メニュー

検診で尿蛋白を指摘されたら?

[2024.10.30]

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

健康診断で「尿蛋白」という言葉を目にした時、あなたはどんな気持ちになりましたか?不安や疑問が頭をよぎったのではないでしょうか。実は、尿蛋白は腎臓からのSOSサインかもしれません。放置すると、腎臓病などの深刻な病気に繋がることがあります。今回は、尿蛋白が示す可能性のある病気や、その原因、そして適切な対応について詳しく解説します。健康診断で尿蛋白を指摘された方、あるいは尿蛋白について不安を感じている方は、ぜひ読み進めてみてください。一緒に、あなたの健康を守りましょう。

尿蛋白が示す可能性のある病気とは

健康診断で「尿蛋白が出ていますね」と指摘されたら、不安になりますよね。私も医師として日々多くの患者さんを診ていますが、尿検査で蛋白尿を指摘され、心配そうに来院される方は少なくありません。尿に蛋白が出ている、つまり蛋白尿とはどういう状態なのか、そして何が隠れている可能性があるのか、一緒に考えていきましょう。蛋白尿自体は病気の名前ではなく、様々な病気が隠れているサインである可能性があります。蛋白尿は初期段階では自覚症状がない場合も多いので、健康診断などで指摘された際は、軽く考えずに、医療機関を受診するようにしましょう。

蛋白尿が示す腎臓の病気

腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として体外に排出する臓器です。例えるなら、コーヒーフィルターのような役割を果たしています。フィルターできれいなコーヒーが抽出されるように、腎臓は血液中の必要な成分(赤血球や蛋白質など)は体内に残し、老廃物だけを尿として排出します。

しかし、腎臓に何らかの異常が生じると、このろ過機能がうまく働かなくなります。本来、体に必要な蛋白質まで尿に漏れ出てしまう状態が蛋白尿です。まるで、コーヒーフィルターに穴が空いてコーヒー豆の粒まで混ざってしまうようなものです。

腎臓の病気で蛋白尿が現れる代表的な例をいくつかご紹介します。

  • 慢性腎臓病(CKD): 腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。初期には自覚症状がほとんどなく、まさに静かに進行する病気と言えるでしょう。私の患者さんでも、健康診断で偶然見つかるケースがよくあります。進行すると、むくみや倦怠感、息切れなど様々な症状が現れます。

  • ネフローゼ症候群: 尿に大量の蛋白が漏れ出てしまう病気です。顔や足がパンパンにむくむ、体重が増える、尿の量が減るといった症状が現れます。特に、朝起きた時に顔がむくんでいる方は要注意です。

  • IgA腎症: 免疫グロブリンA(IgA)という物質が腎臓に沈着し、炎症を引き起こす病気です。自覚症状がないことも多いですが、健康診断で尿潜血や蛋白尿を指摘されることがあります。風邪をひいた後などに、一時的に尿が赤くなることがあります。これは肉眼的な血尿で、IgA腎症のサインである可能性があります。

  • 膜性増殖性糸球体腎炎: 腎臓の糸球体という部分に炎症が起こる病気です。こちらも自覚症状に乏しいですが、蛋白尿や血尿、むくみなどが現れることがあります。

これらの腎臓病は、放置すると最終的に腎不全に至る可能性もあるため、早期発見と適切な治療が重要です。

糖尿病や高血圧との関連

糖尿病や高血圧も蛋白尿と密接な関係があります。

  • 糖尿病: 血液中の糖(ブドウ糖)が多すぎると、腎臓のろ過機能が低下し、蛋白尿が出やすくなります。高血糖の状態が長く続くと、腎臓の血管が傷つき、糖尿病性腎症という腎臓病に進行するリスクが高まります。

  • 高血圧: 血圧が高い状態が続くと、腎臓の血管に負担がかかり、腎臓の機能が低下しやすくなります。高血圧も腎臓病のリスクを高める要因の一つです。

糖尿病や高血圧は、自覚症状がないまま進行することも少なくありません。定期的な健康診断を受け、血糖値や血圧をこまめにチェックするようにしましょう。

感染症や炎症の影響

腎臓以外の病気でも蛋白尿が出現することがあります。例えば、風邪や膀胱炎などの感染症、膠原病などの炎症性疾患などが挙げられます。これらの病気によって一時的に腎臓の機能が低下し、蛋白尿が出ることがあります。

尿検査は、様々な急性または慢性病態の原因を特定する際に役立つ診断ツールです。

尿検査における尿蛋白の正常値と異常値

尿検査は、腎臓の状態を知るための重要な検査です。尿に含まれる蛋白の量を調べることで、腎臓の機能が正常に働いているかを評価することができます。

尿蛋白の正常値とは?

健康な人の尿にも、ごく微量の蛋白が含まれていることがあります。これは、腎臓のフィルターで完全に除去しきれなかった蛋白が、尿中に漏れ出てしまうためです。この程度の微量な蛋白は「生理的蛋白尿」と呼ばれ、特に心配する必要はありません。

具体的には、1日あたり150mg未満の蛋白が尿中に排出されている状態が正常範囲とされています。尿検査の結果では、通常「陰性」と表示されます。陰性以外にも、±、+、++、+++といった記号で尿蛋白の量を示す場合もあります。これらの記号は、尿中に含まれる蛋白の濃度を大まかに表しており、+が多いほど、尿蛋白の量が多いことを意味します。

異常とされる尿蛋白の基準

尿蛋白が「陽性」と判定された場合、尿中に通常よりも多くの蛋白が排出されている状態、つまり「蛋白尿」を示唆します。蛋白尿は腎臓の機能低下を示すサインである可能性があり、注意が必要です。

尿蛋白の基準値は、1日あたり150mgです。この値を超えると、異常値と判断されます。健康診断などで行われる尿検査は通常1回の尿で検査を行い、尿蛋白が30mg/dL以上であれば、陽性と判定されます。

例えば、健康診断で尿蛋白が「+」と判定された場合、尿中に30~100mg/dLの蛋白が含まれていることを示しています。この程度の尿蛋白であれば、一時的な脱水や激しい運動などが原因である可能性も考えられます。しかし、繰り返し尿蛋白が陽性になる場合は、精密検査が必要となる場合があります。私の経験では、若いアスリートが激しいトレーニング後に一時的な蛋白尿を示すケースや、脱水症状の患者さんで尿蛋白が陽性になるケースをよく見かけます。

尿蛋白が高い際の注意点

尿蛋白が高い場合、最も重要なのは、落ち着いて医師に相談することです。自己判断で治療法を試したり、放置したりすることは絶対に避けましょう。尿蛋白の原因を特定し、適切な治療を受けることが大切です。

尿蛋白の原因は腎臓病だけではありません。糖尿病や高血圧、感染症など、様々な病気が原因となることがあります。医師は、尿検査の結果だけでなく、他の検査結果やあなたの症状、生活習慣なども考慮して、総合的に診断を行います。

尿蛋白が高いと診断された場合、医師の指示に従って、生活習慣の改善や薬物療法などの治療を受けることになります。具体的な治療法は、尿蛋白の原因や程度によって異なります。例えば、腎臓病が原因の蛋白尿には、食事療法や薬物療法が有効です。糖尿病が原因の場合は、血糖コントロールが重要になります。感染症が原因の場合は、抗生物質による治療が行われます。

日常生活においても、激しい運動や過度なストレスは尿蛋白を悪化させる可能性があるので注意が必要です。バランスの取れた食事を摂り、十分な睡眠をとるように心がけましょう。水分をこまめに摂ることも大切です。脱水症状は尿蛋白を濃縮させるため、尿蛋白値が実際よりも高く出てしまう可能性があります。

尿蛋白が発見されたときの対応と治療法

健康診断などで尿蛋白を指摘されると、不安な気持ちでいっぱいになるのも無理はありません。これからどうなるのか、どんな病気が隠れているのか、心配になりますよね。私も医師として、患者さんの不安なお気持ちに寄り添いながら、日々診療にあたっています。

まず覚えておいていただきたいのは、尿蛋白が見つかったとしても、必ずしも深刻な病気を意味するわけではないということです。尿蛋白は、腎臓からのSOSサインのようなもの。早期に発見し、適切な対応をすることで、深刻な事態を防げる可能性が高まります。この記事では、尿蛋白が発見された後の対応と治療法について、検査、生活習慣の見直し、そして専門医受診の必要性などを、具体例を交えながらわかりやすく解説します。一緒に、これからのことを考えていきましょう。

次に受けるべき検査

尿検査で蛋白尿を指摘された場合、その原因を特定し、適切な治療方針を決定するために、精密検査が必要となるケースがほとんどです。精密検査では、尿中の蛋白量だけでなく、腎臓の機能や合併症の有無などを詳しく調べます。

1. 24時間蓄尿検査

この検査では、1日に排出される尿蛋白の総量を正確に測定します。24時間分の尿を集めるのは少し手間がかかりますが、尿蛋白の量を正確に把握するために非常に重要な検査です。まるで、1日分の自分の体からのメッセージを集めているようなものです。専用の容器に1日かけて尿をため、それを翌日病院に提出します。検査結果から、腎臓の機能がどの程度低下しているのかを評価することができます。例えば、1日に排出される尿蛋白量が1gを超える場合は、ネフローゼ症候群などの腎臓病が疑われます。

2. 血液検査

血液検査では、腎臓の機能を評価するクレアチニンや尿素窒素などの数値を測定します。また、糖尿病や膠原病などの病気が隠れていないかを調べることもできます。採血はチクッとする一瞬の痛みで済みます。血液検査は、体内の状態を詳しく知るためのいわば「体の通信簿」と言えるでしょう。例えば、クレアチニン値が高い場合は、腎臓の機能が低下していることを示唆しています。

3. 腎臓の画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査など)

腎臓の大きさや形、腫瘍や結石の有無などを確認するために、画像検査を行います。超音波検査は、ゼリーを塗った探触子を体に当てるだけの簡単な検査です。まるで、お腹の上で絵を描いているような感覚です。CT検査やMRI検査は、大きな機械の中に入りますが、痛みはありません。これらの検査によって、腎臓病の原因となる異常がないかを調べます。例えば、腎臓に結石が見つかった場合は、それが尿路閉塞を引き起こし、蛋白尿の原因となっている可能性があります。

有効な治療法と生活習慣の見直し

蛋白尿の原因となっている疾患によって、適切な治療法は異なります。例えば、慢性腎臓病(CKD)が原因の場合は、食事療法や薬物療法で腎臓への負担を軽減し、病気の進行を抑制する治療を行います。糖尿病性腎症の場合は、血糖値を厳格にコントロールすることが重要です。高血圧が原因の場合は、血圧を適切な範囲に管理するための薬物療法が必要となります。

原因となる病気 治療法の例
慢性腎臓病(CKD) 腎保護作用のある薬、食事療法
糖尿病性腎症 血糖コントロール、血圧コントロール
高血圧性腎症 降圧薬

生活習慣の見直しも、尿蛋白の改善に大きく貢献します。塩分の過剰摂取は腎臓に負担をかけるため、減塩を心がけましょう。適度な運動は、腎臓の機能維持に役立ちます。また、十分な睡眠と休養も重要です。ストレスは自律神経のバランスを崩し、血圧や腎機能に悪影響を及ぼす可能性があるため、ストレス管理も大切です。水分を適切に摂取することも重要です。脱水状態は尿を濃縮させ、尿蛋白値が実際よりも高く出てしまうことがあります。

専門医の受診が必要な場合

蛋白尿が続く場合や、他の症状を伴う場合は、腎臓内科などの専門医への受診をお勧めします。専門医は腎臓病をはじめとする様々な疾患に精通しており、適切な検査と治療を提供することができます。

特に、以下の症状がある場合は、速やかに専門医を受診してください。

  • 尿量の減少または無尿
  • 顔や足のむくみ
  • 全身倦怠感
  • 食欲不振
  • 吐き気

早期発見・早期治療は、病気の進行を抑制し、健康な生活を送るために非常に重要です。少しでも気になる症状がある場合は、我慢せずに医療機関に相談しましょう。

まとめ

健康診断で尿蛋白が指摘されると不安になりますよね。尿蛋白は、腎臓のろ過機能が低下しているサインの可能性があります。

原因は、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、感染症など様々です。 放置すると、腎臓病が悪化し、腎不全に至る可能性もあります。

尿蛋白が指摘された場合は、原因を特定するため、24時間蓄尿検査、血液検査、腎臓の画像検査などの精密検査が必要です。

生活習慣の見直しも重要です。減塩、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理、水分摂取を心がけましょう。

気になる症状がある場合は、腎臓内科などの専門医に相談することをおすすめします。早期発見・早期治療が大切です。

参考文献

  • Haq K, Patel DM. Urinalysis: Interpretation and Clinical Correlations. The Medical clinics of North America 107, no. 4 (2023): 659-679.
 

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME