脂肪肝で心不全のリスクが高くなる!?
わだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
前回より新シリーズとして皆さまの健康長寿のお役に立てる様な国内、海外の論文をピックアップしご紹介させていただいております。
第2回目は日本語に訳すると”非アルコール性脂肪肝と新たに発症した心不全のリスク”というタイトルの論文でイタリア人の研究者が今年の7月に発表したものです。
英語タイトルは”Non-alcoholic fatty liver disease and risk of new-onset heart failure: an updated meta-analysis of about 11 million individuals”といい、イギリスのGutいう消化器分野において世界的な権威を持つ専門誌雑誌に掲載されています。
論文の内容について説明させていただこうと思いますが、最後まで読むのは大変という方もいらっしゃると思います。
そこで今回もまず結論を言いますと、”非アルコール性脂肪肝では心不全のリスクが1.5倍になる可能性がある”というものです。
まず脂肪肝(当院のホームページでも簡単に説明させていただいております)について簡単に説明します。脂肪肝の原因はアルコール性(つまり飲酒によるものです)と非アルコール性の二つに分けられ、非アルコール性脂肪肝の原因として、肥満や糖尿病、
この非アルコール性脂肪性肝疾患のことを英語でnonalcoholic fatty liver disease:NAFLD(ナッフルドやナッフルディー)と呼び、近年急激に増加し、注目されている病気の一つです。また少しややこしいですが、このNAFLDには、nonalcoholic fatty liver:NAFL:ナッフルという肝臓の細胞に脂肪がただ沈着しているだけの単純性脂肪肝という状態と、肝臓の細胞が破壊されて機能しなくなり、炎症を伴い肝硬変などに移行するリスクのあるnonalcoholic steatohepatitis:NASH:ナッシュに分類されます。
それでは論文の内容について簡単に説明していきます。
・本論文の著者であるAlessandro Mantovani氏によると、NAFLDは国を問わず、世界中で成人の約30%が罹患しているものと推測されています。また肥満の増加に伴い、今後10年間でさらに急増することが危惧されています。これまでの研究では、NAFLDと心不全が新たに発症するリスクとの上昇との関連性が報告されてきました。しかしNAFLDの程度によって心不全を発症するリスクが変化するかどうかは、はっきりしませんでした。この研究はNAFLDと心不全が新たに発症するリスクとの関連の大きさの見える化を目指したものです。
・研究の細かい内容ですが、2022年3月までにアメリカ、イギリス、韓国、スウェーデン、フィンランドの5カ国で行われた11件の研究をまとめたもので、研究の対象者は計1124万2231人という大規模なもので、NAFLDと心不全の発症との関連性を検討しています。
・結果です。平均10年の期間中に、研究の対象となった方のうち9万7716人の方が心不全と診断されています。そして年齢、性別、体脂肪率、糖尿病や高血圧、その他のリスクの有無に関わらず、NAFLDの患者さんは、10年以内に心不全を新たに発症するリスクが50%上昇することが明らかになりました。これが冒頭でお伝えした”非アルコール性脂肪肝では心不全のリスクが1.5倍になる可能性がある”の根拠です。またこの論文には肝臓の線維化が広範囲に及ぶ(つまり肝臓の病気が進行する)と、心不全のリスクが76%上昇するとのデータもありましたが、11件の研究のうちの2件のみに基づくものであり信頼性は高くありません。
・そしてこの研究の限界として、観察研究と言う形式のもので正確性の質の問題から、NAFLDと心不全を新たに発症するとの因果関係を明らかにできないと結論付けられています。
あれ、話が違うぞと思われる方もいらっしゃるかと思います。研究の方法上この様な書き方になってしまいましたが、”非アルコール性脂肪肝では心不全のリスクが1.5倍になる可能性がある”のはこの研究の一つの結果であり、慎重に経過をみていく必要があるのには変わりないと思います。
*混乱させてしまう書き方になってしまし申し訳ございません。
以上になりますが、まず成人の約30%が脂肪肝であるということは皆さまにとっても驚きの数字だったのではないでしょうか。また脂肪肝によって心不全のリスクが高まる可能性があるというのも大切な事実だと思います。
外来診療を行なっていると健康診断で肝機能障害を指摘され、結果脂肪肝であったという方に多く遭遇します。中には体型的にはやせ型の人でも脂肪肝の方もいらっしゃいます。ご自身で食事療法を行い改善される方もいますが、症状がないからという理由で放置される方もいます。
肝臓は”沈黙の臓器”と呼ばれており、症状が出るころには病気が進行していることが多いですので、ぜひ早期の治療介入や定期的な経過観察を行わせていただければと思います。
以前からも度々ご紹介させていただいておりますが、当院ではクリニックには珍しく、管理栄養士が常勤として勤務しており、「栄養相談」という形で食事療法のアドバイスを行うことが可能です。予約制ではありますが、1回30分程度で行うことが出来ますので診察の待ち時間などを利用することが出来ますので、医師やスタッフにお気軽にご相談下さい。
脂肪肝を指摘された方がいらっしゃいましたら一度ご相談ください。