腸が黒い?大腸メラノーシスとは?

大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

「腸が黒い?」と聞いて、あなたはドキッとしたかもしれません。大腸カメラで「大腸メラノーシス」と診断され、不安を感じている方もいるでしょう。しかし、大腸メラノーシスは、腸の壁にメラニン色素が沈着したもので、病気ではありません。日焼けで肌が黒くなるように、腸も黒ずむことがあるのです。

実は、大腸メラノーシスは、近年増加傾向にあると言われています。2020年には、40万人を超える患者さんが確認されました。これは、便秘や食生活の乱れ、加齢などが原因と考えられています。

大腸メラノーシス自体は病気ではありませんが、大腸ポリープや大腸がんを見落としやすくなる可能性も指摘されています。そのため、定期的な大腸カメラ検査が重要です。今回は、大腸メラノーシスの原因や検査方法、治療法について詳しく解説します。あなたの腸の健康を守るために、ぜひ読み進めてください。

大腸メラノーシスとは何か

大腸メラノーシスとは、簡単に言うと「腸の壁の色が変化する現象」のことです。

皆さんは、お肌を日焼けさせてしまった経験はありませんか?日に当たりすぎると、お肌は赤くなってヒリヒリしたり、黒くなったりしますよね。それは、メラニン色素というものがお肌に沈着するからです。実はこれと同じように、腸の壁にもメラニン色素が沈着することがあります。その結果、腸が黒ずんでしまう現象を、大腸メラノーシスと呼ぶのです。

ところで、「大腸メラノーシスが見つかった!」と言われても、それが一体どういう意味を持つのか、不安に感じてしまう方もいるかもしれません。

安心してください。大腸メラノーシス自体は病気ではありません。大腸カメラ検査を受けた際に、偶然発見されることが多いです。

一般的な原因とリスク要因

では、なぜ腸にメラニン色素が沈着してしまうのでしょうか?実は、その原因はまだはっきりと解明されていません。しかし、いくつかの要因が関係していると考えられています。

その中でも、最も影響が大きいと考えられているのが便秘です。便秘になると、便が腸内に長くとどまることになります。便は、食べたものが消化・吸収された後の残りカスのようなものです。長い間、腸内に留まっていると、その中の物質が腸の壁を刺激し、メラニン色素の沈着を促してしまうと考えられています。

その他にも、以下のような要因が考えられています。

  • 加齢: 年を重ねるにつれて、体の様々な機能が低下していきます。腸の機能も例外ではなく、メラニン色素の代謝が悪くなることで、沈着しやすくなると考えられます。
  • 遺伝的な要因: ご家族に大腸メラノーシスの方がいる場合、なりやすい体質を受け継いでいる可能性があります。
  • 食生活の乱れ: 食事は健康の基本です。栄養バランスの偏った食事や、食物繊維の不足は、便秘のリスクを高めるため、結果的に大腸メラノーシスを引き起こしやすくなると考えられています。
  • ストレス: ストレスは万病の元です。ストレスを感じると、自律神経のバランスが乱れ、腸の動きにも悪影響を及ぼします。その結果、便秘になりやすくなり、大腸メラノーシスのリスクが高まると考えられています。
  • ある種の薬の服用: 便秘薬の中には、腸の動きを抑制するものがあります。その結果、便秘が悪化し、大腸メラノーシスを引き起こしやすくなる可能性があります。

これらの要因が重なることで、大腸メラノーシスが起こりやすくなると考えられています。

正常な状態との違い

健康な腸は、ピンク色をしています。これは、腸の粘膜に血液が豊富に流れているからです。一方、大腸メラノーシスが起こると、腸の粘膜にメラニン色素が沈着し、黒ずんで見えます。

大腸メラノーシスは、あくまで腸の色が変化するだけの現象です。腸の粘膜自体が変化したり、腸の働きが悪くなったりするわけではありません。

しかし、ここで注意が必要です。

経験の浅い内視鏡医を対象とした研究では、大腸メラノーシスがある場合、大腸ポリープなどの他の病変を見落とす可能性が高くなる可能性が示唆されます。

これは、大腸メラノーシスによって腸の壁が黒ずんでいると、大腸ポリープなどの病変との区別が難しくなるためだと考えられています。

このように、大腸メラノーシスは、大腸ポリープや大腸がんなどの病気と見分けにくい場合もあります。

大腸メラノーシスと他の疾患の関係

大腸メラノーシス自体は無害な変化ですが、他の腸の病気と関連している場合があるため、注意が必要です。例えば、大腸ポリープや大腸がんとの関連性が指摘されています。

大腸ポリープとの関連性

大腸メラノーシスがあると、腸の粘膜が黒ずんでしまい、その下のポリープが見えにくくなることがあります。

大腸メラノーシスがある場合は、より注意深く検査を行う必要があります。

大腸がんとの違い

大腸メラノーシス自体はがんではありませんし、がんになるリスクを高めるものでもありません。しかし、大腸がんの初期症状は乏しいことが多く、自覚症状がない場合もあります。ですから、大腸メラノーシスだからといって安心せずに、定期的に大腸カメラ検査を受けることが大切です。

合併症のリスクについて

大腸メラノーシス自体は無害ですが、便秘や下痢などの消化器症状を合併することがあります。これは、メラノーシスによって腸の動きが悪くなったり、腸内環境が変化することが原因と考えられています。

また、メラノーシスがあることで、大腸内視鏡検査の際にポリープやがんの発見が遅れる可能性も懸念されます。

大腸メラノーシスは、それ自体が病気ではありませんが、他の病気のサインかもしれません。

大腸メラノーシスの治療法

「大腸メラノーシス」と診断されると、どんな治療を受けるのか、気になる方も多いのではないでしょうか?ここでは、大腸メラノーシスの治療法について、具体的に解説していきます。。

治療法と治療期間の目安

大腸メラノーシス自体は病気ではないため、基本的には治療の必要はありません。

「え?腸が黒ずんでいるのに、治療しなくていいの?」

そう思われる方もいるかもしれません。

大腸メラノーシスは、例えるなら、お肌にできたシミのようなものです。シミ 自身 が体に害を及ぼすわけではありませんよね?

ただし、大腸メラノーシスは、長期間の便秘や特定の薬の使用が原因で起こる場合もあります。そのため、医師の判断によっては、便秘薬の使用を中止したり、食生活の改善などの指導を受けることがあります。

また、大腸カメラ検査中に大腸ポリープが見つかった場合は、その場で切除することが可能です。

まとめ

大腸メラノーシスは、腸の壁にメラニン色素が沈着することで黒ずむ現象で、病気ではありません。便秘や加齢などが原因と考えられますが、原因ははっきりしていません。大腸カメラ検査で偶然発見されることが多いです。大腸メラノーシス自体は無害ですが、ポリープや大腸がんを見落としやすくなる可能性があります。そのため、定期的な大腸カメラ検査が必要です。治療は基本的に必要ありませんが、便秘や食生活の乱れなどがあれば、医師の指導を受ける必要があります。

参考文献

  1. Lau LHS, Ho JCL, Lai JCT, Ho AHY, Wu CWK, Lo VWH, Lai CMS, Scheppach MW, Sia F, Ho KHK, Xiao X, Yip TCF, Lam TYT, Kwok HYH, Chan HCH, Lui RN, Chan TT, Wong MTL, Ho MF, Ko RCW, Hon SF, Chu S, Futaba K, Ng SSM, Yip HC, Tang RSY, Wong VWS, Chan FKL, Chiu PWY and ENDOAID-TRAIN study group. Effect of Real-Time Computer-Aided Polyp Detection System (ENDO-AID) on Adenoma Detection in Endoscopists-in-Training: A Randomized Trial. Clinical gastroenterology and hepatology 22, no. 3 (2024): 630-641.e4.