睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群

大きないびき、日中の耐え難い眠気、集中力の低下……。もしかしたら、それらは睡眠時無呼吸症候群のサインかもしれません。実は、日本人の約3人に1人が睡眠時無呼吸症候群またはその予備軍と言われています。この病気は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで、様々な深刻な合併症を引き起こす可能性があります。高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中といった、命に関わる病気を引き起こすリスクを高めることも知られています。

睡眠時無呼吸症候群の症状と原因4選

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まる病気です。自覚症状がないことも多く、放置すると日常生活に様々な影響を及ぼす可能性があります。ご自身やご家族に当てはまる症状がないか、ぜひ一度確認してみてください。

いびき(大きないびき、断続的な無呼吸を伴ういびき)

大きないびきは、睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状の一つです。「ただのいびき」と安易に考えてしまいがちですが、深刻な病気のサインかもしれません。睡眠時無呼吸症候群のいびきは、単に大きくて激しいだけでなく、断続的な無呼吸を伴うのが特徴です。いびきをかいていると思ったら急に静かになり、数秒から数十秒後に再び大きないびきをかき始める、というように、呼吸が止まっている時間があるのです。

周囲の人に「いびきが大きい」「いびきの途中で呼吸が止まっている」と指摘されたことがある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。また、自分では気づかないうちに症状が進行しているケースも多いので、家族やパートナーなど、一緒に寝ている人に確認してみるのも良いでしょう。

日中の強い眠気

睡眠時無呼吸症候群の方は、夜間に何度も呼吸が止まるため、深い睡眠がとれず、日中に強い眠気を感じることが多くあります。会議中や運転中など、集中力が必要な場面でも眠気に襲われてしまうため、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。居眠り運転による交通事故の危険性も高まります。

健康な方であれば、たとえ睡眠時間が短くても、日中は活動的に過ごすことができます。しかし、睡眠時無呼吸症候群の場合、睡眠時間は十分とっていても、呼吸が何度も止まることで睡眠の質が低下し、日中の眠気を引き起こします。十分な睡眠時間を確保しているにもかかわらず、日中に強い眠気を感じることが続く場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑い、医療機関への受診を検討しましょう。

倦怠感・集中力の低下

睡眠時無呼吸症候群によって質の良い睡眠がとれないと、日中に倦怠感や集中力の低下といった症状が現れます。私たちの脳は、睡眠中に休息し、日中の活動に必要なエネルギーを蓄えます。しかし、睡眠時無呼吸症候群によって睡眠が中断されると、脳が十分に休息を取ることができず、これらの症状につながります。

仕事や学業のパフォーマンスが低下するだけでなく、日常生活にも大きな支障をきたす可能性があります。例えば、家事や育児に集中できなくなったり、趣味を楽しむ気力がなくなったりすることもあります。また、最近の研究では、肥満低換気症候群(OHS:肥満によって肺の機能が低下し、呼吸困難や低酸素血症などを引き起こす病気)と閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:空気の通り道である気道が狭くなる、もしくは塞がることで無呼吸になる病気)を合併する患者では、陽圧換気療法(PAP:持続的に空気を送り込み気道を広げる治療法)の有無に関わらず、体重減少が関連していることが示唆されています。

夜間の頻尿、起床時の頭痛

睡眠時無呼吸症候群では、夜間の頻尿や起床時の頭痛といった症状が現れることもあります。夜間に何度も呼吸が止まると、体内の酸素濃度が低下し、心臓に負担がかかります。その結果、利尿作用のあるホルモンが分泌され、夜間の頻尿につながると考えられています。

また、酸素不足は脳血管にも影響を与え、起床時の頭痛を引き起こす可能性があります。これらの症状は、睡眠時無呼吸症候群以外にも様々な原因が考えられます。しかし、他の症状(いびき、日中の強い眠気、倦怠感など)と合わせて現れる場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を考慮し、医療機関を受診して相談することが大切です。

睡眠時無呼吸症候群の検査方法とCPAP治療

睡眠時無呼吸症候群の検査や治療について、疑問や不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。検査はどのような手順で行われるのか、CPAP治療とはどのようなものなのか、費用はどれくらいかかるのかなど、気になる点を分かりやすく解説していきます。

睡眠時無呼吸症候群の検査方法(簡易検査、精密検査、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG))

睡眠時無呼吸症候群の検査には、大きく分けて簡易検査と精密検査の2種類があります。それぞれの検査方法の特徴を理解し、ご自身の状況に合った検査を受けることが重要です。

1. 簡易検査(在宅検査)

簡易検査は、自宅で手軽に行える検査です。小型の検査キットを使用して、睡眠中の呼吸状態、いびきの大きさ、血中酸素飽和度などを測定します。検査費用も比較的安価で、検査結果も迅速に得られるというメリットがあります。

この検査では、鼻腔カニューレ(鼻に装着するチューブ)やセンサーを装着し、睡眠中の呼吸の状態、いびきの有無やその大きさ、血液中の酸素飽和度などを測定します。睡眠の深さや脳波などは測定できませんが、手軽に検査できるため、まずは簡易検査でスクリーニングを行い、必要に応じて精密検査に進むという流れが一般的です。

2. 精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査PSG)

精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査PSG)は、病院に一泊入院して行う、より詳細な検査です。脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸状態、いびきの大きさ、血中酸素飽和度など、さまざまな生理学的データを記録し、睡眠中の状態を総合的に評価します。簡易検査では得られない詳細な情報が得られるため、睡眠時無呼吸症候群の確定診断に不可欠です。

この検査では、頭や顔、胸、指などに電極やセンサーを装着し、一晩かけて睡眠中の様々なデータを記録します。睡眠中の脳波や眼球運動、筋肉の活動、心電図、呼吸の状態、いびきの大きさや頻度、血液中の酸素飽和度などが計測され、これらのデータから睡眠の質や無呼吸の程度、種類などを総合的に判断します。費用は健康保険が適用されますが、入院費などが掛かりますので詳細は医療機関に直接お問い合わせください。

睡眠時無呼吸症候群の検査と治療は、多職種連携で行われることが理想的です。患者さんの負担(身体的、精神的、経済的)を軽減し、より良い治療成果を得るためには、多職種が協力して治療を進めていくことが重要です。

CPAP(持続陽圧呼吸療法)装置の種類と特徴

CPAP装置は、睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられる医療機器です。空気を一定の圧力で送り込み、気道を広げることで無呼吸を予防します。CPAP装置にはいくつかの種類があり、患者さんの状態やライフスタイルに合わせて最適なタイプを選択することが大切です。

  • ネーザルマスクタイプ: 鼻だけを覆うマスクです。最も広く使用されているタイプで、圧迫感が少なく、快適に使用できるというメリットがあります。
  • ピローマスクタイプ: 鼻の穴に直接挿入する小さなマスクです。ネーザルマスクタイプよりもさらに圧迫感が少なく、視界も良好です。しかし、鼻孔に直接挿入するため、人によっては違和感を感じる場合もあります。
  • フルフェイスマスクタイプ: 鼻と口の両方を覆うマスクです。口呼吸をする方や、鼻が詰まりやすい方に向いています。顔全体を覆うため、圧迫感を感じる場合もあります。

CPAP治療の費用と保険適用

CPAP治療は、健康保険が適用されます。費用の目安は、3割負担の方で月額5,000円程度です。この費用には、CPAP装置のレンタル料、マスクなどの消耗品代、定期的な診察料などが含まれます。
※この金額はあくまで目安であり、医療機関や処方内容によって多少異なります。

わだ内科・胃と腸クリニックでの検査・治療について

わだ内科・胃と腸クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群の検査およびCPAP治療を行っております。まずは問診や診察を通して患者さんの症状やご希望を丁寧に伺います。その上で、適切な検査方法をご提案し、検査結果に基づいて治療方針を決定いたします。
*当院では簡易検査を行うことが可能です。

睡眠時無呼吸症候群の合併症と日常生活の注意点

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が何度も止まる病気です。これは、単に「いびきがうるさい」「日中眠い」といった日常生活の不便さだけで済む問題ではありません。実は、放置すると様々な体の不調につながり、取り返しのつかない深刻な事態を招く可能性があるのです。ご自身やご家族が睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合、すぐに医療機関を受診することを強くおすすめします。日常生活で気を付けるべき点について詳しくご説明します。

高血圧

睡眠時無呼吸になると、血液中の酸素量が低下します。体は酸素不足を補おうと、交感神経を活発化させます。交感神経が活発になると、血管が収縮し、血圧が上昇します。高血圧は、心臓病や脳卒中のリスクを高める危険因子です。睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、そうでない方に比べて高血圧になりやすいことが多くの研究で示されています。睡眠時無呼吸の治療を行うことで、血圧が安定するケースも多く見られます。

糖尿病

睡眠時無呼吸は、インスリン抵抗性を高めると言われています。インスリンは、血液中の糖分を細胞に取り込み、エネルギーに変換するために必要なホルモンです。インスリン抵抗性とは、このインスリンの働きが悪くなる状態のことです。インスリン抵抗性が高くなると、血糖値が上昇し、糖尿病のリスクが高まります。さらに、肥満も睡眠時無呼吸と糖尿病の両方のリスクを高めるため、注意が必要です。

心臓病、脳卒中

睡眠時無呼吸は、心臓に大きな負担をかけます。無呼吸によって体内の酸素が不足すると、心臓はより多くの血液を送り出そうと、拍動数を増やし、一生懸命働きます。この状態が続くと、心臓に過剰な負荷がかかり、不整脈や心不全などの心臓病のリスクを高めます。また、高血圧と同様に、脳卒中のリスクも高くなることが知られています。

睡眠時無呼吸症候群の日常生活における注意点(肥満への対策、飲酒・喫煙の制限、睡眠薬の使用)

睡眠時無呼吸症候群の症状を改善し、合併症を防ぐためには、日常生活での適切な対策が必要です。

まず、肥満は睡眠時無呼吸症候群の大きな原因の一つです。首周りの脂肪が気道を圧迫し、呼吸を妨げるため、無呼吸が起こりやすくなります。適度な運動とバランスの取れた食事を心がけ、肥満の解消・予防に努めましょう。体重が減るだけでも症状が大きく改善する可能性があります。

飲酒や喫煙も、睡眠時無呼吸症候群を悪化させる要因となります。アルコールは、筋肉を弛緩させ、気道を狭くします。喫煙は、気道の炎症を引き起こし、呼吸を阻害します。

一部の睡眠薬は、呼吸を抑制する作用があります。睡眠時無呼吸症候群の方は、睡眠薬の使用について必ず医師に相談してください。自己判断で服用することは大変危険です。

睡眠時無呼吸症候群の治療法には、CPAP療法などがあります。CPAP療法は、鼻マスクを通して空気を送り込み、気道を広げることで無呼吸を防ぎます。これらの治療法は、いびきや無呼吸の改善だけでなく、高血圧や糖尿病などの合併症の予防にも効果的です。

ご自身の症状やライフスタイルに合った治療法を選択するために、医師とよく相談することが大切です。継続的に治療を受けることで、より良い睡眠と健康を手に入れることができるでしょう。

まとめ

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の呼吸停止を繰り返す病気で、大きないびきや日中の強い眠気などの症状が現れます。検査には簡易検査と精密検査があり、治療にはCPAP療法などが用いられます。放置すると高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中などの合併症を引き起こす可能性があります。肥満対策、飲酒・喫煙の制限、睡眠薬の使用には注意が必要です。医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることで、健康な生活を取り戻しましょう。

参考文献

  1. Andrade RGS, Masa JF, Borel JC, Drager LF, Genta PR, Mokhlesi B and Lorenzi-Filho G. Impact of treating obesity hypoventilation syndrome on body mass index. Pulmonology 31, no. 1 (2025): 2416816.
  2. 睡眠時無呼吸症候群(OSAS)に対する下顎前進装置による治療ガイドライン

帯状疱疹

80歳までに3人に1人が経験すると言われる「帯状疱疹」。ピリピリとした痛みや赤い発疹といった症状だけでなく、後遺症として慢性的な痛みが残ることも。実はこれ、子供の頃にかかった水ぼうそうと同じウイルスが原因で起こるのです。 […]

脂質異常症

健康診断で「脂質異常症」を指摘されたら、放置してしまっていませんか? 自覚症状がほとんどない脂質異常症ですが、実は心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気の危険因子である動脈硬化を進行させる可能性があります。日本では、実に […]