食道に胃?異所性胃粘膜とは?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
「食道に胃の粘膜がある」内視鏡検査を受けた時に医師からこの様な説明を受けたことはありませんか?実は、食道異所性粘膜と呼ばれるこの病気は、内視鏡検査を受けた人の約2-14%に見られる、決して珍しいものではないのです。今回は、食道異所性粘膜の原因や症状について詳しく解説します。
食道異所性粘膜とは何か?
食道は、口から食べたものが胃に運ばれるための通路です。この通路は、ツルツルとした粘膜で覆われていますが、この粘膜が、本来あるべき姿ではなくなってしまい、胃の粘膜に似た状態になってしまうことがあります。これが「食道異所性粘膜」と呼ばれるものです。
食道異所性粘膜は、食道の入り口付近にできることが多く、特に、男性に多く見られます。胎生期、つまり出生前に通常は食道の粘膜は円柱上皮と呼ばれるものから扁平上皮に置き換わっていくのですが、何らかの障害により取り残されたものと考えられています。また、後天的な原因としては逆流性食道炎やバレット食道といった病気と関連があるともいわれています。
代表的な症状のリスト
多くの場合、この食道異所性粘膜は、自覚症状がないまま経過します。 しかし、時には、以下のような症状が現れることがあります。
- 胸やけ: 食後に胸のあたりがチリチリと焼けるような感じがしたり、熱いものがこみ上げてくるような感覚に襲われることがあります。
- 喉の違和感(異物感): まるで、食べ物が喉に詰まっているような、何とも言えない違和感を感じることがあります。
- げっぷ: 食後や空腹時に、胃の中の空気が逆流して、思わず「ゲップ」が出てしまうことがあります。
- 咳: 特に、夜間や早朝に、咳が出てしまうことがあります。これは、胃酸が逆流することで、気管支を刺激するためと考えられます。
- 声のかすれ: 胃酸の逆流によって、声帯が炎症を起こし、声がかすれてしまうことがあります。
これらの症状は、逆流性食道炎など、他の病気でも見られることが多くあります。
食道異所性粘膜が引き起こす合併症
食道異所性粘膜自体は、命に関わるような病気ではありません。 しかし食道炎やバレット食道といった病気との関連性も示唆されています。
- 食道炎: 食道に胃の粘膜があることで、胃酸から食道を守ることが難しくなり、食道の粘膜に炎症が起こりやすくなります。
- バレット食道: 食道の粘膜が、胃や腸の粘膜に似た細胞に変化してしまう病気です。食道がんのリスク因子の一つとされており、注意が必要です。
食道異所性粘膜は、内視鏡検査によって比較的容易に見つけることができます。内視鏡検査というと、「つらい」「苦い」といったイメージを持つ方もいるかもしれませんが、最近の検査機器は、以前のものに比べて、ずっと細いものが開発されており、患者さんの負担も軽減されています。少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
食道異所性粘膜の原因
食道異所性粘膜は、なぜできるのか、原因ははっきりとは解明されていません。しかし、後天的なものとしていくつかの要因が関係していると考えられています。
胃酸逆流との関連性
食道異所性粘膜の後天的なリスク要因の一つとして、「胃食道逆流症(GERD)」が挙げられます。
胃食道逆流症とは、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、胸やけやげっぷ、胸の痛みなどの症状を引き起こす病気です。
胃酸は食べ物を消化するために必要なものですが、強い酸性のため、食道に逆流すると粘膜を傷つけて炎症を起こすことがあります。
この状態が慢性的に続くと、食道の粘膜が胃の粘膜に似た構造に変化してしまうことがあります。これが食道異所性粘膜です。
脂肪分の多い食事や刺激物、炭酸飲料、アルコール、喫煙などは、胃酸の分泌を増加させたり、食道の防御機能を低下させたりするため、胃食道逆流症のリスクを高める要因になります。これらの要因を避けることで、食道異所性粘膜のリスクを減らすことができると考えられます。
その他の環境要因
遺伝や胃酸逆流以外にも、食道異所性粘膜の発症に影響を与えている可能性のある環境要因がいくつか考えられています。
例えば、喫煙は食道の粘膜を傷つけ、炎症を起こしやすくすることが知られています。タバコの煙には、4000種類以上の化学物質が含まれており、その中には発がん性物質や粘膜を傷つける有害物質が多く含まれています。
また、アルコールの過剰摂取も、食道の防御機能を低下させる可能性があります。
さらに、食生活の乱れもリスク要因の一つと考えられます。インスタント食品やファーストフードばかり食べていると、栄養が偏り、食道の粘膜を健康に保つことができなくなってしまう可能性があります。バランスの取れた食事を心がけ、食道の健康を維持することが大切です。
食道異所性粘膜の診断方法
内視鏡検査の役割
食道異所性粘膜の診断には、内視鏡検査が欠かせません。 口や鼻から細い管状のカメラを挿入し、食道や胃などの内部を直接観察します。 このカメラを通して、食道の粘膜に異常がないか、食道異所性粘膜がないかを調べます。
食道異所性粘膜は、内視鏡検査で観察すると、周囲の食道の粘膜とは異なる色や形状をしているため、比較的容易に見つけることができます。 赤みを帯びていたり、少し盛り上がって見えたりすることが多いです。
また、内視鏡検査では、「生検」という検査を行うこともあります。 これは、組織の一部を採取して、顕微鏡で細胞レベルで詳しく調べる検査です。 生検によって、食道異所性粘膜であることを確定診断することができますが通常は観察のみで可能です。
食道異所性粘膜の治療法
検査の結果、食道異所性粘膜が見つかった場合でも、過度に心配する必要はありません。 なぜなら、食道異所性粘膜自体は無害であることが多く、多くの場合、治療は必要ないからです。
しかし、症状がある場合や合併症のリスクが高い場合には、治療を検討します。 治療法としては、薬物療法などがあります。
薬物療法では、胃酸の分泌を抑える薬や、胃腸の動きを調整する薬などが用いられます。 胃酸の分泌を抑えることで、食道への刺激を軽減し、炎症を抑える効果が期待できます。
まとめ
食道異所性粘膜は、食道に胃の粘膜と似た組織が現れる病気です。 多くは自覚症状がありませんが、胸やけや喉の違和感、げっぷなどが見られることもあります。 原因は完全には解明されていませんが、先天的な要因、胃酸逆流、喫煙などの環境要因が関係していると考えられています。 食道異所性粘膜自体は命に関わるものではありませんが、食道炎やバレット食道などが合併している場合もあります。
参考文献
- Yin Y, Li H, Feng J, Zheng K, Yoshida E, Wang L, Wu Y, Guo X, Shao X and Qi X. Prevalence and Clinical and Endoscopic Characteristics of Cervical Inlet Patch (Heterotopic Gastric Mucosa): A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of clinical gastroenterology 56, no. 3 (2022): e250-e262.