アニサキス症

アニサキス症の特徴と主な症状

アニサキス症は、アニサキスという寄生虫が原因で起こる食中毒です。生の魚介類、特にサバやイカを生で食べた後に、激しい腹痛や嘔吐などの症状が現れるのが特徴です。

「アニサキス?聞いたことはあるけれど、どんなものかよく知らない」という方もいらっしゃるかもしれません。アニサキスは、魚介類に寄生する寄生虫で、人体に侵入すると、胃や腸の壁に食い込み、激しい痛みを引き起こします。まるで小さなハリガネムシが、お腹の中で暴れているようなイメージです。

初期症状:急激な腹痛と嘔吐

アニサキス症の初期症状で最も特徴的なのは、食後数時間以内に現れる、胃のあたりの激しい痛みと吐き気です。まるでみぞおちを強く握りつぶされるような激痛が、突然襲ってくるのです。

よくある症状をまとめると、以下のようになります。

症状具体的な状態
激しい腹痛胃のあたりに突然起こる、キリキリとした痛み、焼けるような痛み
吐き気・嘔吐胃の内容物を何度も吐き出してしまう
発熱37度前後の微熱が出ることがある

これらの症状は、アニサキスが胃の壁に噛み付いたり、もぐりこんだりすることで起こります。食後すぐに症状が現れることもあれば、数時間~十数時間経ってから症状が現れることもあります。

例えば、夕方に新鮮なアジの刺身を食べた後、深夜に突然胃が痛み出し、激しい吐き気に襲われたとします。このような場合、アニサキス症の可能性が高いと考えられます。痛みは波のように強くなったり弱くなったりし、吐いても吐いても胃の不快感が治まらないこともあります。

じわじわと現れる症状:消化不良や腹部不快感

アニサキスは胃だけでなく、腸にも寄生することがあります。腸に寄生した場合、初期症状のような激しい腹痛や嘔吐はあまり見られません。その代わりに、なんとなく胃がもたれる、お腹が張る、軽い腹痛が続くといった、慢性的な消化不良のような症状が現れることがあります。

症状具体的な状態
消化不良食欲不振、胃もたれ、吐き気など
腹部膨満感お腹が張って苦しい
軽度の腹痛鈍い痛みが続く
便秘排便が困難になる
下痢水のような便、または泥状の便が続く
血便便に血が混じる(稀なケース)

これらの症状が続いている場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、検査を受けることをお勧めします。

重症例に注意:腸閉塞やアナフィラキシーショック

稀なケースですが、アニサキス症が重症化することもあります。アニサキスが腸壁に深く侵入すると、腸閉塞を起こすことがあります。腸閉塞になると、食べたものが腸を通過できなくなり、激しい腹痛や嘔吐、便秘などの症状が現れ、緊急手術が必要となることもあります。

また、アニサキスに対してアレルギー反応を起こしている場合、アナフィラキシーショックという重篤なアレルギー症状が現れることもあります。アナフィラキシーショックは、じんましん、呼吸困難、血圧低下、意識障害などの症状を伴い、生命に関わる危険性もあるため、迅速な対応が必要です。

重症例具体的な状態
腸閉塞激しい腹痛、嘔吐、便秘、お腹の張り
アナフィラキシーショックじんましん、呼吸困難、血圧低下、意識障害、顔や喉の腫れ

アニサキス症は適切な治療を行えば、多くの場合、後遺症なく回復します。しかし、重症化すると命に関わる危険性もあるため、少しでも異変を感じたら、すぐに医療機関を受診することが大切です。早期発見、早期治療が、重症化を防ぐ鍵となります。

アニサキスの感染経路と影響を与える食材

アニサキスによる食中毒は、近年増加傾向にあり、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。 特に、お刺身やお寿司など、生の魚介類を食べる機会が多い方は、アニサキス症のリスクについて知っておくことが大切です。この章では、アニサキスの感染経路や、どのような魚介類がアニサキス症のリスクを高めるのか、具体例を交えながらわかりやすく解説します。

お寿司や刺身に潜むアニサキスのリスク

アニサキスは、サバ、イカ、サンマ、アジ、イワシなどの魚介類に寄生する線虫です。これらの魚介類を生で食べると、アニサキスが胃や腸壁に侵入し、激しい腹痛や吐き気などの症状を引き起こします。これがアニサキス症です。

お寿司や刺身といった人気の日本食は、新鮮な魚介類を生で味わう料理であり、アニサキス症のリスクが伴います。新鮮な魚介類であっても、アニサキスが寄生している可能性は否定できません。

特に、アニサキスは内臓に寄生していることが多いので、新鮮な魚であっても、調理の際に内臓をきちんと処理しないと、アニサキスが身の部分に移動してしまう可能性があります。

また、家庭で魚を捌く場合も注意が必要です。釣ってきた魚をその場で捌いて刺身にして食べたところ、アニサキス症になってしまったというケースも少なくありません。魚を捌く際は、内臓を傷つけないように注意深く行い、アニサキスがいないか確認することが重要です。

食材リスク理由具体的な例
刺身生で食べるため、アニサキスが死滅しないサバ、イカ、アジ、カツオなどの刺身
寿司生で食べるため、アニサキスが死滅しないサバ、イカ、アジ、イワシなどの寿司
焼き魚加熱調理によりアニサキスが死滅するサバの塩焼き、サンマの蒲焼きなど
煮魚加熱調理によりアニサキスが死滅するブリの照り焼き、イワシの煮付けなど

新鮮な魚介類であっても、生で食べる際にはアニサキス症のリスクがあることを理解し、注意することが重要です。

加熱や冷凍による効果的な予防法

アニサキス症を予防するためには、魚介類を加熱するか冷凍することが効果的です。アニサキスは熱に弱く、70℃以上で加熱すればほぼ瞬時に死滅します。70℃という温度は、中心部までしっかり火が通る温度です。表面だけ焼いたり、煮たりしただけではアニサキスが生き残っている可能性があるので、注意が必要です。

また、-20℃で24時間以上冷凍することでも、アニサキスを死滅させることができます。家庭用冷凍庫は-20℃に達しない場合もあるので、より確実にアニサキスを死滅させるためには、48時間以上冷凍することが望ましいです。

  • 加熱: フライパンで焼く、揚げる、煮る、蒸すなど、中心部までしっかりと火を通すことでアニサキスを死滅させることができます。電子レンジでの加熱は、食品内部の温度が均一にならない場合があるので、アニサキス症の予防にはあまりおすすめできません。
  • 冷凍: 業務用の冷凍庫であれば-40℃程度で冷凍できるので、短時間でアニサキスを死滅させることが可能です。しかし、家庭用冷凍庫では-20℃に達しない場合もあるので、48時間以上冷凍することが望ましいです。一度冷凍した魚介類を解凍した後、再度冷凍することは、品質の劣化につながる可能性があるので、避けた方が良いでしょう。
方法温度時間家庭での注意点
加熱70℃以上中心部までしっかりと火を通す
冷凍-20℃24時間以上家庭用冷凍庫では48時間以上冷凍

これらの方法を適切に行うことで、アニサキス症の予防に繋がります。

どの魚介類が危険なのか:具体的な例を挙げて解説

アニサキスは、さまざまな種類の魚介類に寄生しますが、特に以下の魚介類はアニサキス症のリスクが高いと言われています。

  • サバ: アニサキスが寄生している頻度が高く、アニサキス症の報告例も多い魚です。しめ鯖もアニサキス症のリスクがあります。
  • イカ: 内臓にアニサキスが寄生していることが多く、刺身で食べる際は注意が必要です。特に、アニサキスの幼虫はイカの肝臓に寄生しやすいので、肝造りなどは避けた方が良いでしょう。冷凍処理されていないイカソーメンもリスクがあります。
  • サンマ: 秋の味覚として人気ですが、アニサキス症のリスクも高い魚です。内臓にアニサキスが寄生していることが多いので、刺身で食べる際は注意が必要です。
  • アジ: 新鮮なアジの刺身は美味しいですが、アニサキス症のリスクも考慮しなければなりません。特に、釣ってきたアジをその場で捌いて食べる場合は、アニサキス症のリスクが高まります。
  • イワシ: 小さな魚ですが、アニサキスが寄生している場合があります。新鮮なイワシを刺身で食べる場合は、注意が必要です。

これらの魚介類を生で食べる際には、十分な注意が必要です。特に、鮮度が高いほど美味しいとされる魚介類は、アニサキスが生きている可能性も高いため、注意が必要です。わだ内科・胃と腸クリニックでは、最新の上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を用いたアニサキスの診断や治療も行っています。気になる症状がある場合は、お気軽にご相談ください。

診断と治療方法の最新情報

アニサキス症は、早期発見と適切な治療が重要です。この章では、アニサキス症の診断方法、最新の治療方法、治療期間や回復の目安、副作用やリスクについて、現場の医師の視点も交えながら分かりやすく解説します。

胃カメラによるアニサキスの確認方法

アニサキス症の確定診断には、胃カメラ検査が最も有効です。口から細い管を入れて、食道、胃、十二指腸を観察し、胃の壁にアニサキスが食いついている様子を直接確認します。

具体的には、胃カメラの先端についたカメラで胃の中をくまなく観察します。もしアニサキスがいれば、白い糸くずのようなものや、少し赤く腫れた部分が見られます。大きさは、およそ2~3センチで、時には数十匹も見つかることもあります。

また、アニサキスは単に胃壁に付着しているだけでなく、粘膜の中に潜り込んでいるケースもあります。この場合、肉眼では見つけにくいことがあるため、最新の胃カメラ技術が重要になります。「狭帯域光観察(NBI)」という技術は、特殊な光を当てることで、通常では見つけにくい小さな病変や、アニサキスの寄生による粘膜の変化をより鮮明に映し出します。

さらに、「拡大内視鏡」を用いることで、粘膜表面を数十倍に拡大して観察することができます。これにより、アニサキスが粘膜に及ぼしている影響を詳細に評価することができ、より正確な診断が可能になります。「染色内視鏡」では、粘膜に特殊な色素を散布することで、病変部をより明確に識別することができます。これらの最新技術を組み合わせることで、アニサキス症の診断精度が飛躍的に向上しています。

検査方法説明具体的なメリット
通常光観察通常の白い光で観察する基本的な観察方法
狭帯域光観察(NBI)特殊な光を当てて、粘膜の微細な血管や構造を観察する通常光では見にくい病変を発見できる
拡大内視鏡粘膜を拡大して観察するアニサキスの寄生による粘膜の変化を詳細に観察できる
染色内視鏡粘膜に色素を散布して、病変部をより明確に識別する通常光では見分けにくい病変を発見できる

これらの技術を駆使することで、アニサキス症の早期発見・早期治療に繋げることが可能です。

内視鏡的治療の実際とその効果

胃カメラでアニサキスが見つかった場合は、その場で内視鏡を使って取り除くことができます。内視鏡から小さな鉗子を出し、これを使ってアニサキスをつまみ出します。まるで小さなピンセットで異物をつまみ出すようなイメージです。

アニサキスを取り除くことで、痛みや吐き気などの症状は劇的に改善します。手術が必要なケースはほとんどありません。内視鏡的治療は、体に負担が少ない、低侵襲な治療法です。

最近では、上部消化管内視鏡検査技術の進歩により、アニサキス症のような寄生虫感染症の診断精度が向上しています。早期発見と適切な治療により、重症化を防ぐことができるため、内視鏡検査は重要な役割を担っています。

治療期間と回復の目安:副作用とリスクについても言及

アニサキスを取り除けば、多くの場合、数日で症状はなくなります。ただし、稀に胃や腸に小さな傷が残ってしまうこともあります。傷が治るまでは、消化の良いものを食べるように心がけることが大切です。おかゆやうどん、柔らかく煮た野菜などを積極的に摂り、刺激の強い香辛料やアルコールは控えるようにしましょう。

内視鏡検査や治療に伴うリスクとして、ごく稀に出血や穿孔(臓器に穴が開くこと)が起こることがあります。しかし、熟練した医師が行えば、これらのリスクは非常に低いです。当院では、最新の設備と技術を用いて、安全で確実な検査・治療を提供しています。

副作用としては、検査後にのどが少し痛くなる場合がありますが、市販の痛み止めなどで対処できます。また、検査中に空気を注入するため、お腹が少し張る感じがすることもありますが、時間の経過とともに改善します。心配なことがあれば、医師や看護師に相談しましょう。

まとめ

アニサキス症は、生の魚介類を食べた後に激しい腹痛や嘔吐などを引き起こす食中毒です。原因はアニサキスという寄生虫で、胃や腸に寄生し、強い痛みや不快感を生じさせます。初期症状は、食後数時間以内の激しい腹痛と嘔吐ですが、腸に寄生した場合は、消化不良のような症状が現れることもあります。重症化すると腸閉塞やアナフィラキシーショックを起こす可能性もあるため、早期発見・早期治療が大切です。

診断には胃カメラ検査が有効で、アニサキスを直接確認し、必要であれば内視鏡で除去できます。多くの場合、アニサキスを除去することで症状はすぐに改善し、数日で回復します。ただし、稀に合併症のリスクもあるため、気になる症状があればすぐに医療機関を受診しましょう。予防策としては、魚介類を70℃以上で加熱するか、-20℃で24時間以上冷凍することでアニサキスを死滅させることができます。生で食べる際は、サバやイカなどのリスクの高い魚介類に注意し、安全に美味しい魚介料理を楽しみましょう。

参考文献

  • Teh JL, Shabbir A, Yuen S, So JB. Recent advances in diagnostic upper endoscopy. World journal of gastroenterology 26, no. 4 (2020): 433-447.

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