食道にカビ!?カンジダ性食道炎とは?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
「食道にカビって、まさか私?」そう思った方もいるのではないでしょうか?実は、私たちの体の中には、普段は悪さをしないけれど、ときどきいたずら好きになる「カンジダ菌」というカビの仲間が住んでいます。このカンジダ菌が食道に住み着いて炎症を起こしてしまう病気、それが「カンジダ性食道炎」です。この記事では、食道カンジダの症状から原因、治療法まで詳しく解説します。カンジダ菌が食道でどんな悪さをしているのか、そしてどのように対処すればいいのか、ぜひ読み進めてみてください。
食道にカビ?カンジダ性食道炎とは?
皆さんの体の中には、普段は悪さをしないけれど、ときどきいたずら好きになる、目に見えないほど小さな「カンジダ菌」というカビの仲間が住んでいます。このカンジダ菌は、口の中や皮膚、お腹の中など、色々な場所にひそんでいるんです。
「食道カンジダ」は、正式には「カンジダ性食道炎」と呼ばれています。カンジダ菌が食道に住み着き、そこで増殖することで炎症を起こしてしまう病気です。
カンジダ菌は、実は健康な人の体にも存在しています。普段は、他の菌とバランスを取りながら、おとなしく過ごしているのですが、体の免疫力が低下したり、抗生物質を長期間使用したりすると、このバランスが崩れてしまい、カンジダ菌が増殖しやすくなってしまいます。
その結果、食道に炎症が起き、食べ物を飲み込む時に痛みを感じたり、胸や背中が焼けるような感覚に襲われたりするようになります。
例えば、風邪をひいて抗生物質を飲んでいた後、喉の痛みや違和感を感じることがありますよね。これは、抗生物質の影響で、口の中の常在菌のバランスが崩れ、カンジダ菌が増殖してしまうことで起こることがあります。
食道カンジダの症状とは何か
食道カンジダになると、食べ物を飲み込む時に痛みを感じるようになります。特に、熱い飲み物や香辛料の効いた刺激物などを飲み込むと、痛みが強くなることがあります。
これは、炎症を起こした食道が、熱いものや刺激物に過敏になっているためです。また、胸や背中が焼けるような感覚や、胸のあたりに何かが詰まっているような違和感を感じることもあります。さらに、吐き気や嘔吐、食欲不振、体重減少などの症状が現れることもあります。
これらの症状は、風邪や胃腸炎など、他の病気でも見られることがあります。自己判断は禁物です。医療機関を受診し、適切な検査を受けるようにしましょう。
食道カンジダの原因と感染経路について知っておこう
食道カンジダは、カンジダ菌が食道に感染することで発症します。しかし、健康な状態であれば、カンジダ菌は悪さをしません。
食道カンジダを発症する原因としては、免疫力が低下していることが挙げられます。免疫力とは、体の中に侵入してきた病原菌やウイルスなどと戦ってくれる、いわば体の防衛システムのようなものです。
例えば、病気の治療中や抗がん剤の使用、臓器移植後などは、この免疫力が低下しやすいため、食道カンジダのリスクが高まります。
その他にも、糖尿病やHIV感染症なども、免疫機能に影響を与えるため、食道カンジダのリスク因子となります。
さらに、ステロイド薬や抗生物質などの薬の使用も、カンジダ菌の増殖を促す可能性があり、食道カンジダの発症に繋がることがあります。
食道カンジダは、空気感染や接触感染などで、人から人へとうつる病気ではありません。
食道カンジダはどのように診断されるのか
食道カンジダの診断は、患者さんのお話を伺うことから始まります。「いつから」「どのような症状が」「どのくらいの頻度であるか」などを詳しく伺います。これは、患者さん一人ひとりの症状や生活習慣によって、食道カンジダの原因となる菌や重症度が異なるためです。
次に、口の中やのどを観察します。食道カンジダの場合は、白い苔のようなものが付着していることがあります。これは、カンジダ菌が増殖しているために起こる現象で、まるでヨーグルトをこぼしたあとのように見えます。
さらに、食道の状態を詳しく調べるために、内視鏡検査を行います。内視鏡検査では、細い管状のカメラを口から挿入し、食道の内部を観察します。この検査によって、食道の炎症の程度や、カンジダ菌の感染が広がっている範囲などを確認することができます。内視鏡検査は、食道だけでなく、胃や十二指腸の検査にも用いられる、非常に有用な検査です。
食道カンジダの検査方法とその特徴
食道カンジダの検査には、主に以下の3つの方法があり、これらの検査を組み合わせて行うことで、より正確な診断が可能になります。
- 内視鏡検査(胃カメラ): 口や鼻から細い管を入れて、食道の様子を直接観察します。炎症の程度や白い苔の有無を確認できます。この検査では、食道が赤く腫れているかどうか、白い苔状のものが付着しているかどうかなどを確認します。また、必要があれば組織を採取して、顕微鏡でカンジダ菌がいるかどうかを調べます。
- 生検: 内視鏡検査の際に、食道の組織を少しだけ採取して、顕微鏡でカンジダ菌がいるかどうかを調べます。¥
- 培養検査: 内視鏡検査や生検で採取した組織から、カンジダ菌を培養して、菌の種類や薬剤に対する感受性を調べます。これは、カンジダ菌がどの薬によく効くかを調べる検査です。食道カンジダの治療には、抗真菌薬という薬が使われますが、カンジダ菌の種類によっては、効果が弱い薬や、逆に効果が強すぎる薬があります。培養検査を行うことで、患者さんに最適な薬を選ぶことができます。
食道カンジダの治療法と薬物療法
食道カンジダの治療は、お口の中に住み着いてしまったカンジダ菌をやっつけることが目標です。
そのために、主に飲み薬(抗真菌薬)を使います。
抗真菌薬は、カビなどの真菌を退治する薬で、錠剤やカプセル、シロップなど、患者さんの状態に合わせて処方されます。
例えば、錠剤が苦手な小さなお子さんには、甘いシロップのお薬を処方することもありますのでご安心ください。
食道カンジダの治療期間と回復までの時間
食道カンジダの治療期間は、症状の重さや治療への反応、そして、患者さんの免疫力によって個人差があります。
多くの場合、数週間から数ヶ月で症状は改善します。
しかし、免疫力が低下している方や、再発を繰り返す方は、治療に時間がかかることもあります。
例えば、病気や薬の影響で免疫力が低下している場合は、カンジダ菌がなかなか減らず、治療に時間がかかってしまうことがあります。
また、抗真菌薬が効きにくい種類のカンジダ菌に感染している場合は、お薬を変更したり、治療期間を延長したりする必要があるかもしれません。
食道カンジダの治療薬の副作用とリスクについて知る
食道カンジダの治療薬は、一般的に安全性の高いものですが、場合によっては、吐き気や下痢、腹痛、発疹などの副作用が現れることがあります。
これは、お薬が体に合わないために起こる反応で、誰にでも起こるわけではありません。
副作用が心配な方は、医師に相談して、自分に合ったお薬を処方してもらうことが大切です。
また、ごくまれに、肝機能障害などの重い副作用が起こることがあります。
肝臓は、体の中でアルコールを分解したり、毒素を処理したりする大切な臓器です。
肝機能障害が起こると、体がだるくなったり、黄疸が出たりすることがあります。
お薬を服用する際には、事前に医師から副作用やリスクについて詳しく説明を受けておくことが大切です。
食道カンジダの予防方法と生活習慣の改善
食道カンジダは、口の中や消化管に存在するカンジダ菌が異常に増殖することで発症します。カンジダ菌は健康な人にも存在する菌ですが、免疫力が低下したときなどに異常増殖しやすくなります。食道カンジダの予防には、カンジダ菌の異常増殖を抑え、免疫力を高める生活習慣を心がけることが重要です。
具体的には、次のような点に注意しましょう。
- バランスの取れた食事を心がけましょう。: 免疫力を高めるためには、栄養バランスの取れた食事を摂ることが大切です。特に、タンパク質、ビタミン、ミネラルをしっかりと摂取しましょう。
- 例えば、朝食はパンだけ、昼食は麺類だけ、夕食は丼ものだけ、といった偏った食事を続けていると、必要な栄養素が不足し、免疫力が低下しやすくなります。
- 毎食、主食・主菜・副菜をそろえ、様々な食材をバランスよく食べるように心がけましょう。
- 十分な睡眠をとりましょう。: 睡眠不足は免疫力を低下させる要因の一つです。毎日、十分な睡眠時間を確保するようにしましょう。
- 睡眠不足が続くと、体内で炎症が起こりやすくなり、免疫細胞の働きが弱まってしまいます。
- 質の高い睡眠をとるためには、寝る前にスマホやパソコンを見るのを控えたり、部屋の温度や湿度を調整したりするなど、リラックスできる環境を整えることが大切です。
- 適度な運動を習慣にしましょう。: 適度な運動は、ストレスを解消し、免疫力を高める効果があります。ウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で体を動かすようにしましょう。
- 運動は、免疫細胞を活性化させ、免疫力を高める効果があります。また、ストレスを解消することで、免疫力の低下を防ぐことにもつながります。
- 激しい運動は、逆に免疫力を低下させてしまう可能性があるので、無理のない範囲で行うようにしましょう。
- 禁煙を心がけましょう。: タバコは、免疫力を低下させるだけでなく、食道カンジダのリスクを高めることもわかっています。禁煙は食道カンジダの予防だけでなく、健康全体にとっても重要です。
- タバコの煙に含まれる有害物質は、体の細胞を傷つけ、免疫力を低下させてしまいます。
- また、タバコは、食道の粘膜を傷つけ、カンジダ菌が感染しやすくしてしまう可能性もあります。
- 口腔内を清潔に保ちましょう。: 口の中は、カンジダ菌が繁殖しやすい環境です。食後は歯磨きをしたり、うがいをしたりして、口腔内を清潔に保ちましょう。入れ歯を使用している場合は、寝る前に外して洗浄し、清潔な状態で保管するようにしましょう。
- 歯周病は、歯茎に炎症が起こり、免疫力が低下する原因となります。食道カンジダを予防するためにも、日頃から歯周病予防を心がけましょう。
- 歯磨きだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを使って、歯と歯の間の汚れもしっかりと落とすことが大切です。
- 規則正しい生活を心がけましょう。: 規則正しい生活は、体のリズムを整え、免疫力を維持するために大切です。
- 睡眠不足や不規則な食生活は、自律神経のバランスを崩し、免疫力を低下させてしまいます。
- 毎日、決まった時間に起床し、食事をとり、就寝するように心がけましょう。
- ストレスを溜め込まないようにしましょう。: ストレスは、免疫力を低下させる大きな要因の一つです。趣味やリフレッシュなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
- ストレスを感じると、体内でコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールは、免疫細胞の働きを抑え、免疫力を低下させてしまいます。
- ストレスを溜め込まずに、こまめに発散することが大切です。
食道カンジダの再発を防ぐための対策
食道カンジダは、一度発症すると再発しやすい病気です。食道カンジダの原因となるカンジダ菌を完全に体内から排除することが難しいことに加え、免疫力が低下しやすい状態が続くと、再びカンジダ菌が増殖しやすくなるためです。例えば免疫抑制剤などを使用している場合などは、特に注意が必要です。
食道カンジダの再発を防ぐためには、以下の対策を継続して行うことが重要です。
- 医師の指示に従って、薬物療法を継続しましょう。: 食道カンジダの治療には、抗真菌薬が用いられます。症状が改善しても、自己判断で服用を中止せず、医師の指示に従って最後までしっかりと治療を続けることが大切です。
- 抗真菌薬は、カンジダ菌の増殖を抑え、食道カンジダの症状を改善する効果があります。
- しかし、自己判断で服用を中止してしまうと、体内に残ったカンジダ菌が再び増殖し、再発してしまう可能性があります。
- 食道カンジダを発症しやすい病気の治療やコントロールをしっかり行いましょう。: 糖尿病やHIV感染症などの基礎疾患がある場合は、その病気の治療やコントロールをしっかり行うことで、食道カンジダの再発を予防することができます。
- 糖尿病は、血液中の糖分が高い状態が続く病気です。カンジダ菌は糖分を栄養源とするため、糖尿病の人は食道カンジダを発症しやすくなります。
- HIV感染症は、免疫力を低下させる病気です。免疫力が低下すると、カンジダ菌が増殖しやすくなり、食道カンジダを発症しやすくなります。
- 免疫力を低下させないように、生活習慣に気をつけましょう。: 食道カンジダの再発を防ぐためには、免疫力を低下させないことが重要です。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、禁煙など、健康的な生活習慣を心がけましょう。
食道カンジダは、再発を繰り返すこともありますが、根気強く治療を続けることで、症状を抑え、健康な状態を維持することができます。日ごろから予防を心がけ、再発を防ぐようにしましょう。
食道カンジダと他の病気との違い
食道カンジダは、その症状が他の病気と似ていることがあり、自己判断が難しい病気です。そのため、医療機関を受診し、医師の診断を受けることが重要です。
食道カンジダと他の病気の症状との比較
食道カンジダでは、胸やけや飲み込みにくさといった症状が現れます。しかし、これらの症状は逆流性食道炎や食道がんなど、他の病気でもみられます。
例えば、脂っこい食事の後、みぞおちのあたりが焼けるような不快感を覚えることはありませんか?これは、胃酸が食道に逆流することで起きる逆流性食道炎でよくみられる症状です。また、食べ物がつかえる、飲み込みにくいといった症状が出る場合も、逆流性食道炎や食道がんの可能性があります。
このように、食道カンジダは他の病気と症状が似通っているため、症状だけから判断することは容易ではありません。
まとめ
食道カンジダは、食道にカンジダ菌が感染し、炎症を起こす病気です。 免疫力の低下、抗生物質の長期使用などが原因で発症し、食べ物を飲み込む時の痛み、胸や背中の焼けるような感覚などの症状が現れます。 診断には内視鏡検査や組織検査などが行われ、抗真菌薬による治療が有効です。 食道カンジダは再発しやすい病気ですが、バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレスの解消など、健康的な生活習慣を心がけることで予防できます。 症状が疑われる場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
参考文献
- Du F, Qian W, Zhang X, Zhang L and Shang J. Prevalence of oral mucosal lesions in patients with systemic Lupus Erythematosus: a systematic review and meta-analysis. BMC oral health 23, no. 1 (2023): 1030.