を常に観察する
    • 市販薬を服用中に、症状が悪化したり、新たな症状(吐血、黒い便、体重減少、飲み込みにくさなど)が現れたりした場合は、すぐに使用を中止し、速やかに医療機関を受診してください。

市販薬は、軽度の症状や一時的な不調には有効な選択肢ですが、逆流性食道炎は放置すると重症化するリスクを伴う病気です。自己判断に頼りすぎず、少しでも気になる症状があれば、専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが、ご自身の健康を守る上で最も大切です。

吐き気が続く場合の受診目安と検査・治療の流れ

もしかしたら逆流性食道炎かもしれないと感じながらも、どのタイミングで病院へ行けば良いのか、迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。吐き気は、日々の生活の質を大きく低下させ、気分も落ち込ませてしまうつらい症状です。ご自身の体のサインを見逃さずに、適切なタイミングで医療機関を受診することが、症状の改善と病気の進行を防ぐために大切です。

早めに専門医の診断を受けることで、つらい症状から解放され、安心して毎日を過ごすための第一歩を踏み出せるでしょう。

こんな吐き気や不調はすぐに受診を

吐き気は、様々な原因で起こる身近な症状です。しかし、特定の症状が長く続く場合は、逆流性食道炎の可能性を考え、できるだけ早く医療機関を受診してください。逆流性食道炎は、胸焼けや吐き気だけでなく、食道の外にも多様な不調を引き起こすことが知られています。

当院を受診される患者さんの多くは、次のような症状で悩んでいらっしゃいます。

  • 吐き気が長く続く場合
    • 朝方や食後に吐き気が繰り返し起こり、なかなか治まらないときは注意が必要です。
    • 胃酸の逆流が習慣化している可能性があります。
  • 胸焼けや胃もたれがひどい場合
    • 食べ物が逆流する感覚や、胸の奥が熱くなるような痛みが日常的に続く場合です。
    • 食道の粘膜が胃酸で繰り返し刺激されているサインかもしれません。
  • 喉の違和感や異物感がある場合
    • 喉に何かが引っかかっているように感じる、イガイガする、声がかすれるといった症状も逆流性食道炎でよく見られます。
    • 胃酸が喉まで逆流し、炎症を起こしている可能性もあります。
  • 慢性的な咳が続く場合
    • 風邪ではないのに、長引く咳が治まらない場合は、逆流性食道炎が原因のことがあります。
    • 特に夜間や食後に咳が悪化する場合、胃酸が気管支を刺激している可能性があります。
  • 睡眠に影響が出ている場合
    • 夜間の吐き気や咳き込み、胸焼けで目が覚める日が続くことはありませんか。
    • 胃食道逆流症と睡眠障害の間には、相互に関連性があることが多くの研究で示されています。
    • 睡眠の質の低下は、日中の活動にも大きな影響を与えます。
  • 胸の痛みを感じる場合
    • 心臓に異常がないにもかかわらず、胸のあたりがズキズキと痛む「非心原性胸痛」のような症状も、食道の炎症やけいれんが原因のことがあります。
    • これは心臓の病気と間違われやすく、適切な診断が重要です。
  • 意図しない体重減少がある場合
    • 食欲不振や吐き気が原因で、気がつかないうちに体重が減っている場合は、注意が必要です。
    • 重症化している可能性もありますので、早めに受診しましょう。
  • 黒い便が出る、貧血がある場合
    • 胃や食道からの出血が疑われる非常に危険なサインです。
    • 貧血の症状(めまい、ふらつきなど)を伴う場合は、緊急性が高いため、すぐに医療機関を受診してください。
  • 市販薬が効かない場合
    • 市販の胃薬や吐き気止めを試しても症状が改善しない場合は、自己判断せずに専門の医師に相談しましょう。
    • 根本的な原因の治療が必要な場合があります。

これらの症状は、逆流性食道炎だけでなく、より深刻な他の病気が隠れている可能性もあります。ご自身の判断で様子を見ることなく、専門の医師にご相談いただくことがご自身の健康を守る上で大切です。

苦痛の少ない胃カメラ検査で正確に診断

逆流性食道炎の正確な診断には、胃カメラ(上部消化管内視鏡)検査が非常に重要です。この検査では、食道の粘膜の状態を直接詳しく観察できます。炎症の有無や程度、粘膜の傷の深さ、さらにバレット食道や食道裂孔ヘルニアといった合併症の有無を確認することが可能です。

胃カメラ検査によって、逆流性食道炎が「非びらん性逆流症(NERD)」、「軽症逆流性食道炎」、「重症逆流性食道炎」のどのタイプに該当するのかを正確に判断できます。特に重症のタイプでは、食道の粘膜にただれ(びらん)がはっきりと確認できるため、この結果に基づいて最適な治療計画を立てることが不可欠となります。

当クリニックでは、患者さんに安心して検査を受けていただけるよう、苦痛の少ない胃カメラ検査に力を入れています。具体的には、細くて柔らかい内視鏡を使用する「経鼻内視鏡」を採用しています。また、検査中にリラックスしてウトウトできる「鎮静剤」を使用することで、検査中の吐き気や不快感を大きく軽減することが可能です。

検査前には、経験豊富な医師と看護師が、検査の流れや注意点を丁寧に説明し、患者さんの不安を和らげるよう努めています。検査自体は、通常10分程度で終了します。検査後には、撮影した画像を患者さんと一緒に見ながら、検査結果や今後の治療方針について、分かりやすく詳細にご説明いたします。ご不明な点があれば、その場でお気軽にご質問ください。

わだ内科・胃と腸クリニックでの治療方針

わだ内科・胃と腸クリニックでは、患者さん一人ひとりの状態や病気のタイプに合わせた最適な治療方針を立てることを最も大切にしています。逆流性食道炎は、その病態によって治療の目標が大きく異なります。

胃カメラ検査で食道の粘膜に明らかな炎症や傷が見られない「非びらん性逆流症(NERD)」や、症状が軽度な逆流性食道炎の場合、主な治療目標は吐き気や胸焼けなどの「つらい症状の改善」と「患者さんの生活の質の向上」にあります。一方で、粘膜のただれがひどい「重症逆流性食道炎」の場合には、食道の粘膜の傷をしっかりと治し、将来的な合併症を防ぐことが最優先の治療目標となります。

当クリニックでの具体的な治療の進め方は次の通りです。

  • 薬物療法
    • 胃酸の分泌を強力に抑えるお薬(プロトンポンプ阻害薬:PPIやカリウムイオン競合型アシッドブロッカー:P-CAB)が治療の中心です。
    • 特に重症の逆流性食道炎の場合、食道の粘膜の傷を確実に治癒させることを目指し、より強力に胃酸分泌を抑制するP-CAB(ボノプラザンなど)を第一選択薬として積極的に使用することがあります。
    • 非びらん性逆流症(NERD)や軽症の逆流性食道炎では、症状が安定していれば、長期的な服用が必要な際でも必要最小限の量に調整し、症状の改善と生活の質の向上を目指します。
    • 患者さんの症状の重さ、体質、そして生活スタイルを丁寧に考慮し、最も効果が高く、副作用が少ないお薬を選定し、服薬期間についても詳しくご説明いたします。
  • 生活習慣の改善指導
    • 薬物療法と並行して、逆流性食道炎の症状を悪化させる可能性のある生活習慣の見直しについて、具体的にアドバイスいたします。
    • 食事の内容や食べ方、就寝時の姿勢、ストレスとの上手な向き合い方など、無理なく継続できる改善策を一緒に見つけていきましょう。
    • 患者さんが日々の生活の中で実践できる具体的な方法を提示し、病気と向き合うサポートをいたします。

当クリニックでは、患者さんが抱えるどんな些細な不安や疑問にも丁寧にお答えし、安心して治療に取り組んでいただけるよう、きめ細やかなサポート体制を整えています。

治療後の再発予防と長期的な健康管理

逆流性食道炎は、症状が一時的に改善しても、残念ながら再発しやすい特徴を持つ病気です。そのため、症状が落ち着いた後も油断することなく、再発を予防し、長期的に健康な状態を維持するための継続的な取り組みが非常に重要となります。当クリニックでは、患者さんがご自身の体と向き合い、健康的な生活習慣を長く維持できるよう、きめ細やかなサポートを提供させていただきます。

再発予防と長期的な健康管理のポイントは、次の通りです。

  • 生活習慣の継続的な見直し
    • 症状が改善した後も、食生活(刺激物や脂っこいものの摂取を控える)や飲酒・喫煙の制限は意識し続けることが大切です。
    • 適切な体重を維持すること、食後すぐに横にならないこと、就寝時には上半身を少し高くするなどの工夫も効果的です。
    • また、ストレスとの上手な付き合い方も、再発予防には欠かせません。
    • これらの生活習慣の改善は、治療の初期だけでなく、長期的な健康維持の基盤となります。
  • 服薬の自己判断による中止は避ける
    • 「症状が良くなったからもう薬は必要ない」とご自身の判断でお薬の服用を中断してしまうと、症状がぶり返すことが非常によくあります。
    • 治療効果を確実に維持するためには、必ず医師の指示に従い、定められた期間は服薬を継続することが大切です。
    • お薬を減量する場合も、医師と相談しながら慎重に進めていきましょう。
  • 定期的な診察と検査
    • 逆流性食道炎の症状が改善した後も、定期的にクリニックを受診し、ご自身の食道の状態を確認することが非常に重要です。
    • 特に、重症の逆流性食道炎であった方や、症状が長期間続いた方は、食道がんの前段階とされる「バレット食道」への進行リスクも考慮する必要があります。
    • 定期的な胃カメラ検査を行うことで、このような合併症のリスクを早期に発見し、適切な対応をとることが可能になります。
    • これにより、将来的な重篤な病気の発生を未然に防ぎ、安心して日常生活を送ることができます。

わだ内科・胃と腸クリニックは、患者さんの「かかりつけ医」として、逆流性食道炎だけでなく、消化器全般の健康を長期的にサポートしたいと考えています。どんな些細なことでもお気軽にご相談いただき、一緒に快適な毎日を取り戻しましょう。

まとめ

朝や食後の吐き気や胸焼けは、逆流性食道炎のサインかもしれません。胃酸の逆流が食道に炎症を起こし、喉の違和感や咳、胸の痛みなど多様な不調を引き起こします。放置すると重症化し、食道がんのリスクも高まるため、早期の診断と治療が大切です。

もし心当たりのある症状が続くようでしたら、自己判断せずに一度、消化器内科にご相談ください。専門医による正確な診断と薬物療法、そして食生活やストレス管理といった生活習慣の改善を組み合わせることで、つらい症状は和らぎ、快適な毎日を取り戻せます。再発予防のためにも、専門医と二人三脚で健康管理を続けていきましょうね。

参考文献

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2021