逆流性食道炎と長引く咳の関係とは?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

長引く咳に悩んでいるあなた、もしかしたらそれは逆流性食道炎が原因かもしれません。 近年、逆流性食道炎と咳の関係が注目され、その関連性が明らかになってきました。 実は、胃酸が食道だけでなく喉や気管にまで逆流することで、咳の反射が起きることがあるのです。 「胸やけや喉の違和感と同時に咳が出る」「食後や就寝時に咳が出やすい」などの症状がある方は、逆流性食道炎を疑い、医療機関への受診を検討しましょう。 この記事では、逆流性食道炎と咳の関係について詳しく解説し、具体的な治療法や対策を紹介します。

逆流性食道炎とは

逆流性食道炎って、どんな病気かご存知ですか? 簡単に言うと、胃酸が食道に逆流してしまい、食道の粘膜を傷つけてしまう病気です。

胃には、食べたものを消化するために、強い酸性の胃酸が出ています。 この胃酸は、通常、胃の出口にある「噴門(ふんもん)」という部分がしっかり閉まることで、食道に逆流しないように出来ています。 しかし、様々な要因によって噴門がうまく機能しなくなると、胃酸が食道に逆流しやすくなり、炎症を起こしてしまうのです。 これが逆流性食道炎です。

例えば、暴飲暴食や脂肪分の多い食事、アルコール、タバコ、肥満、ストレスなどは、噴門の働きを弱める原因となります。また、加齢によって噴門の筋肉が弱くなることも、逆流性食道炎のリスクを高める要因となります。

逆流性食道炎と咳の関係についてのメカニズム

「でも、食道が傷つく病気なのに、なぜ咳が出るんだろう?」 そう思いますよね。

実は、逆流性食道炎になると、胃酸が食道だけでなく、喉や気管にまで上がってきてしまうことがあるんです。 この刺激によって、咳の反射が起き、しつこい咳を引き起こすと考えられています。 熱いお茶を飲んで、気管に入ってしまった時に、ゴホゴホと咳き込んでしまうようなイメージです。

さらに、胃酸が食道に炎症を起こすと、神経が過敏になり、咳が出やすくなるとも言われています。 これは、炎症によって、咳のスイッチが入りやすくなっている状態と言えるでしょう。 

また、最近の研究では、逆流性食道炎と咳だけでなく、うつ病との間にも関連性があることが分かってきています。うつ病の患者さんでは、そうでない人に比べて逆流性食道炎のリスクが高いという報告や、逆に逆流性食道炎の患者さんでは、うつ病のリスクが高いという報告があります。これは、食道と脳が神経を介して密接に繋がっているためだと考えられていますが、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。

逆流性食道炎による咳の症状の特徴

逆流性食道炎による咳には、いくつかの特徴があります。

  • 胸やけや喉の違和感と一緒に咳が出る: 胃酸が逆流することで、胸やけや喉の異物感、呑酸(どんさん)といった症状が現れ、これらの症状と同時に咳が出ることが多いです。
  • 食後や就寝時に咳が出やすい: 食後は胃酸の分泌が増え、就寝時は横になることで胃酸が逆流しやすくなるため、咳が出やすい時間帯です。
  • 長引く乾いた咳: 風邪などのように痰を伴う咳ではなく、乾いた咳が続くのが特徴です。
  • 市販の咳止め薬が効きにくい: 逆流性食道炎が原因の咳は、一般的な咳止め薬では効果が期待できません。

これらの特徴に当てはまる咳が続く場合は、逆流性食道炎の可能性も考えてみましょう。

例えば、咳が長引いていて、病院で診察を受けた際に、「風邪でしょう」と診断されて咳止め薬を処方されたにも関わらず、なかなか咳が治まらない場合は、逆流性食道炎の可能性を疑ってみることが大切です。

逆流性食道炎の診断と治療法

当クリニックでは、問診と胃カメラ検査を通して、逆流性食道炎かどうかを診断しています。胃カメラ検査は、口や鼻から細いカメラを入れて食道や胃の中を観察する検査です。

「口や鼻からカメラを入れるなんて苦しそう…」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。当院では細径内視鏡という細いカメラを用いるだけなく、鎮静剤を使用することで楽に検査を受けていただけますし、検査自体も通常数分で終わりますのでご安心ください。

逆流性食道炎と診断された場合、主に次のような治療を行います。

  1. 生活習慣の改善:
    • 食後すぐに横にならないようにする
    • 寝る2~3時間前には食事を済ませる
    • 脂肪分の多い食事やアルコール、カフェイン、香辛料など、胃酸の分泌を促す食べ物を控える
    • タバコは禁煙する
    • ゆったりとした服装を心がける
    • 適度な運動を心がける
    • ストレスを溜め込まないようにする
    これらの生活習慣の改善は、逆流性食道炎の治療だけでなく、健康的な生活を送る上でも非常に大切です。食生活では、暴飲暴食を避け、腹八分目を心がけましょう。また、睡眠不足や過労、人間関係のストレスなども胃酸の分泌を増加させる要因となるため、規則正しい生活習慣を心がけ、ストレスを上手に解消していくことが重要です。
  2. 薬物療法: 胃酸の分泌を抑える薬や、胃の動きを調整する薬を処方します。薬物療法は、逆流性食道炎の症状を速やかに改善し、食道へのダメージを軽減する効果が期待できます。内服治療を行うことで、炎症が治まり、症状が落ち着いてくるケースが多いです。
  3. 外科手術: 重症例で、薬物療法や生活習慣の改善では効果が不十分な場合に検討することがあります。外科手術は、薬物療法や生活習慣の改善では効果が得られない重症の逆流性食道炎に対して行われる治療法です。

逆流性食道炎による咳の対策

逆流性食道炎による咳を和らげるためには、以下の対策が有効です。

  1. 咳止め薬の使用: 医師の指示のもと、咳止め薬を使用することがあります。咳が長引くと、日常生活に支障をきたしたり、睡眠不足になったりと、身体への負担が大きくなってしまいます。このような場合は、咳止め薬を使用することで、咳を鎮め、症状を緩和することができます。
  2. 寝る際の姿勢: 頭を高くして寝ることで、胃酸が逆流しにくくなります。頭を高くすることで、胃の内容物が食道に逆流しにくくなるため、咳の症状を軽減することができます。
  3. 蒸気吸入: 蒸気吸入によって、気道を潤し、咳を和らげることができます。乾燥した空気は、気道を刺激し、咳を悪化させる可能性があります。蒸気を吸入することで、気道を潤し、咳を鎮める効果があります。
  4. 水分補給: こまめな水分補給によって、気道を潤し、咳を和らげることができます。水分不足は、気道の乾燥を引き起こし、咳を悪化させる要因となります。こまめな水分補給を心がけ、気道を潤すことが大切です。

逆流性食道炎と他の病気との関連性

咳が出る病気は逆流性食道炎だけではありません。風邪や気管支喘息、肺炎など、咳を引き起こす病気は他にもたくさんあります。

例えば、風邪を引いたときに、「ゴホンゴホン」と喉の奥がイガイガするような咳が出やすいですよね。これは、風邪のウイルスによって喉や気管支に炎症が起こっているからなんです。

また、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と息苦しさを伴う咳が出る場合は、気管支喘息の可能性があります。気管支喘息は、気管支が狭くなることで、息苦しさや咳発作が起こります。

さらに、「ゴホッゴホッ」と胸の奥から痰が絡むような咳や、息を吸うと胸が痛む場合は、肺炎の可能性も考えられます。肺炎は、肺に炎症が起こり、高熱や咳、痰などの症状が現れます。

このように、咳はさまざまな病気のサインである可能性があります。もしかしたら、逆流性食道炎と他の病気が合併しているかもしれません。「ただの咳だから」と安易に考えずに、医療機関を受診して、医師の診断を受けるようにしましょう。

まとめ

逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜を傷つける病気です。胃酸が食道だけでなく、喉や気管にまで上がってくることで、咳の反射が起き、しつこい咳を引き起こすことがあります。逆流性食道炎による咳は、胸やけや喉の違和感と一緒に咳が出たり、食後や就寝時に咳が出やすかったり、乾いた咳が長引いたりといった特徴があります。 逆流性食道炎による咳の治療法には、生活習慣の改善、薬物療法、外科手術などがあります。生活習慣の改善では、食生活の見直し、禁煙、適度な運動、ストレス解消などが重要です。薬物療法では、胃酸の分泌を抑える薬や胃の動きを調整する薬を服用します。逆流性食道炎による咳の対策としては、咳止め薬の使用、寝る際の姿勢を高くすること、蒸気吸入、水分補給などがあります。また、脂肪分の多い食事やアルコール、カフェインを控える、就寝前の食事を避けるなど、食事や生活習慣の改善も重要です。 逆流性食道炎による咳は、他の病気と合併している可能性もあるため、医療機関を受診し、医師の診断を受けるようにしましょう。

参考文献