糖尿病
2型糖尿病の初期症状
2型糖尿病の初期症状は、日常生活で感じるちょっとした変化であることが多く、見過ごされがちです。代表的な自覚症状には、以下のようなものがあります。
- 尿の回数が増える、量も多くなる(多尿): 血液中の糖(ブドウ糖)が増えすぎると、腎臓は血液から糖をろ過して尿として排出しようとします。その結果、尿量が増え、夜間頻尿や昼間の頻尿が起こります。健康な状態では、尿として糖が排出されることはありません。
- のどが渇く(口渇): 尿量が増えるため体内の水分が不足し、のどが渇きやすくなります。多尿が続くと、脱水症状を引き起こす可能性もあります。
- 体重が減る: 体内で糖がエネルギー源としてうまく利用できないため、エネルギー不足になります。その結果、体は脂肪や筋肉を分解してエネルギーを産生しようとするため、体重が減少します。十分な食事を摂っているにもかかわらず体重が減る場合は、注意が必要です。
- 疲れやすい(倦怠感): エネルギー不足により、体がだるく、疲れやすくなります。日常生活に支障が出るほどの倦怠感が続く場合は、医療機関への受診をお勧めします。
これらの症状は、単独で現れることもあれば、複数同時に現れることもあります。症状が続く場合は、2型糖尿病の可能性を考え、医療機関を受診しましょう。
非特異的症状に注意が必要
上記以外にも、2型糖尿病によって引き起こされる様々な症状があります。これらの症状は他の病気でも見られることが多いため、「非特異的症状」と呼ばれ、診断を難しくする要因の一つです。
- 皮膚のかゆみ: 高血糖は、皮膚の乾燥や血行不良を引き起こし、かゆみを誘発します。また、免疫機能の低下により、皮膚感染症にかかりやすくなることもあります。
- 傷の治りが遅い: 高血糖は、免疫機能や組織の修復機能を低下させるため、傷の治りが遅くなります。小さな傷でも感染症を起こしやすくなるため、注意が必要です。
- 手足のしびれ: 高血糖が末梢神経を損傷し、手足のしびれや痛み、感覚の鈍化などの神経障害を引き起こすことがあります。初期は軽いしびれでも、放置すると症状が悪化し、日常生活に支障をきたす可能性があります。
これらの症状は、他の病気でも起こりうるため、見逃されることも少なくありません。生活習慣の改善や薬物療法によって血糖値をコントロールすることで、これらの症状の改善も期待できます。
家族歴と遺伝的要因の関連性
2型糖尿病は、生活習慣の影響が大きい病気ですが、遺伝的な要因も関わっています。両親や兄弟姉妹に2型糖尿病の方がいる場合は、そうでない方に比べて発症リスクが高くなります。
家族歴に加えて、肥満、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病も2型糖尿病のリスクを高める要因となります。糖尿病が引き起こす合併症の発症リスク増加にもつながります。これらのリスク因子を複数持っている場合は、特に注意が必要です。
定期的な健康診断を受け、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映する検査値)の値をチェックすることで、早期発見・早期治療につながります。世界人口の約10%が糖尿病と推定され、生命を脅かす合併症のリスクがあります。糖尿病の診断前の高血糖状態は、長い期間をかけて徐々に進行するため、早期に介入することで2型糖尿病の発症を予防、あるいは遅らせる効果が期待できると考えられています。
2型糖尿病の診断方法と基準
健康診断で血糖値が高いと指摘されたり、喉の渇きや尿の回数増加といった症状に気づくと、2型糖尿病の不安が頭をよぎる方もいらっしゃるでしょう。2型糖尿病の診断方法と基準について、検査方法、精密検査などを、できるだけわかりやすく解説します。
血糖値の検査方法と基準値
2型糖尿病の診断において、血糖値の検査は欠かせません。血液検査で調べることができ、検査方法は主に以下の3種類です。それぞれの検査方法の特徴や意義について詳しく見ていきましょう。
- 空腹時血糖値: 朝食前の何も食べていない状態で採血します。 8時間以上絶食の状態を空腹時と言います。この検査は、体内の基礎的な血糖値を測定するものです。健康な人であれば、体内のインスリンが適切に働き、血糖値を一定範囲内に保つことができます。しかし、2型糖尿病の場合、インスリンの働きが低下している、もしくは体がインスリンをうまく使えない状態(インスリン抵抗性)があるため、空腹時でも血糖値が高くなる傾向があります。
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT): 75gのブドウ糖を水に溶かして飲み、一定時間(通常は30分、1時間、2時間後)の血糖値を測定します。この検査は、糖を摂取した後の血糖値の変化を調べることで、糖代謝の能力を評価するものです。健康な人であれば、ブドウ糖を摂取しても血糖値は一時的に上昇するものの、その後インスリンの働きによって速やかに正常値に戻ります。しかし、2型糖尿病の場合、インスリンの分泌不足やインスリン抵抗性により、血糖値がなかなか下がらない、あるいは異常に高くなる傾向があります。75gのブドウ糖は、炭酸飲料約500mlに相当する糖質量です。
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー): 過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を反映する検査です。ヘモグロビンは赤血球に含まれるタンパク質で、血液中のブドウ糖と結合する性質があります。HbA1cは、ブドウ糖と結合したヘモグロビンの割合を示す指標で、血糖値が高い状態が続けば続くほど、HbA1cの値も高くなります。この検査は、血糖コントロールの状態を長期的に評価するために有用です。
検査項目 | 基準値(糖尿病型) | 基準値(境界型) |
---|---|---|
空腹時血糖値 | 126mg/dL以上 | 110~125mg/dL |
75gOGTT 2時間値 | 200mg/dL以上 | 140~199mg/dL |
HbA1c(NGSP) | 6.5%以上 | 6.0~6.4% |
HbA1c(JDS) | 6.5%以上 | 5.6~6.4% |
これらの基準値を1つでも超えている場合、糖尿病の疑いがあります。ただし、1回の検査だけで確定診断されるわけではなく、他の検査結果や症状も合わせて総合的に判断されますので、ご安心ください。境界型の場合は、糖尿病予備軍として生活習慣の改善指導を受けることになります。
確定診断を行うための精密検査
血糖値の検査で糖尿病の疑いがある場合は、確定診断のために、より詳細な検査を行います。例えば、尿検査では尿糖やケトン体の有無を調べます。健康な人の尿には糖は排出されませんが、血糖値が非常に高くなると、腎臓で糖を再吸収しきれなくなり、尿に糖が漏れ出てきます(尿糖)。また、インスリンが不足すると、体はエネルギー源として脂肪を分解し始め、その過程でケトン体という物質が産生されます。ケトン体が尿中に排出される状態(ケトン体陽性)は、糖尿病の代謝異常が進んでいることを示唆します。
その他、合併症の有無を確認するために、眼科検査や神経学的検査を行うこともあります。糖尿病網膜症は、高血糖によって網膜の血管が損傷を受けることで起こる合併症です。初期には自覚症状がないことが多く、放置すると失明に至ることもあります。眼科検査では、眼底カメラを用いて網膜の状態を詳しく観察します。また、糖尿病神経障害は、高血糖によって末梢神経が損傷を受けることで起こる合併症です。手足のしびれや痛み、感覚の鈍化といった症状が現れます。神経学的検査では、足の感覚や反射などを調べることで、神経障害の有無や程度を評価します。
2型糖尿病の効果的な治療法
2型糖尿病と診断された時、不安な気持ちでいっぱいになるのも無理はありません。「今まで通りの生活ができなくなるのではないか」「将来どうなるのか」と心配になる方も多いでしょう。
2型糖尿病は、決して治らない病気ではありません。適切な治療と生活習慣の改善によって、血糖値をコントロールし、健康な人と変わらない生活を送ることは十分可能です。食事療法、運動療法、薬物療法をバランスよく組み合わせた治療で、合併症を予防し、充実した毎日を送れるように、一緒に治療の第一歩を踏み出しましょう。
食事療法:適切な食事内容とカロリー調整
食事療法は2型糖尿病治療の土台です。バランスの取れた食事を摂り、適切なカロリーを維持することで、血糖値のコントロールを改善し、合併症のリスクを減らすことができます。
皆さんは「何をどのくらい食べたらいいのか」と悩まれるかもしれません。具体的な食事内容の例として、野菜、きのこ、海藻を積極的に摂ることをお勧めします。これらの食品に豊富に含まれる食物繊維は、糖の吸収を穏やかにし、食後の血糖値の急上昇を防ぎます。食物繊維を多く含む食品を摂取することで、血糖値の変動を小さく抑え、合併症のリスクを低減することに繋がります。
主食を選ぶ際にも工夫ができます。白米よりも食物繊維が豊富な玄米や雑穀米、パンよりも全粒粉パンを選ぶことで、より多くの食物繊維を摂取できます。毎日の主食を少し変えるだけでも、血糖コントロールに良い影響を与える可能性があります。
肉や魚などのたんぱく質も、健康な体を維持するために不可欠な栄養素です。ただし、脂肪分の多い肉は、カロリーオーバーやコレステロール値の上昇に繋がる可能性があります。揚げ物よりも焼き魚、脂身が多い肉よりも鶏むね肉やひき肉を選ぶなど、調理法や食材選びを工夫してみましょう。
甘いお菓子やジュースは、血糖値を急激に上昇させるため、できるだけ控えましょう。どうしても甘いものが食べたい時は、人工甘味料を使用した低カロリーのお菓子や、果物を少量摂るなど、工夫してみてください。果物はビタミンやミネラルが豊富で健康に良い食品ですが、糖質も含まれていますので、食べ過ぎには注意が必要です。特に、ブドウやバナナ、マンゴー、パイナップルなどの糖質が多い果物は、量を調整して食べましょう。
1日に必要なカロリーは、年齢、性別、身体活動量、基礎代謝などによって個人差があります。医師や管理栄養士に相談し、自分に合ったカロリーを知り、適切な食事量を管理するようにしましょう。
*当院には常勤の管理栄養士が在籍しており、栄養指導を行なっています。お気軽にご相談ください。
運動療法:効果的な運動の種類と頻度
運動療法も、2型糖尿病治療において非常に重要な役割を果たします。適度な運動は、血糖値を下げるだけでなく、インスリンの働きを良くする効果も期待できます。インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込むためのホルモンです。2型糖尿病では、このインスリンの働きが低下している、もしくは体がインスリンをうまく使えない状態(インスリン抵抗性)になっているため、血糖値が上昇しやすくなります。運動はインスリン感受性を高め、血糖コントロールの改善に役立ちます。
さらに、運動は体重管理、血圧やコレステロール値の改善にも繋がり、心血管疾患などの合併症予防にも効果的です。世界人口の約10%が糖尿病に罹患しており、生命を脅かす合併症のリスクがあるため、運動療法は2型糖尿病患者さんにとって非常に重要です。
ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動は、特別な器具や場所を必要とせず、無理なく続けられるためおすすめです。週に3回以上、1回30分程度を目安に行いましょう。毎日少しずつでも体を動かす習慣を身につけることが大切です。
筋力トレーニングも血糖コントロール改善に効果的です。筋肉量が増えると基礎代謝が上がり、エネルギー消費量が増加することで、血糖値の上昇を抑える効果が期待できます。スクワット、腕立て伏せ、腹筋運動など、自宅でできる簡単な運動から始めてみましょう。
運動を始める前には、必ず医師に相談し、自分の体力に合った運動の種類や強度、頻度を確認しましょう。特に、心臓や腎臓などに持病がある方は、運動の種類や強度によっては、体に負担がかかりすぎる可能性があります。安全に運動を続けるためにも、医師の指示に従うことが重要です。
薬物療法:インスリン注射とその他の治療選択肢
食事療法と運動療法をしっかり行っても血糖値が十分にコントロールできない場合、薬物療法が必要となる場合があります。薬物療法には、大きく分けて経口血糖降下薬とインスリン注射があります。
経口血糖降下薬には、SU薬、ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬など、様々な種類があります。これらの薬はそれぞれ作用機序が異なり、血糖値を下げるメカニズムが異なります。医師は、患者さんの病状、年齢、他の持病、生活習慣などを考慮し、最適な薬剤を選択していきます。
インスリン注射は、インスリンというホルモンを体外から注射で補う治療法です。インスリンは血糖値を下げるために不可欠なホルモンですが、2型糖尿病ではインスリンの分泌が不足していたり、働きが低下していたりするため、注射によってインスリンを補う必要があります。インスリン注射には、ペン型注射器など、様々な投与方法があります。医師や看護師から使用方法や注意点、保管方法などの説明を受け、正しく使用することが重要です。
糖尿病は、高血糖状態が長く続くと、様々な合併症を引き起こすリスクがあります。合併症を予防するためにも、早期発見・早期治療が重要です。糖尿病予備群と診断された場合でも、生活習慣の改善によって、糖尿病の発症を予防、あるいは遅らせる効果が期待できると考えられています。
まとめ
2型糖尿病は、放置すると様々な合併症を引き起こす怖い病気ですが、適切な治療と生活習慣の改善で、健康な生活を送ることは十分可能です。
この記事では、2型糖尿病の症状や診断方法、そして食事療法、運動療法、薬物療法といった治療法について詳しく解説しました。 初期症状は疲れやすさや喉の渇き、頻尿など、日常で感じやすいものも多いので、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
血糖値の検査は、空腹時血糖値、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)、HbA1cの3種類があり、これらの検査結果と症状から総合的に判断されます。 診断された後は、医師の指示に従い、食事療法、運動療法、必要に応じて薬物療法を組み合わせた治療に取り組みましょう。 自分に合った治療法を見つけるためには、専門医との継続的な連携が大切です。
糖尿病は決して諦める病気ではありません。 正しい知識と適切な治療、そして日々の生活習慣の改善によって、血糖値をコントロールし、健康的な生活を取り戻すことができます。 まずは、不安な気持ちを抱え込まずに、医療機関への相談から始めてみましょう。
参考文献
- Majety P, Lozada Orquera FA, Edem D, Hamdy O. Pharmacological approaches to the prevention of type 2 diabetes mellitus. Frontiers in endocrinology 14, no. (2023): 1118848.