ピロリ菌について
わだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
ピロリ菌って、一体どうやって私たちの体の中に入ってくるのか、不思議に思ったことはありませんか?実は、ピロリ菌は、主に口から侵入してくるんです。
口からの感染経路に注意
ピロリ菌は、感染している人の胃の中や、便の中に潜んでいます。そして、例えば、ピロリ菌が付着した食べ物を口にしたり、汚染された水を飲んだりすることで、私たちの体の中に入ってきてしまうのです。
例えば、こんな場面を想像してみてください。
- 家族で鍋を囲んでいる時、自分の箸で鍋の中の具材を取り分けた後、うっかり自分の使った箸でまた別の具材を取りに行ってしまった。
- 井戸水や湧き水など、消毒されていない水を、うっかりそのまま飲んでしまった。
このような場合、もしも一緒に食事をした人や、同じ食器、同じ水を共有した人がピロリ菌に感染していると、自分自身も感染してしまうリスクがあります。
ピロリ菌感染の症状や特徴を詳しく解説
ピロリ菌に感染したからといって、必ずしも症状が現れるわけではありません。症状が現れないまま、何年も感染しているケースも少なくありません。自覚症状がないまま放置してしまうと、胃に負担がかかり続け、将来的に胃腸の病気を発症するリスクが高まる可能性があります。
これは、例えるなら、知らないうちに小さな虫歯ができていて、痛みを感じないまま放置しておくと、虫歯がどんどん進行してしまい、最終的には歯を抜かなければいけなくなるのと似ています。早期発見、早期治療が大切なのです。
誰でもかかるわけではないピロリ菌感染の症状
ピロリ菌感染による症状は、以下のようにさまざまです。
- 胃痛・腹痛:
- 食後や空腹時にみぞおちあたりが痛む、キリキリする、締め付けられるような感じがするなど。
- 例えば、患者さんから「みぞおちのあたりが、空腹になるとシクシク痛むんです」と訴えられることがあります。これは、ピロリ菌の炎症による炎症によって胃の粘膜を刺激するためと考えられます。
- 胃もたれ:
- 食後になかなか胃が空にならず、重い感じがしたり、不快感が残ったりする。
- 「食事の後、いつも胃が重くて、なかなか食欲が出ないんです」といった訴えもよく聞きます。これは、ピロリ菌が胃の運動機能を低下させるためと考えられています。
- 胸やけ:
- 胸や喉に焼けるような痛みや不快感を感じる。
- 特に、夜寝る前に胸やけがすることが多く、「夜中に目が覚めてしまう」という患者さんもいます。
- 吐き気:
- 吐き気がする、実際に吐いてしまうこともある。
- 食欲不振:
- 食欲がなくなり、食事量が減ってしまう。
- 膨満感:
- 食後にお腹が張った感じがする。
これらの症状は、ピロリ菌感染以外にも、さまざまな原因で起こることがあります。例えば、ストレスや生活習慣の乱れ、他の病気などが原因で同じような症状が出ることもあります。そのため、自己判断せずに、医療機関を受診して、適切な検査を受けることが大切です。
胃がんなどの重篤な疾患につながる可能性も
ピロリ菌は、胃がんをはじめ、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫などの消化器疾患のリスクを高めることが分かっています。ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に慢性的な炎症が起こり、胃粘膜が萎縮していくことがあります。この状態が長く続くと、胃がんが発生しやすくなると考えられています。
これは、家が古くなっていく過程に似ています。築年数が経つにつれて、家の柱や壁に老朽化が見られるようになり、放置すればするほど、家は倒壊の危険性が高まります。
ピロリ菌感染による胃粘膜の萎縮も、同じように、放置すればするほど、胃がんという「家の倒壊」を引き起こすリスクが高まります。
ピロリ菌は、早期に除菌治療を行うことで、これらの病気の発症リスクを抑制できる可能性があります。
ピロリ菌の検査方法と検査の流れ
ピロリ菌の検査方法は、大きく分けて胃カメラを使う方法と使わない方法の2種類があります。これは、例えるなら、泥棒が家に侵入した形跡を探すのに、家の中を直接調べるか、家の外から痕跡を探すかの違いに似ています。どちらの方法が適しているかは、患者さんの状態や希望によって異なります。
内視鏡検査(胃カメラ)によるピロリ菌の確認手順
内視鏡検査(胃カメラ)は、まさに「家の中を直接調べる」方法です。口や鼻から細い管を挿入し、食道、胃、十二指腸の内部を直接観察します。この検査では、ピロリ菌がいるかどうかだけでなく、そのピロリ菌によって胃にどのような影響が出ているのか、例えば、炎症を起こしていないか(胃炎)、傷ができていないか(胃潰瘍)、さらには癌になっていないか(胃がん)といったことも確認することができます。
検査中に採取した組織を使って、ピロリ菌の存在を調べる方法が一般的です。これは、泥棒が家に侵入した時に残した指紋を採取するようなもので、非常に精度の高い検査と言えます。
内視鏡検査は、患者さんにとって負担が大きい検査ではありますが、その分、多くの情報を得ることができます。ピロリ菌感染の有無だけでなく、胃の粘膜の状態を詳しく観察できるため、他の胃の病気の早期発見にもつながります。早期発見は、病気の治療をよりスムーズに進めるために非常に大切です。
尿素呼気試験や便検査による非侵襲的な検査方法
内視鏡検査以外にも、「家の外から痕跡を探す」ように、胃カメラを使わずにピロリ菌の感染を調べる方法があります。
当院では組織検査を必要としない「尿素呼気試験」、血液や尿、便を用いた「抗ヘリコバクター・ピロリ抗体検査」、「便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定法」を用いる場合が多いですが、中でも正確性の高い、尿素呼気試験を主に行なっております。
*ピロリ菌の検査を保険診療で行うには、検査前に胃カメラを行う必要があります。
これらの検査方法は、身体への負担が少なく、比較的簡便に行えるというメリットがあります。しかし、検査の精度は内視鏡検査よりも劣る場合があるため、検査結果によっては、より詳しく調べるために内視鏡検査が必要になることもあります。
ピロリ菌の検査にかかる費用や保険適用について
ピロリ菌の検査を受けたいけど、費用がいくらかかるのか、保険は適用されるのか気になりますよね。検査方法はさまざまで、検査方法や医療機関によって費用は異なります。
保険適用の有無について
ピロリ菌の検査は、大きく「胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)」と「それ以外の検査」に分けられます。
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
- これは、口または鼻から細い管を入れて、食道、胃、十二指腸の内部を直接観察する検査です。
- ピロリ菌がいるかどうかだけでなく、胃炎や胃潰瘍など、他の病気も発見できるメリットがあります。
- 費用は、医療機関や地域、検査の内容(組織検査の有無など)によって異なり、3割負担の場合で5,000円~10,000円程度が相場です。
- ただし、胃カメラ検査は、医師が必要と判断した場合に保険適用となります。
胃カメラ以外の検査
- 胃カメラ以外の検査には、「ピロリ菌検査(尿素呼気試験、便中抗原検査)」と「ABC検診」があります。
- 「ABC検診」は、胃がんリスクを調べる血液検査で、ピロリ菌感染の有無もわかります。
- 「ピロリ菌検査」は医師が必要と判断した場合に保険適用となりますが、「ABC検診」は保険適用外で全額自己負担となります。
保険適用の条件と自己負担の可能性に注意
ピロリ菌の検査費用は、必ずしも保険適用されるとは限りません。
保険適用の条件
- 医師がピロリ菌感染の疑いがあると判断した場合に保険が適用されます。
- 例えば、胃の痛みやもたれ、胸やけなどの症状がある場合や、胃がんの家族歴がある場合、過去に胃潰瘍と診断されたことがある場合などが該当します。
自己負担の可能性
- 保険適用範囲外の検査の場合、全額自己負担となります。
- 例えば、「ABC検診」や、医師が必要と判断しないで行ったピロリ菌検査などが該当します。
ピロリ菌感染のリスク因子と感染予防法を解説
ピロリ菌は、胃の中に住み着く細菌です。目には見えず、多くの場合、症状はありませんが、胃炎や胃潰瘍、そして胃がんのリスクを高める可能性があります。ピロリ菌に感染するリスクを高める要因と、感染を防ぐための予防法について詳しく解説します。
衛生状態の改善と感染予防のための予防法
ピロリ菌感染のリスクを減らすための予防法を紹介します。ピロリ菌は、日常生活で誰もが感染する可能性のある身近なものです。しかし、日頃から予防を心がけることで、感染リスクを下げることができます。
- 手洗いの徹底: トイレの後や食事の前、調理の前後には必ず石鹸と水で手を洗いましょう。特に、小さな子どもがいる場合は、こまめな手洗いが重要です。なぜなら、子どもは手を口に入れたり、おもちゃを舐めたりすることが多く、ピロリ菌に感染するリスクが高いからです。手洗いは、感染症予防の基本であり、ピロリ菌感染予防にも非常に効果的です。手洗いは、まるで目に見えない細菌という敵から身を守る「盾」のようなものです。
- 食品の衛生管理: 食材は十分に洗い、加熱してから食べましょう。特に、生肉や生魚を扱う際には、他の食材や調理器具を介して細菌が拡散しないよう注意が必要です。調理器具は使用後、洗剤でよく洗い、清潔に保ちましょう。これは、食中毒予防にもつながります。
- 食器の共有を避ける: ピロリ菌感染者との食器の共有は避けましょう。特に、箸やスプーンなど、口に入れるものを共有するのは避けた方が無難です。家族に感染者がいる場合は、食器を別々にしたり、食洗機を使用したりするのも有効です。食洗機は高温で洗浄するため、ピロリ菌を殺菌する効果が期待できます。
- 定期的な健康チェック: 定期的に健康診断を受け、胃カメラ検査を受ける様にしましょう。早期発見、早期治療が大切です。ピロリ菌の検査は、血液検査や便検査、尿素呼気試験など、比較的簡単に受けることができます。
ピロリ菌は、感染していても自覚症状がない場合がほとんどです。しかし、胃炎や胃潰瘍、胃がんのリスクを高める可能性があるため、予防を心がけ、定期的な検査を受けることが大切です。
参考文献
- Zhang T, Song SS, Liu M and Park S. Association of Fried Food Intake with Gastric Cancer Risk: A Systemic Review and Meta-Analysis of Case-Control Studies.. Nutrients 15, no. 13 (2023).