高血圧

高血圧の定義

高血圧とは、心臓が全身に血液を送り出す際に、血管の壁にかかる圧力が高い状態のことです。

この圧力は、心臓が収縮して血液を押し出すときの「収縮期血圧(上の血圧)」と、心臓が拡張して血液を再び受け入れるときの「拡張期血圧(下の血圧)」の2つの数値で表されます。

皆さんは、水道の蛇口を勢いよくひねるとホースがパンパンに膨らむ様子を想像してみてください。高血圧の状態では、まさに血管がこのような状態になっているのです。常に高い圧力がかかっているため、血管はダメージを受けやすく、様々な合併症のリスクが高まります。

高血圧の基準値は、診察室で測定する血圧と家庭で測定する血圧で若干異なります。診察室血圧では、収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上を高血圧と診断します。家庭血圧では、収縮期血圧135mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上を高血圧と診断します。

なぜ基準値が異なるかというと、診察室という環境では緊張によって血圧が高めに出てしまう「白衣高血圧」の方が一定数いるからです。家庭血圧はよりリラックスした状態で測定できるため、真の血圧を反映しやすいと考えられています。

高血圧が引き起こす合併症4つ

高血圧を放置すると、以下のような深刻な合併症を引き起こすリスクが高まります。

  1. 脳卒中: 血管がもろくなり、破裂して脳出血を起こしたり、血栓(血の塊)ができて脳梗塞を起こしたりする危険性があります。脳の血管が詰まったり破れたりすると、脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、麻痺や言語障害などの後遺症が残る可能性があります。
  2. 心筋梗塞: 心臓を取り巻く冠動脈という血管が動脈硬化によって狭くなり、血液の流れが悪くなります。さらに、血管が完全に詰まってしまうと、心筋に酸素や栄養が届かなくなり、心臓の筋肉が壊死してしまう心筋梗塞を引き起こします。激しい胸の痛みや呼吸困難などの症状が現れ、突然死に至るケースも少なくありません。
  3. 腎不全: 腎臓は血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排出する重要な臓器です。高血圧は腎臓の血管を傷つけ、腎機能を低下させます。腎機能が著しく低下すると、人工透析が必要になることもあります。
  4. 心不全: 高血圧は心臓に大きな負担をかけ、心臓のポンプ機能を低下させます。息切れやむくみなどの症状が現れ、日常生活に支障をきたすようになります。

これらの合併症は、患者さんの生活の質を著しく低下させるだけでなく、生命にも危険が及ぶ可能性があります。だからこそ、高血圧の予防と適切な管理が非常に重要なのです。

高血圧の疫学

高血圧は、加齢とともに発症率と有病率が上昇する傾向があります。40歳以上の成人の約半数が高血圧、もしくは高血圧予備軍と言われています。

高血圧は、遺伝的要因と生活習慣(食生活、運動習慣、喫煙、飲酒、ストレスなど)が複雑に絡み合って発症すると考えられています。遺伝的要因は変えられませんが、生活習慣は意識的に改善することが可能です。

高血圧の予防には、バランスの取れた食生活を心がけ、塩分を控える、適度な運動を習慣づける、禁煙する、過度の飲酒を控える、ストレスを適切に管理するなど、生活習慣の改善が重要です。また、家庭でも定期的に血圧を測定することで早期発見につながりますので、積極的に血圧計を活用しましょう。ご自身の血圧を把握し、健康管理に役立ててください。

高血圧の症状

高血圧は自覚症状が出にくい病気として知られていますが、中には症状が現れる方もいらっしゃいます。症状が現れた場合、高血圧以外の病気が原因であることもありますが、高血圧のサインを見逃さないためにも、代表的な自覚症状を5つご紹介いたします。

  1. 頭痛: これは、血管が拡張し、周囲の神経を刺激することで起こります。こめかみあたりがズキズキと痛んだり、頭全体が重く感じたり、締め付けられるような感覚を覚えることがあります。朝起きた時や、興奮した時などに特に症状が出やすい傾向があります。
  2. めまい: めまいは、脳への血流が一時的に不足することで起こります。立ちくらみやふわふわした感覚、あるいは周囲がぐるぐる回るような感覚に襲われることがあります。急に立ち上がった時や、長時間の立ち仕事の後などに症状が出やすいです。
  3. 肩こり: 肩こりは、筋肉の緊張や血行不良によって引き起こされます。高血圧によって血管が収縮すると、筋肉への血流が滞り、肩や首の筋肉が張ったり、重だるい感じがしたりします。長時間のデスクワークや、同じ姿勢を続けることで悪化しやすいです。
  4. 動悸: 動悸は、心臓がドキドキする、脈が速く感じる、または脈が飛ぶように感じる不規則な鼓動のことです。高血圧は心臓に負担をかけ、心拍数を増加させるため、動悸が起こりやすくなります。運動後やストレスを感じた時などに症状が出やすいです。
  5. 耳鳴り: 耳鳴りは、実際には存在しない音が聞こえる現象で、高血圧によって内耳の血流が変化することで起こると考えられています。「キーン」という高い音や「ジーッ」という低い音など、様々な種類の音が聞こえることがあります。静かな場所で特に症状を強く感じる方が多いです。

これらの症状は、高血圧以外にも様々な原因で起こり得るため、これらの症状があるからといって必ずしも高血圧であるとは限りません。風邪や貧血、ストレスなども同様の症状を引き起こすことがあります。しかし、これらの症状が頻繁に起こる、あるいは以前にはなかった症状が現れた場合は、一度医療機関を受診し、血圧を測定してもらうことをおすすめします。早期発見・早期治療が健康を守る上で重要です。

無症状の高血圧とは?見逃される危険性

高血圧の最も恐ろしい点は、多くの場合、自覚症状がないまま進行してしまうことです。これを「無症状の高血圧」と呼びます。まるで体の中に潜む「サイレントキラー」のように、静かに血管を傷つけ、動脈硬化を進行させていきます。自覚症状がないため、健康診断などで指摘されるまで気づかないケースが非常に多く、健康診断で初めて高血圧と診断される方は少なくありません。

無症状だからといって安心していると、動脈硬化が静かに進行し、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞などの生命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。まるで、何の予兆もなく、突然崖から突き落とされるようなものです。高血圧は早期発見・早期治療が重要です。ご自身の健康を守るためにも、定期的な血圧測定と健康診断の受診を心がけてください。

高血圧の治療薬には様々な種類があり、それぞれ作用機序や副作用が異なります。ご自身の症状や体質に合った薬を選択することが重要です。

高血圧の診断に必要な検査方法

高血圧の診断は、主に血圧測定、血液検査、尿検査、心電図検査などを通じて行われます。それぞれの検査方法について詳しく見ていきましょう。

  1. 血圧測定: 高血圧の診断で最も基本的な検査です。診察室で安静にした状態で、上腕にカフ(帯状のもの)を巻いて測定します。家庭での血圧測定も重要で、朝と晩に毎日測定することで、より正確な血圧の状態を把握できます。家庭用血圧計は、医療機器として認められているものを選び、正しい使用方法で測定するようにしましょう。
  2. 血液検査: 腎機能(クレアチニン、eGFRなど)、コレステロール値(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)、血糖値などを調べ、高血圧の原因や合併症の有無を評価します。血液検査によって、高血圧に伴う他の疾患のリスクも評価することができます。
  3. 尿検査: 腎臓の機能(蛋白尿、尿潜血など)を調べます。高血圧は腎臓に負担をかけ、腎機能を低下させることがあるため、尿検査で腎臓の状態を確認します。尿検査は、痛みを伴わず簡単に実施できる検査です。
  4. 心電図検査: 心臓の状態を調べ、高血圧による心臓への影響(心肥大など)を評価します。心電図検査では、心臓の電気的な活動を記録し、不整脈や心筋虚血などの異常がないかを確認します。

これらの検査結果を総合的に判断し、高血圧の診断を確定します。必要に応じて、心臓超音波検査など、さらに詳しい検査を行うこともあります。高血圧の診断は、一度の検査だけで確定するものではなく、継続的な検査と経過観察が必要です。

高血圧の治療法

高血圧は、放置すると血管に負担がかかり続け、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心筋梗塞などの命に関わる病気を引き起こすリスクを高めます。

しかし、適切な治療と管理を行うことで、これらのリスクを減らし、健康な生活を送ることができます。高血圧の治療は、薬物療法、食事療法、運動療法の3本柱で成り立ちます。これらの治療法をバランスよく組み合わせ、患者さん一人ひとりに最適な治療プランを立てていくことが重要です。まるで、健康という家を建てるための土台、柱、屋根のようなものです。

高血圧の治療に使われる薬剤の種類

高血圧の治療薬は、血圧を下げるメカニズムによっていくつかの種類に分けられます。それぞれの薬には得意分野があり、患者さんの状態や他の病気の有無などを考慮して、最適な薬が選択されます。

  1. 利尿薬: 体内の水分を尿として排出することで、血液の量を減らし、血管にかかる圧力を下げます。主な副作用として、脱水症状や低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が低くなる状態)があります。
  2. カルシウム拮抗薬: 血管の壁を柔らかくすることで、血管を広げ、血圧を下げる薬です。主な副作用として、頭痛、動悸、足首のむくみなどがあります。
  3. ACE阻害薬: 血管を収縮させる物質の働きを抑えることで、血管を広げ、血圧を下げます。血管を収縮させる物質は、アンジオテンシンIIと呼ばれ、この物質の働きを抑えることで、血管を広げやすくします。主な副作用には、空咳や味覚異常などがあります。
  4. ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬): ACE阻害薬と同様に、アンジオテンシンIIの働きを抑えますが、作用する場所が異なります。ACE阻害薬がアンジオテンシンIIの産生自体を抑えるのに対し、ARBはアンジオテンシンIIが血管に作用するのをブロックします。主な副作用には、めまい、低血圧などがあります。
  5. β遮断薬: 心臓の拍動を抑えることで、心臓から送り出される血液の量を減らし、血圧を下げます。β遮断薬は、狭心症や不整脈などの心臓病にも効果があり、これらの病気を併発している高血圧患者さんには有効な場合があります。主な副作用には、倦怠感、徐脈(脈が遅くなる)、気管支収縮などがあります。

これらの薬は、単独で使用されることもあれば、複数の薬を組み合わせて使用されることもあります。副作用も薬の種類によって様々です。医師とよく相談し、ご自身の状態に合った薬を選ぶことが大切です。

食事療法と運動療法のポイント

薬物療法に加えて、食事療法と運動療法は高血圧の管理に非常に重要です。これらは、薬の効果を高め、合併症のリスクをさらに減らすことができます。

食事療法:

  • 減塩: 日本人の食生活では、塩分摂取量が多い傾向があります。目標は1日6g未満です。外食や加工食品は、多くの場合、塩分が多いため注意が必要です。薄味に慣れる、香辛料やハーブを活用する、カリウムを多く含む食品(野菜や果物)を積極的に摂るなどの工夫で、減塩を実現できます。
  • バランスの良い食事: 栄養バランスの良い食事は、健康維持に不可欠です。特に、野菜、果物、魚、海藻、大豆製品などを積極的に摂りましょう。

運動療法:

  • 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動は、血圧を下げる効果があります。1回30分程度、週に3~5回を目安に行いましょう。無理なく続けられるペースで始めることが大切です。
  • 筋力トレーニング: 筋肉量を増やすことは、基礎代謝を向上させ、血圧を下げる効果が期待できます。週に2~3回を目安に行いましょう。

高血圧治療の目標値

高血圧治療の目標値は、一般的には診察室血圧で140/90mmHg未満、家庭血圧で135/85mmHg未満です。糖尿病や慢性腎臓病などの合併症がある場合は、より低い値を目指します。

目標値を達成し、維持するためには、薬物療法、食事療法、運動療法を継続的に行うことが重要です。また、家庭血圧計を用いて、朝晩の血圧を毎日測定し、記録することも大切です。家庭での血圧測定は、診察室での測定よりもリラックスした状態で測定できるため、より正確な血圧の状態を把握できます。定期的に医師の診察を受け、治療方針や生活習慣に関するアドバイスを受けるようにしましょう。

高血圧の治療は、長期にわたる根気のいるものです。焦らず、医師とよく相談しながら、自分にあった治療法や管理方法を見つけて、健康な生活を維持していくことが重要です。

まとめ

高血圧は自覚症状がないまま進行し、重大な合併症につながる危険性があるため、早期発見と適切な管理が非常に大切です。この記事では、高血圧の定義、原因となる生活習慣、起こりうる合併症、そして診断・治療方法について解説しました。

高血圧の診断には、血圧測定に加え、血液検査や尿検査、心電図検査などが用いられます。治療においては、薬物療法、食事療法、運動療法の3つの柱が重要で、減塩やバランスの良い食事、適度な運動を心がけることが求められます。

薬物療法では、利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬など、様々な種類があります。それぞれの薬剤には得意分野と副作用があるため、医師とよく相談し、自分に合った薬を選択することが大切です。

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれる通り、自覚症状に乏しい場合も多いです。しかし、定期的な血圧測定と健康診断で早期発見することで、合併症のリスクを軽減し、健康寿命を延ばすことが可能です。ご自身の血圧を把握し、健康管理に役立て、健康的な生活を送りましょう。 何か気になることがあれば、すぐに医療機関を受診してください。

参考文献

  • Messerli FH, Bangalore S, Mandrola JM. β blockers switched to first-line therapy in hypertension. Lancet (London, England) 402, no. 10414 (2023): 1802-1804.

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