胃腸炎、自宅でできる対処とは?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
突然の吐き気、激しい腹痛、そして止まらない下痢…。想像しただけでゾッとする、胃腸炎。 誰もが経験する可能性のある身近な病気ですが、その種類や症状、そして適切な対処法をあなたはどれだけ知っていますか?
実は胃腸炎には、ウイルス性、細菌性、食中毒、薬剤性など、様々な種類があり、それぞれ症状も異なります。 ノロウイルスによる嘔吐下痢や、サルモネラ菌感染による高熱、O157による血便など、その深刻さも様々です。 2023年の厚生労働省の発表によると、胃腸炎による救急搬送件数は年間数万件にのぼると言われています。 あなたは大丈夫?と、不安に思う方もいるかもしれません。
この記事では、胃腸炎の主な種類とその症状を分かりやすく解説します。 さらに、自宅でできる効果的な対処法、そしていつ医療機関を受診すべきかといった重要なポイントも詳しく説明。 つらい症状を少しでも早く改善し、日常生活にスムーズに戻れるよう、具体的なステップを分かりやすくご紹介します。 大切なのは、正しい知識と適切な行動です。 さあ、あなたも胃腸炎に負けないための第一歩を踏み出しましょう。
胃腸炎の主な種類とそれぞれの症状4つ
胃腸炎は、ウイルスや細菌、食中毒、薬などが原因で胃や腸に炎症が起こり、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、発熱といった症状が現れる病気です。これらの症状は、身体から水分や電解質を奪い、脱水症状を引き起こす可能性があります。
特に小さなお子さんや高齢の方は脱水症状を起こしやすく、重症化することもあるので注意が必要です。「もしかして胃腸炎かな?」と思ったら、この記事で紹介する主な種類と症状をチェックし、ご自身の状態に合った対処法を見つけて、少しでも早く回復を目指しましょう。
ウイルス性胃腸炎の特徴と症状
ウイルス性胃腸炎は、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスといった感染力の強いウイルスが原因で起こります。これらのウイルスは、人から人へ、あるいは汚染された食品や水を介して感染します。
主な症状は、突然の吐き気や嘔吐、水のような下痢、腹痛、発熱などです。感染から1~2日後に症状が現れ、数日間続くことが多いです。ウイルス性胃腸炎は、多くの場合、健康な成人は自然に回復しますが、乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人は重症化しやすいため、特に注意が必要です。1972年のノロウイルスの発見以来、ウイルス性胃腸炎の研究は大きく進歩し、世界中で急性胃腸炎を引き起こす主なウイルスは実はそれほど多くないことが分かってきました。
具体的な症状を見ていきましょう。吐き気や嘔吐は、胃の不快感とともに起こり、食べたものを吐き出してしまうこともあります。下痢は、便が水のように柔らかくなり、排便回数が増えます。腹痛は、お腹がしくしく痛んだり、キリキリ痛んだり、症状は様々です。発熱を伴うこともありますが、必ずしも高熱になるとは限りません。
細菌性胃腸炎の主な症状
細菌性胃腸炎は、サルモネラ菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌O157などの細菌感染が原因です。これらの細菌に汚染された食品を食べることで感染し、発熱、腹痛、下痢、吐き気などの症状が現れます。
特に血便が出る場合は、重症化している可能性があるので、すぐに医療機関を受診することが重要です。細菌性胃腸炎は、抗生物質による治療が必要な場合もあります。原因となる細菌によって症状は多少異なります。
例えば、サルモネラ菌では腹痛、下痢、発熱が主な症状です。カンピロバクターでは、腹痛、下痢、発熱に加えて、吐き気や倦怠感も現れることがあります。O157の場合は、激しい腹痛と血便が特徴です。
食中毒による胃腸炎の症状
食中毒による胃腸炎は、細菌やウイルス、寄生虫などに汚染された食品を食べることで起こります。症状は原因となる病原体によって様々ですが、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などがよく見られる症状です。
汚染された食品を摂取してから数時間から数日後に症状が現れ、多くの場合数日で回復します。しかし、中には重症化する場合もあるので注意が必要です。十分な水分補給を行い、症状が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。
例えば、黄色ブドウ球菌による食中毒では、吐き気や嘔吐が主な症状です。ウェルシュ菌では、腹痛と水のような下痢が起こります。ノロウイルスは、吐き気、嘔吐、水のような下痢を引き起こします。
薬剤性胃腸炎が引き起こす症状
薬剤性胃腸炎は、特定の薬の服用によって引き起こされる胃腸炎です。抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:痛み止めや解熱剤として広く使われている薬です)など、様々な薬が原因となる可能性があります。
症状としては、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢などが挙げられます。原因となっている薬の使用を中止することで症状が改善することがほとんどです。薬の服用後にこれらの症状が現れた場合は、自己判断で服薬を中止せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
抗生物質は、腸内細菌のバランスを崩し、下痢などを引き起こす可能性があります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、胃粘膜を刺激し、炎症を引き起こす可能性があります。薬剤性胃腸炎は比較的まれな疾患ですが、薬を服用している際に胃腸の不調を感じたら、この可能性も考慮することが重要です。
胃腸炎の感染経路と原因を理解する
胃腸炎は、ウイルスや細菌によって引き起こされる、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛といった症状を伴う消化器系の感染症です。突然これらの症状に襲われると、日常生活に大きな支障をきたし、不安な気持ちになる方も多いでしょう。
私自身も医師として、胃腸炎の患者さんを数多く診てきました。その経験から、胃腸炎は適切な知識を持つことで、感染リスクを大幅に減らし、発症した場合でも適切な対処をすることで早期回復が可能だと考えています。
この章では、胃腸炎の原因と感染経路について、現場の医師の視点も交えながら詳しく解説します。胃腸炎のメカニズムを理解することで、効果的な予防策と適切な対処法を身につけていきましょう。
感染する主なウイルスと細菌
胃腸炎を引き起こす主な病原体は、ウイルスと細菌の2種類に大別されます。ウイルス性胃腸炎の代表的な原因ウイルスとしては、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどが挙げられます。特にノロウイルスは冬季に流行しやすく、非常に強い感染力を持つため、集団感染を引き起こすケースも少なくありません。ロタウイルスは乳幼児に多く見られ、重症化することもありますので、注意が必要です。
細菌性胃腸炎は、サルモネラ菌、カンピロバクター、病原性大腸菌(O157など)といった細菌が原因となります。これらの細菌は、汚染された食品や水を介して感染することが多いです。ウイルス性胃腸炎の研究は1972年のノロウイルスの発見以来大きく進歩し、世界中で急性胃腸炎を引き起こす主なウイルスは実はそれほど多くないことが分かってきました。
食品による感染のリスク
食中毒は、細菌やウイルス、寄生虫などに汚染された食品を摂取することで発症する胃腸炎の一種です。原因となる食品は、肉類、魚介類、卵、乳製品など多岐にわたります。これらの食品は、適切な温度管理や衛生的な取り扱いを怠ると、病原体が繁殖しやすくなります。
例えば、生肉や生魚を扱う際には、他の食品との接触を避け、専用の調理器具を使用することが重要です。また、調理済み食品であっても、室温で長時間放置すると細菌が増殖するリスクが高まります。特に気温の高い時期は、お弁当などを保冷剤とともに持ち歩き、涼しい場所で保管するなど、細心の注意を払う必要があります。
接触感染について知っておくべきこと
胃腸炎は、感染者の便や嘔吐物に含まれるウイルスや細菌が口から体内に入ることで感染します。これを「糞口感染(経口感染)」といいます。感染者がトイレを使用した後、適切な手洗いをせずにドアノブや手すりなどを触ると、ウイルスや細菌が付着します。その後、他の人がその部分に触れ、手洗いをせずに食事をすると感染する可能性があります。
家庭内での感染を防ぐためには、タオルや食器などの共用を避け、感染者の使用したものは適切に消毒することが重要です。また、嘔吐物の処理は、使い捨ての手袋とマスクを着用し、処理後はすぐに石鹸と流水で丁寧に手を洗いましょう。
日常生活での感染対策
胃腸炎の感染予防には、日常生活でのこまめな対策が不可欠です。以下に、具体的な対策をいくつかご紹介します。
- 石鹸と流水による手洗い: トイレの後、食事の前、調理の前後には、必ず石鹸と流水で丁寧に手を洗いましょう。特に、爪の間や指の間、親指、手首までしっかりと洗うことが重要です。流水で洗い流す時間は20秒以上を目安にすると良いでしょう。
- 消毒用アルコールの使用: 手洗いができない場合は、消毒用アルコールを使用しましょう。アルコール濃度は70%以上のものが効果的です。
- 食材の適切な加熱: 肉や魚介類などの食材は、中心部までしっかりと加熱することで、食中毒のリスクを減らすことができます。中心温度が75℃で1分間以上加熱することが推奨されています。
- 二次感染の予防: 感染者の便や嘔吐物は、ビニール袋に入れて密封し、適切に処理することが大切です。処理後は、周囲を消毒用アルコールで拭き取りましょう。汚れた衣類やリネンは、他の洗濯物とは別に洗い、熱湯で消毒するか、塩素系漂白剤を使用しましょう。
- 適切な水分補給: 普段から十分な水分を摂取することで、体の抵抗力を維持し、感染症を予防することに繋がります。
これらの対策を日常生活に取り入れることで、胃腸炎の感染リスクを効果的に減らすことができます。
胃腸炎の自宅での対処法と注意点
胃腸炎になると、吐き気や下痢、腹痛といった症状に悩まされます。つらい症状を少しでも早く和らげ、早く元気になりたいと願うのは当然のことです。
ここでは、ご自宅でできる胃腸炎の対処法と、悪化を防ぐための注意点について、現場の医師の視点も交えながら詳しく解説します。正しい対処法を知って、つらい時期を乗り切りましょう。
自宅療法で行うべき水分補給方法
胃腸炎になると、下痢や嘔吐によって体内の水分と電解質、特にナトリウムやカリウムが失われてしまいます。こうした電解質は、体内の水分バランスや神経・筋肉の機能を正常に保つために不可欠です。
これらの電解質が不足すると、脱水症状だけでなく、倦怠感、筋肉の痙攣、めまい、意識障害などを引き起こす可能性があります。特に、乳幼児や高齢者では脱水症状が重症化しやすいため、注意が必要です。
脱水を防ぐためには、こまめな水分補給が何よりも重要です。具体的には、経口補水液、スポーツドリンク、麦茶などを少しずつ、頻繁に飲むように心がけてください。
一度に大量に飲むと胃腸に負担がかかり、吐き気や下痢を悪化させる可能性があるので、少量ずつこまめに摂取するようにしましょう。
ウイルス性胃腸炎の治療は主に輸液と電解質補充に限定されています。これは、ウイルス感染に対して直接効果のある薬剤が少ないためです。そのため、自宅での水分補給が非常に重要になります。
水分 | 摂取時のポイント |
---|---|
経口補水液 | 水分と電解質をバランス良く補給できるため、脱水症状の予防・改善に最も効果的です。 |
スポーツドリンク | 糖分が多いため、水で薄めて飲むようにしましょう。また、電解質濃度が低いものもあるので、成分表示を確認しましょう。 |
麦茶、番茶 | カフェインを含まないため、胃腸に優しくおすすめです。 |
水 | 嘔吐や下痢が落ち着いてきたら、少しずつ飲んでみましょう。 |
ジュース、炭酸飲料 | 糖分や刺激物が含まれているため、胃腸炎の際は避けましょう。胃酸分泌を促進し、症状を悪化させる可能性があります。 |
また、嘔吐がひどい場合は、無理に水分を摂ろうとせず、症状が落ち着いてから少しずつ水分補給を始めましょう。
適切な食事制限と再開のタイミング
胃腸炎の際は、消化に良い食事を心がけることが大切です。症状が落ち着くまでは、おかゆ、うどん、白米、豆腐など、刺激の少ない食べ物を少量ずつ摂るようにしましょう。
脂っこいものや香辛料の強いもの、食物繊維の多いものは、胃腸に負担をかけるため、避けるべきです。
また、食欲がないからといって無理に食べようとせず、食べられるときに食べられるものを食べるようにしてください。無理に食べると、胃腸への負担を増し、症状の悪化につながる可能性があります。
回復期には、消化の良い食事から始め、徐々に通常の食事に戻していきましょう。
食材 | 摂取の可否 | 理由 |
---|---|---|
おかゆ | ○ | 消化がよく、胃腸に優しい |
うどん | ○ | 柔らかく、消化しやすい |
白米 | ○ | 胃腸への負担が少ない |
豆腐 | ○ | タンパク質を補給できる |
鶏ささみ肉(脂身なし) | △ | 消化しやすいタンパク質源ですが、症状が強い時期は避けましょう。回復期に少量ずつ摂取を開始する。 |
肉類(脂身あり) | × | 胃腸への負担が大きい |
揚げ物 | × | 脂っこいため、消化しにくい。胃酸の分泌を促進し、症状を悪化させる可能性もある。 |
生野菜 | × | 食物繊維が多く、胃腸を刺激する可能性がある |
香辛料の強いもの | × | 胃腸を刺激し、症状を悪化させる可能性がある |
市販薬の選び方と使用法
市販薬の中には、下痢や腹痛を和らげる効果のあるものがあります。例えば、下痢止め薬には、腸の運動を抑制するロペラミド塩酸塩などを含むものがあります。
腹痛には、ブチルスコポラミン臭化物などを含む鎮痙薬が用いられることがあります。
ただし、市販薬を使用する際には、用法・用量を必ず守り、自己判断で長期間使用することは避けましょう。
また、症状が改善しない場合や悪化した場合は、自己判断で服用を続けず、医療機関を受診することが大切です。特に、血便や高熱、激しい腹痛などの症状がある場合は、すぐに医師の診察を受けてください。
医師は、症状や状態に合わせて適切な薬を処方し、重症化を防ぎます。1972年のノロウイルスの発見以来、ウイルス性胃腸炎の研究は大きく進歩しましたが、ウイルス感染に直接効果のある薬は未だ限られています。
回復期間の目安と注意信号
胃腸炎の回復期間は、原因や症状の程度によって異なりますが、通常は数日から1週間程度で回復します。ただし、高齢者や乳幼児、基礎疾患のある方などは、重症化しやすいため、注意が必要です。
回復期間中は、無理をせず、安静を保つように心がけてください。また、脱水症状や高熱、血便、激しい腹痛などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
これらの症状は、重症化のサインである可能性があります。医療機関では、適切な検査と治療を受けることができます。
また、下痢が長引く場合、消化管出血や炎症性腸疾患などの他の病気が隠れている可能性も考えられます。自己判断せずに、医療専門家の診察を受けるようにしてください。
まとめ
胃腸炎は、ウイルスや細菌、食中毒などが原因で起こる病気ですが、適切な対処法で早期回復が可能です。この記事では、胃腸炎の種類や症状、感染経路、そして自宅でできる対処法について詳しく解説しました。
ポイントは、こまめな水分補給と消化の良い食事です。脱水症状を防ぐために、経口補水液や麦茶などを少量ずつ、こまめに摂取しましょう。食事は、おかゆやうどんといった消化の良いものを中心に、症状が落ち着くまで摂取するのがおすすめです。市販薬を使用する際は、必ず用法・用量を守り、自己判断での服用は避けましょう。
症状が改善しない場合、または高熱や血便などの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。早期発見と適切な治療が、回復への近道です。 つらい症状を少しでも早く改善し、健康な日々を取り戻せるよう、この記事が役立つことを願っています。
参考文献
Flynn TG, Olortegui MP, Kosek MN. Viral gastroenteritis. Lancet (London, England) 403, no. 10429 (2024): 862-876.