健康診断で便潜血陽性と言われたら?

わだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。

ホームページの方にも以前同様の内容で記事を書きましたが、今回は違った切り口で便潜血について書いてみたいと思います。

便潜血検査の手順や方法を知りたい

便潜血検査は、自宅で手軽にできる検査です。病院やクリニック、検診センターなどで検査キットを受け取ったら、以下の手順で検査を行います。

  1. 検査キットの準備: 検査キットには、便を採取するための容器や説明書が入っています。
  2. 便の採取: トイレに便器の中に落ちる前に、専用のシートを敷いたり、専用の容器を設置したりして、便を採取します。少量の便で十分なので、無理にたくさん採取する必要はありません。
  3. 便を採取キットに取る: キットの説明に従って、採取棒を使って、便の一部を採取します。この時、便の表面だけでなく、中の方からも少し採取すると、より正確な結果が得られます。
  4. 提出: 採取した便を検査キットに入れて、病院、クリニックや検診センターに提出します。

検査キットによって、手順が異なる場合があるので、必ず説明書をよく読んでから検査をするようにしましょう。

便潜血検査結果の陽性が大腸がんの可能性を示すのか、それとも他の疾患にも関連するのか知りたい

便潜血検査で陽性反応が出た場合、「消化管(食道から肛門までの臓器)のどこかで出血している可能性」が示唆されます。

便潜血検査は、あくまでも「出血している可能性」を調べる検査であり、「がんかどうか」を診断するものではありません。出血の原因は様々で、大腸がん以外にも、痔、胃潰瘍、大腸ポリープなどでも陽性反応が出ることがあります。

例えば、先日来院された患者さんは、便潜血検査で陽性反応が出たため、大変不安がっていました。詳しく検査をした結果、原因は痔による出血であることが分かり、適切な治療を行ったところ、症状は改善しました。

便潜血検査で陽性反応が出た場合は、精密検査を受けて、原因を特定することが重要です。

ちなみに、便潜血検査には、従来から広く用いられている「グアヤック法」と、近年普及が進んでいる「免疫化学法」の2種類があります。グアヤック法は、食事制限などの影響を受けやすいという欠点がありますが、免疫化学法は、食事の影響を受けにくく、より正確な結果が得られるというメリットがあります。

現在の便潜血検査は、免疫学的方法が広く普及しています。

便潜血検査の結果が陽性の場合、どのような検査や治療が必要か知りたい

便潜血検査で陽性反応が出た場合は、目に見えないほどのわずかな出血であることがほとんどですが、放置せずに、医療機関を受診して、原因を突き止めることが大切です。便潜血の原因を特定するために、問診や診察を行い、出血源やその背後にある病気を特定する必要があります。便潜血の原因として考えられる病気は、消化管のあらゆる場所に存在する可能性があります。

例えば、食道から胃にかけて炎症や潰瘍があれば、血液は消化されて黒色便として現れることがあります。これは、まるで鉄サビのような色をしているため「タール便」とも呼ばれます。また、大腸からの出血であれば、鮮やかな赤い色の血液が混ざることが多いですが、出血部位や出血量によっては、やはり便の色が黒っぽく変化することもあります。

精密検査では、便潜血検査で陽性となった場合、その原因を特定するために、大腸カメラ検査(下部消化管内視鏡検査)などの精密検査が必要となることがあります。大腸カメラ検査では、肛門から内視鏡を挿入し、大腸の内部を直接観察します。検査中に病変が見つかった場合は、その場でポリープを切除したり、組織を採取して、詳しく調べる生検を行うこともあります。

大腸がんのリスク要因や症状、早期発見のために自己検診の方法について知りたい

大腸がんは、日本人の男女ともに2番目に多いがんです。初期の段階では自覚症状が出にくい病気ですが、進行すると様々な症状が現れます。早期発見・早期治療のためにも、大腸がんのリスク要因や症状、自己検診の方法について知っておくことが大切です。

例えば、食生活の欧米化や運動不足、肥満なども大腸がんのリスクを高めると考えられています。また、喫煙も大腸がんのリスクを高める因子の一つです。タバコに含まれる有害物質は、大腸の細胞を傷つけ、がん化を促進する可能性があります。

早期発見には、便潜血検査が有効な手段となります。便潜血検査は、便に含まれる微量の血液を検出する検査です。大腸がんは早期の段階では自覚症状が出にくいですが、便潜血検査を受けることで、自覚症状のない段階でも早期発見できる可能性があります。

また、日常生活の中で、便の色や形、排便習慣の変化に注意を払うことも重要です。例えば、これまで便秘知らずだった人が、急に便秘がちになったり、逆に下痢が続くようになったという場合には、注意が必要です。便に血が混ざっていたり、黒いタール状の便が出たりする場合は、消化管からの出血が疑われますので、速やかに医療機関を受診しましょう。腹痛や腹部膨満感、体重減少などの症状が見られる場合も、注意が必要です。

大腸カメラや下部消化管内視鏡検査について知りたい

便潜血検査で陽性反応が出た場合、精密検査が必要になることがほとんどです。その代表的なものが、大腸カメラや下部消化管内視鏡検査です。

皆さんは、大腸カメラ検査と聞くと「体の奥深くまでカメラを入れるなんて…」と不安な気持ちになるかもしれません。

では、なぜ大腸カメラ検査が必要なのでしょうか?

それは、大腸カメラ検査が、**あなたの腸の中をくまなく確認できる、いわば”最強の目”**だからです。

例えば、皆さんが宝探しをする場面を想像してみてください。宝が隠されているかもしれない広大なフィールドを手探りで探すよりも、ドローンを使って上空からくまなく見渡した方が、宝を見つけ出す確率は格段に高まりますよね?

大腸カメラ検査は、まさにこのドローンのような役割を果たします。腸の内部を直接観察することで、隠れているポリープや病変を見つけることができるのです。

大腸カメラや下部消化管内視鏡検査の痛みやリスクを最小限に抑えるための工夫や対策を知りたい

「でもやっぱり、大腸カメラ検査は痛そうで怖い…」

そう感じられる方もいるかもしれません。確かに、以前は大腸カメラ検査は苦痛を伴う検査というイメージを持たれることが多かったのも事実です。

しかし、医療技術の進歩は目覚ましく、現在では、痛みや苦痛を最小限に抑えるための様々な工夫が凝らされています。

1. 鎮静剤や鎮痛剤の使用

検査中の不安や緊張が強い方には、リラックスして検査を受けていただけるよう、鎮静剤や鎮痛剤を使用することも可能です。鎮静剤を使用すると、ほとんどの方は検査中に眠ってしまうため、痛みや不快感をほとんど感じることなく検査を終えることができます。

「気づいたら終わっていた」という患者さんも少なくありません。

2. 細い内視鏡の使用

近年では技術革新が進み、細径内視鏡が登場しています。細い内視鏡を使用することで、検査中の圧迫感や痛みを軽減できるだけでなく、肛門への負担も軽減されます。

3. 炭酸ガス送気

大腸カメラ検査では、腸の内部を鮮明に観察するために、空気を入れて腸管を膨らませる必要があります。従来は空気を用いることが多かったのですが、空気は腸管に吸収されにくいため、検査後にお腹の張りや痛みを感じやすくなることがありました。

そこで、最近では空気の代わりに炭酸ガスを使用することが増えています。当院でも開院時より導入を行っています。炭酸ガスは空気よりも腸管に吸収されやすいため、検査後の腹部膨満感を軽減する効果が期待できます。

4. 熟練した医師による検査

大腸カメラ検査は、医師の技術や経験によって、痛みや苦しさ、検査時間などが大きく異なります。当クリニックでは、消化器内視鏡専門医である院長が、患者さま一人ひとりの状態に合わせて、丁寧に検査を行いますのでご安心ください。

例えば、患者さんの腸の形や癖などを予測しながら内視鏡を挿入することで、腸への負担を最小限に抑えることができます。これは、豊富な経験を持つ医師だからこそできる技です。

大腸カメラ検査は、大腸がんの早期発見・早期治療のために非常に有効な検査です。「怖い」「恥ずかしい」といった気持ちから検査をためらってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、検査を受けることで、不安を解消し、安心して生活を送ることができるようになります。検査を受けるかどうか迷っている方は、まずはお気軽にご相談ください。

また、便潜血検査と大腸カメラ検査を比較した研究では、便潜血検査よりも大腸カメラ検査の方が、大腸がんの発見率が高いという結果が出ています。これは、大腸カメラ検査の方が、より早期のがんを見つけることができるためと考えられます。

大腸カメラ検査は、決して怖い検査ではありません。安心して検査を受けていただけるよう、当クリニックでは、様々な工夫を凝らしていますので、ご安心ください。

なお大腸がんが存在していても便潜血検査が陰性である場合もありますので、40歳以上の方で一度も大腸カメラを受けたことがない方や便秘が続く、便が細くなったという方は一度ご相談下さい。

また現在広く普及している便潜血検査(免疫学的方法)は食道や胃、十二指腸などの上部消化管からの出血では陽性となりませんので、併せて上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行うことをお勧めしております。当院では経鼻上部消化管内視鏡検査といって鼻から入れる細い胃カメラを用いており、苦痛の少ない検査を受けることができます。

便潜血検査で陽性となった方は一度ご相談いただければと思います。

参考文献

  • Grobbee EJ, Wisse PHA, Schreuders EH, van Roon A, van Dam L, Zauber AG, Lansdorp-Vogelaar I, Bramer W, Berhane S, Deeks JJ, Steyerberg EW, van Leerdam ME, Spaander MC and Kuipers EJ. “Guaiac-based faecal occult blood tests versus faecal immunochemical tests for colorectal cancer screening in average-risk individuals.” The Cochrane database of systematic reviews 6, no. 6 (2022): CD009276.
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