ピロリ菌の検査・治療

ピロリ菌とは?

ピロリ菌とは、1983年にオーストラリア人のWarrenとMarshallが発見した、胃の粘膜に感染する約4μm長のらせん状のグラム陰性桿菌(棒状または円筒形の細菌)です。正式名称はヘリコバクター・ピロリと言い、胃癌のリスクであることが知られています。また胃・十二指腸潰瘍や胃MALTリンパ腫の併発を引き起こし、胃過形成性ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病などとの関連性も指摘されています。

胃の中は通常胃酸によって強い酸性の環境となっているため、通常の菌は生息できません。ただしピロリ菌は胃の中で「ウレアーゼ」という酵素を作って、尿素を分解しアンモニアを生成することができます。このアルカリ性のアンモニアで胃の中の酸性を弱め、自分の周囲だけ中性に近い状態に保つことで、自身を守っているのです。こうして長期間ピロリ菌が胃の粘膜に感染し、慢性胃炎を引き起こします。つまり胃の粘膜の炎症状態が続くことによって、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などの病気ができやすい環境が作られているのです。

ピロリ菌の感染経路は?

ピロリ菌の感染経路は現在もはっきりしていませんが、経口感染(口を介した感染)や井戸水などの摂取によると考えられています。感染するのは主に5,6歳以下の幼児とされていますが、これは免疫力の低い時期に井戸水や食べ物と一緒に摂取してしまうためとされています。またその他の要因としては幼児期は胃酸の分泌量が少なく、ピロリ菌が胃内で生息しやすい環境であることも挙げられます。

ピロリ菌の検査は?

ピロリ菌の検査は、①胃カメラによる組織検査を必要とする検査法と②組織検査を必要としない検査法の二つに分けられます。組織検査には「迅速ウレアーゼ試験」、「培養法」および「組織鏡検法」の3つがあります。ただしいずれの検査も胃の組織の一部を採取して診断するため判定が不正確な場合もあるとされています。

そのため当院では組織検査を必要としない「尿素呼気試験」、血液や尿を用いた「抗ヘリコバクター・ピロリ抗体検査」、「便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定法」を用いる場合が多いですが、中でも正確性の高い、尿素呼気試験を主に行なっております。

*ピロリ菌の検査を保険診療で行うには、検査前に胃カメラを行う必要があります。

ただしある種の胃薬を飲まれている場合には偽陰性(ピロリ菌が感染しているにも関わらず検査上は陰性となること)となる場合がありますので、検査前におくすり手帳などで内服薬の確認を行い、検査前に休薬を指示させていただきます。休薬が困難な場合には血液検査で抗ヘリコバクター・ピロリ抗体検査などを行っています。

また尿素呼気試験で陰性であっても、ピロリ菌感染が強く疑われる場合は便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定法やその他検査の追加をさせていただく場合があります。

ピロリ菌の治療は?

ピロリ菌の治療を除菌治療と呼びます。治療というと大げさに聞こえるかもしれませんが、簡単に言うと「胃酸の分泌を抑える薬1種類と抗生物質2種類のパック製剤を1日2回、1週間内服する」ことです。

まずガイドライン上ピロリ菌の除菌が強く勧められている病気として下記が挙げられます。

  1. ピロリ感染胃炎(萎縮性胃炎、鳥肌胃炎など)
  2. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  3. 早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃
  4. 胃MALTリンパ腫
  5. 胃過形成性ポリープ
  6. 機能性ディスペプシア
  7. 胃食道逆流症(逆流性食道炎)
  8. 特発性血小板減少性紫斑病
  9. 鉄欠乏性貧血

続いて実際の治療ですが、初回の除菌治療を「1次除菌療法」と呼びます。

当院では1次除菌薬としてボノプラザン(タケキャブ®)という胃酸分泌抑制薬とアモキシシリン、クラリスロマイシンという抗生物質2種類のパック製剤であるボノサップパック®の処方を行っております。

また内服終了後約2ヶ月以上経過してから、除菌治療の効果判定を尿素呼気試験で行っています。*高齢の方など尿素呼気試験が困難な患者さんには便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定法を用いることもあります。

1次除菌療法の成功率は約90%と報告されていますが、薬をしっかり服用頂いても除菌に失敗することがあります。

1次除菌療法が不成功の場合には、2種類の抗生物質のうちの1つを別の薬に変えた(具体的にはクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更します)、パック製剤であるボノピオンパック®で「2次除菌療法」を行なっております。

2次除菌療法での除菌成功率も90%以上とされていますが、2次除菌療法でも不成功であった場合には他の抗生物質を併用して「3次除菌療法」を行うことになります。

ただし3次除菌療法は保険適用外の治療となっており、安全性の観点などから当院では行なっておりません。

またペニシリンアレルギーのある方も通常の除菌治療を受けることは出来ません。

自費治療とはなりますが、ご希望がありましたら大分大学医学部附属病院のピロリ菌専門外来へご紹介させていただいております。お気軽にご相談ください。

除菌成功後の経過観察は?

ピロリ菌の除菌が成功することにより、胃がんのリスクは約1/3程度に減少するとの報告があります。ただし元々ピロリ菌に感染していなかった方と同レベルになることは期待されず、除菌成功後も経過観察が必要です。最近では「除菌後発見胃がん」といってピロリ菌の除菌成功後に発見される胃がん(除菌後10年以上経過して発見された報告もあります)、1年に1回の胃カメラ検査が胃がんの早期発見、早期治療に繋がると考えております。

当院では「経鼻上部消化管内視鏡検査(鼻から入れる胃カメラ)」を採用しており、苦痛の少ない内視鏡検査を心掛けておりますので、除菌成功後胃カメラ検査を受けられていない方もお気軽にご相談下さい。

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