ヒトメタニューモウイルス

ヒトメタニューモウイルスってどんな病気?原因と特徴

ヒトメタニューモウイルス感染症は、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)というウイルスによって引き起こされる、呼吸器の感染症です。

咳、発熱、鼻水など、いわゆる「風邪」のような症状が現れます。特に小さなお子さんやご高齢の方で重症化しやすい傾向があります。

ヒトメタニューモウイルス感染症は一年を通して感染の可能性はありますが、流行しやすい時期は主に春から初夏にかけてです。感染すると、多くの方は1週間から2週間程度で回復します。しかし、肺炎や気管支炎などの合併症を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。ご自身やご家族が感染したかもしれないと思ったら、早めに医療機関を受診しましょう。

ヒトメタニューモウイルスとは

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、2001年にオランダで初めて発見された比較的新しいウイルスです。パラミクソウイルス科に属するRNAウイルスの一種で、遺伝情報を持つ物質としてRNAという物質を使っています。

このウイルスは、RSウイルスと同様に、免疫力の低い乳幼児や高齢者に呼吸器感染症を引き起こすことが多く、世界中で流行しています。感染すると、咳、鼻水、発熱といった、風邪に似た症状が現れます。

多くの場合、これらの症状は軽度で自然に回復します。しかし、肺炎や気管支炎などの合併症を引き起こすこともあり、特に乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方は注意が必要です。ウイルス性肺炎には様々な原因ウイルスがありますが、ヒトメタニューモウイルスは、呼吸器合胞体ウイルスやライノウイルスなどと共に、先進国と発展途上国の両方で多く見られる原因ウイルスです。世界中で毎年約2億人がウイルス性肺炎を発症しており、そのうち1億人は子ども、1億人は成人です。

ヒトメタニューモウイルスの感染経路

ヒトメタニューモウイルスは、主に咳やくしゃみ、会話などによって、感染者の口や鼻から飛び散った小さな飛沫を吸い込むことで感染します(飛沫感染)。ウイルスを含んだ飛沫が、周りの人の鼻や口から体内に入り、感染を引き起こします。

また、ウイルスが付着した手で目や鼻、口などを触ることでも感染する可能性があります(接触感染)。例えば、感染者が咳やくしゃみを手で押さえた後、その手でドアノブなどを触ると、ウイルスがドアノブに付着します。その後、他の人がそのドアノブに触り、自分の目や鼻、口などを触ると感染する可能性があります。感染者の鼻水や唾液などに直接触れた場合も、感染リスクが高まります。

ヒトメタニューモウイルスは感染力が強く、保育園や幼稚園、学校、家庭内など、人が密集する場所で感染が広がりやすいです。

ヒトメタニューモウイルスに感染しやすい人

ヒトメタニューモウイルスは誰にでも感染する可能性がありますが、特に乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人は感染しやすく、重症化しやすい傾向があります。免疫力が低下している状態とは、例えば、抗がん剤治療を受けている、臓器移植を受けて免疫抑制剤を服用している、HIV感染症などで免疫機能が低下している、などの状態です。

また、慢性呼吸器疾患(例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患など)や心疾患などの基礎疾患のある方も、重症化するリスクが高いです。ウイルスが血液中に侵入するウイルス血症は、ヒトメタニューモウイルスを含む多くの呼吸器ウイルス感染症において、疾患重症度と関連している可能性があり、重要な病態生理学的イベントであると考えられています。近年の研究では、ウイルス血症はSARS-CoV-2で34%、他のウイルスで6%から65%と報告されています。

ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間

ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間は、一般的に2日から7日程度です。潜伏期間とは、ウイルスに感染してから症状が現れるまでの期間のことです。つまり、ヒトメタニューモウイルスに感染してから2日から7日程度で、発熱や咳、鼻水などの症状が現れ始めます。ただし、個人差があるため、潜伏期間がこれより短い場合や長い場合もあります。

ヒトメタニューモウイルスの症状と合併症

ヒトメタニューモウイルス感染症は、いわゆる「風邪」と似た症状が現れることが多く、特に小さなお子さんやご高齢の方にとっては気がかりな病気です。咳や鼻水などのよくある症状から、肺炎や気管支炎など重症化することもあります。ヒトメタニューモウイルス感染症の症状や合併症について、そしてどのような場合に重症化しやすいのかを正しく理解しておくことは、適切な対応のためにとても重要です。

ヒトメタニューモウイルスの主な症状5つ

ヒトメタニューモウイルス感染症の主な症状は、一般的な風邪と非常によく似ており、見分けるのが難しい場合もあります。代表的な症状を5つご紹介します。

  1. 発熱: 37度台後半から38度台の熱が出るのが一般的です。平熱が36度台前半の方であれば、37度台後半でも十分に発熱と言えるでしょう。解熱剤を使用しなくても数日で解熱することもありますが、高熱が続く場合は医療機関への受診をおすすめします。
  2. 咳: 初めは乾いた咳であることが多いですが、次第に痰を伴う咳になることもあります。咳が長引く場合は、気管支炎や肺炎などの合併症を引き起こしている可能性も考えられます。
  3. 鼻水: 透明な鼻水が出ることが多いです。鼻詰まりがひどい場合は、睡眠の質が低下したり、集中力が妨げられたりする可能性があります。
  4. 喉の痛み: 炎症によって喉が赤くなり、痛みを感じることがあります。食事や会話がしづらくなる場合もあります。
  5. くしゃみ: ウイルスを体外に排出するために、くしゃみをすることがあります。一度に大量のウイルスが放出されるため、周りの人への感染を防ぐためにも、咳エチケットを心がけることが重要です。

これらの症状は、通常1週間ほどで軽快していきます。しかし、症状が長引く場合や悪化する場合は、医療機関を受診するようにしてください。

ヒトメタニューモウイルスが重症化するケース

ヒトメタニューモウイルス感染症は多くの場合軽症で済みますが、乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人、基礎疾患のある方は重症化しやすい傾向があります。

特に、呼吸器や心臓に持病がある方は注意が必要です。

重症化の兆候を早期に発見し、適切な治療を受けることが重要です。高熱が続く、呼吸が苦しい、意識がもうろうとするなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。

ヒトメタニューモウイルスによる肺炎

ヒトメタニューモウイルス感染症が重症化すると、肺炎を引き起こすことがあります。肺炎は、肺に炎症が起こり、呼吸機能が低下する病気です。ウイルス性肺炎は細菌性肺炎と異なり、抗生物質が効かないため、治療が難しくなる場合があります。ウイルス性肺炎の主な原因ウイルスには、呼吸器合胞体ウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルス、パラインフルエンザウイルスなどがあり、これらは先進国と発展途上国の両方で多く見られます。

ヒトメタニューモウイルスによる気管支炎

ヒトメタニューモウイルス感染症は、気管支炎を引き起こすこともあります。気管支炎は、気管支に炎症が起こり、咳や痰などの症状が現れる病気です。重症化すると、呼吸困難になることもあり、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。

ヒトメタニューモウイルスによる中耳炎

ヒトメタニューモウイルス感染症は、中耳炎を合併することがあります。特に小さなお子さんの場合、鼻と耳をつなぐ耳管が短く、ウイルスが侵入しやすい構造になっているため、中耳炎になりやすい傾向があります。中耳炎になると、耳の痛みや発熱、難聴などの症状が現れます。

ヒトメタニューモウイルスの検査・治療と予防対策

お子さんが咳や発熱などの症状を訴えると、すぐにヒトメタニューモウイルス感染症かもしれないと不安になりますよね。確かにヒトメタニューモウイルス感染症は、風邪と似た症状で、小さなお子さんを中心に一年中感染の可能性があります。特に春から初夏にかけて流行しやすいので、この時期はより一層注意が必要です。

この章では、ヒトメタニューモウイルス感染症の検査方法や治療法、そしてご家庭でできる予防対策について詳しく解説していきます。

ヒトメタニューモウイルスの検査方法

ヒトメタニューモウイルス感染症の検査は、主に鼻の奥や喉の粘膜を綿棒でこすって検体を採取し「PCR検査」で行うことができます。
これは、採取した検体からウイルスの遺伝子情報を見つけ出す検査です。迅速抗原検査よりも感度が高いため、ウイルス量が少なくても検出できます。検査結果は通常20分程度で分かります。

ヒトメタニューモウイルス感染症は、RSウイルスやインフルエンザウイルスなど、他のウイルス感染症と症状が似ています。
当クリニックでは、最新のPCR検査機器「BioFire SpotFire Rパネル」**を導入し、わずか1回の検体採取・約20分の検査で、ヒトメタニューモウイルスの他、新型コロナウイルス、インフルエンザ、RSウイルス、マイコプラズマ、百日咳など15種類の病原体を同時に検出することができます。
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ヒトメタニューモウイルスの治療法

残念ながら、ヒトメタニューモウイルス感染症に対する特効薬はありません。ウイルスを直接攻撃する薬はなく、症状を和らげる治療が中心となります。

具体的には、安静にして十分な水分を摂り、体の免疫力によって自然に回復するのを待ちます。高熱が出ている場合は、解熱剤を使用して熱を下げます。咳がひどい場合は、咳止め薬を処方することもあります。細菌による二次感染が疑われる場合は、抗菌薬を使用する場合もあります。

家庭では、脱水症状を防ぐために、こまめな水分補給を心がけてください。経口補水液やスポーツドリンクも有効です。また、十分な睡眠と栄養バランスの取れた食事も、回復を早めるために重要です。

重症化して肺炎や気管支炎などを併発した場合は、入院が必要となることもあります。

ワクチン接種について

現在、ヒトメタニューモウイルス感染症を予防するワクチンは残念ながらまだ開発されていません。

家庭でできる予防対策5選

ヒトメタニューモウイルス感染症は、感染者の咳やくしゃみ、会話などによって飛び散ったウイルスを吸い込むことで感染する「飛沫感染」と、ウイルスが付着した物に触れることで感染する「接触感染」の2つの経路で感染が広がります。感染を防ぐためには、以下の5つの予防対策が有効です。

  1. こまめな手洗い:石けんと流水で、手のひら、手の甲、指の間、爪の間、親指、手首まで丁寧に洗いましょう。アルコール消毒液も有効です。
  2. マスクの着用:咳やくしゃみをする際は、マスクやティッシュ、ハンカチなどで口と鼻を覆い、飛沫の拡散を防ぎましょう。周りの人への感染を防ぐためにも重要です。
  3. 適切な換気:定期的に窓を開けて換気をし、室内の空気を入れ替えましょう。ウイルスが空気中に漂うのを防ぐ効果があります。
  4. 湿度管理:適切な湿度(50~60%)を保つことで、ウイルスの活動を抑制し、喉や鼻の粘膜の防御機能を保つことができます。加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりするのも効果的です。
  5. 栄養と休養:バランスの取れた食事と十分な睡眠で、免疫力を高めましょう。免疫力は、ウイルスから体を守るための重要な防御システムです。

これらの対策を日常生活に取り入れることで、感染のリスクを減らすことができます。

わだ内科・胃と腸クリニックでの診療について

ヒトメタニューモウイルス感染症の診断には、PCR検査を実施しています。咳や発熱、鼻水などの症状が続く場合は、お気軽にご相談ください。患者様一人ひとりの症状に合わせて、丁寧な診療を心がけています。

また、免疫力が低下している方は、ヒトメタニューモウイルス感染症をはじめ、様々な感染症にかかりやすく、重症化しやすい傾向があります。当クリニックでは、そのような患者様に対しても、適切な検査と治療を提供できるよう努めています。ご心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください。

まとめ

ヒトメタニューモウイルス感染症は、咳、発熱、鼻水といった風邪のような症状を引き起こすウイルス感染症です。小さなお子さんや高齢者、基礎疾患のある方は重症化しやすいので注意が必要です。感染経路は飛沫感染と接触感染で、主な症状は発熱、咳、鼻水、喉の痛み、くしゃみなどです。

残念ながら特効薬はありませんが、検査で確定診断し、安静、水分補給、解熱剤などで症状を和らげます。肺炎や気管支炎などを合併することもあるので、重症化の兆候があれば速やかに医療機関を受診しましょう。予防には、手洗い、マスク着用、換気、湿度管理、栄養と休養が大切です。ワクチンはまだ開発されていませんが、研究が進められています。ご自身やご家族の健康を守るために、正しい知識を持ち、適切な対策を心がけましょう。

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