検診で指摘。胆のう腺筋腫症とは?
大分県大分市のわだ内科・胃と腸クリニック院長の和田蔵人(わだ くらと)です。
健康診断で「胆のうに異常」の指摘を受け、不安を感じている方もいるのではないでしょうか?
実は、超音波検査で偶然発見されることが多い「胆のう腺筋腫症」という病気があります。
胆のう腺筋腫症は、胆のうの壁が厚くなってしまう病気です。
今回は、胆のう腺筋腫症の症状や原因、そして治療法について詳しく解説します。
健康診断で胆のう腺筋腫症と診断された方はもちろん、日頃から胆のうの健康が気になる方も、ぜひ参考にしてみてください。
胆のう腺筋腫症の基本情報と主な特徴
健康診断や人間ドックで「胆のうに異常が見つかりました」「精密検査が必要です」と告げられると、不安になりますよね。今回は、超音波検査で偶然発見されることが多い「胆嚢腺筋腫症」について解説していきます。
胆のう腺筋腫症とはどんな疾患か
胆嚢腺筋腫症は、胆嚢の壁が厚く硬くなってしまう病気です。胆のうは、肝臓でつくられた消化液である胆汁を一時的に蓄え、濃縮する働きをしています。
皆さんは、焼き肉や天ぷらなど、脂っこいものを食べた後に、胃のあたりがもたれたり、吐き気を催したりした経験はありませんか? これは、脂肪の消化を助けるために、胆嚢から十二指腸へ胆汁が放出されるのですが、その過程で胆嚢が収縮し、お腹に違和感を感じることがあるためです。
胆のう腺筋腫症になると、この胆嚢の壁が厚く硬くなってしまうため、胆嚢がうまく収縮できなくなり、胆汁の流れが悪くなってしまいます。
胆嚢腺筋腫症は、胆嚢にできる良性疾患の一つです。命に関わる病気ではありませんが、胆石ができて胆のう炎を引き起こす可能性があります。
発症のメカニズムと原因
胆のう腺筋腫症の詳しい発症メカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、胆のうの成分や胆嚢の収縮運動の異常、慢性的な炎症などが関与していると考えられています。
例えば、高脂肪食を続けていると、胆汁中のコレステロール濃度が高くなり、胆のうの内壁に刺激を与えやすくなります。これは、コレステロールが高い状態が続くと、血管にコレステロールが溜まって動脈硬化を引き起こすのと同じように、胆のうの壁にもコレステロールが蓄積し、炎症や増殖を引き起こすと考えられています。
また、ストレスや不規則な生活習慣によって胆のうの収縮運動が乱れることも、胆のう腺筋腫症のリスクを高める可能性があります。胆のうは自律神経によってコントロールされていますが、ストレスを感じると自律神経のバランスが乱れ、胆のうの収縮運動にも影響を与えると考えられています。
国内外における胆のう腺筋腫症の頻度
胆のう腺筋腫症は、欧米よりも日本を含むアジア地域で多く見られる傾向があります。これは、食生活や生活習慣の違いが影響している可能性も考えられますが、はっきりとした理由は分かっていません。
胆のう腺筋腫症は、40代以降の女性に多くみられます。これは、女性ホルモンの影響や、妊娠・出産による胆嚢への負担などが関係していると考えられています。特に、閉経後の女性は、女性ホルモンの分泌が低下することで、胆汁の成分が変化しやすくなるため、胆のう腺筋腫症のリスクが高まると考えられています。
胆のう腺筋腫症の症状と診断方法
健康診断などで「胆のうに異常がある」と指摘されて、不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。胆のう腺筋腫症は、胆のうの壁が厚くなってしまう病気ですが、自覚症状が出にくいという特徴があります。
胆のう腺筋腫症は、超音波検査で偶然発見されることが多いのですが、これは胆石と同様に、症状が出ないことが多いためです。
症状が出にくいからといって放置してしまうと、胆石を合併して胆嚢炎や胆管炎といった合併症を引き起こすリスクもあります。また、稀にですが、胆のうがんを合併する可能性(正確には胆のうがんとの鑑別が難しい場合もある)もあるため注意が必要です。
ここでは、胆のう腺筋腫症の症状と診断方法について詳しく解説していきます。
一般的な症状とそれぞれの特徴
胆のう腺筋腫症は、多くの場合、自覚症状が現れにくいため、健康診断などで偶然発見されることが多い病気です。
しかし、胆石を合併すると、下記のような症状が現れることがあります。
- 腹痛: 右上腹部やみぞおちのあたりに、鈍い痛みや不快感を感じることがあります。これは胆のうの壁が厚くなることで、胆のうの収縮が悪くなったり、周囲の臓器を圧迫することもあります。
例えば、患者さんの中には、「胃のあたりが何となく重苦しい」「食後に膨満感がある」といった症状を訴える方がいます。
- 消化不良: 脂肪分の多い食事を摂った後、胃もたれや吐き気、膨満感などの症状が現れることがあります。これは、胆のうから分泌される消化液である胆汁の流れが悪くなることで、脂肪の消化がうまくいかなくなるためです。
具体的には、とんかつやラーメンなどの脂っこい食事をした後に、吐き気や胃もたれを感じやすくなります。
- 胆石の合併: 胆のう腺筋腫症は、胆石を合併することがあります。胆石が胆のう管に詰まると、激しい腹痛や発熱、黄疸などの症状を引き起こすことがあります。
これらの症状は、他の消化器疾患でもみられることがあるため、注意が必要です。もし、気になる症状がある場合は、自己判断せずに、医療機関を受診するようにしましょう。
超音波検査での診断手法
胆のう腺筋腫症の診断には、超音波検査が広く用いられています。超音波検査は、体外から超音波を当てることで、体内の臓器の様子を画像で確認できる検査です。検査自体は痛みを伴わず、体への負担も少ない検査なので、安心して受けることができます。
超音波検査では、胆のうの壁が厚くなっている様子や、胆のう壁内部に小さな嚢胞(のうほう)と呼ばれる袋状の構造が認められることがあります。これらの特徴的な所見は、胆のう腺筋腫症を疑う重要な手がかりとなります。
超音波検査は、胆のうの状態をリアルタイムで確認できるため、胆のうの大きさや形、壁の厚さ、内部に腫瘍や結石がないかなどを調べることができます。
当院でも腹部超音波検査を行うことが可能です。気になる方はお気軽にお申し付けください。
他の検査方法(CT、MRIなど)の役割
超音波検査で胆のう腺筋腫症が疑われる場合は、CT検査やMRI検査などの画像検査を追加で行うことがあります。CT検査やMRI検査は、超音波検査よりもさらに詳しく臓器の状態を調べることができる検査です。これらの検査によって、胆のう腺筋腫症の範囲や程度、周囲の臓器への影響などをより正確に評価することができます。
特に、CT検査やMRI検査は、胆のう腺筋腫症と胆のうがんとの鑑別が難しい場合に有用です。胆のうがんは、早期発見・早期治療が重要な病気であるため、正確な診断が求められます。
CTやMRIなどの画像診断技術の進歩により、胆のう腺筋腫症や胆のうポリープといった胆のうの良性疾患と、胆嚢がんのような悪性疾患を区別することが重要になっています。なぜなら、胆のうがんは早期発見できれば完治が期待できる一方で、進行すると予後が悪化するからです。
そのため、これらの検査を通して、胆のう腺筋腫症の範囲や程度を正確に診断し、適切な治療方針を決定します。
胆のう腺筋腫症の治療法と生活への影響
健康診断や人間ドックなどで「胆のう腺筋腫症」と診断された方は、不安な気持ちを抱えているかもしれません。「胆のう腺筋腫症ってどんな病気だろう?」「手術が必要になるのかな?」「食事制限はあるのだろうか?」など、様々な疑問が浮かんでくるでしょう。
そこで、ここでは胆のう腺筋腫症の治療法や、治療後の生活について詳しく解説していきます。
治療法の選択肢とその詳細
胆のう腺筋腫症の治療は、症状の有無や程度、胆のうがんのリスクなどを考慮して決定されます。
胆のう腺筋腫症と診断された方の多くは、自覚症状がなかったというケースが多いです。実際、当院を受診される患者さんの中にも、「健康診断で初めて胆のう腺筋腫症と指摘された」という方が少なくありません。
無症状で経過観察の場合でも、超音波検査は定期的に行うようにします。超音波検査は、胆のうの状態をリアルタイムで確認できるため、胆のうの大きさや形、壁の厚さ、内部に腫瘍や結石がないかなどを調べることができます。
経過観察
自覚症状がなく、胆のうがんのリスクが低いと判断された場合は、経過観察が選択されます。胆のう腺筋腫症は、必ずしも治療が必要となるわけではないためです。定期的な検査で、病気の進行度合いや胆石や胆のうがんの有無を慎重に観察していくことが重要です。
具体的には、年に1~2回の腹部超音波検査を行い、胆のう腺筋腫症の大きさや状態の変化をチェックします。その際、血液検査で肝機能検査などを測定し、他の病気がないかも確認する場合もあります。
薬物療法
胆のう腺筋腫症に伴う症状として、腹痛や消化不良などが現れることがあります。
例えば、私の患者さんの中には、「食後に胃のあたりが重苦しい」「脂っこいものを食べると、吐き気がする」といった症状を訴える方がいます。
このような症状に対しては、薬物療法が有効な場合があります。具体的には、胆汁酸の分泌を調整する薬や、消化を助ける消化酵素などが処方されます。
手術療法
胆嚢腺筋腫症は良性の病気ですが、以下のような場合は、手術が検討されることがあります。
-
強い痛みや炎症が続く場合: 胆のう腺筋腫症が進行すると、胆嚢壁が厚くなり、周囲の臓器を圧迫することがあります。そのため、右上腹部痛や背部痛などの症状が出現することがあります。
-
胆のう炎を繰り返す場合: 胆のう腺筋腫症に胆石を合併し、胆嚢炎を繰り返すことがあります。
-
胆のうがんのリスクが高いと判断された場合: 胆のう腺筋腫症と胆嚢がんは、画像検査だけでは鑑別が難しい場合があります。特に胆のうの形状が変化したりする場合には、胆嚢がんの可能性も考慮し、手術が検討されます。
-
胆のうの萎縮や機能低下が認められる場合: 長期にわたる胆のう腺筋腫症によって、胆のうが萎縮したり、機能が低下したりすることがあります。胆のうの機能が低下すると、脂肪の消化不良などを引き起こす可能性があります。
手術は、腹腔鏡下胆のう摘出術という方法で行われるのが一般的です。腹腔鏡下胆のう摘出術は、お腹に小さな穴を数カ所開け、そこからカメラや手術器具を挿入して胆のうを摘出する方法です。従来の開腹手術と比べて、傷が小さく、術後の回復が早いというメリットがあります。
治療後の食生活や生活習慣の変化
胆のうは、肝臓でつくられた消化液である胆汁を一時的に蓄え、濃縮する働きをしています。胆のうを摘出すると、胆汁を蓄えておく場所がなくなり、常に十二指腸に流れ込むようになります。
そのため、食後、特に脂肪分の多い食事を摂った後に、下痢などの消化不良症状が現れることがあります。
胆のう摘出後の下痢は、胆汁が常に十二指腸に流れ込むことによって、腸の動きが活発になることが原因と考えられています。
このような症状を予防するため、胆嚢摘出後には、脂肪分の多い食事を一度にたくさん摂りすぎないように、食事の内容や量を調整することが大切です。具体的には、以下のことに気をつけましょう。
-
脂肪分を控える: 揚げ物や脂身の多い肉、バター、生クリームなどを使いすぎた料理は控えめにしましょう。
-
食物繊維を積極的に摂る: 食物繊維は、胆汁酸と結びついて、便として体外に排出する働きがあります。野菜、海藻、きのこなどを積極的に食べましょう。
-
消化の良いものを食べる: 胃腸に負担をかけないよう、柔らかく調理されたものや、消化の良いものを選びましょう。
-
よく噛んで食べる: よく噛むことで、消化を助けることができます。
-
少量ずつ、回数を分けて食べる: 一度にたくさん食べると、消化不良を起こしやすくなります。少量ずつ、回数を分けて食べましょう。
-
水分を十分に摂る: 水分を十分に摂ることで、便が柔らかくなり、排便がスムーズになります。
これらのことに気をつけながら、ご自身の体調に合わせて、食事の内容を調整していくことが大切です。
再発の可能性とその管理方法
胆のう腺筋腫症は、胆嚢を摘出することで根本的な治療となります。胆のうがないため、再発の可能性はありません。
しかし、胆のうを摘出した後も、胆管などに胆石ができる可能性は残ります。胆管結石は、胆のう腺筋腫症の患者さんに限らず、誰でも起こりうる病気です。
胆管結石を予防するためには、胆のう摘出後も、バランスの取れた食生活を心がけ、脂肪分の多い食事は控えめにした方が良いでしょう。また、適度な運動を習慣化し、ストレスを溜めないようにすることも大切です。
定期的な検査も重要です。胆のう摘出後も、定期的に腹部超音波検査や血液検査を受けることで、胆管結石などの早期発見・早期治療に繋げることができます。
まとめ
胆のう腺筋腫症は、胆嚢の壁が厚くなる病気で、健康診断などで偶然発見されることが多いです。 多くは自覚症状がなく、経過観察で様子を見る場合が多いですが、症状が出たり、胆のうがんのリスクが高い場合は手術が必要となることもあります。 胆のうを摘出すると、脂肪分の多い食事を控えたり、食事の回数を増やしたりするなど、食生活に注意する必要があります。 定期的な検査で、胆管結石などの合併症を早期発見し、適切な治療を受けることが大切です。
参考文献
- Riddell ZC, Corallo C, Albazaz R, Foley KG. "Gallbladder polyps and adenomyomatosis." The British journal of radiology 96, no. 1142 (2023): 20220115.