隠れ貧血って知っていますか?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
「最近、疲れやすい」「顔色が悪いってよく言われる」と感じていませんか?もしかしたら、それは「隠れ貧血」のサインかもしれません。隠れ貧血は、自覚症状が乏しいため、健康診断などで指摘されて初めて気づくというケースも多いのです。
隠れ貧血の定義と症状
隠れ貧血は、医学的には「潜在性鉄欠乏症」と呼ばれ、体内に貯蔵されている鉄分が不足している状態を指します。
わかりやすく例えると、私たちの体内を「鉄工場」だと想像してみてください。鉄工場では、毎日たくさんの製品(赤血球)が作られていますが、材料となる鉄が不足すると、製品の生産ライン(ヘモグロビン濃度)はまだ正常に稼働していても、工場全体の鉄の在庫(貯蔵鉄)が減ってしまう状態、これが隠れ貧血です。
隠れ貧血では、初期の段階では自覚症状が現れにくいのが特徴です。しかし、鉄不足が進むと、下記のような症状が現れることがあります。
- 慢性的な疲労感: 鉄はエネルギーを作り出すのに欠かせない栄養素です。鉄が不足すると、体内のエネルギー産生が滞り、慢性的な疲労感を感じやすくなります。
- 息切れ・動悸: 鉄は、赤血球中のヘモグロビンというタンパク質の材料となり、酸素を全身に運ぶ役割を担っています。鉄が不足すると、酸素が全身に行き渡りにくくなり、息切れや動悸が起こりやすくなります。これは、階段を上るときに息切れがする、少し動いただけで心臓がドキドキする、といった症状に現れます。
- 顔面蒼白: 健康的な人の顔色は、薄いピンク色をしていますが、隠れ貧血の人は、血色の悪さや顔色の悪さ(蒼白)が目立つようになります。これは、皮膚の下を流れる血液中のヘモグロビンが減少することで、皮膚の色が薄くなるために起こります。
- 集中力・思考力の低下: 鉄は、脳神経伝達物質の合成にも関与しています。鉄が不足すると、脳への酸素供給が不足し、集中力や思考力の低下を招くことがあります。
これらの症状は、隠れ貧血だけでなく、他の病気でも見られることがあります。自己判断せずに、医療機関を受診し、適切な検査を受けるようにしましょう。
隠れ貧血と普通の貧血の違い
隠れ貧血と普通の貧血は、どちらも鉄不足が原因で起こりますが、血液検査の結果に違いが見られます。
- 普通の貧血: 血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態です。
- 隠れ貧血: ヘモグロビン濃度は正常範囲内ですが、体内の貯蔵鉄が減少している状態です。つまり、鉄工場ではまだ製品(赤血球)は正常に作られていますが、鉄の在庫(貯蔵鉄)が底をつきかけている状態と言えるでしょう。
隠れ貧血を放置すると、普通の貧血に移行する可能性もあります。
貯蔵鉄とは?血液検査でわかること
貯蔵鉄は、血液検査ではフェリチンという項目で測定します。フェリチンは肝臓などに貯蔵されている鉄分のことを指し、体内にどのくらい鉄分が蓄えられているかを知ることができます。
フェリチンの値が低い場合は、体の中の鉄分の貯金が減ってきているサイン。つまり、潜在性鉄欠乏症の可能性があるということです。
このフェリチンの値は、血液検査を受けないとわかりません。 気になる症状がある方は、医療機関を受診して検査を受けてみましょう。
隠れ貧血の原因とリスク要因
それでは「隠れ貧血」は一体何が原因で起こるのでしょうか?また、どのような人がなりやすいのでしょうか? 隠れ貧血は、自覚症状が少ないまま進行し、放っておくと様々な体の不調につながる可能性もあるため、原因とリスク要因をしっかりと理解しておくことが大切です。
隠れ貧血の主な原因
隠れ貧血の主な原因は、鉄不足です。
鉄は、私たちの体の中で、酸素を運ぶ「宅配便のトラック」のような役割をする「赤血球」を作るのに欠かせない栄養素です。 鉄が不足すると、この「トラック」が十分に作られず、体全体に酸素が行き渡りません。 そうなると、体中の細胞が「酸素不足で息苦しい!」と感じてしまい、様々な不調が現れます。
鉄不足の原因として最も多いのは、食事からの鉄分の摂取不足です。 特に、偏った食生活やダイエットをしている人は、鉄分が不足しやすいため注意が必要です。
例えば、無理なダイエットで食事量が極端に減ったり、インスタント食品やファストフードばかり食べていると、必要な鉄分が不足してしまうことがあります。 これは、必要な材料(鉄分)が足りなくて、「トラック」の生産ラインがストップしてしまうイメージです。
その他にも、次のような原因で鉄不足に陥ることがあります。
- 鉄の吸収を阻害する食品の過剰摂取:コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれるタンニンは、鉄と結びついて吸収を妨げる「邪魔者」のような働きをします。食事と一緒に摂る際は、量に気をつけましょう。
- 鉄の吸収を助けるビタミンやミネラルの不足:ビタミンCは、鉄の吸収を助ける「パートナー」のような存在です。鉄分の多い食事と一緒に、ビタミンCが豊富な果物や野菜を摂るように心がけましょう。
- 過度な運動による鉄の消費量の増加:運動は健康に良いですが、激しい運動をする人は、汗や尿の中に鉄分が排出されやすくなります。
- 月経、妊娠、授乳などによる鉄の需要増加:女性は、月経や妊娠、授乳など、ライフステージによって鉄の必要量が大きく変動します。特に、月経のある女性は、毎月血液と共に鉄分を失うため、男性よりも多くの鉄分を摂取する必要があります。
隠れ貧血になりやすい人の特徴
隠れ貧血は、誰でも起こる可能性がありますが、特に月経のある女性:月経のある女性は、毎月鉄分を失うため、鉄不足に陥りやすいです。
隠れ貧血の診断と治療
隠れ貧血は、健康診断などでもヘモグロビンが正常で見過ごされるケースも多いです。
例えば、先日来院されたある女性は、以前からの疲れやすさの訴えがありました。各種検査を行いましたが、「ヘモグロビン」の値含め大きな異常はなく、追加で測定したフェリチンの値が非常に低く、隠れ貧血であることが判明しました。
この方は鉄剤の投与を行い、自覚症状の改善がみられましたが、この様にヘモグロビン値が正常範囲内であっても、フェリチン値が低い場合は、隠れ貧血と診断されることがあります。
隠れ貧血の診断には、血液検査が欠かせません。血液検査では、ヘモグロビン、フェリチン、血清鉄などの値を総合的に判断します。
- ヘモグロビン: 赤血球の中に含まれるタンパク質で、酸素を全身に運ぶ役割を担っています。ヘモグロビン値が低い場合は、酸素を運ぶトラックが不足している状態、つまり貧血の可能性があります。
- フェリチン: 体内に貯蔵されている鉄分の量を示す指標です。フェリチンは、鉄分という宝物を貯蔵する倉庫のようなものです。フェリチン値が低い場合は、倉庫に鉄分が十分に貯蔵されていない状態、つまり隠れ貧血の可能性があります。
- 血清鉄: 血液中の鉄分の量を示す指標です。血清鉄は、今まさに血液中を流れている鉄分の量を示します。血清鉄値が低い場合は、鉄分の摂取不足や吸収不良などが考えられます。
これらの検査結果に加えて、患者さんの症状や生活習慣なども考慮しながら、隠れ貧血かどうかを診断します。
隠れ貧血の治療法と薬物療法
隠れ貧血の治療の多くは、鉄剤の内服が一般的です。鉄剤は、不足している鉄分を補給することで、貧血の改善を促します。
鉄剤には、錠剤、カプセル、シロップ、注射薬など、さまざまな種類があります。
患者さんの年齢や症状に合わせて、最適なものを選択しますが、人によっては鉄剤を服用すると、吐き気や便秘などの副作用が現れることがあります。
副作用が気になる場合は、医師に相談し、服用方法や種類の変更、注射薬へ変更するなどの対応が必要です。また、鉄剤は食後に服用すると、胃腸への負担を軽減することができます。
鉄剤による治療に加えて、食事療法も大切です。鉄分を多く含む食品を積極的に摂取することで、鉄分の吸収を促進し、治療効果を高めることができます。
鉄分を多く含む食品としては、レバーやほうれん草、ひじきなどが挙げられます。ビタミンCを一緒に摂取すると、鉄分の吸収がアップするため、これらの食品と、ビタミンCを多く含む果物や野菜を一緒に食べるように心がけましょう。
治療期間は、貧血の程度や治療への反応性によって個人差がありますが、一般的には数か月間、鉄剤を服用することで、改善が期待できます。
ただし、自己判断で鉄剤の服用をやめてしまうと、貧血が再発する可能性があります。医師の指示に従って、きちんと治療を継続することが大切です。
貧血に対する予防策と食事療法
貧血と診断されると、生活習慣の見直しと食事療法が必要です。わかりやすく説明していきます。
貧血の予防に役立つ生活習慣改善
貧血の予防には、バランスの取れた食事と規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。
- バランスの取れた食事を心がける: 毎日の食事で、主食・主菜・副菜を揃え、様々な食材を食べるように意識しましょう。偏った食生活は、栄養バランスを崩し、隠れ貧血のリスクを高める可能性があります。例えば、インスタント食品やファストフードばかりの食生活は避け、自炊の機会を増やすなど、食生活を見直してみましょう。
- 規則正しい生活を送る: 睡眠不足や不規則な生活は、体のリズムを崩し、鉄分の吸収を悪くする可能性があります。十分な睡眠をとり、朝、昼、晩と規則正しく食事をとるように心がけましょう。
- 適度な運動を習慣化する: 適度な運動は、血行を促進し、鉄分の吸収を助けます。激しい運動は逆効果になる場合があるので、ウォーキングなどの軽い運動を習慣的に行うようにしましょう。運動不足を感じている方は、毎日の通勤時に一駅分歩く、エスカレーターではなく階段を使うなど、日常生活の中で体を動かすことを意識してみましょう。
- 定期的に健康診断を受ける: 隠れ貧血は、自覚症状が出にくい病気です。定期的な健康診断で、貧血の有無をチェックすることが大切です。健康診断の結果、貧血が疑われる場合は、医療機関を受診し、適切な検査や治療を受けるようにしましょう。
貧血に効果的な食材と食事レシピ
貧血を改善するには、鉄分を多く含む食材を積極的に摂り、鉄欠乏の状態を改善することが重要です。
鉄分には、体に吸収されやすい「ヘム鉄」と、吸収されにくい「非ヘム鉄」の2種類があります。貧血の改善には、どちらの鉄分もバランスよく摂取することが大切です。
- ヘム鉄を多く含む食材(吸収率10~20%)
- レバー(豚、鶏、牛): レバーは、鉄分を豊富に含む食材です。貧血予防には非常に効果的ですが、コレステロール値が気になる方は、摂り過ぎに注意が必要です。週に1回程度を目安に、他の食材とバランス良く食べましょう。レバーが苦手な方は、鶏ひき肉や豚ひき肉などでも、効率良く鉄分を摂取できます。
- 赤身の魚(マグロ、カツオ、イワシ): マグロやカツオは、お刺身やお寿司など、様々な食べ方で食事に取り入れやすい食材です。イワシは、缶詰や煮干しなど、手軽に食べられるのも魅力です。
- 赤身の肉(牛肉、豚肉): 牛肉や豚肉は、ハンバーグやステーキなど、子供も大好きなメニューに使われます。これらの料理に、鉄分を多く含むほうれん草や小松菜などを添えると、さらに効果的です。
- 非ヘム鉄を多く含む食材(吸収率1~6%)
- 緑黄色野菜(ほうれん草、小松菜、ブロッコリー): 緑黄色野菜には、鉄分の他にも、ビタミンやミネラルが豊富に含まれています。彩り豊かに、色々な野菜を食べるように心がけましょう。
- 豆類(納豆、豆腐、ひじき): 納豆や豆腐などの大豆製品は、良質なタンパク質源であると同時に、鉄分も豊富です。ひじきは、鉄分だけでなく、食物繊維も豊富に含んでいます。和食中心の食生活を意識することで、自然と摂取量を増やすことができます。
最後に
ここまで貧血、隠れ貧血についてお話ししましたが、貧血の中には重大な病気が潜んでいる場合もあります。
婦人科系の病気や胃潰瘍、胃や腸などの消化管の腫瘍などにより血液が失われて起こっている可能性もあります。
貧血を指摘されたら、胃や大腸の内視鏡検査も受ける様にしてください。
*当院でも上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)、下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ検査)を行っています。
こちらからネット予約も出来ますし、お電話(097-567-5005)で直接予約いただくことも可能です。貧血を指摘された方はお気軽にお声掛けください。