虚血性腸炎

突然の腹痛、特に食後や運動後に強い痛みを感じたことはありませんか?もしかしたら、それは腸への血流不足が原因で起こる「虚血性腸炎」のサインかもしれません。日本では年間約3万人が虚血性腸炎と診断されており、特に高齢者に多い病気です。

虚血性腸炎は、腸への血液供給が不足することで、腹痛、下痢、血便などの症状を引き起こします。症状は他の消化器疾患と似ていることが多く、放置すると腸管壊死といった重篤な合併症を引き起こす可能性もあるため、早期発見と適切な治療が重要です。

虚血性腸炎を理解する:定義と原因

突然の腹痛、特に食後や運動後に強い腹痛を感じたことはありませんか?もしかしたら、それは虚血性腸炎のサインかもしれません。痛みだけでなく、吐き気や下痢、血便などの症状が現れることもあります。これらの症状は、緊急性を要する他の疾患のサインである可能性もあるため、軽く見過ごさずに、医療機関への受診をお勧めします。

虚血性腸炎は、腸への血流が不足することで、腸の組織に酸素や栄養が行き届かなくなり、炎症や損傷を引き起こす病気です。「虚血」とは、血液供給が不足した状態を指します。腸は栄養を吸収し、老廃物を排出する重要な役割を担っていますが、血流不足によりその機能が損なわれると、深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。

虚血性腸炎とは?

私たちの腸は、口から摂取した食べ物を消化・吸収し、不要なものを便として排出する、生命維持に不可欠な臓器です。この腸は、体内の他の臓器と同様に、血液によって酸素や栄養を供給されています。虚血性腸炎とは、何らかの原因で腸への血流が不足し、腸の細胞がダメージを受けることで、腹痛や下痢、血便などの症状を引き起こす病気です。

虚血性腸炎の主な原因3つ

虚血性腸炎の主な原因は、大きく分けて以下の3つに分類されます。

  1. **動脈硬化:**動脈硬化とは、血管の壁が厚く硬くなり、血管が狭くなる状態です。高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が動脈硬化を進行させる危険因子となります。動脈硬化によって腸への血流が慢性的に不足することで、虚血性腸炎が発症しやすくなります。血管が徐々に狭窄していくため、症状も徐々に現れることが多いです。
  2. **血栓:**血栓とは、血液中にできた血の塊のことです。心臓病や血液凝固異常などによってできた血栓が血流に乗って腸の血管を詰まらせると、腸への血流が突然遮断され、激しい腹痛やショック状態を引き起こす「急性腸間膜虚血」と呼ばれる重篤な状態に陥ることがあります。これは緊急手術が必要な非常に危険な状態です。
  3. **腸管の圧迫:**腸捻転や腸重積など、腸がねじれたり、折り重なったりすることで腸管が圧迫されると、腸への血流が阻害され、虚血性腸炎を引き起こすことがあります。これらの状態も緊急手術が必要となる場合が多いです。

危険因子:動脈硬化、高血圧、糖尿病など

虚血性腸炎は誰にでも起こりうる病気ですが、特に以下の危険因子を持つ方は注意が必要です。

  • 動脈硬化を促進する疾患: 高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病は、動脈硬化の進行を加速させるため、虚血性腸炎のリスクを高めます。これらの疾患を適切に管理することが重要です。
  • 加齢: 年齢を重ねるにつれて動脈硬化が進行しやすくなるため、高齢者、特に60歳以上の方は虚血性腸炎のリスクが高くなります。
  • 喫煙: タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血流を悪化させるため、虚血性腸炎のリスクを高めます。禁煙は虚血性腸炎の予防に大きく貢献します。
  • 心疾患: 心房細動などの心疾患は、心臓内に血栓ができやすくなるため、その血栓が腸の血管を詰まらせることで虚血性腸炎を引き起こす可能性があります。
  • 脱水: 体内の水分が不足すると血液が濃縮され、血栓ができやすくなるため、虚血性腸炎のリスクを高めます。特に高齢者や夏場はこまめな水分補給を心がけることが重要です。
  • 便秘 

これらの危険因子に複数当てはまる方は、特に注意が必要です。日頃からバランスの取れた食事、適度な運動、禁煙などを心がけ、生活習慣を改善することで、虚血性腸炎の予防に努めましょう。定期的な健康診断も早期発見に役立ちます。

虚血性腸炎の症状と診断、治療法

突然の腹痛。もしかしたら虚血性腸炎かもしれません。この病気は、腸への血流が不足することで起こり、様々な症状を引き起こします。早期発見・早期治療が重要ですので、少しでも気になる症状があれば、我慢せずに医療機関を受診しましょう。

虚血性腸炎の初期症状

虚血性腸炎の初期症状で最も特徴的なのは、突然 onset する腹痛です。これは、腸への血流が急に悪くなることで発生します。痛みの部位は、おへその周りや下腹部であることが多いですが、人によって様々です。

また、痛みの性質も、キリキリとした持続的な痛みや、チクチクとした断続的な痛みなど、様々です。場合によっては、食後や運動後に痛みが強くなることもあります。これは、消化活動や運動によって腸への血流需要が増加し、相対的に血流不足が悪化するためと考えられます。

腹痛に加えて、下痢や血便が現れることもあります。血便は、腸の粘膜が血流不足によって損傷し、出血することで起こります。色は、鮮やかな赤色から黒っぽいタール状まで様々です。

これらの初期症状は、他の消化器疾患の症状と似ている場合があり、自己判断は危険です。特に、血便を伴う場合は、大腸がんや炎症性腸疾患などの可能性も考えられるため、速やかに医療機関を受診し、適切な検査を受けるようにしてください。

進行した場合の症状

虚血性腸炎が進行すると、初期症状に加えて、より深刻な症状が現れることがあります。激しい腹痛、大量の下血、発熱、嘔吐、そしてショック症状などが挙げられます。

ショック症状は、血圧が急激に低下し、意識がもうろうとするなど、生命に関わる危険な状態です。腸への血流が著しく低下することで、腸管の組織が壊死し、全身に炎症が広がることで起こります。

また、重症化すると、腸に穴が開く(穿孔)ことや、腸が腐ってしまう(壊死)可能性も出てきます。腸管壊死は、緊急手術が必要となる非常に危険な状態で、後遺症が残る可能性もあります。

虚血性腸炎の診断方法:身体診察、血液検査、画像検査など

虚血性腸炎の診断は、患者さんの症状、身体診察、血液検査、そして画像検査の結果を総合的に判断して行います。

まず、医師は患者さんの症状や既往歴について詳しく問診します。腹痛の部位、性質、持続時間、血便の有無、発熱の有無、基礎疾患の有無などを確認します。

次に、腹部を診察し、圧痛の有無や腸の音などを確認します。

血液検査では、炎症反応の有無や貧血の有無などを調べます。白血球数やCRP値の上昇は炎症の存在を示唆し、ヘモグロビン値の低下は出血を示唆します。

画像検査としては、腹部CT検査や大腸内視鏡検査が有効です。腹部CT検査では、腸管の壁の肥厚や腸管周囲の炎症などを確認することができます。大腸内視鏡検査では、大腸の粘膜の状態を直接観察し、炎症や潰瘍の有無などを確認することができます。腸粘膜に特徴的な縦走潰瘍が見られる場合は、虚血性大腸炎の可能性が高いと判断されます。

虚血性腸炎の治療法:薬物療法、血管内治療、外科手術

虚血性腸炎の治療法は、病気の重症度によって異なります。軽症の場合は、絶食、点滴、抗生剤の投与などの保存的治療を行います。絶食によって腸を休ませ、点滴によって水分や栄養を補給することで、腸の回復を促します。抗生剤は、腸内細菌による二次感染を予防するために使用されます。多くの場合、これらの治療によって数日で症状は改善します。

重症の場合、あるいは腸管に穴が開いたり、腸が壊死したりするなど、生命に関わる危険性が高い場合は、緊急手術が必要になります。手術では、壊死した腸管の切除手術などを行います。

虚血性腸炎の予後と日常生活の注意点

虚血性腸炎と診断された後、今後の生活について不安を抱えている方もいるかもしれません。この章では、虚血性腸炎の予後、日常生活の注意点、そして他の似た症状の病気との違いについて詳しく説明します。

予後と再発の可能性

虚血性腸炎の予後は、発症時の重症度、適切な治療の実施、そして基礎疾患の有無など、様々な要因によって大きく左右されます。

軽症の場合、適切な治療を行うことで、多くの場合数日から1週間程度で症状は改善し、後遺症なく日常生活に戻ることができます。しかし、血管が完全に詰まって腸に穴が開いてしまうような重症の場合や、糖尿病や高血圧などの基礎疾患がある場合は、入院治療が必要となることもあります。入院期間も症状の重さによって大きく変わってきます。

また、虚血性腸炎は再発する可能性のある病気です。一度発症した方の約25%は再発を経験すると言われています。再発を防ぐためには、動脈硬化の進行を抑えることが重要です。動脈硬化は、血管の壁が厚く硬くなり、血管が狭くなる状態です。血管が狭くなると、血液の流れが悪くなり、腸への酸素供給が不足しやすくなります。これが虚血性腸炎の引き金となるのです。

再発予防のためには、バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙など、健康的な生活習慣を維持することが不可欠です。これらの生活習慣は、動脈硬化の進行を抑制するだけでなく、全身の健康維持にも繋がります。

食生活の注意点

虚血性腸炎の再発予防や症状の悪化を防ぐためには、食生活にも注意を払う必要があります。特に、脂肪分の多い食事は腸への負担を増大させ、血流を悪化させる可能性があります。揚げ物や脂身の多い肉などは控えめにし、魚や鶏肉、大豆製品などを中心としたバランスの良い食事を心がけましょう。

また、食物繊維は腸の動きを活発にし、便秘を予防する効果があります。便秘になると、腸内圧力が高まり、腸への血流が阻害され、虚血性腸炎のリスクが高まる可能性があります。野菜や果物、海藻類などを積極的に摂取し、食物繊維を豊富に含む食事を心がけましょう。

水分を十分に摂取することも大切です。水分不足は血液を濃縮させ、血栓を形成しやすくする可能性があります。血栓は血管を詰まらせ、虚血性腸炎を引き起こす原因の一つです。特に高齢者の方や夏場は、意識的に水分補給を行うようにしましょう。

消化の良い食品を選ぶことも重要です。消化に負担がかかる食品は、腸の血流需要を増加させ、虚血性腸炎の症状を悪化させる可能性があります。例えば、餅や生野菜などは、消化に時間がかかるため、虚血性腸炎の症状がある場合は避けるべきです。おかゆや柔らかく煮た野菜など、消化しやすい食品を選びましょう。一度にたくさん食べるのではなく、少量ずつ、回数を分けて食べることも有効です。

日常生活で気を付けること

規則正しい排便習慣を身につけることも重要です。毎日同じ時間にトイレに行く習慣をつけ、便意を感じたら我慢せずに排便するよう心がけましょう。適度な運動も腸の動きを促進し、血流を改善する効果があります。ウォーキングなどの軽い運動を日常生活に取り入れることをお勧めします。

ストレスは自律神経のバランスを崩し、血流にも悪影響を与える可能性があります。ストレスを溜め込まないよう、リラックスできる時間を作る、趣味を楽しむ、十分な睡眠をとるなど、心身のリフレッシュを心がけましょう。

腹痛や血便などの症状が現れたら、自己判断せずに速やかに医療機関を受診することが重要です。

その他の病気(例:過敏性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎など)との違い

虚血性腸炎は、過敏性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎などの他の腸の病気と症状が似ていることがあり、鑑別が難しい場合があります。それぞれの病気には特徴があり、治療法も異なります。

  • 過敏性腸症候群: 器質的な異常は見られず、腹痛、便秘、下痢などの症状が慢性的に繰り返される機能性疾患です。検査を行っても異常が見つからないことが特徴です。
  • クローン病: 口から肛門までの消化管のどこにでも炎症が起こりうる慢性炎症性疾患です。炎症は消化管の壁全体に及び、深い潰瘍を形成することがあります。
  • 潰瘍性大腸炎: 大腸の粘膜に炎症が起こる慢性炎症性疾患です。炎症は大腸に限局し、連続した浅い潰瘍を形成することが特徴です。

これらの病気は、症状や治療法がそれぞれ異なるため、自己判断は危険です。医療機関を受診し、適切な検査と診断を受けるようにしましょう。

まとめ

虚血性腸炎は、腸への血流不足が原因で起こる病気です。腹痛、下痢、血便などの症状が現れ、動脈硬化や血栓などが原因となることが多いです。特に高齢者や生活習慣病のある方は注意が必要です。症状が現れたら、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な検査を受けましょう。軽症の場合は薬物療法や食事療法で改善しますが、重症の場合は手術が必要になることもあります。日頃からバランスの良い食事、適度な運動、禁煙などを心がけ、腸の健康を維持しましょう。虚血性腸炎は再発の可能性もあるため、医師の指示に従い、定期的な検査を受けることも大切です。

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