急性胃粘膜病変(AGML)

急性胃粘膜病変(AGML)という病気をお聞きしたことはありますか? 軽症で済むこともありますが、放置すると胃潰瘍や胃穿孔といった深刻な病気に進行するリスクも潜んでいます。

その症状は数時間から数日のうちに急速に現れ、治まっても再発しやすいのが特徴です。 主な原因はピロリ菌感染、ストレス、薬剤、アルコールの過剰摂取、喫煙など。 例えば、ストレス下での過度な飲酒は、AGMLのリスクをさらに高めます。

急性胃粘膜病変(AGML)とは?原因・症状・診断方法を解説

胃の痛みや不快感を感じた時、不安になる方も多いと思います。急性胃粘膜病変は、胃の粘膜に急性に発生する炎症や損傷のことで、誰にでも起こりうる身近な病気です。軽症で済む場合もありますが、放置すると胃潰瘍や胃穿孔といった深刻な病気に進行するリスクもあるため、早期発見・早期治療が大切です。

急性胃粘膜病変の定義とメカニズム

私たちの胃の粘膜は、強い酸性の胃液や食べ物からの刺激から自身を守るバリア機能を備えています。このバリア機能が何らかの原因で破綻すると、胃酸の攻撃によって粘膜が傷つけられ、急性胃粘膜病変を発症します。急性胃粘膜病変の発症は、まるで城壁が崩れて敵の侵入を許してしまうようなものです。「急性」と名前が付いているように、数時間から数日のうちに急速に症状が現れるのが特徴です。症状が治まっても再発しやすい点にも注意が必要です。

急性胃粘膜病変の主な原因5つ:ピロリ菌感染、ストレス、薬剤など

急性胃粘膜病変の原因は多岐に渡りますが、主な原因として以下の5つが挙げられます。

  1. ピロリ菌感染:ピロリ菌は胃の粘膜に生息する細菌です。急性胃粘膜病変だけでなく、胃潰瘍や胃がんの原因となることもあります。ピロリ菌に感染すると、胃粘膜に炎症が起こりやすくなり、急性胃粘膜病変のリスクが高まります。
  2. ストレス:過度なストレスは胃酸の分泌を増加させ、胃粘膜を傷つけやすくします。プレゼンテーション前や試験期間中など、精神的に緊張した時に胃が痛くなる経験はありませんか?これはストレスが胃酸分泌を促進し、急性胃粘膜病変を引き起こす一例です。
  3. 薬剤:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs。痛み止めや解熱剤として広く使われています。)やアスピリンなどの薬剤は、胃粘膜の保護機能を低下させ、急性胃粘膜病変のリスクを高めます。これらの薬剤は、胃粘膜のバリア機能を弱める作用があるため、服用時には胃への負担を軽減する対策が必要です。
  4. アルコールの過剰摂取:アルコールは胃粘膜を直接刺激し、炎症を引き起こす可能性があります。過度な飲酒は胃粘膜への負担が大きいため、急性胃粘膜病変のリスクを高めます。
  5. 喫煙:タバコに含まれる有害物質は、胃粘膜の血流を悪くし、修復機能を低下させます。喫煙は急性胃粘膜病変だけでなく、様々な病気のリスクを高めるため、禁煙が推奨されます。

これらの要因が単独、あるいは複数組み合わさって急性胃粘膜病変を引き起こします。例えば、ストレスを感じている時に過度な飲酒をすると、急性胃粘膜病変のリスクがさらに高まります。

急性胃粘膜病変の代表的な症状3つ:腹痛、吐き気、胸やけ

急性胃粘膜病変の症状は様々ですが、代表的な症状は以下の3つです。

  1. 腹痛:みぞおち付近の痛みや、胃のあたりが締め付けられるような痛みを感じることがあります。痛みの程度は軽度から重度まで、人によって様々です。
  2. 吐き気:吐き気や嘔吐を伴う場合があります。嘔吐物に血が混じっている場合は、胃粘膜からの出血が疑われるため、速やかに医療機関を受診しましょう。
  3. 胸やけ:胃酸が逆流することで、胸やけやげっぷなどの症状が現れることがあります。胃酸が食道に逆流すると、焼けるような不快感を感じます。

これらの症状以外にも、食欲不振、腹部膨満感、黒色便(出血が原因で便が黒くなる)などの症状が現れることもあります。

急性胃粘膜病変の診断方法:問診、血液検査、内視鏡検査など

AGMLの診断には、以下の方法が用いられます。

  1. 問診:医師が患者さんの症状、過去の病気、生活習慣などを詳しく聞き取ります。いつから症状が現れたのか、どのような痛みか、普段どのような生活を送っているのかなど、様々な情報を医師に伝えることが重要です。
  2. 血液検査:炎症の有無や貧血の程度などを確認します。血液検査では、炎症反応の有無や、出血による貧血の有無などを調べます。
  3. 内視鏡検査(胃カメラ):急性胃粘膜病変の確定診断には、内視鏡検査が最も有効です。胃カメラを用いて、胃粘膜の状態を直接観察し、炎症やびらん、潰瘍の有無を確認します。必要に応じて、組織を採取して病理検査を行うこともあります。病理検査では、採取した組織を顕微鏡で観察し、原因や病状を詳しく調べます。ピロリ菌感染が疑われる場合は、尿素呼気試験、血液検査、便検査などを行い、除菌の必要性についても検討します。

これらの検査結果を総合的に判断して、急性胃粘膜病変の診断を確定します。

急性胃粘膜病変(AGML)の治療法とピロリ菌の検査・除菌

胃の粘膜に急な炎症や傷ができ、吐き気や胃の痛みといった辛い症状が現れる急性胃粘膜病変(AGML)。放っておくと悪化し、胃潰瘍や胃穿孔といった重篤な状態になる可能性もあるため、適切な治療が必要です。さらに、原因の一つとして知られるピロリ菌への適切な対応も重要です。この章では、急性胃粘膜病変の治療法とピロリ菌の検査・除菌について、詳しく説明します。

急性胃粘膜病変の治療法:薬物療法と生活習慣の改善

急性胃粘膜病変の治療は、薬物療法と生活習慣の改善という二本柱で進めます。薬物療法は、胃酸の分泌を抑えたり、胃の粘膜を保護したりする薬を用います。

胃酸は食べ物の消化を助ける役割を担いますが、過剰に分泌されると胃の粘膜を傷つけてしまいます。この過剰な分泌を抑えるために、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬が用いられます。これらの薬は、胃酸の分泌を抑制することで胃粘膜への攻撃を和らげ、炎症を鎮める効果があります。

また、傷ついた胃粘膜を保護するために、粘膜保護剤も使用します。粘膜保護剤は胃の粘膜を覆い、胃酸や食物による刺激から胃を守り、修復を促進します。

薬物療法に加えて、生活習慣の改善も急性胃粘膜病変の治療には不可欠です。ストレスは自律神経のバランスを崩し、胃酸分泌を増加させるため、急性胃粘膜病変を悪化させる要因となります。ストレスを軽減するための工夫や、禁煙、節酒、バランスの良い食事を心がけることが、急性胃粘膜病変の治療と再発予防につながります。

ピロリ菌感染の検査方法:尿素呼気試験、血液検査、便検査など

ピロリ菌感染の有無を調べる検査には、尿素呼気試験、血液検査、便検査などがあります。それぞれの検査方法にはメリットとデメリットがあり、患者さんの状態に合わせて適切な検査方法を選択します。

尿素呼気試験は、ピロリ菌が尿素を分解する性質を利用した検査です。尿素を含む薬剤を服用し、息を専用の袋に集めます。ピロリ菌が存在する場合、尿素が分解されて二酸化炭素が生成されるため、息の中の二酸化炭素濃度が上昇します。

血液検査は、ピロリ菌に対する抗体が血液中に存在するかどうかを調べます。抗体が陽性であれば、過去にピロリ菌に感染したことがあると判断できます。ただし、過去の感染を示すため、現在の感染状態を正確に反映していない可能性もあります。

便検査は、便の中にピロリ菌の抗原が含まれているかどうかを調べます。抗原が検出されれば、現在ピロリ菌に感染していることがわかります。特に、急性胃粘膜病変の患者においては、便中抗原検査が有用であるという報告もあります。

ピロリ菌除菌の必要性と方法

ピロリ菌は、急性胃粘膜病変の原因の一つであるだけでなく、胃潰瘍や胃がんのリスクを高めることが知られています。日本消化器病学会のガイドラインでも、ピロリ菌陽性例では再出血予防に除菌療法が有効であるとされています。そのため、ピロリ菌に感染している場合は、除菌療法を受けることが推奨されます。

除菌療法は、抗生物質と胃酸分泌抑制薬を組み合わせて、通常1週間服用します。除菌に成功すれば、胃潰瘍や胃がんのリスクを減らすことができます。除菌療法は保険適用であり、成功率も高い治療法です。

わだ内科・胃と腸クリニックでの急性胃粘膜病変とピロリ菌への取り組み

当クリニックでは、急性胃粘膜病変とピロリ菌感染症の検査・治療も行っています。患者さん一人ひとりの症状や状況に合わせて、最適な検査方法と治療法をご提案します。急性胃粘膜病変の治療では、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善指導も行っています。ピロリ菌の検査では、尿素呼気試験、血液検査、便検査など様々な検査方法に対応しており、除菌療法後のフォローアップも丁寧に行っています。胃の不調やピロリ菌感染がご心配な方は、お気軽にご相談ください。

急性胃粘膜病変を予防するための生活習慣

胃の不調は、日常生活に大きな影響を与えます。痛みや吐き気、もたれなどの症状が現れると、食事を楽しめなくなったり、仕事や学業に集中できなくなったりすることもあります。急性胃粘膜病変(AGML)は、誰にでも起こりうる身近な病気です。日頃の生活習慣を少し見直すことで、急性胃粘膜病変発生のリスクを減らすことができます。

急性胃粘膜病変の予防に効果的な生活習慣:食生活、ストレス管理、禁煙など

急性胃粘膜病変の予防には、胃粘膜への負担を減らし、健康な状態を維持することが重要です。そのために効果的な生活習慣として、食生活、ストレス管理、禁煙などがあげられます。

食生活では、暴飲暴食を避け、腹八分目を心がけましょう。一度に大量の食べ物を胃に詰め込むと、胃酸の分泌が過剰になり、胃粘膜への負担が増加します。また、消化の悪いものや刺激の強いものは胃粘膜を傷つけやすく、急性胃粘膜病変のリスクを高める可能性があります。消化の良い食品を選び、よく噛んで食べることで、胃への負担を軽減できます。

ストレスは、胃酸の分泌を促進し、胃粘膜の血流を減少させるため、急性胃粘膜病変の大きな原因の一つです。ストレスをため込まないためには、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。適度な運動、趣味の時間、十分な睡眠など、心身のリラックスを心がけましょう。

喫煙は、急性胃粘膜病変を含む様々な疾患のリスクを高めることが知られています。タバコに含まれるニコチンは、胃粘膜の血流を悪化させ、粘膜の修復を遅らせます。禁煙は、AGMLの予防だけでなく、全身の健康にも大きく貢献しますので、積極的に取り組むことをお勧めします。日本消化器病学会のガイドラインでも、喫煙は消化性潰瘍の発生や再発のリスクを高めるとされています。

胃に良い食べ物と避けるべき食べ物

急性胃粘膜病変の予防には、胃に優しい食べ物を積極的に摂り、胃に負担をかける食べ物を避けることが重要です。

胃に良い食べ物としては、消化の良いものが挙げられます。具体的には、おかゆ、うどん、豆腐、白身魚、鶏のささみ、柔らかく煮た野菜などです。これらの食品は胃に負担をかけにくく、消化を促進します。また、ヨーグルトや牛乳などの乳製品は、胃粘膜を保護する効果も期待できます。

反対に、避けるべき食べ物としては、脂肪分の多いもの、香辛料の強いもの、カフェイン、アルコール、炭酸飲料などがあります。これらの食品は、胃酸の分泌を過剰に促進したり、胃粘膜を刺激したりするため、急性胃粘膜病変のリスクを高める可能性があります。

ストレス軽減のための具体的な方法

ストレスは大きな原因の一つであるため、ストレス軽減は急性胃粘膜病変予防において非常に重要です。効果的なストレス軽減方法としては、以下のものがあります。

  • 適度な運動:ウォーキングやジョギングなどの軽い運動は、ストレスホルモンの分泌を抑制し、リラックス効果をもたらします。
  • 趣味の時間:好きなことに没頭することで、ストレスを発散し、気分転換を図ることができます。
  • 十分な睡眠:睡眠不足はストレスを増加させるため、質の良い睡眠を十分に確保することが重要です。
  • リラックス法:ヨガ、瞑想、アロマテラピー、呼吸法などは、心身をリラックスさせ、ストレスを軽減する効果があります。
  • 周囲とのコミュニケーション:家族や友人、同僚など、信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。

急性胃粘膜病変に関するよくある質問

Q1. 急性胃粘膜病変は自然に治ることもありますか?

軽度の急性胃粘膜病変は、生活習慣の改善やストレス軽減によって自然に治癒することもあります。しかし、症状が続く場合や悪化する場合は、医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。自己判断で放置すると、胃潰瘍や胃穿孔などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

Q2. 急性胃粘膜病変と胃潰瘍の違いは何ですか?

AGMLは胃粘膜の急性炎症やびらんを指しますが、胃潰瘍は胃粘膜が深く欠損した状態を指します。急性胃粘膜病変が進行すると胃潰瘍になる可能性もあるため、早期の診断と治療が重要です。

Q3. 急性胃粘膜病変の再発を予防するためにはどうすれば良いですか?

急性胃粘膜病変の再発予防には、食生活の改善、ストレス管理、禁煙、規則正しい生活リズムの維持などが重要です。また、ピロリ菌感染が確認された場合は、除菌治療を受けることが推奨されます。ピロリ菌は急性胃粘膜病変の再発リスクを高めるだけでなく、胃がんのリスクも高めることが知られています。日本消化器病学会のガイドラインでも、ピロリ菌陽性例では再出血予防に除菌療法が有効であるとされています。

まとめ

急性胃粘膜病変(AGML)は、胃粘膜に急性に起こる炎症や損傷で、腹痛・吐き気・胸やけといった症状が現れます。主な原因はピロリ菌感染、ストレス、薬剤、アルコールの過剰摂取、喫煙などです。診断には問診、血液検査、内視鏡検査などが行われます。治療は薬物療法と生活習慣の改善が中心で、ピロリ菌感染が確認された場合は除菌療法も検討されます。急性胃粘膜病変は放置すると重篤な病気に進行するリスクもあるため、早期発見・早期治療が重要です。規則正しい生活、バランスの取れた食事、ストレス管理など、日頃から胃の健康に気を配り、少しでも異変を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。

参考文献

  1. 福田 容久, 篠崎 香苗, 佐々木 貴英, 山下 兼史, 太田 励, 樋口 裕介, 阿部 太郎, 松本 修一, 吉田 尊久. Helicobacter pylori の急性感染が疑われた急性胃粘膜病変 ―6 例の臨床経過と H. pylori 感染診断の問題点について―.
  2. 消化性潰瘍診療ガイドライン 2020(改訂第3版).

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